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社員の幸福度の低い会社を一発で見抜ける…慶大の幸福学者が教える「就職面接で聞くべき逆質問」

プレジデントオンライン / 2022年12月26日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/

社員の幸福度の高い会社は、どうすれば見つけられるのか。慶應義塾大学の前野隆司教授は「社員同士の比較や競争心を促す人事評価をする会社は気をつけたほうがいい。公平な評価をする会社が幸福な職場とは限らない」という――。

※本稿は、前野隆司『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』(大和書房)の一部を再編集したものです。

■幸福度も生産性も高く会社を見極めるシンプルな方法

米イリノイ大学心理学部名誉教授だった故エド・ディーナー氏らの論文によると、幸福度の高い社員の創造性は3倍、生産性は平均で31%、売上は37%高いという傾向が出ています。まさに圧倒的な数字です。

しかし、仕事にやりがいを感じていて人間関係も良好なのであれば、それほど驚くべきことでもないかもしれません。かくいう私自身もそうです。幸福の条件を科学的に研究しようと決めて以来、働くことや学ぶことが楽しくて仕方ありません。

もちろん、それほどまでに仕事が好きな人は少数派だと思います。それでも、幸福感の高い「いい会社」で働くことに異論はないはずです。にもかかわらず、いまだ多くの経営者がこの点を誤解し、従業員の意識とのあいだにギャップが生まれています。これこそが、日本の職場の課題のひとつなのです。

これらを踏まえて本記事では、幸福学の見地から「いい会社」を見極めるシンプルな方法を解説していきますが、まずは失敗例から紹介した方が腑に落ちるでしょう。

さっそく、あるエピソードをお話ししていきます。私の近著『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』のなかに登場する、1人の青年の職場がまさにその典型でした。

■突如始まった人事評価制度

彼の職場は20人ほどの小さな制作会社。基本的な仕事のフローとしては、社長が取ってくる案件が振り分けられ、それをこなすだけだったといいます。

そのため、同僚や先輩の仕事ぶりや評価の基準を気にすることなく日々、黙々と働いていたのですが、そんな状況があるとき一変します。

「より公平な評価をくだすため、今後はポイント制を導入する」と社長が宣言したのです。

どういうことでしょうか。ミーティングや会議への出席、企画書の作成や打ち合わせはもちろん、社内のゴミ出しやお茶くみにまでポイントが振り分けられ、しかもその内訳を社員同士でチェックできるようになったのです。

「それほど悪い制度だろうか?」と感じたでしょうか。たしかにフェアな制度ではあります。もし不当にポイントが入っている社員がいたら一目でわかりますし、競争心も煽られるでしょう。頑張れば頑張るだけポイントをもらえるとなれば、仕事への積極性も増しそうなもの。しかし、現実は意外なものだったと青年はいいます。

■フェアな職場=幸福な職場ではない

少し話が脇道に逸れるようですが、社内における青年の座席は、偶然にもトイレとゴミ箱の近くに位置していました。小さな会社なので、誰かが気を利かせてトイレの備品交換などをしなければなりませんし、ゴミ出しもしなければなりません。

それまで青年は、純粋な親切心でその役を買って出ていたのですが、ポイント制の導入以後、彼の内部に変化が起こります。というのも、各業務におけるポイント内訳の中で、青年だけが突出して「トイレ掃除」「ゴミ出し」の割合が高かったのです。それを見た青年は、思わず赤面します。同僚や先輩が、自分を陰で嘲笑しているのではないかと想像してしまったのです。

「あいつ、仕事ができないからって、トイレ掃除とゴミ出しでポイントを稼いでいるんじゃないか?」

もちろん、現実的にそんなことはあり得ません。しかし、ひとたび全ての作業がポイントとして可視化されてしまうと、もはやそれまでの青年の親切心は霧散してしまいました。さらには別の社員から「自分のほうが難しい案件をこなしているのに、同じポイントが振り当てられるのはおかしい」という声まで上がり、その都度、調整はされていったものの、しだいに社内はギスギスしていったといいます。

ゴミ箱を探すビジネスマン
写真=iStock.com/shutter_m
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shutter_m

このような「透明性の導入」がモチベーションに悪影響を与えるという現象は、日本企業だけでなくプロスポーツチームでも報告されています。

つまるところ、誰もが「ポイントが高い」仕事だけに熱意を込めるようになり、それ以外の作業をやらなくなるのです。

■よい会社かどうかを見極める必殺の逆質問

ここまで書けば、本記事のタイトルに対する答えも想像に難くないでしょう。“本当にいい会社か”を一発であぶり出す、必殺の逆質問。それは「御社では、どのような基準で社員を評価していますか?」という質問です。

もしこの質問に対して、先ほどのポイント制のような「透明度の高いシステム」を自慢げに説明してくるようであれば、その会社で幸せに働くことは難しいでしょう。そこまであからさまな言い方でなくても、社員同士の比較や競争心を促進するような仕組みが少しでもあるようなら、その点には警戒すべきです。

一方、上記の質問に対し「そこまで厳密な基準で社員を評価しているわけではありません」という答えが返ってくるようなら、もう少し話を聞いてみる価値があります。その結果、生産性を煽るのではなく持続性を育てるような社風が感じられたなら、それは「いい会社」であるといえるでしょう。

決して理想論や夢物語ではありません。実現している会社もあります。たとえば伊那食品工業株式会社という寒天メーカーでは、社員に対して営業目標を課さず、「業績や利益にとらわれず、従業員の幸せを考える」という理念のもとで経営し、それでいて48期連続の増収増益を成し遂げています。

「合理的なシステムがすべていけない」といっているのではありません。たとえば、事故を未然に防ぐチェック機構などが非常に合理的に設計されているのであれば、それは当然、評価されてしかるべきポイントです。そのうえで、やりがいをもって働けるかどうかを判断する基準として、社員評価について聞いてみるとよい、ということです。

また、幸福度など度外視して、機械的に働くほうが自分には向いているという人もいるでしょう。もしそうであれば、青年の会社のような、公平な評価制度の方が長く働けると思います。ですから、絶対の尺度は存在しません。いずれにせよ、会社の評価制度について聞いてみることは、非常に有効であるとはいえます。

■幸福はゼロサムゲームではない

話をまとめると、幸福学の観点からいい会社かどうかを見極めるポイントは、「合理性と非合理性の双方から評価すべき」ということでした。

前野隆司『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』(大和書房)
前野隆司『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』(大和書房)

そんなこと当たり前じゃないか、という声が聞こえてきそうです。しかし一方で、就活生の間ではいまも、「人気企業ランキング」のような特集が幅を利かせています。このようなランキング上位の企業は確かに給与もよく、安定しているでしょう。しかし、幸福感をもって働けるかどうか、といった評価軸とはあまり関係のないものです。少し考えれば当然のことです。数百万も存在する日本企業のうち、幸福感まで「人気企業ランキング」上位の会社が独占しているなどとは、誰も主張しないでしょう。

そのほか、私の近著『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』では、40億円の資産を持つ日本一不幸な男の話や、「FIRE」の実情、その道の第一人者になるためのたった一つの方法についてなど、幸福と仕事の関係について対話形式でわかりやすく書いています。

幸福はゼロサムゲーム(誰かが勝ったら、そのぶん誰かが負けるという仕組み)でありません。日本で働くすべてのビジネスパーソンに、このことをアナウンスしていきたいものです。

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前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
1962年山口県生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等などを経て、2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、など。『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』(ともに、ちくま文庫)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)など著書多数。

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(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司)

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