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「自己管理できないあなたがダメ」女性上司のほうが男性上司より部下の生理にひどく無理解である理由

プレジデントオンライン / 2022年12月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Carlo107

月経のつらい症状がある時の仕事のパフォーマンスは通常時に比べ6割強に落ち、月経の影響があるのは年60日間。我慢しながら仕事をしている女性が多いことが調査で明らかになった。調査結果を分析したライターの旦木瑞穂さんは「驚くべきことに、同じ管理職でも男性より女性のほうが女性部下のつらい症状に無理解で、これは女性活躍推進を阻む壁とも言えます」という――。

■つらい症状の月経の影響があるのは「年60日間」

3年前に筆者は「PMDD(月経前不快気分障害)」と診断された。

PMDDとは「PMS(月経前症候群)」同様、月経開始の3~10日くらい前から始まる精神的・身体的な不快症状で、月経開始とともに症状が減退・消失するのが特徴だ。

現在、6〜7割前後の女性がこうした症状を抱えていると言われている。PMDDと診断された後、筆者は「月経前の悩みに寄り添う会」を発足し、PMSやPMDDについての理解を社会に広める活動を行っている。

その中で、日経BP総合研究所が2021~22年に実施した、働く女性の月経と仕事にまつわる調査結果を知った。男性にはピンとこない部分もあるかもしれないが、女性の活躍推進の声が高まる現在、知っておいて損はないはずだ。

■なぜ女性管理職は男性管理職より生理不調に厳しいのか

はじめに押さえておきたいのは、月経のしんどさとはどんなものかということだ。

2021年の同研究所の調査によれば、「月経前や月経の最中、仕事や勉強の効率が落ち、生産性は約6割にダウンしている」と回答したのは、働く女性(調査対象1956人)の7割超とかなりの高率だった。さらに効率が落ちていると感じる日数は、平均4.85日間。つまり、毎月約5日間=年60日=2カ月間も不調に悩まされていることが浮き彫りとなった。

婦人科系の健康のイメージ
写真=iStock.com/Elena Nechaeva
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elena Nechaeva

7割超の女性が年間60日間も苦しむ……そんな戦力ダウンの状況に職場の上司はどう対処しているのか。同研究所は2022年夏、40代以下の女性社員を評価・指導する立場にある管理職389人(男性220人、女性169人)に調査した。

まず、女性管理職と10~40代の働く女性624人(21年調査)への同じ質問に対する回答を比較してみる。

「(生理による)つらい症状はほとんどない(なかった)」
女性管理職:9.5% 働く女性:2.1%

「つらい症状がある(あった)が治療などで乗り越えた」
女性管理職:7.7% 働く女性:4.8%

以上2項目から、女性管理職に生理による不快な症状がない人やなかった人、あったが治療などで乗り越えた人の割合が多いことがわかった。

驚いたのは次の質問に対する、管理職の性別による意識差である。

「症状がひどくないのに生理休暇を使っている女性がいると感じることがある?」
男性管理職:「ある」14.9%「ない」33.3%「わからない」51.7%
女性管理職:「ある」25.4%「ない」31.0%「わからない」45.7%

「ある」と答えた女性管理職が、男性管理職よりはるかに多かったのだ。「ズルをして生理休暇をとる女性社員がいる」との認識が強ければ、当然対応も鈍くなる。

「勤務先は生理の不調問題に対処すべき?」との問いに対して、
「すでに対処している部分もあるが、もっと対処すべきだ」
「全くしていないので、対処すべきだと思う」

と回答している人は、男性管理職74.1%、働く女性72.3%と同水準だった反面、女性管理職は61.5%と低かった。もっと明確に「対処すべきとは思わない」と回答しているのは男性管理職11.4%、女性管理職14.8%。これも女性管理職の数字が上回った。

■女性管理職は生理のつらさが分からないのか

これらのデータから分かることは明白だ。女性管理職のほうが、男性管理職より、生理の不調問題に関して明かに厳しい見方をしているということだ。

女性管理職は、「同じ女性であるからこそ生理のつらさが分かる」と思われがちだが、女性管理職は、「(生理による)つらい症状はほとんどない(なかった)」人の割合が多く、「つらい症状がある(あった)が治療などで乗り越えた」人の割合も少なくない。その結果、「女性管理職は、生理のつらさが分からない人の割合が多い」のだろう。

「症状がひどくないのに生理休暇を使っている女性がいると感じることがある?」との問に「ある」と、男性管理職より女性管理職が多く答えたことは、女性管理職の生理の不調問題に関する厳しい姿勢を端的に表している。

実際、筆者が主宰している「月経前の悩みに寄り添う会」にも、女性上司に無理解な言葉をかけられて傷ついた経験を持つメンバーは珍しくない。

現在、金融業界で働くIさん(30代)は、入社して2〜3カ月経った頃、いつも隣に座って仕事をやさしく教えてくれた女性上司(40代前半)に、「自分が生理前になると気分の落ち込みがひどくなり、仕事を休んでしまうこともある」ということを、他の社員がいないタイミングで勇気を出して伝えたところ、憤慨した様子でこう言った。

「(そんなことを会社で言うなんて)ちょっと非常識ですね」

それまで上司との関係は良好だったが、それ以降、冷たい対応をされているという。

また、サービス業に従事するMさん(20代)も、直属の女性上司(40代後半)に、ひと月に一度ほど仕事を休む理由についてたずねられた時に、生理前になるとちょっとしたことでイライラしたり落ち込んだりと、感情のコントロールが効かなくなるほか、生理になったらなったで、寝込んでしまうほどの腹痛に見舞われることがあることを打ち明けた。すると、「女性なら誰でも我慢している」「自己管理できないあなたがおかしい」などと責められたという。こうしたことが言える女性は、生理による不調があまり重くないか、痛みなどの不調に耐える能力が高いのかもしれない。

ベッドの上でうずくまる女性
写真=iStock.com/monstArrr_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monstArrr_

しかし、発熱に強い人もいれば、弱い人もいる。血を見て卒倒してしまう人もいれば、平気な人もいるように、生理のつらさも不調の感じ方も人それぞれだ。

Mさんは、生理の不調もつらいが、それよりもつらいと感じるのは、「自分のつらさを理解してもらえないとき」で、中でも「同じ女性から理解を得られないとき」だと話す。

■「私は理解できるけど他の人は良く思わないかもね」

小売業界で働く30代のTさんの場合はどうか。Tさんの目から見て、いつもキビキビハキハキしていて“しっかり者”の直属の女性上司(40代前半)に、昼休みの雑談の中で、「生理痛がひどく、一日中起きられないこともあるうえ、精神的なイライラやモヤモヤにも襲われる」という生理の不調を明かしたところ、「私は理解できるけど、他の人はあまり良く思わないかもね」と言われたという。

表面上は責めるトーンではなかったものの、Tさんはこう感じたそうだ。

「生理痛がひどくてどうしても出社できないときは、いつもその上司に連絡をしているので、邪な考え方かもしれませんが、本当はその女性上司自身も良く思っていなくて、“他の人”という言葉を使うことで自分を守りつつ、私に釘を刺したのかなと思いました」

以上の調査結果から求められることは、生理がない男性だけでなく、生理の不調がなかった、もしくは軽かった女性も、「生理の不調が重い女性が存在することを認め、配慮すること」ではないだろうか。

ミニスカートでオフィスチェアに座り、痛み止めを飲もうとしている女性
写真=iStock.com/Henadzi Pechan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Henadzi Pechan

「生理による不快な症状は、医療機関で治療できると知っていた?」との問いには、「知っていた」と答えた男性管理職が56.4%だったのに対し、女性管理職は88.2%。

先のデータでも紹介したように、女性管理職は、「つらい症状がある(あった)が治療などで乗り越えた」人の割合が多い。もしかしたら、「自分が乗り越えられたのだから、みんな乗り越えられるはず」と思っているのかもしれない。

だが、生理による不調の重さも症状も、人それぞれ。少なくとも、9割近い女性管理職が「生理による不快な症状は医療機関で治療できる」と知っているのなら、生理で苦しんでいる女性の部下に、医療機関を受診するよう声かけするべきではないか。少なくとも「症状がひどくないのに生理休暇を使っている女性がいる」などと傍観している場合ではない。

■生理の不調が軽減すればずっと働き続けたい

目指すべき未来を示すデータもある。働く女性1956人のうち、「ずっと働き続けたいと思う?」の問いに、「そう思う」と答えたのは、

「治療して生理前や生理中の症状が軽減している」人の場合:64%
「症状が強いが我慢している」人の場合:50.5%

また、「不快な症状が改善したらチャレンジしたいと思う仕事は?」という問いに対する「症状が強いが我慢している」人と「治療して生理前や生理中の症状が軽減している」人の数字を比較すると、

「新規事業などのプロジェクト提案」14.1% vs 16.0%
「昇格・昇進試験」10.8% vs 20.0%
「出張が多い部署・職種への異動」9.2% vs 15.0%

後者の人のほうがすべての項目で高い数値が出た。この調査で分かることは、「治療して生理前や生理中の症状が軽減している」女性の、仕事への意欲的な姿勢だ。

「月経前の悩みに寄り添う会」のメンバーの中には、生理による不調によって、進みたかった道を断念した人も少なくない。

大学卒業間近だった20代のNさんは、ずっと目標にしてきた研究職の道を断念し、PMDDの治療に専念するため実家に帰った。そのため、「いつかまた夢に挑戦したいです」と語る。サービス業に従事するLさんも、「月経による不調が軽減したら、仕事をバリバリこなして、責任ある役割を任されるようになりたい」と話す。

オフィスでハイタッチする女性のグループ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■女性の月経に関する不調による経済損失は年間6828億円

経済産業省が2019年3月に発表した調査では、月経随伴症状(腹痛、腰痛、眠気、イライラ、便秘など)による1年間の社会的負担は「6828億円」、その中で労働損失(欠勤、労働量や質の低下)は「4911億円」にも及ぶということが分かっている。

美容脱毛サロンを展開するミュゼプラチナム(東京都渋谷区)が2019年、2020年に全従業員を対象として実施した「生理に関する調査」によると、月経随伴症状による労働損失を「13億8700万円」と算出している。

この結果を受けて、同社は従業員全員が「(月経随伴症状に関して)適切な治療を受けているといえる状態」で再び算出したところ、「5億3100万円」まで労働損失の削減が可能という結果に。同社では、この数字に近づくよう、さまざまな取り組みを実施している。

慢性的に人手不足が続く昨今、生理によって働く女性のパフォーマンスがひと月あたり5日間も6割程度に落ちてしまっては、企業としても大きな損失につながる。

前述のとおり、日経BP総研の調査では、生理の不調が軽減すれば、これまで敬遠しがちだった「昇格・昇進試験」や「新規事業などのプロジェクト提案」「出張が多い部署・職種への異動」にも挑戦したいと考えている女性が少なくないことも分かっている。

女性活躍推進のためには、働く女性への健康支援が不可欠だ。管理職であるなしにかかわらず、生理がない男性も生理が軽い女性も、生理を正しく理解することが社内の人手不足を軽減し、生産性を向上させるだけでなく、「ずっと働き続けたい」と思える“働きやすい会社”への一歩となるだろう。

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

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