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「本部は都内超一等地から地方へ…」旧統一教会が"宗教サークル"に転落すると地方で巻き起こる迷惑千万

プレジデントオンライン / 2022年12月26日 11時15分

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)日本本部(東京都渋谷区)=2022年11月7日 - 写真=時事通信フォト

■旧統一教会の宗教法人格剥奪が生み出す“新たなリスク”

2022年は宗教界にとって、大きな出来事が相次いだ。戦後宗教史における節目を迎えた年、といっても過言ではないだろう。

安倍晋三元首相の暗殺をきっかけにして多くの政治家の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への関与が明らかになった。旧統一教会へ「質問権」が初めて行使され、「被害者救済法」が成立。今後、考えうる宗教法人の「解散請求」に向けて大きく舵を切った形だ。

悪質な宗教へメスを入れることは必要だ。しかし、長期的視座でみれば、昨今の防衛拡充とも影響し合い、危うさも孕む。「安倍元首相暗殺」という衝撃をきっかけに、「政治と宗教との関係」は一歩、接近した。

奈良の選挙の応援にかけつけた安倍氏が、7月8日に狙撃された事件はその後、旧統一教会の不当な献金問題をあぶり出す呼び水となった。

山上徹也容疑者の母が旧統一教会にのめり込んで多額の献金を重ね、家族は破綻。その恨みを、過去に旧統一教会へのビデオメッセージを出していた安倍氏に向けたのだ。政治と宗教との不適切な関係があぶり出される中、多くの「2世信者」らが被害の声を上げ始める。ようやく政府は重い腰を上げるに至った。

文部科学省は旧統一教会にたいし、宗教法人法に基づく調査を決定。1996年の改正宗教法人法施行以後、初めて「質問権」が行使された。このことで旧統一教会にたいする解散命令請求への第一歩が、踏み出された。

不法行為による宗教法人の解散は、各地でテロと殺人を繰り返したオウム真理教と、霊感商法で摘発された明覚寺の2例のみ。いずれも刑事事件に発展したケースだ。

しかし、民事上の不法行為での宗教法人解散はこれまで例がない。旧統一教会が解散となれば今後、多数の訴訟を抱えるような宗教法人に、メスが入っていく可能性は捨てきれない。

来年以降の流れでいえば、旧統一教会に著しい法令違反が認められれば、文部科学省が裁判所に解散命令を請求する。裁判所が解散命令を出せば宗教法人格を失い、宗教団体(任意団体)へと転落する。すると社会的信用を失うだけではなく、税制優遇などが受けられなくなる。つまり法人税、固定資産税、都市計画税、相続税などが課税されることになる。

■本部が渋谷区松濤から地方都市へ移転する可能性も大

確かに、法人格の剥奪は国民の納得が得られるひとつの手段ではある。しかし、同時に別の問題も生み出すリスクも考えなければならない。

現在、旧統一教会は都内の一等地、渋谷区松濤に本部を構える。固定資産税などが加算された場合、地方都市などに移転する可能性も大いにあり得る。すると、移転地で新たなトラブルも発生しかねない。

サークルのような任意団体になれば、水面下での活動になり、より実態がつかめなくなってしまう。また、信者がより原理化、先鋭化しかねない。ちなみにオウム真理教は解散後、3つの分派に分かれ、そのうち2つが地方都市に拠点を移し、公安調査庁は各団体がいまだ教祖麻原彰晃の影響下にあるとみて、観察を続けている。

操り人形を操る手
写真=iStock.com/AOosthuizen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AOosthuizen

臨時国会の会期末には、いわゆる「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(被害者救済法)」が成立した。旧統一教会をめぐっては、信者から多額の献金を集め、経済的困窮や家庭崩壊に陥らせる事例が相次いでいた。政府は不法行為の防止と被害者救済のための制度改革に乗り出し、迅速に被害者救済法を成立させた。

同法のポイントはいくつかある。まず、「不当な寄付の勧誘行為」を以下のように定義(第4条、要約)している。

①しつこく勧誘されるなどして、帰ってほしいと伝えても退去しないケース
②同様に帰りたい意思を示しているのに返してくれないケース
③勧誘することを告げず、寄付者が退去しにくい場所に連れて行く行為
④勧誘を受けた相談を第三者にした特に、威迫する言動を交えて妨害行為をすること
⑤恋愛関係を利用して、寄付しなければ関係解消するなどの告知をすること
⑥霊感商法

さらに、第5条では、

⑦借金させたり、不動産を売却させたりして寄付させること

を禁止している。

こうした行為にたいして、勧誘を受けた者が「困惑」した場合、寄付の取り消しができるとした。

同法の適用範囲は宗教法人だけではない。各種団体やNPO法人などにも広げている。つまり、法人格を有していない宗教団体にも適用されるので、仮に旧統一教会が法人格を剥奪されても同法は適用されることになる。なお、命令に違反した場合は1年以下の拘禁刑や100万円以下の罰金が科される。

旧統一教会だけではなく、同法に抵触しうる既存法人は潜在的にかなりある。

⑥霊感商法は「先祖供養」「病気治し」などを熱心に実施する新宗教の中には、民事訴訟を抱える教団も少なくない。また⑦借金をさせてでも寄付させることも、仏教寺院の中にも行っているケースが散見される。「一括でお布施を払えなければ、ローンで払え」「カネがないなら親戚から借りてこい」などと要求する寺が、かなり存在していることを私も把握している。同法が、被害者の防衛策としてきちんと運用され、機能することを期待したい。

不当な行為が積み重なっていけば、「宗教法人解散請求」が視野に入る。人々を苦しめる悪質な組織は即刻、「退場」してもらわなければならない。

■日本も反カルト法の整備に乗り出す時だ

一方で、この法案には抜け穴もある。例えば「個人対個人」の寄付行為が、適用されない。教団幹部があくまでも個人的な寄付であることを建前にして「集金」し、組織に再寄付するようなことは容易に想像できる。

また、マインドコントロール(洗脳)下による寄付については、「配慮義務」にとどめ、「禁止」としなかった。これは、「マインドコントロールの定義をすることが難しい」ということが理由だ。創価学会を支持母体に持つ公明党への配慮が感じられる。

指に糸をつけ、何かを操る手
写真=iStock.com/valiantsin suprunovich
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/valiantsin suprunovich

しかし、法案整備にあたってはまず「カルト」や「マインドコントロール」の定義こそを、議論すべきではなかっただろうか。真っ当な宗教と、一線を引いて適切に運用させるためにも、この2つの定義こそが重要であったと思う。

日本では「カルト」を、「反社会的な宗教集団」のように漠然と捉えていて、明確な定義は存在しない。例えばフランスでは、日本以上に深刻な宗教問題を抱え、2001年に反セクト(カルト)法という法律を整備するに至っている。セクトとは、おおもとの宗教から派生した宗教教団をさし、「社会にたいして、強硬的かつ断続的な姿勢を持つ過激主義的宗教グループ」(マックス・ウェーバー/エルンスト・トレルチ)のことである。

そのセクトの定義(1995年、フランス国民議会「アラン・ジュスト報告書」)は、

①精神の不安定化
②法外な金銭的要求
③住み慣れた生活環境からの断絶
④肉体の損傷
⑤子供の囲い込み
⑥反社会的な言説
⑦公共の秩序を乱す
⑧訴訟の多さ
⑨通常の経済回路からの逸脱
⑩公権力を取り込もうとする企てがある

としている。

フランスは厳格な政教分離をとっている国として知られている。同時にカルトにたいしては毅然(きぜん)とした対応を示しているといえる。日本も、反カルト法の整備に乗り出す時機にきているかもしれない。

■「政治の宗教への介入」は再び暗い時代の第一歩か

一方で、歴史的な視座に立てば「政治の宗教への介入」は、あまりよい結果を生んでこなかったのも事実だ。先の日本における戦争も、宗教が根っこにある。

折しも日本政府は防衛費の増額や、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を決めた。日本は安全保障上も大きな岐路に立っている。国家は宗教を精神的な支柱として戦争に利用し、同時に宗教も政治情勢(有事)を利用しながら教線拡大を目論んできた。その構造は今も変わっていない。

わが国における国家と宗教が、今すぐに暴走を始めることはないだろう。しかし、ひとたび有事の局面になれば「信教の自由」が奪われ、殺伐の社会が訪れることは歴史が証明している。政治と宗教の接近は、日本が再び暗い時代への一歩を踏み出したことの暗示だと、考えるべきである。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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