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この国では「真面目に努力する人」ほど損をする…日本の「天才」が次々と海外へ流出してしまう根本原因

プレジデントオンライン / 2023年1月4日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

なぜ日本の経済はよくならないのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「日本は、結果の平等を重視する社会主義国家だ。稼いでも高い税金が取られるため真面目に働く人ほど損をする。これでは経済がよくなるはずがない」という――。

※本稿は、藤巻健史『超インフレ時代の「お金の守り方」』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■資本主義のアメリカ、社会主義の日本

なぜ、かつては二大経済大国と称された日米に、これほどまでの差がついてしまったのでしょうか。

その理由を端的に示せば、「資本主義国家のアメリカに対して、日本が社会主義国家だから」ということになるでしょう。

社会主義国家が資本主義国家に敗北したのは、20世紀の歴史が示す厳然たる事実です。ソ連が崩壊し、中国は建前はともかく、とっくの昔に資本主義国家になっています。

しかし、日本はいまだに社会主義国家であり続けている。だから敗北するのは当然だということです。

もちろん、日本は建前としては資本主義国家です。とはいえ、その現実は社会主義国家以上に社会主義です。

「日本は社会主義国家」――これは、モルガン銀行時代に海外から日本に転勤でやってきた部下が帰国する際、口をそろえて指摘することでした。日本は大きな政府で、政府による規制が強く、「結果の平等」を重視する。それはまさに社会主義そのものではないか、と。

日本では稼げば稼ぐほど高額な税金を取られます。一方、低所得者への生活保護は充実している。つまり、頑張って稼いだ人がなかなかお金持ちになれない一方、頑張らなくてもある程度の生活はできてしまう、ということです。これはまさに「結果の平等」です。

もちろん、様々な理由で働きたくても働けない人も多く、そういった人たちの生活は保護されなくてはなりません。しかし、働いても働かなくてもそれほど生活に大きな差が出ない、ということになると、誰が真剣に働こうとするでしょうか。これはまさに、社会主義国家が踏んできた轍に他なりません。

■アメリカには世界から「天才」たちが集まるワケ

私はモルガン銀行時代、ベルリンの壁崩壊直後の東ベルリンに入り、社会主義とはどういったものかを体験したことがあります。

客のほとんどいないがらがらのレストランで、客より威張りくさったウエイトレスがやる気のなさそうに働いている。しかも、前菜、主食、デザートの3品コースが出てくるまで、なんと4時間もかかったのです。

でも、それは当然のことです。いくら愛想を良くしても料理を早く出しても、もらう給料は同じなのですから。

アメリカにももちろん累進課税はありますが、日本よりも高所得者の税率は低く抑えられています。相続税もないに等しい。だからこそ一獲千金を目指して世界中から人が集まり、必死に働くのです。そして、それが経済の活力を生んでいるのです。

2022年10月2日の日本経済新聞によると、資産10億ドル(約1400億円)以上の富豪(ビリオネア)が一番多いのはアメリカで719人、2位が中国で440人、3位がインドで161人でした。

それに対して日本は27人で、台湾の45人、韓国の28人を下回るのだそうです。格差などないはずの共産主義国家である中国が世界第2位というのもおかしな話ですが、それより圧倒的に富豪が少ないのが日本なのです。

しかも、他国は相続税廃止・軽減の方向に進んでいるのに対し、日本はむしろ重税化の方向に向かっています。優秀な人材ほど、ますます日本を去っていくことでしょう。

積み上げたコインの上に立っているミニチュアの人
写真=iStock.com/pookpiik
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pookpiik

■トップ5%が仕組みを作り、残り95%を動かす

日本のリーダーあるいは資産家と呼ばれる人と話していると、相続税をどう節税しようかという話ばかりしていて愕然とします。貴重な時間やエネルギーをそんなことに費やしてしまうから、この国は発展しないのです。

それに対してアメリカでは、優秀な人は莫大(ばくだい)な資産を手にすることができます。だからこそ、世界中から天才たちが集まる。

GAFAMをはじめとしたアメリカの優良企業のトップ層には天才の移民が数多くいます。グーグルCEOのサンダー・ピチャイ、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラはインド出身、テスラのイーロン・マスクは南アフリカ出身の移民です。

そうした天才たちが成功すれば儲かり、税金もそこそこで済むアメリカに集まり、切磋琢磨(せっさたくま)することでさらに業績を上げていく。極論すれば、アメリカという国はそうしたトップ5%が動かしている国なのです。

そして、彼らが作ったシステムで残り95%の人が働くことで、社会が回っていくのです。

■「残り95%のアメリカ人」よりも日本人は優秀だが…

その95%のアメリカ人と比べれば、ほとんどの日本人のほうが圧倒的に優れています。そのこともまた、今回アメリカに行って痛切に感じたことです。

私が借りたレンタカー店の受付の女性は、ジュースを飲みポテトチップスを食べながらダラダラと書類を作っていました。スーパーマーケットの有人レジはやたらと遅い。飛行機の荷物係は楽しそうにおしゃべりしながら客の荷物を乱暴に投げ付ける。ホテルのバイキングは10時までだというのに、9時45分の時点でもう何もなくなり、さっさと片付けを始めてしまう。

こんなこともありました。私が借りていたアパートを返却する際、金曜日の午前10時にチェックに来るというので待っていたのに、いつまでたっても現れない。午後3時すぎに電話を入れたのですが、オフィスの営業時間が終わっているらしく、つながらない。土日は当然休み。仕方なく月曜日に改めて電話したところ、「ごめんごめん。今日行くから」と、ほとんど悪びれずに言われたのです。

ある時はレンタカーを返却しようと店舗に行ったところ、返却予定どおりの時間だったにもかかわらず、店舗がすでに閉まっていました。

■だからIT化が進み、国全体が豊かになった

仕方なく隣にあったホテルで聞いてみたところ、よくあることらしく、「そこにボックスがあるからカギを入れておいてくれ」とのこと。だったら借りる際に教えておいてくれよという話です。当然のことながら、返却時の車体チェックも何もなし。本当に大丈夫なのかと思ってしまいました。

どれも日本ではあり得ない話です。

だからこそ、ITが発達するのでしょう。レジを打つ人が遅いから、自動レジを導入する。注文をしょっちゅう間違えるから、タッチパネルやスマホでの注文システムが発達する。

もっとも、マクドナルドでは自動化されたシステムがあっても、3回に1回は注文したものと違うものを渡されるのはご愛敬。商品を入れる店員が注文をちゃんと読まないのです。いくらシステムが優れていても、限界はあるのです。

ともあれ、優秀な5%が、大したことのない95%をうまく動かすためのシステムを作ることで、社会も経済も回っていく。だからこそ国全体が豊かになり、95%の人たちもその恩恵を受けることができる。

それがアメリカという国であり、経済成長の原動力でもあるのです。

ニューヨークのスプリングストリートを行き交う人々
写真=iStock.com/deberarr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deberarr

■日本を脱出する一流が止まらない

そしてこの上位5%の人たちはもともと優秀なだけでなく、めちゃくちゃ働きます。だから、さらに稼ぐようになり、格差もどんどん広がっていくのです。

スポーツの世界を見ればそれがわかると思います。野球のメジャーリーグの一流選手がもらう金額は、日本のトッププレイヤーの10倍以上。だからこそ世界中から優秀な選手が集まり、日本からも大谷翔平やダルビッシュ有、菊池雄星などの超一流選手がみな、アメリカに行ってしまうのです。

日本の野球はレベルが高いなどと言われますが、年棒では世界の二流リーグと言わざるを得ません。ただし、その中ではみな平等。大谷、ダルビッシュ、菊池など超スーパースターで高給取りが抜けていくのですから、みな平等になるわけです。ある意味、今の日本社会を象徴しているのかもしれません。

確かにアメリカでも格差の拡大は問題視されています。しかし、金持ちが超金持ちになったから格差が広がったのです。日本では金持ちが超金持ちになどなっていないのです。日本の格差は金持ちがより金持ちになったから格差が開いたのではなく、中間層が没落していったから格差が拡大したのです。

アメリカの格差拡大の理由とはまったく違うというのは、格差を研究している研究者のほぼ一致した結論です。

■努力をした人を「引き上げる米国」と「引きずり下ろす日本」

また、アメリカは国として優秀な人材を集めようとしています。移民に対する厳しい姿勢で知られたトランプ政権下でも、コロナでビザ発行を中止した時でも、研究者などの優秀な人材にだけはビザが発行されていました。

一方、日本でも移民政策が議論されていますが、その論点はあくまでも「労働力不足の解消」です。もちろん人手不足のアメリカにもそういう側面はあるにはありますが、より重要なのは高い報酬に惹かれて世界各国から集まってくる優秀な人材のほうです。

そもそも日本ではいくら仕事の環境を整えたところで、成功しても大して豊かになれないのだったら誰も来ないでしょう。アメリカに行けば環境も整っている上に、大金持ちになれるのですから。

いわば、アメリカは「努力をした人を引き上げる国」「天才を引き上げる国」。一方の日本は「努力をした人を引きずり下ろす国」「天才を引きずり下ろす国」。その差は極めて大きいと言わざるを得ません。

■日本は「共同貧困」に向かっている

そもそも、日本にはアメリカのような真の富裕層などはほとんど存在しません。さらに、中間層すらいなくなりつつあります。そんな状況下で格差を是正しようとすると、どうなるか。国全体が平等に貧乏になっていくのです。

藤巻健史『超インフレ時代の「お金の守り方」』(PHPビジネス新書)
藤巻健史『超インフレ時代の「お金の守り方」』(PHPビジネス新書)

日本では経済の活性化を唱える政治家よりも、国民の格差是正を訴えるリーダーばかりが支持を集める傾向があります。それは国全体で貧しくなることだ、という一面があることも、理解していてほしいと思います。

中国の習近平国家主席は「共同富裕」というスローガンを打ち出していますが、日本の場合は「共同貧困」へ向かっていると思わざるを得ません。

イギリス経済を復活させた「鉄の女」マーガレット・サッチャー元首相は、「人のポケットに勝手に手を突っ込むな」という名言を残していますが、まさに、そのとおりなのです。政治家が税金を集めて、自分の票を集めるためにバラマキを行うことに対する警告です。

昨今、資本主義の終わりということが盛んに言われていますが、こと日本に関して言えば、「資本主義が終わろうとしている」のではなく、「資本主義でなかったから終わろうとしている」のです。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。2020年11月、旭日中受賞受章。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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