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7年ぶりの節電要請をだれも知らない…なぜかまるで危機感が共有されていない日本の電力の絶望的状況

プレジデントオンライン / 2022年12月31日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

2022年12月から政府は7年ぶりとなる冬の節電要請を行っている。国際大学の橘川武郎教授は「石炭火力の活用によって最低限の安定供給は確保されたが、東日本はギリギリの状況だ。しかも、電力危機克服策として石炭火力が再評価されていることは、決して喜べることではない」という――。

■「今冬の電力危機」は本当に起きるのか

2022年7月17日にPRESIDENT Onlineで発表した拙稿〈より深刻な電力危機は、この夏よりも「冬」である…日本が「まともに電気の使えない国」に墜ちた根本原因〉の中で、「電力危機は、間違いなく2023年1〜2月の東日本で正念場を迎える。それへの有効な対応策は、今のところ節電しかない」、と書いた。そして、その根拠として、政府が電力危機対策として力を入れる原子力発電(原発)の活用拡大の成果には限界があるとの見通しを示した。

いよいよ、問題の23年1〜2月がやって来る。22年7月の時点に比べて、電力危機の度合いが多少緩和されたことは、事実である。しかし、政府の対応の不作為を含めて、問題の基本的な構造は、何も変わっていない。

図表1は、22年12月16日の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(以下、基本政策分科会)で資源エネルギー庁が開示したものであり、6月時点と12月時点の電力供給の予備率に関する見通しの変化を表している。最上段の「12月」「1月」「2月」は、それぞれ「2022年12月」「2023年1月」「2023年2月」を意味する。

【図表】電力供給の予備率見通しの変化

■供給予備率は改善したが、安心はできない

この図表1からわかるように、22年6月時点での見通しでは、23年1、2月の電力供給予備率は東京ではマイナス、西日本(中部〜九州)では1〜2%台となり、安定供給に最低限必要とされる3%を下回っていた(図表1中の黄色部分)。東北でも、予備率は3%そこそこにとどまった。

それが、22年12月時点の見通しになると、23年1、2月の電力供給予備率は西日本では5〜6%台に乗り、東日本(東北および東京)では4%台となった。電力危機の度合いは緩和されたが、東日本の4%台という数値は、けっして安心できる水準ではない。

■政府は7年ぶりに冬季節電要請を実施

現に政府は、2015年以来7年ぶりに冬季(22年12月1日〜23年3月31日)の節電要請を行うことを決定した。閣議後の記者会見で西村康稔経済産業大臣は、「電力需給は厳しい。想定した需要が上振れするリスクもある」と述べた。

要請内容は各家庭に対して、室内で重ね着をするなどして、無理のない範囲で節電することを求めるもので、東京都の小池百合子知事がタートルネック着用を呼びかける「奇策」を発表し、話題となった。

テーブルの上にカップ、キャンドル、本とセーター
写真=iStock.com/Galina Kondratenko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Galina Kondratenko

この節電要請は全国を対象にしているが、その焦点が東日本にあることは明らかである。

資源エネルギー庁も、12月の基本政策分科会で配布した資料(「エネルギーの安定供給の確保」、2022年12月16日)の中で、今冬の電力供給予備率について、「(23年)1月の東北・東京エリアでは4.1%となるなど、依然として厳しい見通しであり、大規模な電源脱落や想定外の気温の低下による需要増に伴う供給力不足のリスクへの対策が不可欠」、と記している。

■電力危機対策の「切り札」は原発活用?

同じ資料では、電力供給予備率の見通しが上方修正された理由についても言及している。具体的には、「本年6月以降、追加供給力対策の実施や、3月の福島沖地震で停止していた火力発電所の復旧見通しがついたこと、電源の補修計画の変更、原子力発電所の特重施設[特定重大事故等対処施設]の設置工事完了時期の前倒し等により、マイナスだった今冬の予備率は、安定供給に最低限必要な予備率3%を確保できる見通し」、と述べているのである。

ただし、厳密に言うと、この文言には、ややミスリーディングな箇所がある。と言うのは、原発の特重施設設置工事の前倒しは、電気事業者の手によって、政府が追加供給力対策を実施する以前から取り組まれていたからである。つまり、いったん再稼働を果たしながら特重施設設置工事のため運転を停止した原子炉を擁する電気事業者は、23年1〜2月に再びそれらを稼働できるよう、準備を進めていたことになる。

電力危機への対策として、政府が特に力を入れてきたのは、原子力発電の活用である。岸田文雄首相は、22年7月に、23年1〜2月の電力不足を乗り切るために、9基の原発を動かすと宣言した。

さらに、1カ月後の8月には、原子力規制委員会の許可(原子炉設置変更許可済み)を得ながら再稼働を果たしていない7基の原子炉について、23年夏・冬以降の再稼動を実現するとの方針を表明した。

■自分が原発を動かすかのような首相発言

まず、首相が7月に動かすと宣言した9基について言えば、それらは、すでに再稼動を果たしていたものばかりであった。特重施設設置工事や点検、修理のために一時的に運転を停止していたケースはあったものの、23年1~2月には稼働することがすでに織り込み済みの原子炉であった。

端的に言えば、首相には出番はなく、動くことは決まっていた。にもかかわらず岸田首相は、あたかも自分が動かすかのような言い方をしたのである。

次に、再稼働を果たしていない7基について言えば、そもそも8月に岸田首相が方針表明した時から、これらの再稼動に政府がどうコミットするのかは、きわめて不明確であった。

原子力規制委員会の許可を得ながら再稼働を果たしていない7基の原子炉のうち、東京電力・柏崎刈羽6・7号機は、東京電力の不祥事によって、規制委員会の許可自体が事実上「凍結」された状態にある。日本原子力発電・東海第二は、裁判所によって運転を差し止める判決が出ている(原電側と原告側がそれぞれ控訴)。

■23年夏以降の電力危機解消にも役立たない

残りの4基、つまり東北電力・女川2号機、関西電力・高浜1・2号機、および中国電力・島根2号機の4基は、運転再開に関する地元自治体の了解も取り付けており、再稼働へ向けての準備が進んでいる。ただし、女川2号機と島根2号機については、再稼働のために必要な工事が、23年夏・冬までに完了しない。

したがって、柏崎刈羽6・7号機、東海第二、女川2号機、島根2号機の5基の23年夏・冬における再稼動は、政府の強力なコミットがない限り実現しないことになる。にもかかわらず、岸田政権は、これら5基の再稼動に対して、これまでのところ、コミットらしいコミットをほとんどしていない。その結果、これら5基の原発は、23年夏・冬の電力危機解消には役に立たない見通しなのである。

今回の事例が示すように、岸田政権は、原子力に関してポーズをとるきらいがある。表向きは、原子力が電力危機克服の「切り札」となり、政府がそのためにリーダーシップを発揮するかのように派手にぶち上げるが、必要な具体的施策は講じない。そのこともあって、肝心の原発の電力危機解消効果も、すでに織り込み済みだった域を超えることなく、限定的なものにとどまっているのである。

■電力確保で頼れるのは結局、石炭火力

結局のところ、22年6〜12月に電力供給予備率を上昇させるうえで大きな役割を果たしたのは、原子力発電ではなく火力発電であった。とくに、石炭火力の貢献度が高かった。

まず、大型の高効率石炭火力の新設が相次いだ。22年の8月には、JERAの武豊(たけとよ)火力発電所5号機(107万kW、愛知県)が営業運転を開始した。続いて11月には、中国電力の三隅(みすみ)発電所2号機(100万kW、島根県)も営業運転を開始した。さらに4月に火入れを行った神戸製鋼所の神戸発電所4号機(65万kW、兵庫県)も、22年度内の営業運転開始を予定している。

このように、西日本の周波数60ヘルツエリアで、大型石炭火力の新設が進んだだけではなかった。東日本の周波数50ヘルツエリアでも、3月の福島沖地震で停止していた石炭火力が、次々に戦列復帰した。これらが、電力供給予備率を上昇させる原動力となったのである。

青空と発電所の煙突
写真=iStock.com/oleshkonti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oleshkonti

■一体いつ石炭火力依存から脱却できるのか

もちろん、LNG(液化天然ガス)火力も、電力危機克服には大きな戦力となる。しかし、LNGについては、ロシアのウクライナ侵攻の影響でサハリン2からの供給が断たれるおそれがあるなど、調達上の不安がつきまとう。これに対して、輸入先のロシアから他国への変更が順調に進んでいる石炭については、このような不安があまりない。「とくに、石炭火力の貢献度が高い」と述べたのは、このような理由による。

しかしながら、ここで強調しておくべき論点が一つある。それは、いくら高効率の石炭火力であっても、二酸化炭素を大量に排出することには変わりがないという点である。

石炭火力が電力危機克服策として「再評価」され、それへの依存期間が延びるということは、最終的に石炭火力をたたむ道筋を示す必要性がいっそう高まったことを意味する。問題があるAという手段をやむをえない事情で使う場合には、必ず、Aから脱却する道筋もまた、あわせて提示しなければならないからである。

■同じ石炭依存度のドイツが日本を批判できるワケ

日本が考えている長期的な石炭火力からの脱却策は、アンモニア火力への転換である。天然ガスの調達不安が続く状況下では短・中期的に石炭火力への依存を高めるのはやむをえないが、長期的にはいつまでにどの程度石炭にアンモニアを混焼し、最終的には何年にアンモニア専焼に切り替えるか、つまり石炭火力を廃止するかということをはっきりさせなければならないのである。

日本とドイツを比較すると、21年の電源構成に占める石炭火力の比率はぴったり同じで、両国とも29%であった。しかし、石炭火力問題をめぐる両国への国際的評価は、対照的と言っていいほどの違いがある。ドイツは、さまざまな国際会議で、石炭火力をたたむ「正義の味方」のように振る舞っている。一方日本は、石炭火力にしがみつく「悪者」であるかのような扱いを受け、今年も、不名誉な「化石賞」を与えられる羽目になった。

同じように石炭火力を使っているのにもかかわらず、日本とドイツで、なぜこれほどまでに評価の違いが生じるのか。その理由はたった一つ、ドイツが石炭火力を廃止する時期を「2030年までに」と明示している(ロシアのウクライナ侵攻後、ドイツが石炭依存を高めていることから、石炭火力を廃止する時期は数年先延ばしされるかもしれない)のに対して、日本がそれを明示していないからである。

当面する電力危機を石炭火力で乗り切ろうとしている日本は、そうであるからこそ同時に、石炭火力をいつまでにたたむかを早急に明示しなければならないのである。

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橘川 武郎(きっかわ・たけお)
国際大学副学長/国際大学国際経営学研究科教授
1951年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。青山学院大学助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て現職。専攻は日本経営史、エネルギー産業論。著書に『エネルギー・シフト』、『災後日本の電力業』などがある。

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(国際大学副学長/国際大学国際経営学研究科教授 橘川 武郎)

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