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習近平は後悔している…「不満のガス抜き」のはずだったのに経済崩壊を招いた中国コロナ対応の大誤算

プレジデントオンライン / 2022年12月26日 9時15分

北京の病院前で、診察を待つ中国の人々(=2022年12月21日、中国・北京) - 写真=AFP/時事通信フォト

■出口戦略が不十分なまま、感染が再拡大

12月7日、中国共産党政権はゼロコロナ政策の緩和を発表した。12日には行動追跡アプリの運用が止められた。その背景には、いくつかの要因が絡んでいる。“白紙運動”など、強引なゼロコロナ政策継続に対する国民の反発は大きい。また、世界保健機関(WHO)はコロナ感染の終わりが視野に入りつつあるという見方を示し始めた。

それに加えて、中国では不動産市況の悪化などによって地方政府の財政状況が悪化した。大規模なPCR検査を徹底する負担は増している。そうした状況下、徐々に共産党政権はゼロコロナ政策の部分的解除を目指した。

ただ、そのタイミングは悪かった。ワクチン接種の増加、治療薬の十分な量の確保、医療体制の拡充などウィズコロナ移行の準備が不十分なまま、ゼロコロナ政策は事実上解除された。その結果、中国の感染再拡大の状況は一段と深刻化している。首都北京市などでは火葬場に長蛇の車列ができた。共産党政権は急速に増加する感染者の把握に苦慮しているとみられる。足許、中国市民の防衛本能は一段と高まっているだろう。それは今後の中国と世界経済にとって無視できないマイナスの要因だ。

■風邪薬の“パブロン”が買い占められる

足許、中国で再度、新型コロナウイルスの感染者が急増しているようだ。北京市の感染状況を確認すると、感染再拡大は急激だ。12月中旬時点で北京市では救急車の出動要請が通常の6倍程度に増えたと報じられた。市内の薬局では抗原検査キットや解熱剤などの大衆薬を買い求める人が急増し、品切れが続発している。広州市では解熱剤の需要が急増し価格を引き上げた薬局が当局に摘発された。

影響はわが国にも広がっている。ゼロコロナ緩和後、東京都内のドラッグストアでは風邪薬や解熱剤を買い求める人が増えた。転売や知人への提供などがその背景にあるだろう。風邪薬の“パブロンゴールド”を製造する大正製薬の株価が大きく上昇する場面もあった。

■中国政府は死者を“計7人”と発表したが…

見方を変えれば、中国企業の製造した治療薬よりも、主要先進国の治療薬を手に入れなければ身の安全を守ることは難しいと危機感を強める人は増えていると考えられる。感染から身を守らなければならないという人々の危機感、防衛本能は一段と高まり、休日の北京市内は閑散としている。飲食などのデリバリー、物流などさまざまな分野で人手は不足している。状況は2020年春先、厳格なロックダウンによって人の移動が徹底して制限された武漢市を彷彿とさせる。

また、経済の中心地である上海市では、年明けを控える中で例年のにぎわいが見られないようだ。上海市などでは対面からオンラインに授業を切り替えるよう指示が出された。内陸部や農村地帯における状況はさらに厳しいと推察される。

その状況下、12月18日に2人、19日には5人の新型コロナウイルス感染による死者が確認されたと共産党政権は発表した。対して、SNS上では犠牲者はそれよりも多いとの投稿が相次いだ。医療逼迫(ひっぱく)の解消のために動員されている医学生の反発も高まっている。海外からも懸念が示されている。米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)は2023年、中国の新型コロナウイルス感染による死者数は100万人を上回るとの予想を公表した。

■なぜ十分な準備が進められなかったのか

当初、共産党政権は徐々にゼロコロナ政策を緩和する考えだった。その一つには市民の不満への配慮があっただろう。また、土地譲渡益の減少によって地方政府の財政状況は悪化している。その状況下で、大規模検査や厳格な移動制限を続ければ、地方財政の悪化リスクは一段と上昇するだろう。

そうした展開を避けるために、12月上旬以降、ゼロコロナは緩和された。ただ、その準備は十分ではなかった。特に、医療体制の逼迫度の高まりはかなり深刻とみられる。12月21日、WHOは中国の病院は満床に近づいているとの見解を示した。中国は海外の事例を参考に、ウィズコロナの準備を十分に進めることができていなかったと考えられる。

背景には、共産党政権全体を貫く人々の意思決定メカニズムが大きく影響しただろう。共産党の幹部にとって最も重要なことは、習近平総書記をトップとする最高指導部の指示を徹底して守り、命令と計画に従った行動を重ねることにあるようだ。過去にもそうした価値観を確認するケースはあった。

■最高指導部の指示が地方の感染対策に影響か

例えば、リーマンショック後の中国では4兆元(当時の邦貨換算額で57兆円程度)の経済対策が発表された。インフラ投資は積み増され、鉄鋼、銅線、アルミ、板ガラスなどの生産能力も急速に拡大した。その結果、鉄鋼などの在来分野で中国の過剰生産能力は深刻化している。裏返しに、中国の生産者物価指数は下落している。主要先進国のインフレ状況とは対照的だ。

共産党政権はトップから地方幹部までを貫く意思決定、行動様式を確立した。それは一党独裁体制を維持するために重要だ。習近平政権は、党内、さらには民間企業の創業経営者や有名映画俳優に至るまで綱紀粛正を徹底した。

それによって、最高指導部と呼ばれる政治局常務委員の指示は絶対であるという人々の認識は、一段と引き締められただろう。最高指導部の指示に忠実に、全力で取り組むことは、地方政府の幹部の出世に大きく影響する。10月の党大会でナンバー2に躍進した李強氏が上海のロックダウンを徹底したのは、そうした意識からだったと考えられる。

北京の人民大ホール
写真=iStock.com/tcly
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tcly

■「桃がコロナに効く」さまざまなデマも…

習総書記は自らの支配体制の強化(政治)には多くのエネルギーを注いでいる。一方、経済に関しては感染対策を徹底しながら消費などを伸ばすといった考えは劣後しているように見える。それは今後の中国、さらには世界経済にとって大きなマイナスとなるだろう。2022年12月中旬時点で、習政権は米ファイザーなどからワクチンを調達し、高齢者を中心に接種を増やす考えを示していない。

一方、さまざまなデマも流布している。例えば、“桃の缶詰を食べれば、新型コロナの症状が緩和する”と考える人が増えたようだ。感染の後遺症に関する不安を感じる人も多いだろう。中国の製薬メーカーが生産したワクチンの副反応を警戒する人も多い。共産党政権はSNSで閲覧した投稿に“いいね”ボタンを押下することも規制し始めた。

■中国の現状は世界経済にも大きなマイナスに

現在の感染状況が一朝一夕に解消に向かうとは考えづらい。人々は追加的に接触を避けるようになる。経済運営に欠かせない人の移動線=動線は一段と不安定になるだろう。それによって、個人消費にはより強い下押し圧力がかかりやすい。いずれ感染は落ち着き、徐々に経済活動も持ちなおすだろうが、上海ロックダウン後などに比べて個人消費の回復ペースはより緩慢になる恐れは増している。

生産や物流、貿易取引の停滞も懸念される。その状況下、景気下支えのために習政権は不動産業界への資金支援を強化する方針だ。ただ、不良債権処理は遅れている。債務問題は深刻化するだろう。地方財政の悪化懸念も追加的に高まりやすい。経済全体で資本の効率性は低下し、成長率の低下懸念は一段と高まりそうだ。生産拠点を海外に移す中国や海外の企業は増え、雇用・所得環境もさらに不安定化するだろう。

それは、世界経済にとって大きなマイナスだ。半導体や人工知能(AI)など先端分野をめぐる米中の対立も熾烈(しれつ)化している。共産党政権はゼロコロナ政策などに起因する市民の不満、不安増大を抑え、世論の目線を海外に向かわせるために台湾に対する圧力をさらに強める恐れも増している。2023年の世界経済にとって中国経済は主要なマイナス要因の一つと考えられる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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