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「自分の血液型を知っておく必要はない」現役内科医がそう断言する医学的な理由

プレジデントオンライン / 2023年1月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/solarseven

日本では「A型は神経質」というふうに、血液型で性格を語られがちだ。内科医の名取宏さんは「昔、流行した『血液型人間学』という本が発端で確かな根拠はない。偏見や差別につながるし、嫌な思いをする人もいるだろうから気軽に話さないほうがいい。それに、自分の血液型を知っておく必要もない」という――。

■「O型には大雑把な人が多い」のは本当か

ご存じのように、ABO式血液型では、血液はA型、B型、O型、AB型の4タイプに分けられます。以前、その血液型と性格は関係しているという説を、会話のきっかけにする人がたくさんいました。たとえば「A型は神経質で真面目な性格だ」「O型には大雑把(おおざっぱ)な人が多い」「B型の人の性格はマイペース」「AB型は変わり者ばかり」などといった感じです。

こうした主張が日本で信じられていたのには、1970年台に『血液型人間学』と称する一般書がベストセラーになったという背景があります。たいていの人は誰でも大雑把な部分を持っていますから「O型のあなたは大雑把な性格ですね」などと言われると、血液型に関係なく当たったように感じるものです。血液型と性格の関連を正確に知りたいのであれば、こうした思い込みを排した科学的な研究が必要です。ところが、これまでの研究では血液型と性格の強い関連は示されていません(※1)。血液型人間学や血液型診断などは「科学」ではなく「占い」の類いです。

今では考えられないことですが、血液型人間学ブームのころには、血液型を教育や人事に活用する事例すらありました。仮に「O型には大雑把な人が多い」のが事実だとしても、目の前にいるO型の人が大雑把かどうかはわかりません。それなのに、O型だからと大雑把な人に向く仕事を割り振るのは、偏見に他なりません。血液型人間学が科学であろうとなかろうと、血液型によって扱いを変えるのは差別なのです。

※1 『パーソナリティー研究』2006 第15巻 第1号 p33–47「擬似性格理論としての血液型性格関連説の多様性」

■血液型で性格を決めつけるのは「ブラハラ」

私は、日常生活で血液型を話題にするのも避けたほうがいいと考えます。その場にいる全員が、血液型の話題で楽しめる保証はないからです。むしろ、「O型だから大雑把だよね」などと決めつけられることにウンザリしているけれど、その場の雰囲気を壊さないように空気を読んで、話を合わせている人が多いかもしれません。

これがたとえば、肌の色や出身地で性格を決めつけるような話題だったら、誰にでもいけないことだとわかるでしょう。血液型人間学や血液型性格診断も同じこと。「ブラッドタイプ・ハラスメント(ブラハラ)」という言葉もあるくらいです。

「今までは証明できなかっただけで、将来的に血液型と性格の関連が証明される可能性はゼロではない」という意見もあります。その意見は間違っていないのですが、「血液型人間学は科学ではなく占いの類いである」という結論には変わりありません。血液型と性格の関連は存在しないか、存在したとしてもきわめて弱いものです。人間関係に役立つほどの強い関連が存在するならば、とっくに実証されているからです。

「自己成就予言」といって、生物学的に血液型と性格の関連がなくても、「O型は大雑把な性格だ」という情報に触れ続け、そう信じる人が多い社会においては、血液型と性格に関連が観察されるかもしれません。そうした現象が存在するという報告もあれば、観察できなかったとする報告もあります。存在するという報告でも、何千人、何万人を対象としてやっと差が出るかどうかの小さい関連で、人間関係に役立つほどの強い関連ではありません。

■感染症と血液型には少しだけ関係がある

じつは血液型が、特定の感染症と関連しているという話もあります。医者である私にとって、血液型と感染症の関係は、血液型と性格との関係よりもずっと興味深いものです。

とくに胃腸管においての関連は以前より知られていて、たとえばO型の人はノロウイルスに感染しやすいという研究があります(※2)。ただ、その関連は強いものではなく、おおむね1.3倍程度です。O型でなくても感染するときはしますし、O型でも感染しないときはしません。

新型コロナウイルス感染症と血液型の関連も調べられています。A型は新型コロナの感染や重症化のリスクが高く、O型は保護的に働くとする研究が多いですが、関連は観察できないとする研究もあります(※3、4)。研究の結果が割れるのは、関連があったとしても、それほど強くないことを示しています。A型が新型コロナに感染しやすいとしても、2倍も3倍も感染しやすいということはありません。これくらいの小さな差は実地臨床には影響しません。A型だろうとO型だろうと重症化する可能性はあるのですから、同じように対応します。

※2 Infection, Genetics and Evolution. Volume 81, July 2020, 104245. “ABO blood group-associated susceptibility to norovirus infection: A systematic review and meta-analysis”
※3 Blood Reviews. Volume 48, July 2021, 100785. “The impact of ABO blood group on COVID-19 infection risk and mortality: A systematic review and meta-analysis”
※4 JAMA Netw Open. 2021;4(4):e217429. “Association of Sociodemographic Factors and Blood Group Type With Risk of COVID-19 in a US Population”

医療、血液検査
写真=iStock.com/Ca-ssis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ca-ssis

■それぞれの血液型の「抗原」と「抗体」とは

では、どうして弱いながらも血液型と感染症に関連があるのでしょうか。いくつかの仮説を説明しますが、その前に血液について少し説明しましょう。

私たちの血液の約90%は水分で、ほかに赤血球、白血球、血小板といった血球成分、アルブミン、グロブリン、凝固因子といったタンパク質が含まれています。それぞれの血液型の赤血球を調べると、A型には「A抗原」、B型には「B抗原」、AB型には「AとBの両方の抗原」があり、O型にはどちらの抗原もありません。一方、血液を凝固させて血小板や凝固因子を除いた血清を調べると、A型にはB抗原に反応する「抗B」、B型にはA抗原に反応する「抗A」、O型には「抗Aと抗Bの両方」の抗体があり、AB型にはどちらの抗体もありません。

だから、A型の人にB型の血液を輸血すると、A型の人が持つ「抗B」抗体が、B型の赤血球の「B抗原」と反応して、赤血球が壊れるといった重大な副作用が起こります。だから、輸血は血液型を合わせて行います。

【図表1】血液型と抗原と抗体

■血清に含まれる抗体は生後半年以降に作られる

生まれたての赤ちゃんの免疫系は血清に含まれる抗体「血清抗体」を作れませんが、生後半年〜1年くらいで作れるようになります。たとえばA型の赤ちゃんは、抗Bという血清抗体を作るようになるわけです。このことを知った時、私は不思議でなりませんでした。B型の血液を輸血されていないのに、なぜB抗原に対する抗体が作られるのでしょうか。

これは赤血球に含まれる抗原「赤血球抗原」に似た抗原を持つ病原体がいるためです。A型の赤ちゃんに「B抗原と似た抗原を持つ病原体」が感染すると、免疫系は防御反応として抗B抗体を作ります。AB型とB型の赤ちゃんは抗B抗体を作りませんが、細菌にはB抗原以外にも多くの抗原がありますので免疫は働くものの、A型やO型の赤ちゃんと比べると「B抗原に似た抗原を持つ病原体」に対しての免疫の働きは少し弱いかもしれません。

A型の人が新型コロナに感染しやすいのが事実だとすると、A型の人が持たない抗A抗体が関係しているのかもしれません。新型コロナウイルスにはA抗原に似た部分があり、抗A抗体がウイルスにくっついてA型以外の人の感染を妨げている、といった仮説が考えられます。ただし、それほど単純なことではありません。抗体だけに注目すると、抗Aも抗Bも作るO型が一番感染症に強いはずですが、ノロウイルスに対してはそうではないようです。実際の血液型と感染症の関係は複雑だからこそ、多少の関連はあったとしても、その影響は小さいのです。

原っぱで娘と遊ぶ両親
写真=iStock.com/Liderina
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liderina

■血液型の分類はABO式だけじゃない

血液型の分類の仕方には、ABO式以外にも何十もの種類があります。有名なのは「Rh血液型」ですね。昔から病気との関連では、白血球の血液型(ヒト白血球抗原)が研究されています。ある種の自己免疫性疾患とヒト白血球抗原の関連はきわめて強く、特定の白血球抗原を持っていると、病気のリスクが数倍や数十倍上昇することもめずらしくありません。ヒト白血球抗原は骨髄移植の治療成績にも影響します。こうした観点からも、何十種類もある血液型の分類中でABO式だけが特別に性格に強い影響を与えるという考えには疑問を持たざるを得ないのです。

そして医学的には、自分の血液型を知っておく必要はありません。あえて言えば、「O型の血液が不足しているので献血を」といった呼びかけに対応する時くらいでしょうか。日本では血液型人間学の影響もあってか、赤ちゃんの血液型を知りたいという保護者も多いそうです。でも、前述したように新生児は血清抗体を持っておらず、赤血球抗原の量が少なく、母体由来の血清抗体を持っていることなどから血液型の検査は不正確です。たまに「生まれた時と血液型が変わった」なんて話を聞きますが、血液型は遺伝的に決まっていて骨髄移植でも受けない限り変わりません。出生時の検査が不正確だっただけだと思われます。

性格診断に使うだけならともかく、不正確な検査結果を見て「両親から生まれるはずのない血液型だ」と思ったら大変です。「いったい誰の子供なんだ」と母親がありもしない不倫を疑われることになりかねません。ついでながら、検査が正確でも、一般的にはありえないとされる血液型の子供が生まれるケースもまれにあります。たとえば、一般的にはAB型とO型の夫婦からはAB型やO型の子供は生まれませんが、「シスAB型」というまれなタイプのAB型とO型の夫婦からは生まれます。

■医学的には血液型を調べておく必要なし

それでも「事故などで輸血が必要になった時、あらかじめ血液型がわかっていたほうがいいのではないか」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。ですが、患者さんが自己申告した血液型を信じて輸血をするような医療機関はありません。ABO式血液型だけがわかっても仕方がないですし、間違って不適合輸血を行えば患者さんが亡くなることもあります。血液型の申告があろうとなかろうと、血液型を検査して、患者さんの血液と輸血用血液を混ぜて反応をみる「交差適合試験」を行った上で輸血します。検査する時間がない超緊急時でも、O型赤血球製剤を輸血しますので、やっぱり前もって血液型を知っておく必要はありません。

今から40年以上も前ですが、私が小学生の頃は名札の裏に血液型を書く欄がありました。また、最近は見かけませんが、以前は工事現場用のヘルメットにも血液型を書く慣例がありました。こうしたことも「緊急時の輸血のため、あらかじめ血液型を知っておいたほうがいい」という誤解を助長していたのでしょう。血液型は遺伝情報であり個人情報ですから、今どき血液型を書かせるような学校や職場があったら、コンプライアンス的によろしくありません。

子供が成長すれば、血液型の検査は正確になります。自費でなら検査をする医療機関もあるでしょうが、医学的に必要な場合を除いて血液型の検査をすることはおすすめしません。子供にわざわざ痛い思いをさせてまで、血液型を知る必要があるでしょうか。子供が自分の血液型を知りたくなったら、しかるべき年齢になってから、自分の判断で自費の検査を受けるなり、献血をするなりすればいいと思います。

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名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。

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(内科医 名取 宏)

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