「こんな医者にかかってはいけない」現役小児科医が教える"ダメな医師"を見抜く簡単な質問
プレジデントオンライン / 2023年1月6日 13時15分
■病院や診療所で「叱られる」のはなぜか
「もっと早く受診しないと」「こんなの受診する必要ないよ」「そんなことも知らないの」「もっときちんとしてくれないと」などと医師に叱られてから、病院嫌いになってしまったという声を聞くことがあります。医師だけでなく看護師、保健師、助産師など、他の医療者に叱られたという例も少なくありません。
とくに病院やクリニックにかかるときは、ご自身またはお子さんの調子が悪いことが多いもの。体調の悪い時に、子育てをしながら受診するのは大変です。また、お子さんの調子が悪いなら、不機嫌で手間がかかりますし、保護者としては心配なわけですから、そんな時に頑張って受診して「叱られる」のでは医療機関にかかりたくなくなりますね。だいたい相手が医師であれ看護師であれ、他の専門職であれ、対等な大人である保護者を「叱る」のはおかしいでしょう。
いろいろな保護者の方のお話を聞いていると、さまざまなパターンがあるようです。大まかに分類すると、医療従事者の勉強不足による場合、医療者が個人的な価値観を押し付けている場合、です。それ以外に、患者さん側にも問題があったり、行き違いが起こっている場合もあるようです。ひとつずつ考えていきたいと思います。
■医療者が「勉強不足」なこともある
以前、子供にキウイを食べさせたら赤い発疹が出たため、クリニックを受診したところ、小児科医に「アレルギーが出るかもしれないのだから、もっと慎重に食べさせないと」と叱られたお父さんの話を聞いたことがあります。
まず、どんな食材も理論上はアレルギーの原因になり得ますから、予測しきれません。アレルギーの原因になりやすい食べ物は、食文化・食習慣、年代によって異なります。現在、日本でアレルギーの原因になりやすい食品は、卵、牛乳、小麦、魚卵、ピーナッツや果物、蕎麦など(※1)。両親やきょうだいがアナフィラキシーを起こしたことがあったら、慎重になったほうがいいのですが、そうでなければ通常通り食べさせます。日本においてキウイはアレルギーを起こしやすい食べ物ではないので(※2)、そのお父さんが責められるいわれはありませんね。医師の勉強不足です。
こういうケースでは「何を食べる時に慎重になったらいいんですか?」などと具体的に質問して、明確に答えられない医師にはかからないほうがいいでしょう。また子供は可能な限り幅広く多様な食材をとったほうがいいので、やみくもに食事制限を指示する医師がいたら別の小児科にも行ってみてください。
※1 日本アレルギー学会、厚生労働省「アレルギーポータル」
※2 『アレルギー』2007.56(1)「2.食物アレルギーの疫学(我が国と諸外国の比較)」
■個人的な価値観を押し付ける医療者も
他にインターネット上でもよく目にするのが、医療者個人の価値観を押し付けるというもの。例えば、赤ちゃんに母乳ではなく育児用ミルクをあげたいお母さんに「母乳育児を諦めるのはよくない」「頑張って頻回授乳すれば出る」「粉ミルクは赤ちゃんによくない」などと言うようなケースです。
母乳や授乳に詳しい専門家は少なく、医師や助産師でも医学的根拠のある適切な指導ができる人は少ないので「母としての自覚を持って一生懸命やれば母乳は出る」といった精神論、「和食の粗食しか食べなければ母乳の分泌は良くなる」といった間違った指導がされがちです。その上、個人的な価値観を強い口調で押し付けられれば、「もう医療には頼らない」と思ってしまっても無理はありません。
母親だって人間です。産後の心身の調子、周囲のサポートの程度によって、どこまで母乳育児を頑張れるかどうかは違うはず。また母乳育児にどれだけの価値を置くかは、個人の自由です。母乳に限らず、離乳食、赤ちゃんの服装、寝かしつけ方法など、新米の母親には「自分が教えてあげなくては」と変な思い込みを持って接する人が、医療者に限らず多いので困りますね。他人には他人の価値観、考え、やり方があります。
![孤独な母親と彼女の赤ちゃん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/5/1200wm/img_b52bc110ae5803da36094a49462933c1364198.jpg)
■パターナリズムが医療不信を引き起こす
一部の医療者ではありますが、こうして患者さんや保護者に間違った「指導」をしたり、「こんなことも知らないの?」などと高圧的に叱ったり、あまりに大変で実行するのが難しいことをやるように伝えたり、価値観を押し付けたりすることがあるのは問題でしょう。
標準医療を信頼できなくなり、スピリチュアルやニセ医学、トンデモ育児に頼る人が増える原因になりかねないからです。誰でも自分が不安なとき、大変なときに熱心に話を聞いて、その気持ちを理解してくれ、具体的に何をしたらいいのかをわかりやすく教えてくれる人がいたら、それが専門家でなくても信じてしまいかねません。
そもそも医療者は医学的根拠のある診療・指導をするべきですし、そこに個人的な感情や価値観を加えるべきではないでしょう。また患者と医療者には、医療についての知識の差があるだけで、上下関係はないはずです。昔は患者さんの利益にさえなれば、本人の理解・承諾がなくても医師に一任すべき、と医療においても「パターナリズム(父権主義)」が横行していました。
でも、現在はそうではありません。常に「インフォームドコンセント」といって患者さんへの説明、患者さんの同意が必要です。病気の予防や治療は、医療者と患者が一緒に行っていくもので、それには信頼関係が欠かせません。
■患者さんも共に信頼関係を築いてほしい
一方、当然ですが、病院や診療所で嫌な目に遭ったからといって、必ずしも医療者が悪いわけではありません。信頼関係は双方向性のものですから、意に沿わないことがあっても落ち着いて考えてみることが大切です。
たまに保護者の方から「忘れ物を家に取りに帰るので子供をみていてください」などと言われることがありますが、診療をしながらお子さんの面倒をみることはできないのでお断りしています。また院内において、治療において、なんらかの危険がある場合は注意することがあるかもしれません。
「予防接種や乳児健診のついでに、いろいろ相談したいし、検査や処方もしてもらいたい」というご希望を通せないこともあります。診察や検査の枠を取っていないと、他の患者さんをお待たせしてしまうからです。その月初めての受診なのに健康保険証を忘れた、期限切れの小児医療証しかない、定期接種の予診票を忘れた、母子手帳を持っていないなどの理由で、予防接種や診察を受けられないと言われた際も決まりなので仕方がないと思います。
そのほか保険診療ですから、適応外の検査や治療、投薬はできません。例えば「心配だから、RSウイルスやインフルエンザじゃないか検査してください」と言われても、疑いのない状態で検査はできないのです。しかも、そんなにやみくもに検査してはキリがありませんね。
![家族のヘルスケア、医療、保険の概念](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/2/1200wm/img_52414bf4988be01fad0e9179bfe9be89387401.jpg)
■新型コロナウイルス感染症の影響もある
このように医療者が一部の患者さんに不要な検査や無理な処方を頼まれたり、逆に必要な検査や処方を拒否されたり、理不尽な要求や批判を受けることもあります。もちろん程度によっては通報しますが、まれに暴力や暴言にさらされることも。それでも医師には「応召義務」があり、基本的に患者さんを選ぶことはできません。
特に現在は新型コロナウイルス感染症の影響が大きく、お子さんが陽性になると「公共の乗り物で帰ってはいけないって、どうやって帰ればいいんだ!」「濃厚接触者は最後の接触から5日間も必要最小限の外出しかできないなんて、仕事に行けないじゃないの!」と怒り出す方もいらっしゃいます。でも、周囲に感染を広げないためには仕方ないことなのです。
そして感染症は、かかった子供が一番つらいもの。体調が悪いにもかかわらず、保護者が怒っていたら、子供は「自分が悪いのかも」と一層つらくなるでしょう。そして誰かに怒りをぶつけたい気持ちはわかりますが、感染症にかかったのは目の前にいる医療者のせいではありません。わからないことがあったら、冷静に資料を見たり、質問したり、確認したりしましょう。
先に述べたように、治療には医療者だけでなく、患者さんや保護者の方も参加しないといけません。参加とは、指示を鵜呑(うの)みにすることではなく、説明を受けた上で共に協力し合うことです。いい治療を行うために、ぜひ医療者と信頼関係を築いていきましょう。
新型コロナウイルス感染症にかかった場合は、こちらをご覧ください!
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症 陽性だった方へ ~自宅療養中に気をつけること~」
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小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。
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(小児科専門医 森戸 やすみ)
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