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平均月商は1店舗当たり約1800万円…マクドナルドが外食業界の最強企業として君臨できるワケ

プレジデントオンライン / 2023年1月3日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tupungato

日本マクドナルドHDは、直近の通期決算で1店舗当たりの平均月商が約1800万円となり、上場以来最高となった。外食業界で「一人勝ち」と評される好調の要因はどこにあるのか。日経ビジネスの鷲尾龍一記者の著書『外食を救うのは誰か』(日経BP)より紹介する――。

■コロナ禍で「一人勝ち」したマクドナルド

コロナ禍で勝ち組となったファストフード。メニュー点数を抑え、店舗に届く前に食材をなるべく加工し、店舗では専門的な厨房機器を使って注文から3分前後で提供する。徹底的な「工業化」により、来店客の回転率の向上と、人件費の抑制を両立してきた業態だ。

細かく見ると、ファストフードの中でも優勝劣敗がある。日本フードサービス協会の調査によれば、2021年の「洋風ファストフード」の売上高は19年比116.2%だった。「持ち帰り米飯・回転ずし」は同99.1%、牛丼など「和風ファストフード」は同95.2%。いずれも他の業態に比べれば好調と言えるが、洋風ファストフードが頭一つ抜けた格好だった。その代表格がハンバーガー。中でも「一人勝ち」と評されるのが日本マクドナルドホールディングス(HD)だ。

■店舗当たりの平均月商は上場以来最高を更新

日本マクドナルドHDの21年12月期通期の全店売上高は前期比10.7%増の6520億円、最終利益は同18.6%増の239億円だった。1店舗当たりの平均月商は約1800万円と、上場以来最高となった。22年に入ってからも好調をキープしており、既存店売上高は22年4~6月期まで27四半期連続でプラスを続けている。

好調の要因は、テークアウトやデリバリー、ドライブスルーなど店内飲食(イートイン)以外の利便性の高さを消費者に示したことだった。マクドナルドに限らず、洋風ファストフードは商品をカウンター越しで提供するケースが多い。店内飲食と店外飲食で店舗側のオペレーションはほとんど変わらないため、対応しやすい。

コロナ禍では消費者が外出の自粛を強いられ、外食店は客席の閉鎖や時短営業を求められた。そんな中で「外食は店の中」という常識を覆した業態が業績を伸ばした。振り返れば1971年に東京・銀座で開業したマクドナルドの国内1号店はテークアウト専門だった。日本KFCホールディングスの「ケンタッキーフライドチキン」などマクドナルドと同様にコロナ禍で強さを見せた業態も、やはりテークアウトで強みを発揮していた。

■コロナ禍を予期していたかのような店舗改革

マクドナルドを一強たらしめた要因は、コロナ禍前から進めていた店舗改革だ。スマートフォンで事前に注文と決済を済ませられる「モバイルオーダー」の試験導入を19年に始め、20年1月に全国展開。まるでコロナ禍の到来を予期していたかのようなタイミングだった。

デジタルツールの導入にとどまらず、厨房機器やカウンターなどハードの整備、クルー(従業員)の教育などの改革も進めていたことが功を奏した。モバイルオーダーを導入すると、店舗のカウンターで対応できる数を超えて注文が急増することがある。マクドナルドは厨房の負荷が高まることを見越して、商品の製造能力を2倍にする新型キッチンを導入していた。さらに注文カウンターの隣に受け渡し専用のカウンターを設け、店内のオペレーションをスムーズにした。

デリバリーでもマクドナルドの地力が表れた。コロナ禍ではデリバリーアプリの配達員たちがマクドナルド付近で待機する姿が目立った。頻繁に注文が入る上、店舗数が多いため配達先への距離が短くて済み、配達効率が高かったからだ。店が多くの注文をさばくオペレーション能力を持っていることが前提となっている。

Uber Eats
写真=iStock.com/rockdrigo68
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rockdrigo68

■店舗改革は「完成形から見て5合目」

ただ、課題もありそうだ。現在のマクドナルドの店内は、カウンターで注文する人、モバイルオーダーで注文して受け取りを待つ人、商品を待つデリバリーの配達員らが入り乱れ、「カオスな雰囲気になっている」(日本マクドナルド関係者)。SNS(交流サイト)には「マクドナルド」と「戦場」を結び付けた投稿が散見される。混雑時のキッチンの様子を見た来店客による書き込みとみられる。

消費者からの支持の裏返しではあるが、このまま注文の増加が進んで現場の限界を超えてしまえば、サービス品質の低下を招きかねない。日本マクドナルドHDで副社長兼COO(最高執行責任者)を務めていた下平篤雄元氏(22年4月に逝去)は『日経ビジネス』の取材に対し、DX(デジタル変革)や店舗改革は「完成形から見て5合目」と語っていた。残りの変革を、手綱を緩めずに進めていかなければならない。

■「てりたま」「グラコロ」などの季節メニューで集客

東日本大震災が起こった11年以降、外食業界にふき始めた逆風の影響を受けたのはマクドナルドも同じだった。14年3月にサラ・カサノバ氏が社長兼CEO(最高経営責任者)に就いて改革に挑むも、同年7月にチキンナゲットを製造する中国工場で使用期限切れの鶏肉を使っている問題が報道され(後に日本には輸出されていなかったことが分かる)、翌15年に異物混入問題が起きて業績悪化に拍車がかかった。

組織改革のひずみも表れていた。08年に、それまで7割が直営だった店舗運営をフランチャイズ7割にする方針を決めたが、直営主体の中央集権的な仕組みは変えないままだった。現場から風通しの悪さについて不満の声が上がるようになっていた。また、既存店舗への投資も不十分で、店舗の清潔さに対する満足度が下がっていた。

カサノバ氏の下、日本マクドナルドは品質管理の徹底や店舗改装に取り組んだ。地力を回復させたことで18年に低迷を脱し、19年から店舗投資を本格化できた。

単一商材で勝負することが多いファストフードは、売りになる商品をタイムリーに投下して「飽き」を緩和し、客離れを防ぐことが重要だ。日本独自で開発した「てりやきマックバーガー」を1989年に期間限定商品から定番メニューに昇格させるなど、マクドナルドの商品開発力には定評がある。「てりたま」「グラコロ」など季節に応じたメニューも毎年のように集客に貢献している。商品開発力と、その魅力を消費者に売り込むマーケティング力が好業績の根本にある。

同社は22年9月に発行した書籍『日本マクドナルド「挑戦と変革」の経営』の中で、顧客の声に寄り添った戦略、店舗と人への投資、時代に合った組織と人材の配置という三つの施策のかけ算こそが成長を促す本質だと説いている。それを継続できるかどうかが今後の成長の鍵となる。

■「スシロー」の運営会社は売上・利益が過去最高に

マクドナルドほどではないものの、コロナ禍で健闘した業態の一つが回転ずしだ。「手軽にすしを食べたい」という目的来店を促す業態であり、郊外のロードサイド立地が中心だったことで「三密」を避けようとする消費者の取り込みに成功した。最大手の「スシロー」を運営するFOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)は、2021年9月期に売上収益が2408億円となり、営業利益などとともに過去最高を記録した。

回転ずしの起源は1958年に大阪府東大阪市で誕生した「元禄寿司」とされる。ビール工場の製造に使われていたベルトコンベヤーから着想して生まれた。その頃のすしは高級料理の代名詞。値段が「時価」のすし店を利用する消費者は限られていた。価格を抑え、明朗会計を持ち込んだ回転ずしを消費者は歓迎した。その後、シャリを握るロボットを活用して多店舗展開する大手チェーンが参入して成長していった。

回転ずし
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■店舗数をどんどん減らすファミレスとは対照的

帝国データバンクの調査によると、21年度の回転ずし市場(推定)は7400億円。11年度の4636億円から10年間で1.6倍に成長した。回転ずし各社は都市部への出店を精力的に進めており、22年2月時点の回転ずし店舗数はコロナ禍前の19年度から150店増えて約2200店となった。店舗数をどんどん減らしているファミレスとは対照的だ。

来店客の1世帯当たりの消費額も堅調だった。15年度を100としたとき、21年度は外食全体では68まで落ち込んだが、回転ずしは118と大幅に伸ばした。ハンバーガーの149に次ぐ好調ぶりだった。デザートやラーメンなど、すし以外のサイドメニューの充実がファミリー層に好評だったことが影響したようだ。

■仕入れコストが上昇し、稼ぐ力が弱まっている

ただ、足元ではウクライナ危機の影響で水産物の仕入れコストが上昇し、稼ぐ力が弱まっている。もともと回転ずしは原価率が40%超と外食業界の中では高く、コスト増の影響を受けやすい。「くら寿司」を運営するくら寿司は2022年9月に業績予想を修正し、22年10月期の営業損益が28億円の黒字から9億円の赤字になると明らかにした。

いちよし経済研究所の鮫島誠一郎首席研究員は「回転ずしがわなにはまっている」と指摘する。店舗数を増やし、幅広い客を獲得しようという流れの中で、ラーメンなどすしとは調理工程がまったく異なるメニューが増加。それがコストの上昇を招いて利益を圧迫しているとの分析だ。鮫島氏は「メニューを増やすにしても、目的を明確にするか、時間帯でメニューを変更するなどやり方を変えた方がいい」と話す。

■「材料費高騰を理由に賃上げをためらうのは完全に誤り」

今、原材料高が外食業界全体に襲いかかっている。マクドナルドは22年、3月と9月の2回値上げに踏み切った。回転ずしチェーンも一皿100円の維持が困難になり、スシローはいち早く22年10月からの値上げを発表した。くら寿司も10月に1皿110円を115円にするなどの新価格に移行した。

牛丼店「すき家」やファミリーレストラン「ココス」などを展開するゼンショーホールディングス(HD)は30年まで賃金のベースアップを毎年実施すると宣言している。小川賢太郎会長兼社長は「国際インフレで原材料価格が上がっているからといって、賃上げをためらうのは完全に誤りだ。再浮上の鍵を握るのは我々流通・サービス業だ」と語る。

小川氏はサービス産業がGDP(国内総生産)の7割を占め、就業者の7割が従事しているとした上で、「マクロ経済を浮揚させるには賃上げが欠かせない。GDPの多くは第3次産業であり、日本経済の根幹は個人消費だからだ」と主張する。

サービス産業について研究している京都大学経営管理大学院の原良憲教授は、「製造業は自動化で浮いた人員を別の事業で吸収できたが、サービス産業は失業につながってしまう。どう産業全体を維持・発展させていくかは大きな課題だ」と指摘する。

■外食デフレで成長した外食チェーンはインフレにどう立ち向かうか

外食産業は「低い参入障壁」に起因する値下げ競争に追い込まれ、それが人件費を圧迫する悪い連鎖から抜け出せていない。経営改革と賃上げを同時に進めるという難題に立ち向かわなければならない。

鷲尾龍一『外食を救うのは誰か』(日経BP)
鷲尾龍一『外食を救うのは誰か』(日経BP)

円安の進行で、「日本の外食は安過ぎる」という指摘がさらに聞かれるようになった。輸入品の調達コストはさらに上がり、エネルギー価格も高騰が続く。無理に価格を維持しようとすれば、またも限界を超えたコスト削減に踏み切らざるを得ず、不祥事などのひずみが噴出する恐れがある。

外食産業に詳しい香雪社の齋藤氏は「外食は価格帯によって消費者が求める体験の価値が変わる」と指摘する。工業化に磨きをかけて価格帯を維持するのか、それとも値上げに見合うように顧客体験を変えていくのか。場合によっては業態ごと刷新する必要が出てくるかもしれない。

「今は好調でも来年どうなるか分からない。変化をずっと続けられる組織こそ理想」と日本マクドナルドHD元副社長の下平氏は語っていた。外食デフレで成長し、コロナ禍でも勝ち組と言われたマクドナルドや回転ずしチェーンがこれから問われるのは、インフレ局面での打ち手だろう。

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鷲尾 龍一(わしお・りゅういち)
日経ビジネス記者
1986年、兵庫県生まれ。2008年京都大学法学部卒業、読売新聞大阪本社入社。4年半の地方勤務を経て経済部へ。10年近くにわたり、大阪や東京で小売りや電機、インフラ、金融、スタートアップなどの業界を取材した。19年8月から日経ビジネス記者。総合商社の動向や企業買収の現場、外食業界などを重点的に取材している。

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(日経ビジネス記者 鷲尾 龍一)

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