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がん患者はみんな「おなかの筋肉」がペラペラだった…消化器外科医が「筋肉ががんを防ぐ」と考える理由

プレジデントオンライン / 2023年1月1日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Atstock Productions

どうすればがんを予防できるのか。消化器外科医の石黒成治さんは「これまで2000人以上の大腸がん手術に携わってきたが、いつも『この人も、おなかの筋肉がペラペラだな』と思っていた。ここ20年で疫学的調査が続々と発表され、『筋肉とがん予防との相関性』がわかってきた」という――。

※本稿は、石黒成治『筋肉ががんを防ぐ。』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■がん患者の多くは腹筋が薄かった

外科医として二十数年間に2000人以上の大腸がん手術に携わってきましたが、その時いつも思っていたことがありました。それは、「この人も、おなかの筋肉がペラペラだな」ということです。性別や年齢にかかわらず、がんで手術をする人の腹筋は筋肉も筋膜も薄く、簡単に切ることができたのです。

これは、外傷などで腹部の手術をするときに開腹する場合とは明らかに違っていました。しかしそのことに意味があると気が付いたのは最近のことです。ここ20年で疫学的調査が続々と発表され、「筋肉とがん予防との相関性」について符合したのです。

■がん予防には「筋肉量」が重要

現在、日本人の2人に1人ががんになると試算されています。そして、日本人の死因の第1位はがんです。がんによる死亡数は増加の一途をたどり、30年間で2倍に増加し、年間33万人以上ががんで亡くなっています。

部位別の罹患(りかん)数では、男性では前立腺がん、女性では乳がんが1位、男女ともに増加しているのは大腸がんです。この3つのがんはもともと日本人がなりやすいがんではなく、主に欧米人で多く認められているがんです。肉の摂取量は50年間で約10倍、脂肪は約3倍になり、野菜や果物を食べなくなってきた食生活が欧米型のがんの増加の主要因だと考えられています。

そしてここ20年の研究結果により、がんは生活習慣の改善により予防できるということがわかってきました。食事、運動、睡眠、ストレス回避といった生活習慣のなかでも「筋肉量」ががんを防ぐ免疫力アップのために重要だということがわかってきました。

■免疫細胞が機能していればがん細胞は破壊される

そもそも僕たちの体の中には毎日5000~1万個のがん細胞が出現しています。しかしそれらの細胞が増殖することはありません。未熟な細胞であるために自ら増殖がストップして細胞死する、または免疫細胞に処理されるためです。

検診で発見するためには少なくとも1cm程度の大きさになることが必要です。その大きさになるためには、10年から20年の年月を要します。免疫細胞がその能力を適切に発揮していれば、その細胞はことごとく壊され、がん細胞は増殖することはできません。がん細胞が免疫細胞の網の目をかいくぐって増殖したということは、10年から20年免疫機能が低下している状態が続いていたということになります。

筋トレをすることで得られる効果は全身の慢性炎症の改善です。筋肉は動かせば動かすほど筋肉からミオカイン(myokine)と呼ばれるサイトカイン(細胞間の伝達物質)を放出します。このミオカインには炎症を抑える物質が含まれており、筋トレを繰り返すことで全身の炎症が改善していきます。

がんは体の中に慢性炎症が持続することによって発生します。全身の炎症が起これば筋肉はどんどん退縮していきます。僕がおなかの手術をした多くのがん患者さんの筋肉が萎縮していたのは、慢性炎症の結果だったのです。

がんを予防するためには慢性炎症を改善することです。そのためにはまず、良い食習慣を形成することが重要です。しかしそれだけでは十分ではありません。筋トレをして筋肉自身から出る抗炎症物質を使って全身の炎症を改善することも併せて必要です。

■いきなりジムやジョギングでは続かない

一般に運動というと最初に思いつくのはジョギングやジムへ入会することだと思います。しかしジョギングは毎回30分以上かかりますし、その都度着替えてランニングシューズを履かなくてはいけません。ジムで運動するには往復ジムまで移動する必要があります。

ジョギング
写真=iStock.com/lzf
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lzf

ジョギングを開始しても80%以上の人は3カ月継続することができません。ジムも1年の継続率は5%以下です。長期的に継続できるようにするために、運動を始める時は、わざわざ着替える必要がなく、運動に出かけなくてもいいように自宅での筋トレからスタートすることが重要です。

今まで運動習慣がない人が身につけるためには、習慣化のための作戦が必要です。どんなに忙しくても1日のうちに必ず、できれば同じ時間にその行動を行うこと。心理的な抵抗があるうちは決して負荷を増やさないことです。

■腕立て1回から始めて筋トレを習慣付ける

まずは1日2分から、腕立て伏せ1回、スクワット運動1回でもいいから行うことが重要です。そしてその1回を毎日続けること。習慣化とは自分で意識をしなくても、その行動をとろうとする思いが浮かんでくることです。

筋トレをあまりやったことがない人にとって、筋トレをしている自分は自分ではないと脳は判断します。そのため何かにつけて筋トレをしていない自分に戻るような誘惑をかけてきます。「今日は時間がないから休んでもOK」とか「ちょっと疲れているから今日は休み」など頭の中のもう一人の自分が習慣化の一番の敵です。筋トレをしている自分を脳に納得させるには時間が必要です。そのため毎日毎日少しずつ自分の脳に筋トレする自分についてのイメージを植え付けていきます。

ノルマが2分間の筋トレの習慣は3~4カ月で習慣化します。1回の筋トレをする自分に慣れたら次は5回の筋トレをする自分に慣れていきます。この習慣化の過程を経ないで筋トレを続けても、何かやらないもっともらしい理由、今日は疲れたから、この仕事を片付けなくてはいけないから、などがあればやらないことを簡単に正当化してしまいます。

■「ちょっと物足りない」くらいがちょうどいい

習慣化されていない行動は、いったんやめてしまうと2度と再開することはありません。1年後、5年後も筋トレしている自分を作るためには、ちょっと物足らないぐらいの回数を続けることで、初めは十分なのです。

おすすめなのは朝行うこと。1日のなかで予定がもっとも狂いにくいのは朝です。出勤前や朝のルーティンの家事が終わった段階で行うことによって運動時間を確保することが容易になります。

その行動を行うための呼び水となる行動がある方が早く習慣化することがわかっています。僕の場合は朝シャワーを浴びてから髪の毛が濡れているうちに行うことが習慣になっています。歯磨きをした後とか、朝食をとる前とか、何か毎朝行う行動に紐付けて筋トレを習慣化していきます。

2分をクリアできたら次の段階は、4分から5分の筋トレです。4分の筋トレを欠かさず毎日できる意識付けには、6カ月から1年かかります。その間は筋肉がついたり、脂肪が減ったりするなど短期的な結果はすぐに見えませんが、継続していれば筋肉の代謝機能は格段に改善しています。

一人で黙々と続けるのは難しいですが、オンラインスクールなどのコミュニティに所属して一緒にトレーニングをするなど、他に楽しみを見出すこともおすすめです。

■「スキマ筋トレ」を意識する

たった2分、たった4分の筋トレで効果があるのか? と疑問に思うかも知れません。もちろん残りの23時間56分を全く運動しなければ、効果がないことは明らかです。筋肉を使えるようになるためには筋肉にも筋肉を動かすことに慣れてもらうしかありません。そのためにはいつも動かし続けることです。

15分椅子に座っていたら立ち上がってスクワットを10回するとか、駅のホームで電車を待っているときは背伸びしてふくらはぎを鍛えるとか、片足で立って体幹を鍛えるとかあいた隙間時間を利用して1日の筋トレ時間を延ばしていきます。

石黒成治『筋肉ががんを防ぐ。』(KADOKAWA)
石黒成治『筋肉ががんを防ぐ。』(KADOKAWA)

このような「スキマ筋トレ」をいくつか組み合わせて一日中どこかの筋肉に刺激を加え続けます。もちろんがん予防を意識して、胸の筋肉やお尻の筋肉、下半身を重点的に動かしていきます。

1回のスキマ筋トレは30秒から1分で十分です。そのとき重要なことは立ったまま気軽にできることです。横になったり着替えたりしなくてはできないような運動ではすぐにとりかかることができないので、まず簡単にやれる種目を選択してください。

スキマトレを加えられたら、ジムやスクールに通ったり、パーソナルトレーニングを加えて1日30分を最終目標にしましょう。僕の個人的な経験では2~3年かかると思っています。コツコツと「貯筋習慣」を続けることが大切です。

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石黒 成治(いしぐろ・せいじ)
消化器外科医 ヘルスコーチ
1973年生まれ。1997年名古屋大学医学部卒。国立がん研究センター中央病院(当時)で大腸がん外科治療のトレーニングを受け、名古屋大学医学部附属病院、愛知県がんセンター中央病院、愛知医科大学病院に勤務。現在は予防医療を目的とした健康スクールを主宰。Dr IshiguroのYouTubeチャンネルは登録者数24万人超。著書に『医師がすすめる 太らず病気にならない 毎日ルーティン』(KADOKAWA)ほかがある。

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(消化器外科医 ヘルスコーチ 石黒 成治)

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