皇室では「悠仁天皇」が既定路線である…人気投票的な「愛子天皇待望論」に強い違和感を抱くワケ
プレジデントオンライン / 2022年12月30日 10時15分
■悠仁様の帝王教育は順調に進んでいる
マスコミの世論調査では女性天皇を容認する声が過半数を占め、「愛子天皇待望論」というものが週刊誌などで見受けられる。しかし、秋篠宮殿下がショートリリーフを務められるかどうかは別として、皇室では悠仁親王が次世代の陛下というのが既定路線で、それを前提にすべては動いている。
悠仁さまの成長ぶりに不安はなく、学業も順調だし、帝王学の習得にも秋篠宮皇嗣殿下・妃殿下が熱心に取り組まれ、幼い頃から励んでおられる(『月刊Hanada2月号』に詳しく書いた)。
一方、天皇、皇后両陛下は愛子さまの教育について、将来の女帝といった特別の配慮はされていない。もちろん、悠仁さまのあとに男系が続かなかったら女性天皇や女系天皇も選択肢であろうが、候補になり得るのは悠仁さまよりあとに生まれた方である。
愛子さまも含めて現在の内親王や女王を天皇にというのは、皇族の男性がなんらかの事情で誰もおられなくなって、新しい皇室典範を制定する場合だけなので、「待望論」という形で語るのが適切とは思えない。
■悠仁さまを廃嫡するという話はどこにもない
2022年11月には元NHK記者の岩田明子氏の「安倍元総理は『愛子天皇』を認めていた」という記事が話題になった。
だが、記事の内容は、悠仁さまのご誕生前に一代限りで愛子天皇がありうると当時の安倍官房長官が漏らしていたとか、悠仁さまがお子様がないままおられなくなった状況での選択肢としての話である。悠仁さまを廃嫡してといった話ではないから、誤解されやすいタイトルを編集部がつけただけだ。
「女性宮家」(民間人と結婚した女性皇族を当主とした宮家)というかたちで皇族女性方に結婚後も皇室に残ってもらおうという提案はあったようだ。
これについても、主要政治家で悠仁さまを廃嫡して、愛子さまなどを天皇にしようと主張している人はおらず、基本的には、悠仁さまに跡継ぎがなかった場合を念頭に、女系の皇位継承も可能なようにしてはどうだということに過ぎなかった(女性宮家は基本的にはその夫や子供も皇族としようという話だったから、これが実現していたら小室圭氏も殿下になっていた)。
■皇位継承を議論するうえで重要な報告書
そして、今後の皇位継承については、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議(座長・清家篤前慶応義塾長)が、菅義偉内閣のもとで設立され、岸田内閣になってから、2021年12月22日に報告書を出している。
この会議は、小泉内閣の時に将来、皇位を継承すべき男子が不在であることを前提に設けられ、女系天皇を容認する報告を出したものの、悠仁さまの誕生で前提を失い宙に浮いた「皇室典範に関する有識者会議」(座長・吉川弘之元東京大学総長)と同じ位置づけである。
悠仁さまの誕生と順調な成長を踏まえて検討を行い、報告がなされたので、この報告が今後の国会における検討の出発点になる。そこで、この報告に何が書いてあり、それが具体的に何を意味するかをきちんと解説したい〔引用では「である調」にしたり敬語を省略するなど簡潔にした。また、より詳しい解説は拙著『家系図で分かる日本の上流階級』(ワニブックス)にある〕。
![出典=令和3年12月22日、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議「皇位継承問題と皇族数の減少問題について検討した有識者会議の報告書」より](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/c/1200wm/img_6c4726964c85ff7ff3cfeced96ccbea0153024.jpg)
■悠仁さまが男子を得られるかが分かれ道に
「有識者からのヒアリングで、皇位継承のルールについて悠仁親王殿下までは変えるべきでないとの意見がほとんど」「皇位の継承という国家の基本に関わる事柄については、制度的な安定性が極めて重要」「次世代の皇位継承者がいる中で仕組みに大きな変更を加えることには、十分慎重であるべき」「現行制度の下で歩まれてきたそれぞれの皇族方のこれまでの人生も重く受け止めるべき」と報告にはある。
そして、「次世代の皇位継承資格者として悠仁親王殿下がいることを前提に、この皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないということで一致」「悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承について具体的に議論するには現状は機が熟しておらず、かえって皇位継承を不安定化させる」「悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承については、将来において悠仁親王殿下のご年齢やご結婚等を巡る状況を踏まえた上で議論を深めていくべき」と結論づけた。
つまり、悠仁さまが男子を得られるかによって議論の前提が根本的に変わるので、めどがつくまで、20年間くらいは結論を出さないほうが良いということだ。
これは当然で、現在16歳の悠仁さまが、上皇陛下が退位されたのと同じ年齢(85歳)になられるのはなんと2092年だ。そのとき誰がふさわしいかを、現時点における人気投票的感覚で決めるのは不適切だ。
■若い皇族を確保するための3つの提案
ただ、海外訪問や皇室会議の運営など公務の担い手や潜在的な皇位継承候補の確保のためにも、今世紀の半ばと予想される悠仁さま即位の段階で、ほかに若い皇族がおられないのはよくない。
そこで、報告書では以下の3点が提唱された。
②皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること
③皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とすること
①は、佳子さま、愛子さま、場合によっては三笠宮家、高円宮家の未婚の女王さまが結婚したあと希望されるなら、皇族としてとどまることを可能にするが、結婚相手も子供も皇族にはしないということだ。これは、江戸幕府第14代将軍徳川家茂の御台所になった和宮(仁孝天皇の第8皇女)が引き続き皇族であったのに対し、その夫の家茂は皇族とされなかったことを前例としている。
「現在の内親王・女王殿下方は、天皇および皇族以外の者と婚姻したときには皇族の身分を離れる制度の下で人生を過ごされてきたことに十分留意する」というのは、佳子さまも愛子さまも、皇族としてとどまらない制度の下で育てられ、人生設計を考えておられるので、ご本人の希望があればということにとどめた。
■旧宮家にスポットが当たる可能性もある
②は、「皇族が養子を迎えることを可能とし、養子となった方が皇族となり、皇族の役割、皇室の活動を担っていただく」「皇族が男系による継承を積み重ねてきたことを踏まえると、養子となり皇族となる者も、皇統に属する男系の男子に該当する者に限ることが適切である」とした。
具体的には、常陸宮殿下、三笠宮家や高円宮家の方々が養子をとるということだ(宮家でなく皇族が養子をとる)。未婚・既婚は問わない。当事者の合意を前提にすることによって、旧皇族といわれる方々のなかで誰が該当するか優先順位をつけるという難問を避けられるメリットがある。
![皇室の構成](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/5/1200wm/img_356343e89a7c6cff700e7b5f432cddfe453717.jpg)
というのは、すべての旧宮家(終戦時点で11家)は伏見宮家とその分家なのだが、そのうちどの家が優先されるべきかは、一概には決めがたいからである。
長子系(賀陽)ほど優先すべきというだけで割り切れず、かつて嫡流と見られていたのはどこか(伏見)とか、母系で明治天皇や昭和天皇の血を引いている宮家(北白川・朝香・竹田・東久邇は明治天皇の女系子孫で、東久邇はそれに加え昭和天皇の子孫でもある)のほうが好ましいともいえる。
さらに、本人の年齢、資質、意向、家族構成も大事なので、双方の意向が一致したら養子にするということだ。
また、もし女性皇族が旧皇族の誰かと結婚するなら、男性が②の条件において皇族の養子になれば夫婦とも皇族になれるし、子供が皇位継承候補となるのにも無理がなくなる。ただ、これはたまたまそういう組み合わせが成立すれば、のことだ。
③は、いわゆる旧宮家の復活であるが、これは、②の方策では十分な数が確保できなかったときに検討すべき方策という位置づけである。
■皇位継承の潜在候補は100人程度いるべき
こうして数を確保された皇族の子孫が皇位継承権を持つかどうかについては、曖昧になっている。それは、悠仁さまとその子孫の状況を見ながら将来の世代が決めればいいからだが、もし将来、悠仁さまに男子がいなければ、悠仁さまの女子やこうして確保された数人の子孫が優先的な皇位継承候補者になるということなのだろう。
ただ、悠仁さまのあとであるから、現皇族女子本人や皇族の養子候補と想定される悠仁さまと同世代の人ではなく、その子供たちが候補である。彼らは生まれながらの皇族ないし皇族の子ということになる。
この報告書の内容は、私の従前のこれまでの主張と基本的には同じ路線であり、おおむね妥当と評価している。ただ、皇位継承者の潜在候補は、100人程度はいるべきだと思う。
私はこれまでの男系男子の原則を守るように努力することを優先すべきだと考えるが、一方で、やむを得ない場合には女系も容認されることもあると考えている。
というのは、上皇陛下の4人の孫に限定してしまうと、女系でもいいとしても何世代かのうちにすべて断絶する可能性がかなり高いし、旧宮家の子孫の男系男子についても同様だからだ。だから、どちらか一方に限定すべきでないと思うのだ。
■いまこそ皇室典範改正や具体的な人選を
その意味で、旧皇族だけでなく戦前に皇籍をはなれた「賜姓華族」や江戸時代に五摂家の養子になった「皇別摂家」の子孫も念のため視野に入れておくべきだ。
英国王室では、1066年にイングランドを征服したノルマン人のウィリアム1世が神武天皇的存在だが、そのうち18世紀のハノーヴァー公妃ゾフィーの子孫に王位継承権を与え、該当者は2000人ほどである。
日本では、たとえば、全容把握が容易な後陽成天皇(秀吉・家康時代の天皇)以降の男系男子子孫と、明治天皇の女系も含めた子孫くらいは、皇統譜別表のような形で公式化すべきだというのが私のかねての提案だ。
この報告に沿った皇室典範の改正や具体的な人選に安倍元首相が意欲を見せていたのだが〔拙著『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか 地球儀を俯瞰した世界最高の政治家』(ワニブックス)に詳しく書いた〕、安倍元首相亡きいま、ここは岸田首相が頑張るしかないのである。とくに、若い皇族の確保において重要な役割を果たすであろう佳子さまや愛子さまの結婚まで、もう時間が残されていないからだ。
----------
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)』、『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか』、『令和太閤記 寧々の戦国日記(八幡衣代と共著)』(いずれもワニブックス)『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』 (小学館新書)など。
----------
(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
【那須ご静養での苦悩】愛子さま、帰京のタイミングで苦渋のご決断「雅子さまを放置して単身で帰京されるとは考えづらい」
NEWSポストセブン / 2024年7月18日 11時15分
-
旧宮家の子孫たちが皇族になる現実味は… 77年前に離脱、復帰案に賛否渦巻く
共同通信 / 2024年7月16日 7時1分
-
佳子さまのOL姿もあとわずか?眞子さんのように“皇室から出たい”が本音も結婚には高い障壁
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年7月11日 9時26分
-
「初々しいロイヤルカップルの誕生」34回目の結婚記念日・秋篠宮ご夫妻が“望む”佳子さまの幸せ
週刊女性PRIME / 2024年6月30日 21時0分
-
国会の議論はあっという間に行き詰まった…皇位継承問題の解決をこじらせている最大の阻害要因
プレジデントオンライン / 2024年6月28日 8時15分
ランキング
-
1「家族の誰ひとり、事実がわからなかった」息子まで攻撃の対象に…“いじめ告白”記事炎上の日々、小山田圭吾の家族が体験した試練
文春オンライン / 2024年7月24日 6時10分
-
2〈華麗なる一族、親子トップ2人が辞任〉報告書で暴かれた小林製薬のヤバすぎる製造管理体制…従業員が異変を報告も品質管理担当者は「青カビはある程度は混じる」記者会見は開かず逃げ切りか?
集英社オンライン / 2024年7月23日 20時6分
-
3北里大学病院で女性切りつけか 夫を逮捕 神奈川・相模原市
日テレNEWS NNN / 2024年7月24日 0時51分
-
4SNS投資詐欺、拠点のビル一斉捜索で8人逮捕 大阪府警、スマホ1800台超を押収
産経ニュース / 2024年7月23日 21時16分
-
5部内パワハラ自殺、遺族が提訴 中央大フェンシング部、青森地裁
共同通信 / 2024年7月23日 19時16分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)