旧統一教会の回答期限は1月6日…これまで1ミリも動かなかった国は「解散請求」を出せるか
プレジデントオンライン / 2022年12月27日 11時15分
■「20万を超える解散命令請求署名」は国を動かすのか
12月22日、旧統一教会が岸田文雄首相と永岡桂子文部科学相宛に、解散命令の請求をしないように求める、約2万3000人の信者らの嘆願書を送った、と報じられました。
これにはどんな意味があるのか。詳細は後述しますが、旧統一教会がこうした動きをせずにいられなかったのは、9日、文化庁に対して、旧統一教会2世元信者・小川さゆりさんや、全国統一教会被害者家族の会の石原正志副会長らから統一教会の解散命令請求を求める申込書と、その趣旨に賛同した人たちのネット署名が提出されことがあります。署名は「Change.org」で10月17日から始まり20万筆を超えました。同サイトでの歴代4位の多さだそうです。
14日には文部科学省が解散命令請求に向けて、2度目の質問書を旧統一教会に送付しました。その回答期限は2023年1月6日。その期日が近づいてきています。はたして国は国民が注目する中、どのような判断を下すでしょうか。
毎日新聞の世論調査では、すでに8割以上の人たちが「解散請求すべき」と回答しており、先の20万筆にもなるネットはまさにその表れのひとつといえます。国は、旧統一教会に対する国民の声として重く受け止めざるをえないはずです。
しかも、旧統一教会は養子縁組あっせん問題に関する、厚生労働省からの質問の半数以上に回答拒否をしています。もし今後も同じ回答をするならば、解散命令の請求の動きが加速する可能性があります。
解散命令請求を求める署名会見に関してすでに報道されていますが、なぜ20万を超える署名が集まったのかについて報じたところはありませんでした。かつて「中の人」で10年間信者活動をしたあと、脱会後は教団事情をウオッチしてきた目線から少し解説したいと思います。
会見には、旧統一教会の2世元信者、ジャーナリスト鈴木エイトさん、豊田通信さん(日本基督教団カルト問題連絡会世話人)など9人が記者会見に臨みました。今回の署名の呼びかけ人は、個人・団体合わせて44もの数に上ります。
「今回の署名活動は、フォトジャーナリストの藤田庄一氏の発案で始まった」と、署名の取りまとめ責任者であるジャーナリスト・藤倉喜郎さんから説明がありました。
会見の始まる前、10年以上ぶりにお会いした藤田さんと少し話をする機会がありました。藤田さんはオウム事件や統一教会の問題など、カルト思想を持つ宗教団体の事情を以前から追及してきた方です。藤田さんも筆者も世に出した文章で訴えられて、裁判所で「お互いに頑張りましょう」と声を掛け合ったこともある“戦友”です。
会見場に1世元信者の姿がなかったのは残念ですが、全国統一教会被害者家族の会の石原正志副会長がいたので、安心しました。というのも、石原さんは自らも信者だった家族を救い、誰よりも元信者や信者を持つ家族の心がわかる方で、信者救出の第一線に立ってきた方だからです。
このように昔から旧統一教会の問題に携わってきた人たちが呼びかけ人になったことが、多くの人たちから賛同を得られた理由の一つと考えます。
■宗教2世たちの勇気ある声は国を動かす
会見では、旧統一教会の2世だった冠木結心さん、井田雫さん(共に活動名)らが、署名への感謝の言葉とともに「長年、深刻な金銭的被害、家族崩壊、人生破壊が放置されてきた結果が被害を生み出した」と厳しく指摘して、教団の解散に向けて「自分たちのように苦しむ被害者が出ないように、(国が)毅然(きぜん)と対応してくれることを望む」と話しました。
![菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました~宗教2世な私たち~』(文藝春秋)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/7/1200wm/img_a78974226000c8a58bf61a00a496f0e2148486.jpg)
さらに、会見では旧統一教会ではない宗教団体の2世として育った方々が声を上げました。ひとりは、自分自身も創価学会の2世として育ったという漫画家・菊池真理子さん。彼女は、これまで、旧統一教会の宗教2世6人から話を聞いて、漫画にしています。
「このような人権侵害をしているところを、善を教えるような(宗教)団体にしているのは、おかしいと思う。多くの(創価)学会員も統一教会の解散を見続けています」
そして、元エホバの証人の2世で、詩人でもあるiidabii(イーダビー)さんもこう発言しました。
「統一教会2世の過酷な体験、苦しみや絶望や怒りを聞くたびに、胸が苦しくなりました。自分も同じ宗教2世として呼びかけ人に加えさせていただきました。自分に関係ないといえば、スルーすることもできます。これが日本人の99%の人だと思います。でも、傍観者であることをやめてくれた人たちがいます。それが今回の署名をしてくれた20万人です」
旧統一教会とは異なる別な立ち位置から発する彼らの言葉は非常に重いものがあります。これまで弁護士たちが国(文化庁)にいくら訴えても、1ミリも動かせなかった解散命令請求という岩が、今、小川さゆりさんをはじめとする、多くの宗教2世の声もあり、動き始めようとしています。
国を動かす力を持つ署名を集めることに成功した背景には、カルト問題を長年取り上げてきたジャーナリスト藤倉喜郎さん、鈴木エイトさんの力は非常に大きいと感じています。
会見後に、藤倉さんは筆者にこう話しました。
「以前から1世信者の救出など、統一教会の問題に向き合ってきた人たちと、被害を受けて新たに声を上げてくれた2世たちの融合を心がけました」
この言葉こそ、今回の会見の肝です。宗教2世と、1世信者の救いに昔から関わってくれた方々の力がリンクしたからこそ、それに共鳴し20万もの署名が集まったのです。
■嘆願のテンプレが本部から信者へ周知された可能性
一方、旧統一教会は崖っぷちの状況で反撃に出たとみています。
岸田首相と文部科学相に宛てた信者らの解散命令しないでほしいという嘆願書は約2万3000人分とのことです。決して少なくありませんが、これまでの教団の組織的な動きからみて、これら嘆願者の多くは、上からの指示で書かされた可能性が極めて高く、おそらく、その内容も「信教の自由を守れ」など、お決まりの文面であったに違いありません。これまでの動きからみて、教団の意向に沿う文章となるように、嘆願内容のテンプレなどが本部や教会から信者へ周知されているはずです。
それに対して、20万超筆の解散命令の請求を求める署名は、個々人が自主的に、そして能動的に書いたものです。10倍近い数の違い以上に、今回の教団による被害報道を受けて、心から解散をしてほしいという、当事者ではない一般の方の思いが詰まっていて重みは明らかに違います。
会見のなかで、鈴木エイトさんは言いました。
「20年間、統一教会の被害者の問題に携わってきました。この団体は宗教法人法において、宗教団体ではありますけれども、実体はカルト団体です。ここまで多くの社会問題を引き起こしてきたところを宗教法人として、優遇されている問題をずっとおかしいと思っていました」
政治と旧統一教会の問題を取り上げ続けてくるなか、世の中の人たちや、多くのマスコミがそれに目を向けてこなかった状況に忸怩たる思いを抱いてきた彼はこう続けました。
![多田文明『信じる者は、ダマされる。』(清談社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/b/1200wm/img_ab9267bbdebf765a397c72eda97a0265284409.jpg)
「報道に関わる人や研究者、宗教社会学者、宗教学者や関係者の方がいます。本来なら、その一線を超えて、解散請求の呼びかけに加わったのは、それだけ、その職分の立場を超えても解散請求をすべきだという強い思いがあるからです。実際に解散するのは、数年かかると思いますが、その後も報道してほしい」
文化庁からの宗教法人の解散命令の請求は、最初の一歩に過ぎません。その後は法廷の場に移されて、宗教法人を解散するか、否かの司法判断が下されることになります。双方の主張を聞く必要もあり、その期間は年単位の長きにわたるでしょう。
安倍元首相が暗殺されて以降、旧統一教会への批判が広がっているにもかかわらず、教団は教団に反対する者を「サタン」とみなして心身を壊すような攻撃は今も続いています。高額献金や宗教2世への人権侵害の被害も続いています。
その状況を変えるためにも、一刻もはやく解散命令の請求という一歩が必要です。
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ルポライター
1965年生まれ。北海道旭川生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『マンガ ついていったらこうなった』(いずれもイースト・プレス)などがある。
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(ルポライター 多田 文明)
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