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ついに国の予算がついた…藻類バイオマスエネルギーで日本が本当に産油国になる日

プレジデントオンライン / 2023年1月2日 9時15分

図表提供=渡邉信氏

藻類バイオマスエネルギー研究を続ける(一社)藻類産業創成コンソーシアム理事長で筑波大学共同研究フェローの渡邉信(わたなべ・まこと)さんのプロジェクトに国の予算がついた。10年ほど前、「日本を産油国にする」と言って顰蹙を買った渡邉さん。しかし、時代はその発言を追うかのように、新エネルギーに向かって大きく舵を切り出した――。

■下水を使った藻を繁殖させ原油をつくる

筑波大学教授時代から渡邉信さんが研究を進める藻類バイオマスエネルギーは、下水処理場を使って藻を繁殖させ、濃縮し、原油化するという画期的なプロジェクトだ。下水処理では、有機物や窒素、リンを取り除くために膨大なエネルギーを必要とする。

その一連の処理を藻が行い、その藻を使って原油を生むというのが渡邉さんのめざす着地点だ。日本全国の下水処理場がその舞台である。

プロジェクトは、苦しみをともないながらも着々と進んでいる。

前回のインタビュー(プレジデントオンライン 2022年3月25日)から最も大きく進んだのは、国から研究が評価され、予算がついたことだ。具体的に言えば、国土交通省水管理・国土保全局から年3000万円の予算が2年にわたって下りることになったのだ。

渡邉さんが現在の進捗(しんちょく)状況をこう言う。

「私たちの研究はいま、実証段階へと移行しつつあります。国交省から2年間にわたって予算がつくことになったのは、下水関係者と勉強会を開いたりしながら、理解を深めてきたことも大きかったと思います。これは私たちにとって、大きな進展でした。下水処理が公共事業である以上、国の理解と支援が欠かせなかったからです。とにかく行政が目を向けてくれたことが重要です。私は、彼らを失望させたくない。いまは成果を上げていくことだけに日々傾注しています」

プロジェクトは、まず大学での基礎研究、次にそれを基に企業等法人が中心となって技術開発をする応用研究、そして、それらの研究が評価され、ようやく実証研究へと進んでいく。

実証研究では、大がかりなパイロットプラントを造り、下水処理施設を実際に使うことになる。このレベルまでくると、大学や企業ではなく、県レベルの行政の管轄となる。現在、渡邉さんのプロジェクトは、この実証段階の手前の応用研究まできている。

「この12月に、現在の研究開発進捗状況や課題についての中間報告をおこない、有識者会議から評価を受け、3月の年次評価で継続を認められれば、次年度は20倍の規模で、今年度得られた培養・濃縮・バイオ原油変換の最適条件などを検証していく、ということになるわけです。

【図表】9月はスタート期なので 薄い状態からの移行期(A)を入れると日平均生産量は0.13-0.199g/L。安定期(B)では日平均生産収穫は0.23-0.3g/Lと高い生産量であった(上の図)。10月の日平均生産量は0.2-0.3g/Lとなった(下の図)。
図表提供=渡邉信氏
9月はスタート期なので 薄い状態からの移行期(A)を入れると日平均生産量は0.13-0.199g/L。安定期(B)では日平均生産収穫は0.23-0.3g/Lと高い生産量であった(上の図)。10月の日平均生産量は0.2-0.3g/Lとなった(下の図)。 - 図表提供=渡邉信氏

具体的には、たとえば、藻類の収穫量を安定的に確保するという課題があります。いま目標値としているのは、水深1mの100Lタンクで1日リッター当たり0.1から0.2グラムの生産収穫で、この9月の段階では、小貝川東部浄化センターで0.199という値を出すことに成功しています。

一番低くても0.13グラムでした。10月~11月はさらにこれを上回る数字で、リッター当たり0.2から0.3グラムという目標値のマキシマムを超える数値を出しています。

これを維持していきたい。そして、その増殖した藻類を収穫し、高温高圧(350℃ 200気圧)によって有機物を油化する『水熱液化』という技術を使って、原油に変換するわけです」

■年間150億立方メートルの下水で原油を生産できる

現在は、いくつかの条件を設定しながら、100Lタンクを使って、どういう条件で藻を培養するのが効率的なのか、最適な条件を見つけようとしている段階。もちろん、自然のまま藻が出てくるのが一番強いわけだが、必要とする藻類の生産量を上げられるかがポイントとなってくる。

茨城県の小貝川東部浄水センターにおいて、水深1mの100Lタンクで培養実験を続ける。いかに安定的に生産量を上げるかがポイントになる。
写真提供=渡邉信氏
茨城県の小貝川東部浄水センターにおいて、水深1mの100Lタンクで培養実験を続ける。いかに安定的に生産量を上げるかがポイントになる。 - 写真提供=渡邉信氏

「11月から寒い時期により増えるタイプの藻類を入れたりしながら調整していきます。基本的に生産するのは野外ですから、環境の振れ幅にも耐性を持っている種がいいわけですが、暑いときに増える藻類は寒いときには増えない。暑いときに増えるもの、寒いときに増えるもの、それらが上手にかみ合ってくれれば安定した生産につながるわけです」

現在、日本全国の下水処理量は年間約150億立方メートル。それをすべて使えば、原油の生産量はこれだけになるということは計算上は示せるが、下水関係の行政官からは、そのうち実際に使えるのは何割かといった具体的なデータが常に求められている。

「たとえば、太平洋側と日本海側では、冬場の日照時間が違うでしょう。光合成はどうなんですか、と尋ねられる。そこにもまた新たな技術が必要になってくるわけですし、季節によって変わっていく藻の実態をつかむことは大きな課題でした。ただ、この1年で、1日の平均的な収穫量はなんとか見えてきたので、その地域の気象、環境に適応している土着藻類集団を活用していくことで、クリアできる可能性は高くなっています」

もっとも、そうやってさまざまな問題を技術で解決できても、コストの問題は常につきまとう。たとえば、精製コストの問題なども明確にしていかなければならないわけだが、「実際には石油と比べても大きくは変わらない」と渡邉さんは見ている。

「これからの2年間でまずそれなりの成果を出して、次のステップ、大規模なパイロットプラントでの実証研究までもっていく。いまのプランとしては、下水処理場内に直径50メートル、深さ1.4メートルぐらいのタンクを設置して実際に下水を利用して藻を生産する。

そして、国交省が下水道法を改正し、国の認可の下で藻類による下水処理と原油生産を全国の下水処理場でできるようにする。そこまでが2030年までにできれば、理想です。あと8年しかないので時間はないわけですが」

■太陽光、水素では飛行機を飛ばすには役不足

渡邉さんは、藻類バイオ原油の優位性、重要性をこう説く。

「他の再生可能エネルギーももちろん重要です。しかし、たとえば、飛行機を飛ばすにあたっては、太陽光、水素などの電気エネルギーは現実的ではない。なぜならば、オイルほど高いエネルギー密度を持っている資源はないわけです。これをなぜ使わないのか、ということなのです。

藻類産業創成コンソーシアム理事長、筑波大学共同研究フェローの渡邉信さん。
撮影=プレジデントオンライン編集部
藻類産業創成コンソーシアム理事長、筑波大学共同研究フェローの渡邉信さん。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

たしかに電気自動車は走らせるにあたっては、CO2は排出しません。けれども、その電気の資源は化石燃料であり、原子力であり、さらには送電で運ばれたものです。そういう意味でも、全国各地の下水資源を使い、CO2を吸収しつつ原油を生む藻類エネルギーの意義は計り知れないと思っています」

渡邉さんはエネルギー資源の限られた日本で藻類バイオマスが果たす役割の大きさを確信している。

「私たちの最終ゴールは、やはり、日本で原油をつくるということです。日本国内で原油を生産することがいかに大事であるかは、いままさにエネルギー問題に直面していることからもわかるように、国防上でも、生活していく上でも、きわめて重要だと考えています。現在の目標値からいけば、この藻類エネルギーの開発によって、日本が輸入している原油のかなりの部分をまかなえる可能性は高いとみています」

藻類バイオマスエネルギーの研究に本格的に取り組んで18年。74歳の研究者は、藻類の原油化という崇高な目標に向かってひた走る。

「解決すべき問題は多く、つらいことはつらいんですけど、実現に向けてひとつまたひとつと着実に進んでいることがいまはたまらなく幸せです」

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一志 治夫(いっし・はるお)
ノンフィクション作家
1956年長野県松本市生まれ。東京都三鷹市育ち。講談社「現代」記者などを経て、ノンフィクション作家に。『狂気の左サイドバック』で第1回小学館ノンフィクション大賞受賞(新潮文庫収録)。主な著書に、『失われゆく鮨をもとめて』(新潮社)、『たったひとりのワールドカップ 三浦知良1700の闘い』(幻冬舎文庫)、『魂の森を行け 3000万本の木を植えた男』(新潮文庫)、『幸福な食堂車 九州新幹線のデザイナー水戸岡鋭治の「気」と「志」』『美酒復権 秋田の若手蔵元集団「NEXT5」の挑戦』(ともにプレジデント社)など多数。

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(ノンフィクション作家 一志 治夫)

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