私を嫌う人を、いつの間にか味方にしてしまう…「ベンジャミン・フランクリン効果」の効果絶大な使い方
プレジデントオンライン / 2023年1月5日 9時15分
※本稿は、犬塚壮志『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』(サンクチュアリ出版)の一部を再編集したものです。
■明らかに私を嫌っている人、どうすればいい?
あなたは職場の対人関係で、「自分はあの人に嫌われているんじゃないか?」と悩んだことはないですか?
例えば、異動してきたばかりの上司となんだかソリが合わず、「自分は○○部長に疎まれているんじゃないかなぁ……」、初対面のときに失敗して部署の先輩とギクシャクしているなど。
明らかに嫌われていると感じていても、同じ職場の人であれば毎日のように顔を合わせなければなりません。それは強いストレスになり、仕事に影響を及ぼします。
上司や先輩が自分以外のメンバーには笑顔で接しているのに、自分が話しかけると、素っ気ない態度であしらってきたら、その集団にいるのが嫌になってしまうでしょう。
じつは正直に打ち明けると、私自身かつては組織内での対人関係づくりがとても苦手で、上司とぶつかり、精神を病みかけたことがあります。
■新卒3カ月で退職、転職しても足の引っ張り合い…
私は新卒で学校教員になりました。ところが、科目主任である上司と合わず、たったの3カ月で退職。苦い思い出になっています。当時はとにかくその上司と合わず、勤務時間外で自宅にいるときも電話がかかってきて、業務内容のことで詰められていました。次第に学校に出勤するのを苦痛に感じ、家を出る直前は自宅のトイレで嘔吐(おうと)することも。結局3カ月でその高校を退職することになりました。
その後は、組織のしがらみがあまりなさそうな予備校講師という仕事を選択。ところが、そこでも人間関係は一筋縄ではいきませんでした。より多くの生徒からの支持を集めることが評価と報酬に直結する予備校講師という仕事の性質上、特に同じ科目の講師同士は互いがライバル関係です。
新人だった私は、先輩講師たちが足の引っ張り合いをしているのを何度も目の当たりにしました。また、一般の会社と同じく派閥や社内政治の駆け引きもあり、みんながみんな仲がいいわけでも、組織のしがらみのない職場でもありませんでした。
このように職場の人間関係には、身を置いてみないとわからない緊張感があります。もし、その輪の中で上司や先輩から敵対視されたり、お互いの足を引っ張り合うような職場環境に身を置いてしまったりした場合は、どう対処すればいいのでしょうか?
■嫌われているなら、あえてお願いごとをしてみる
そのまま敵対関係、緊張関係を続けるのも一つの手ですが、なるべく敵はつくらず、嫌われるのを避けたいというのが多くの人の本音のはずです。
私は自身の経験も踏まえ、大学院で心理的な側面から交渉学を学び、こうした人間関係の悩みを解決する最良な方法を見出しました。
その方法とは、嫌ってきたり、敵視したりしてきている相手にあえてお願いごとをするというアクションです。
「そんな人にお願いごとなんて聞いてもらえないよ!」と心配になるかもしれませんが、安心してください。頼りにされて嫌な気持ちになる人はいません。なぜなら、人は誰かに頼りにされることで、他者から認められたいという「承認欲求」が満たされるからです。
承認欲求は、人間の本能に直結したとても強い欲求なので、人はそれを満たしてくれる相手を重要視します。その結果、お願いごとをくり返すうち次第にこちらに対して好意や親近感を感じはじめ、いつの間にか相手を味方に引き込むことができるのです。
■「頼まれたらすぐにできる」くらいがコツ
ポイントは丁寧にお願いすること。相手を尊重し、お願いすることです。私も予備校講師時代、自分を疎んじていると聞いていた上司に「もっと売れたいと思っているのですが、ご迷惑でなければ○○さんが今のポジションまでいくまでに工夫したことや苦労したことを教えてもらえませんか?」と頼ってみたところ、効果てきめんでした。それをきっかけにその人とは1対1でゴハンに行く仲になり、私が会社を退職した今でもその人との関係性は続いています。
自分を敵視しているであろう上司にするお願いごとは、「お薦めのパソコンを教えてほしい」「苦労話を聞かせてほしい」など、些細なことで十分。頼まれてすぐにできるから関係改善のきっかけになるのです。逆にヘビーなお願いごとは、相手からよりいっそう嫌われてしまう可能性があるので注意しましょう。このように、自分を敵視する人にあえてお願いごとや頼みごとをすることで、友好関係を築けるようになることを「ベンジャミン・フランクリン効果」といいます。
これはアメリカの政治家ベンジャミン・フランクリンのエピソードに由来しています。彼を目の敵にする人物があるジャンルの本のコレクターと知り、ベンジャミン・フランクリンはコレクションを貸してくれるように依頼。相手は喜んで応じ、以後、友好関係を深めていったのです。
■相手に矛盾を抱かせ、モヤモヤさせる
でも、なぜ嫌っている相手を次第に受け入れ、親しく思うのでしょうか。
この心の動きは「認知的不協和理論」という心理作用で説明がつきます。認知的不協和とは、「人間が自己の決定に対して不安を感じ、自己維持のために自己正当化行動を生起させること」(Festinger,1957)。なんだか難しい言い回しですが、ざっくりいうと、こうなります。
↓
・その矛盾に気づくと、モヤモヤして落ち着かなくなる
↓
・落ち着かない状態はイヤ
↓
・そこで、モヤモヤ感を解消するため、自分の考えを強引に歪めたり、本心とは異なった行動をとってしまったりすることがある
つまり、「お願いごとを聞き入れているオレがコイツのことを嫌いなのはおかしい」「本当はいいヤツなのかもしれない」と認知的不協和の解消が生じ、嫌悪感や敵対心が消えていくようになるのです。
![オフィスでミーティングをする4人のビジネスパーソン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/6/1200wm/img_4667baa2e3188e55e2c451b652d5bfa3178887.jpg)
■相手側のボスを攻略するとき、だれから攻める?
さて、ここからは一種の応用問題です。
あなたが社内の派閥争いや、取引先を巡るライバル企業との戦いを攻略しなければならないとします。相手側のボスを落とすべく外堀から攻めていく場合、あなたなら、ベンジャミン・フランクリン効果を狙ってどのあたりからアプローチするでしょうか?
実は、組織内の対人関係では誰をどの順番で味方に引き込むかが非常に重要なポイントになってきます。
たとえば、図表1のように敵対関係が可視化されたとしたら、あなたはA~Cのどの人からアプローチしますか?
![【図表1】敵対するボスを攻略するとき、あなたはどの人から攻める?](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/0/1200wm/img_a0ae8655fc26969ebcef9869d930fdcb79802.jpg)
正解は敵陣のボスに最も近い「側近のA氏」です。これは多数派をつくっていくために、誰から落としていくかで結果が変わってくるという考え方で(Sebenius,2017)、中国の戦国時代の外交戦略にも使われていました。自分との距離が遠ければ遠く、かつ、敵陣のボスとの距離が近ければ近いほど、引き込むのに時間がかかるものの、成功したときの効果が絶大だからです。
最後、相手がベンジャミン・フランクリン効果であなたをうまく利用しようとしてきたときの防衛方法をお伝えします。
■ハードルの高い要求をして自分の身を守る
その防衛方法とは、相手に重めの交換条件を出すこと。
たとえば、相手が「この資料がどこにあるか教えてほしいんだけど」と頼みごとをしてきたら、「実は私も聞きたいことがあるんです。今後の社内の人事評価って、どのように変わっていくんですかね?」と返します。
![犬塚壮志『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』(サンクチュアリ出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/5/1200wm/img_b5a34aee4b3a404dfa9d9d63034bc4dc89234.jpg)
相手の頼みごとよりも秘匿性が高く、かつ相手が自分からはあまり話さないような質問をぶつけましょう。
すると、相手の心には「自分から頼みごとをした以上、何かを返さねばならない」という「返報性の原理」と呼ばれる心理作用が働きます。相手はあなたに自分の大事な情報を教えなくてはならないという気持ちになりますが、立場上言えない、守秘義務があるなど、教えたくない感情、教えられない事情も無視できません。
結果、相手は認知的不協和の状態に陥り、その解消のために少しずつあなたから距離をとるようになるでしょう。
自分を敵視する人にあえてお願いごとや頼みごとをすることで友好関係を築けるようになる「ベンジャミン・フランクリン効果」をぜひ試してみてください。そして、相手からベンジャミン・フランクリン効果を仕掛けられたときは、頼まれた以上のお願いごとをし返すことで、防ぐようにしてください。
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教育コンテンツプロデューサー/士教育代表
福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。大学在学中から受験指導に従事し、駿台予備学校の採用試験に25歳の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備学校時代に開発した講座は、超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる。2017年、駿台予備学校を退職。独立後は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成・営業代行をワンオペで請け負う「士教育」を経営する。著書に『あてはめるだけで“すぐ”伝わる 説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)、『理系読書 読書効率を最大化する超合理化サイクル』(ダイヤモンド社)がある。
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(教育コンテンツプロデューサー/士教育代表 犬塚 壮志)
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