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「公式にはコロナ死者はゼロ」なのに火葬場は10日待ち…習近平のウソに翻弄される中国の悲劇

プレジデントオンライン / 2022年12月29日 15時15分

サウジアラビアのサルマン国王と会談し、包括的戦略パートナーシップ協定に署名をした中国の習近平国家主席。(=2022年12月8日、サウジアラビア・リヤド) - 写真=AFP/時事通信フォト

■感染爆発を認めない習近平政権の限界

中国政府の突然の方向転換に、中国国内では混乱が広がっている。

中国政府は12月7日、過去約3年間にわたり強行してきたゼロコロナ政策について、突然の緩和を発表した。これまでロックダウン(都市封鎖)などが強制されてきた中国本土では、食料の入手が難しく職を失う人々も続出するなど、暮らしぶりは目に見えて困窮していた。

今年秋からは各地でデモが相次ぎ、言論統制の行き届く同国としては異例の事態に発展。これに押し切られる形で習近平政権は、急激な方針転換に踏み切った。

しかし、長期間ゼロコロナを採用してきた国内では自然免疫の獲得率が低く、さらに国内産ワクチンの有効率にも限界がある。ゼロコロナ解除にあたっては入念な準備が求められるところ、有効な感染対策がほとんど示されていないのが現状だ。

不思議なことに中国政府の公式データによると、コロナによる死者数は大きく増加していない。12月7日に大幅緩和を発表して以降、18日まではゼロ。19日に2人、20日に5人が死亡したと発表があっただけだ。

中国の新型コロナウイルスによる死亡者数の推移
画像=「Our World in Data」より

だが、中国国外のメディアは、医療崩壊や10日待ちとなった火葬場など、限界を迎えた市民生活の姿をありのままに報じている。

■20日間で推計2億5000万人の感染爆発

英フィナンシャル・タイムズ紙は、わずか20日間で中国人口の18%が新たにコロナに感染したとの推計を報じている。

情報元は複数の政府筋となっており、中国疾病予防対策センター副所長が21日、保健報告会にてこの数字を報告したという。報告は12月1日から20日までの20日間で2億5000万人が感染したと推定する内容で、これは人口の18%に相当する。

記事によると副所長はまた、国内の感染者数が依然として上昇傾向にあると指摘している。特に北京と四川では、これまでに人口の半数以上が新型コロナウイルスに感染していると推定されているようだ。

一方で中国は国家として、正式に感染増を認めてない。

国家衛生健康委員会が発表する公式データによると、12月1日から16日まででわずか4103人の感染者しか発生していないという。公式発表と政府内部で把握している数字のあいだに、大きな乖離(かいり)が生じている状態だ。

ロックダウン中の中国・上海で新型コロナのPCR検査をする人たち
写真=iStock.com/Nico de Rouge
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nico de Rouge

■火葬場に長蛇の列、黄色い遺体袋は山積みに…

まるで感染爆発など存在しないかのような政府発表をよそに、現地入りした海外メディアは切迫した状況を目撃している。

米CNNの記者が現地を訪れたところ、火葬場は駐車場にすら入れない車の入場待ちで長蛇の列となり、黄色い遺体袋が保管場所に山積みになっていたという。ある人物はCNNに対し、友人の遺体が病院の床に放置されたままだったと証言している。

CNNは、「中国国営TVはパンデミック中のかなりの期間にわたり、患者で溢(あふ)れかえるアメリカの病院や混雑した火葬場の光景を幾度も取り上げてきた。100万人を超えるアメリカでの死は、西側民主主義の全般的な失敗として描かれてきた」と指摘する。

ところがいまや、状況は完全に逆転した。「前例のない感染の波」が中国を襲っているなか、国営メディアは患者でごった返す病院や人々が押しかける火葬場の情景を報じず、「故意に無視」していると同局は述べている。

米FOXニュースも同様に、火葬場が物語る大量のコロナ死を報じている。北京でも遺体の処理能力をオーバーしており、ある住民は「10日ほど待つように言われました」と語ったという。

■米メディア「中国の医療インフラは完全崩壊」

医療システムも限界が近い。FOXニュースは、「中国で進行中のコロナ急増は、同国の医療インフラを完全に崩壊させた」と指摘する。

特に状況が深刻な東北部河北省では、各病院が集中治療室(ICU)の定員を超えて患者を収容しているという。病棟外のベンチや床などに患者を横たえ、治療を行っているケースも存在する模様だ。記事に添えられた写真では、病棟外の床に担架が直接置かれ、患者が手当てを受けている様子を確認できる。

医療機関では治療に必要な資材の供給が追いつかず、医療関係者が苛(いら)立ちを露(あら)わにする場面も出ているようだ。AP通信によると河北省タク州市の病院では、次々と到着する救急車を病院職員が語気を強めながら断った。

「ここの廊下には酸素も電気もないんだ!」「酸素も投与できないのに、われわれにどうやって助けろと言うんだ?」「手遅れになりたくなければ、回れ右してさっさと出て行け!」

本来は病院側としても可能な限り患者を治療したいはずだが、無謀なゼロコロナの撤廃に振り回される現場は苦悩を募らせている。

呼吸困難になった妻を1時間かけて同病院に担ぎ込んだ男性も、同様に治療を断られた。男性はAP通信に対し、「憤りを感じます」と語っている。「長時間かけてやってきましたし、妻は呼吸が難しくなっているので心配です」

入院のみならず、外来の患者にも困難が生じているようだ。ロイターは急な政策転換により、病院の負荷が高まっていると報じている。記事は「在庫が減少している風邪薬や痛み止めなどの薬を手に入れるため、患者たちは医師と口論を繰り広げている」状態だと指摘している。

イェール大学公衆衛生大学院のXi Chen准教授は米CNBCに対し、「今後2週間以内に中国は、医療制度に対するかつてない負荷に直面するはずです」との見通しを示している。

ロックダウン中の中国・上海の看護師
写真=iStock.com/Graeme Kennedy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Graeme Kennedy

■風邪薬や解熱剤が品薄になる異常事態に

こうした水面下での感染増は、ゼロコロナの廃止直後からすでに懸念されていた。

CNNは廃止から5日後の12月12日、「首都を揺るがす大流行の兆し」が見られると報じている。北京では陽性者からの問い合わせの電話が殺到しており、その数は平常時の6倍に当たる1日3万件以上にも達していたという。

新規感染者数は11月末、1日あたり4万人を超えていた。そのさなかのゼロコロナ解除が、医療機関への過大な負担を招く結果となった。CNNは12月11日時点の感染者数が1万人前後に低減したと報じつつも、実際の感染者数は公式発表よりもはるかに大きいおそれもあると指摘している。

中国政府はすでに、コロナ検査を必要とする要件を緩和している。検査数自体が減少しており、実際の動向を把握することはもはや不可能に近い。

信頼できる指標ではなくなった感染者数に代わり、現在では医薬関連品の異常なまでの売り上げが、有症状者の劇的な増加を物語っている。

CNBCは、医薬品通販の香港JDヘルス社のデータを報じている。それによると風邪薬や解熱剤などの12月上旬の売上高は、わずか2カ月前の10月と比較して、約18倍にまで膨れ上がっているという。

品薄への不安が買い占めを招いている可能性もあるが、それを加味しても異様な伸び率と言えよう。

■ゼロコロナ解除は最悪のタイミング

およそ3年間続いた中国のゼロコロナ政策は、最悪のタイミングで解除された。11月に発生した1日4万人感染の直後であり、かつ旧正月の直前の月だ。

1月22日から始まる旧正月では、中国各地で旅行者の急増が見込まれる。高齢者のブースター接種率が4割にとどまるとされるなか、都市部に住む無症状の若者が帰省の際に感染を広げるシナリオも懸念される。

現状でもすでに、急な針路変更に医療関係者らは動揺し、市民は薬も手に入らないなど新たな苦難に直面している。これまではロックダウンによる食糧難や失職、そして長期軟禁によるメンタルの異状が発生していた。ゼロコロナ解除は朗報とも思われたが、急な実施により新たな混乱を生じている状況だ。

医療体制の整備とワクチン接種の普及を待ち、段階的な解除を実行すれば、軟着陸が可能だったことは明らかだ。にもかかわらず拙速な解除に踏み切った現状には、習近平政権の強い焦りが感じられる。

10月13日には北京の大通りで単身、「奴隷でなく市民でありたい」の横断幕を掲げた男が出現。これに感化された国民は過去2カ月間、ビラ配りから暴動まで、異例のペースでデモを展開してきた。

習近平政権は各地で発生する前例のないデモに動揺し、拙速な政策転換に踏み切った可能性があるだろう。だが、逼迫(ひっぱく)し始めた医療を鑑みれば、この判断が誤っていたことは明らかだ。

■人々の不満をかわしたはずが…習近平の大誤算

英テレグラフ紙は、複数の予測モデルによるデータを報じている。それによると、突然のゼロコロナ解除の結果として、中国全土で最大100万人の死者を出すおそれがあるという。感染者数は最大2億8000万人に上る見込みとなっている。

中国政府はこれまで海外産mRNAワクチンを拒絶し、7種の国内産ワクチンに固執してきた。記録の改竄(かいざん)などの不祥事から中国ワクチンに対する国民の不信は根強く、特に高齢者層では接種率が伸び悩む。長らく固持してきたゼロコロナ政策により、自然に免疫を獲得した人々がごく限られるのも痛手だ。

旧正月を皮切りに、圧倒的なペースでの感染拡大が予測される。急な政策転換で民衆の不満をいったんはかわした習近平政権だが、今後1カ月ほどでさらに厳しい事態を迎える公算が高そうだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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