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交際期間ゼロで妊娠した母親がハマったカルト宗教…血を吸う蚊の殺生を禁じる教えを守らされた娘の暗黒半生

プレジデントオンライン / 2023年1月7日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AHMET YARALI

現在30代の女性の両親は“ワンナイトのできちゃった結婚”をしたが、すぐ不仲に。父親は経営する居酒屋店で寝泊まりして家に帰らない一方、母親は女性が幼い頃からカルト宗教に入信し、育児は半ばほったらかしで日夜、修行。「教団と縁を切るため」と嘘をついて親族からお金を借り、そのまま教団に寄付する。女性は教団施設に連れていかれることも多く、蚊も殺してはいけないという教えにも従わされた――。(前編/全2回)
ある家庭では、ひきこもりの子供を「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーは生まれるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破るすべを模索したい。

今回は、幼い頃からカルト宗教に入信した母親に振り回され続けた現在40代の女性の事例を紹介する。彼女の家庭のタブーはいつ、どのように生じたのだろうか。タブーのはびこる家庭という密室から、彼女はどのように逃れたのだろうか――。

■ワンナイトのできちゃった結婚

関西地方在住の時任和美さん(仮名・30代・既婚)は、居酒屋を営む父親と、なかなか定職に就かず転々としていた母親の元に生まれた。両親は、当時40歳の父親の店に、30歳の母親が客として来たことで出会い、交際期間ゼロで妊娠。いわゆる“ワンナイトのできちゃった結婚”だった。

行きずりの恋は長続きせず、時任さんが生まれたとき、すでに両親の仲は冷え切っていた。2歳下に妹が生まれると、父親は自宅に寄り付かなくなり、自分の店に寝泊まりするように。帰宅するのは、母親が仕事などで不在な時くらいだった。

そして時任さんが3歳になった頃、知人の紹介で、母親はある宗教に入信。後に時任さんは母方の祖母から、「あんたのお父さんは自分の店が大好きで、育児中のお母さんを放ったらかしにしたから、孤独感に苛まれてお母さんは宗教に走ったんだよ」と聞かされた。

実は時任さんの父方の祖母も若い頃に別の宗教にハマり、その後、宗教に染まっていく妻との生活が嫌になった父方の祖父は、妻や子供を置いて行方不明に。そんな家庭で育った父親は、宗教に嫌悪感を持っていたため、母親の勧誘にはなびかないどころか、ますます自宅に寄り付かなくなった。

■宗教にのめり込んでいく母親

母親が入信すると、3歳の時任さんと妹は少しずつ教団施設に通うことが増えていった。

「子供の頃の教団の印象は、“ひたすら怖い場所”でした。入ったらダメな部屋も触ってはいけない物もいっぱい。座る時に足やお尻を向けてはいけない場所や、一定の階級の人しか触ってはいけないものなど、教団独特のルールもたくさんあります。『入っちゃだめ!』『触っちゃだめ!』と知らない人から怒られることが恐怖でした」

教団施設は繁華街にある古いビルの一角。時任さんと同じ年頃の子供も何人かいたが、入信してもすぐに辞める人も多く、子供同士名前を覚える前に来なくなってしまうことも少なくない。

また、教団内には「子供と親が離れられないのは悪いことだ」という考え方があり、意図的に引き離されることも多く、引き離された小さい子はみんな泣いていた。それでも、「子供は親と引き離すと初めは泣くが、その後、放っておくと諦めて大人しくなる」という考え方があったため、母親だけでなく、他の大人からも放置されていた。

3歳と1歳の時任さん姉妹は、母親と離されることがとても怖く、姉である時任さんは、幼い妹が寂しくて泣いているのを見るのも悲しかった。

ある日、時任さんは、当時教団内で時任さんたちをよく怒っていた女性の出家者から、「この前お母さんと離れられなくてずっと泣いている女の子がいたから、あそこの部屋に1時間閉じ込めたら静かになった」と聞かされた。

「『自分も閉じ込められたらどうしよう』という恐怖がありました。のちに、閉じ込められた女の子は妹だったことが判明したのですが、大人になってから母に、『あんたは甘えすぎていたから、真っ暗な部屋に閉じ込められたことがあった』と言われたことで思い出したそうです」

暗い寝室、ベッドに人はいない
写真=iStock.com/onsuda
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/onsuda

教団内では、大人も泣いていた。そんな大人に対し、「応援してあげて!」と時任さんは言われ、その人の周りで「がんばれ!」と声をかけさせられることもあった。

「母も修行中によく泣いていました。その時も『お母さん頑張って! って応援してあげて!』と言われ、応援した記憶があります。子供にとって自分より強い存在であるはずの母が泣いているのはとても怖いことで、いまだに母の泣く姿を覚えています」

時任さんは正直、教団なんかに行きたくなかったが、父親が家に寄り付かず、全く育児に参加しない状態では、母親について教団に行く選択肢しかなかったのだ。

時任さんが幼稚園に入ると、平日の日中は幼稚園、土日と平日の夜はたまに教団、という生活になっていった。夜に教団施設に行くようになってからは、昼近くに起床する夜型生活に。休日に家族で遊びに出かけることはなかった。

■夜遅くまでビラ配り

無償で行う教団へのボランティア活動は、教団内では“徳を積み、高い世界へ生まれ変わるための大切な行為“とされていた。財産を教団に寄付する”お布施”も徳を積む大切な行為とされていたが、貧乏な母親は、あまり寄付はできない。そのため、勧誘のビラ配りに積極的に参加していた。

教団の教えや連絡先の書かれたビラを何千枚と自宅に持ち帰り、それを折るところから作業は始まる。毎日夕飯の後、夜遅くまで母親と姉妹の3人でビラを折った。子供連れの母親は、昼間だと目立つため、ポスティングも夕飯を食べ終えた夜間に行っていた。

当時は教団が、世界中が震撼(しんかん)するような大事件を起こした直後だったため、まだ5歳だった時任さんだが、「ビラをポストに投函しているのを見られたら怒られる!」と子供ながらにおびえていた。特に冬の夜は寒く、時任さん姉妹は、「早く帰りたい」と何度も母親に言ったが、その度に「あと○○枚配ったらね」「この区画が終わったらね」と誤魔化される。幼い姉妹は、母親に必死でついて行くしかなかった。

「母がたまに買ってくれる自販機のジュースを3人で分け合って飲んだことが、ビラ配りでの唯一の良い思い出です」

夜の自動販売機
写真=iStock.com/tmprtmpr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tmprtmpr

ジュースを買うと母は決まって、「せっかく積んだ徳が減っちゃったね」と言った。

時任さんが夜間のポスティングより嫌だったのは、休日の昼間に街中で直接通行人にビラを配る活動だった。

「当時、私たちに向けられる視線は、かなり冷たいものでした。警察を呼ばれたこともあります。しかし教団の大人たちからは、『子供が配った方が受け取ってもらえるから』と、私たちもビラ配りに積極的に参加するように求められていました」

あるとき、時任さんが中年のサラリーマンにビラを渡そうとしたところ、その人は受け取ったビラを思い切り地面に叩きつけ、強い口調で何か言った。

「何と言われたのかは分かりませんでしたが、怒られたことはわかりました。そして彼は、その場にいた母を含む他の信者たちに向かって、『子供にこんなことをさせるな!』と怒鳴っていました。私は怖くて泣きました」

時任さんはその時の悲しさと恐怖を、大人になった今でも忘れられない。ビラ配りのバイトは絶対にやらないと心に誓うとともに、今でもビラを渡されると断れずにいる。

■裏切りによる勘当

宗教に入信して以来、母親は祖父母(自身の両親)から、宗教を辞めるよう、何度も説得されていた。しかし母親は祖父母に、「教団と縁を切るため」と嘘をついてお金を借り、それをそのまま教団に寄付してしまう。

後日、母親が教団を辞めていないことを知った祖父母ときょうだいたちは、真相を聞くため母親を呼び出した。話し合いの中で、母親は祖父母に返すお金もないし、教団を辞める意思も全くないことを明言。そんな母親を祖父母ときょうだいたちで説得していたが、母親の決意は全く揺るがなかった。

祖父母ときょうだいたちは、母親に「勘当になるか教団を辞めるか選べ」と迫る。母親はそれでも教団を辞める選択をせず、結局勘当されることに。

母親は実家の合鍵を返し、時任さん姉妹を連れて実家を出た。

鍵を渡す手元
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

「以降、現在に至るまで、母は自身の姉から無視され続けています。ただ、勘当されたと言っても、私たち姉妹はよく祖父母の家に行っていたため、母と実家との関わりは全くなくなったわけではありませんでした。また、母のきょうだいたちも、母が宗教にはまったからといって、私たちまでは差別しませんでした。母がここまで宗教にはまってしまったのは、子育て中の母を独りぼっちにした父のせいだと、どこか同情的な空気にもなっていました。母の兄や祖父母は、なんだかんだ母が心配だったようです」

祖母はよく時任さん姉妹に、「あなたたちのことが心配だから、お母さんにお金や食料を渡すんだよ。お母さんのことはもう諦めている。あなたたちだけでもどうにかしてあげたいだけ」と話して聞かせた。

一方、母親の入信以降、父方の親戚からも距離を置かれた。

■教団の教え

教団では日常生活の中でも、教えにのっとったさまざまな制約があり、時任さんは常にその制約に縛られながら子供時代を過ごしていた。

「端から見るとなぜ? と疑問に思われる制約も多く、友達から突っ込まれることもたびたびあり、言い訳しながら過ごしていたことを覚えています。教団では嘘をつくことも悪いこととされていたので、ごまかすための嘘もつけませんでした」

教団では「悪い情報が入る」と言って、テレビや漫画、街で見かける広告やお菓子のパッケージですら悪いものとされていた。母親はテレビを見ることを制限していたため、時任さんたちは、テレビから入ってくる情報は全く知らずに育つ。友達からは、「なんで知らないの?」と驚かれることも多く、話についていけないことも日常茶飯事。

教団では、生活の中で楽しみを求めること自体が悪いことだとされていた。そのため、遊園地や子供向けのイベント、おいしいものを食べに行くことも教えに背くこととされ、母親は連れて行ってくれなかった。

また、教団では生き物を殺すことや傷つけることも許されず、夏場に「蚊が止まっている!」と友達が教えてくれても、それを叩くことができない。殺虫剤も使うことができなかったため、ゴキブリも殺すことができなかった。

そして、「殺すことでしか得られない肉や魚を摂ることは控えるように」と言われ、教団のイベントなどで出される食事には肉や魚は使われておらず、野菜を煮ただけのスープや大豆ミールの唐揚げなどが頻繁に登場。

湯気の立つ鍋のふたを持ち上げている女性の手元
写真=iStock.com/Kyryl Gorlov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kyryl Gorlov

中には肉や魚が入った給食を子供に食べさせないために、毎日お弁当を持たせる信者もいたが、時任さんの母親はそこまで気を配る余裕がなかった。肉や魚の代わりにタンパク源となる大豆ミールを教団から購入していたこともあったが、割高なうえ、母親自身あまり好きではなかったようで、長続きしなった。

教団では、動物たちが解体されて肉になっていく、「畜産動物の一生」というビデオを見せられたことも。まだ幼い時任さんたちには衝撃的で、「しばらくお肉はいらない」という気持ちにさせられた。

「教団では、食事に楽しみを求めることは悪いことだとされており、食事は、“自分が食べるためではなく、教祖に捧げるため、自分が窓口になって食べるためのものだ“と教えられました。食事の前にも手を合わせて呪文を唱え、数分間黙祷する時間があります。母はそれを祖父母の家や外食中にも行うので、いつもヒヤヒヤしました」

この頃、時任さんはこんな噂を聞いた。

「昔、教団のセミナーに、野菜スープが入った2つの鍋が置いてあった。信者たちは自由におかわりしていたが、片方の鍋だけ『おいしい』と好評で、どんどんなくなっていく。最後、その鍋の底からネズミの死骸が見つかった。紛れ込んだネズミから出た動物性のだしがおいしくさせていたのだ」

時任さんは、しばらく教団のものは食べなくなった。

さらに、教団内では白や紫は高い世界の色とされており、服や持ち物はなるべく白を選ぶようにと言われていた。逆に、黒は地獄の色と言われ、ほとんど着なかった。

少し成長すると、短いスカートや肩の出る服も、「男性の性欲を刺激する」と言われて規制。髪の毛も「執着の塊だ」とされ、短く切らねばならない。「胸が大きい女性は執着が強い女性だ」と言われ、同性から注意された。

時任さんたちは、母親や周囲の大人が規制を守っているため、それが普通だと思い込み、教団からは、「この制約を守ることができない人たちがかわいそうなのだ」と教え込まれていた。(以下、後編へ続く)

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

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