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ガーナのゴミを使ったアート作品が1点2億円に…売れない路上画家が超売れっ子に躍進したワケ

プレジデントオンライン / 2023年1月22日 13時15分

藁の革命 - 写真提供=MAGO CREATION

2021年秋、美術家・長坂真護さんの作品『藁の革命』が2億円で売れた。この作品はガーナの廃棄物処理場で集めたゴミを使っている。長坂さんは「僕はほんの数年前まで、年収100万円の路上画家だった。それが『サステナブル・キャピタリズム』(持続可能な資本主義)という概念を考え、それに沿った行動をしたところ、すべてが変わった」という――。

※本稿は、長坂真護『サステナブル・キャピタリズム』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■百貨店の美術催事展で数億円を売り上げる

2021年秋、東京・日本橋三越本店で開催された僕の個展で『藁の革命』と銘打った作品が2億円で売れた。同年春に行った東京・伊勢丹新宿店の展覧会ではトータルで数億円の売り上げがあり、この金額は近年、伊勢丹新宿店で行われた美術催事展の最高額だったという。

日本橋三越本店での個展の総売り上げは、伊勢丹新宿店を軽く超えた。そして今、全国の百貨店から開催依頼が立て続けにあり、2年先まで展覧会のスケジュールはほぼ埋まっている。

■ガーナで見た“資本主義の闇”

僕はほんの数年前まで、スマートフォンやタブレットなどのガジェットを転売する「せどり」で糊口をしのぐ、年収100万円の路上画家だった。それが一転、21年度には約8億円を売り上げた。印画紙を反転させるように世界が変わった理由はただ1つ。サステナブル・キャピタリズム(持続可能な資本主義)という概念を考え、それに沿った行動をしたからだ。

僕は17年6月、世界最大の電子機器廃棄物処理場であり、「電子廃棄物の墓場」と言われるガーナ共和国のアグボグブロシーを訪れた。そこで見た光景は、まさに資本主義がつくり出した闇の世界だった。

ガーナの首都アクラの郊外に位置するアグボグブロシーには、先進国から毎年25万トンもの電子機器廃棄物が持ち込まれ、たまった量は東京ドーム32個分。そこのスラム街で暮らす3万人の住人は、電子ゴミを燃やして残った金属を売り、1日12時間働いて500円の賃金で暮らしていた。しかし、廃棄物には鉛や水銀、ヒ素、カドミウムなどの有害物質が大量に含まれているため、空気が汚染され、それを吸い込むことで、若くして病に蝕まれ命を落とす人もいるという現実を見せつけられた。

自分がせどりで稼ぐ道具にしていた電子機器が、その後アグボグブロシーに不法投棄され、現地の人々の命を縮めているのかと思うと自分を恨みたくなった。しかも幼い子どもたちも、電子ゴミの焼却を手伝っていた。

この現実に目を背けてはならない。だが、一介の絵描きにすぎない自分に、何ができるのか。辺り一面を覆う煙にせき込みながら、電子ゴミを使ってアート作品を作り、その売り上げを彼らに還元できないか、とひらめいた。

電子ゴミを作品にすれば、先進国の人がガーナの現状をリアルに知ることができるし、ゴミも減る。一石二鳥と考えた。

■ゴミを使ったアートに1500万円の値が付いた

その後、有害物質ガスマスクを届けるために何度か現地を訪れ、そのたびに電子機器などの廃材を日本に持ち帰り、ゴミを利用した作品を作り続けた。

18年3月、ある人の好意で、たった1日だったが、東京・有楽町の東京交通会館で「美術は人を救うためにある、ガーナのスラム街を訪れて」展を開催することになった。

その時、ゴミアートの『Ghana's son』に1500万円の価格が付いたのである。僕はその現実がのみ込めないでいた。なぜならその時僕は、美人画で少しは売れ始めていたが、価格はせいぜい20万~30万円がいいところ。それがいきなりゴミを使った絵が1500万円で売れ、何が起きたのか理解できなかったのだ。

真実の湖
写真提供=MAGO CREATION
真実の湖 - 写真提供=MAGO CREATION

なぜ、これほどまでの高値が付いたのか。寝ずに一晩中考えた。それでも意味が分からず、もしかすると「夢を見ているのか」とも考えたが、目の前には実物の絵が存在している。これは現実だ。頭がパンクしそうなほど考えた。そしてこの「価格のからくり」が分かった。そのからくりは本書でじっくり説明していきたい。

■文化、経済、環境が急回転を始めた

たった1日限定の展覧会だったが、計2500万円ほど作品が売れた。僕はその売り上げでガスマスクを大量に買い、またアグボグブロシーに向かった。

大量生産・大量消費社会の尻拭いをしながら命を縮めている彼らを救うには、どうすればいいか。一過性の寄付に頼るのではなく、持続可能な活動を考えなければならない。

実は15年11月、同時多発テロが起きたパリを訪ね、そこでサステナブルという概念を知り、持続可能な地球、持続可能な平和などについて考え、作品も発表していた。17年1月にはサステナブルクリエーションカンパニーのビジョンを掲げ、資本金100万円で「マゴクリエーション」を立ち上げた。

しかし、どんな事業をすればいいのか見えなかった。外枠はつくっても中身がなかった。それが一転、何度かアグボグブロシーを訪ね、ゴミを作品化することで、サステナブルを構成する歯車がカチッと組み合わさった気がした。「文化」「経済」「環境」。この3つが結びつき急回転し始めたのである。

■ハリウッドドキュメンタリー映画の製作が決まった

資本主義が行き過ぎたせいで、僕には地球がシロアリに食われている状態に感じる。だからと言って、今すぐ大量消費社会から抜け出せるものではない。だからこそ、文化、経済、環境のバランスを取りながら回していくことが、今を生きる僕たちには必要ではないかと思い始めた。

アグボグブロシーの廃棄場
アグボグブロシーの廃棄場(写真=『サステナブル・キャピタリズム』より)

日本で初めてのガーナ展を行った直後、時勢を鑑みるのに長けたアメリカから個展開催のオファーを受けた。僕はそこで、“サステナブル・キャピタリズム”という言葉を初めて使い、ガーナでの体験を語った。するとアメリカの知人たちは、サステナブル・キャピタリズムという言葉に激しく反応し、「超クール」「かっこいい!」「胸に刺さる!」と絶賛してくれた。この個展で、エミー賞受賞監督のカーン・コンウィザー氏に出会い、僕がガーナで計画していたミュージアムを作るまでのハリウッドドキュメンタリー映画を製作してくれることになった。

以来僕は、自分の活動を説明するとき「サステナブル・キャピタリズム」という言葉に収れんさせている。

■「僕に投資をしないでください」

20年、ある知人から、ベンチャー企業やスタートアップがビジネスリーダーや投資家にアピールするピッチコンテスト、「ICC(Industry Co-Creation)サミット」への参加を勧められた。僕はその時、ピッチコンテストの意味もどんなイベントかも分からず出場。だた、サステナブル・キャピタリズムの概念を出席者に訴えたかった。

登壇者は多くのスタートアップの若手起業家たち。シードラウンドで資金をお願いしますとか、IPO(新規株式公開)の際に投資をお願いしますと熱弁を振るっていた。一方僕は、「投資とか意味が分からないので僕に投資をしないでください」「寄付はいりません」と断言しながら、ガーナの現状と、これからの時代はサステナブル・キャピタリズムの概念が必要と訴えた。

最終選考に残った10人が登壇し、自分の事業の可能性をアピール。結果、場違いな僕が優勝した。いわば、高校野球の甲子園に「21世紀枠」で初出場した高校が、いきなり優勝してしまったようなものである。

そこから潮目が変わった。僕の作品が企業トップらに次々と購入され、価格も跳ね上がった。僕は「ピカソを超える」と公言しているため、投資目的の人もいないわけではないが、高額作品の購入者の多くは、社会課題の解決を事業として展開している、時代の変化に敏感な経営者たちだ。おそらく、国連が15年9月に定めたSDGs(SustainableDevelopment Goals)の理念を企業に取り込もうと考えても、具体的な姿が見えづらいため、僕の作品にSDGsの可視化を求めたのだろう。

ちなみに僕が「ピカソを超える」と断言できるようになったのも、サステナブル・キャピタリズムの概念に出合ったからだ。

■これからの時代に大事なのは“ソーシャルインパクト”

地球が数億年かけて蓄えた石油などの化石エネルギーは、人類がより便利で快適な生活を追求したことで大量に消費するようになった。地球は温暖化が進み、各国に気象災害が多発している。その一方、資本主義社会が競争原理を追求し、情報化が急激に進化したことで、SNSなどでは格差社会の不平・不満が充満している。鋭い経営者たちは社会全体にバグやエラーが起こり始めていることを感じ取っている。

長坂真護『サステナブル・キャピタリズム』(日経BP)
長坂真護『サステナブル・キャピタリズム』(日経BP)

だからこそ今、企業に求められるのはサステナブル・キャピタリズム尊重の姿勢ではないか。文化、経済、環境の3つをバランスよく回せばソーシャルクレジット(社会的信用)が生まれ、企業のソーシャルクレジットが高ければ、それがソーシャルインパクト(社会的影響)を醸成する。

僕の収入は、作品の売り上げの5%と決めている。残りはアグボグブロシーの環境、労働問題を解決するための事業に投資している。この数字を生涯変えることはない。その信念がソーシャルクレジットを生み出し、そしてそのソーシャルクレジットは僕の絵の価格を引き上げた。僕の作品だけ扱う専用ギャラリーは国内外で11店舗にまで増えた。香港、ニューヨーク、パリにも開設している。あるギャラリーでは1日に20枚の絵が売れたこともある。今後ギャラリーはさらに増えていく見込みだ。

サステナブル・キャピタリズムの概念を取り入れてからすべてがうまく回り出した。自分のこんな体験から、企業のKPI(重要業績評価指標)は今後、経済的な観点からソーシャルインパクトやソーシャルクレジットに移行するのではないか、と予測する。競争原理に基づく資本主義社会の臨界点が見えた今、経済活動に日々まい進するビジネスパーソン、スタートアップ、起業家、イノベーター、そして会社を運営するビジネスリーダーに、サステナブル・キャピタリズムの重要性をぜひ、知っていただきたい。

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長坂 真護(ながさか・まご)
美術家、MAGO CREATION代表
1984年、福井県生まれ。2009年、自ら経営する会社が倒産し、路上の画家に。17年にガーナのアグボグブロシーを訪れ、先進国が捨てた電子機器を燃やすことで生計を立てる人々と出会う。以降、廃棄物で作品を制作し、売り上げの大部分をガーナに還元。現地に私設の学校や美術館、小規模ながらリサイクル工場を設立。「サステナブル・キャピタリズム」を提唱し、現地にリサイクル工場建設を進めるほか、環境を汚染しない農業やEVなどの事業を展開し、スラム街をサステナブルタウンへ変貌させるために活動を続けている。最新刊は『サステナブル・キャピタリズム 資本主義の先を見る』(日経BP)

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(美術家、MAGO CREATION代表 長坂 真護 構成=吉井妙子)

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