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「相続税0円→3億円の追徴課税」でタワマン節税は終了…なぜ富裕層は巧妙な節税策に詳しいのか

プレジデントオンライン / 2023年1月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/acilo

■金持ちはなぜタワマンを買うのか?

高額所得者の代名詞とされる高額なタワーマンション。ペントハウスなど高層階の高額物件からまず売れていくから不思議だ。だが、高額なほど金持ちの自尊心を満足させるから売れていくと思うのは早計だろう。

金持ちほど“ケチ”であるのは世の東西を問わない世界共通の真理だ。“ケチ”だから、税金を納めたくないからこそ高額なタワーマンションを買うのだ。カラクリは不動産の評価額の差を利用した節税効果にある。その不動産を利用した過度な相続節税にメスが入ろうとしている。

12月16日、与党税制調査会がまとめた「令和5年度税制大綱」の中に「マンションの相続税の評価について」という一項目が盛り込まれた。

「マンションについては、市場の売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離(かいり)しているケースが見られる。現状を放置すればマンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。

このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価評価の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する」という内容だ。いわゆる「マンション節税」にメスを入れるという意思表示にほかならない。

■「相続税0円→3億円の追徴」が認められた

この与党税調による「マンション節税」封じ込めには伏線があった。22年4月に出された最高裁の判決だ。路線価などに基づいて算定した相続マンションについて、最高裁は4月19日、国税当局が再評価して追徴した処分を適法と認め、相続人側の上告を棄却した。

訴訟となった事案は、相続人が2012年に父親から東京都内などのマンション2棟を相続し、路線価を基に評価額を計約3億3000万円とした上で、購入時の借り入れと相殺して相続税を0円と申告した。この申告に対して国税は評価額が実勢価格より低すぎるとして、12億7300万円と再評価し、約3億円を追徴したもの。

裁判の争点は、不動産の「時価」の算定にあった。「不動産は一物三価と呼ばれ、同じ物件でも3つの価格があります。土地取引データに基づいて算定する地価公示・地価調査、相続税の評価基準となる路線価、そして固定資産税評価額の3つです。路線価はおおむね地価公示・地価調査の8割、固定資産税評価額は同7割とすることが定められています」(大手信託銀行)とされる。

■横行する「タワマン節税」の仕組みとは

相続人は路線価を「時価」として相続税評価額を算定したが、その時価が実際の取引価格と比べて「著しく不適当」と認定されたわけだ。国税の財産評価基準通達の総則6項では「著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」と規定されている。「伝家の宝刀といわれてきた例外規定で、これまで適用されるケースはほぼ皆無だった」(同)という。今回、この規定が適用され、最高裁がお墨付きを与えた意味は大きい。

背景にあるのは、不動産にまつわる過度な節税の横行だ。2010年代前半にかけて人気を集めた高層マンション節税もそのひとつだった。相続資産のうち金融資産を高層マンションに組み替えることで相続税評価を下げる仕組みだった。大手不動産会社社員はこう説明する。

「マンションでは土地と建物を分けて相続税評価額を算定するが、土地は敷地全体を戸数で分ける共有持ち分となるため戸建てに比べ極めて小さく見積もられる一方、建物の評価は固定資産税評価の基準となる路線価が適用される。このメリットを最大限に生かせるのが高層マンションの高層階だ」

■面積は同じでも、市場価格は高層階ほど高い

「専有面積が同じであれば低層階でも高層階でも評価額は変わらない反面、実際の市場価格は高層階ほど高い。この評価額の差が節税効果を生む仕掛けだった」

しかし、国税庁は15年に、高層マンションを使った、いき過ぎた節税が横行しているとして厳しくチェックするよう全国の国税局に指示を出し、「租税負担の公平性から看過しがたい場合は(例外規定の)6項の運用を行いたい」とコメントを公表した。問われているのは、まさに「租税負担の公平性」と言っていい。

与党税制調査会の大綱を受け、国税庁は2023年に有識者会議を設置して価格の乖離の現状を分析し、評価額を適正な水準に引き上げるルールの見直しに着手する意向だ。「23年度内に国税庁の関連通達を改正する可能性が高い」(自民党関係者)という。節税の穴がまたひとつ埋められることになる。

■なぜ金持ちは節税対策がうまいのか?

こうした金持ちの節税対策を影で支えているのが信託銀行だ。庶民にはなじみの薄い信託銀行だが、富裕層にはしっかりと食い込んでいる。「預金口座を通じてATMなどで資金を出し入れするだけの個人取引はコストばかりかかって儲(もう)からない。儲かるのはいろいろな手数料収益に結びつく富裕層取引だ」(メガバンク幹部)とされる。その最たるものが不動産取引に関わる収益だ。

実は不動産業務は銀行界では信託銀行が唯一、兼営法上の併営業務として認可されている。普通銀行等は手掛けることができない。例外的に「りそな銀行」が手掛けているだけだ。信託銀行が富裕層取引をほぼ独占しているのはこのためだ。

「不動産業務をめぐる垣根を撤廃してはどうかという議論は長年燻(くすぶ)っているのですが、不動産業には多数の専業者がおり、主務官庁である国土交通省との調整が不可欠。無理押しすれば政治問題化しかねない。なにより既得権益を失う信託銀行は猛反対だ。結局、普通銀行の不動産業への進出は依然として解禁されないままでいる」(地銀幹部)とされる。

お金を数えるビジネスマンの手元
写真=iStock.com/Atstock Productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Atstock Productions

■「まず“パンツまで脱いでください”と言っています」

日本の資産家は、ほぼイコール「土地持ち」と見ていい。そこに食い込んでいる信託銀行は、実は日本の金融機関で最も広範な業務領域を持つ「隠れたエクセレントカンパニー」だ。信託銀行の業務範囲は、預貸を中心とした銀行業務ほか、資産運用、不動産業務、年金業務、遺言信託、証券代行業務、はては株式の取り次ぎまで実に幅広い。そのルーツは英国にある。

信託を英語表示すれば“トラスト”。「十字軍に参加する騎士が、遠征中に自身の資産の管理を教会に委託したのが“トラスト”の始まりだ。日本では大正時代から導入され、戦後、商業信託として花開いた」(大手信託銀行幹部)とされる。騎士が自身の全財産の管理を教会に委託したように、信託銀行は個人の資産を受託する。全財産を管理するためにはいろいろな機能をもっていなければならない。このため、信託銀行は、銀行業務のほか、財務管理、資産運用に関する多様な機能を有している。

「俗な言い方になりますが、お客さまにはまず“パンツまで脱いでください”と言っています。夫婦間で秘密にしているような資産も含めすべての財産を教えてもらうことからスタートします。その目録を踏まえて、それぞれのニーズにあったオーダーメイドの商品・サービスを考案します。不動産や株式などへの資産運用はその筆頭です」(大手信託銀行幹部)とされる。

■「税制にはかならず抜け道がある」

具体的には、各顧客の資産規模・資産内容に応じて、オーダーメイドの「ポートフォリオ」を考案する。「金銭信託などの信託商品からはじまり、不動産、投資信託、リート、株式など各種資産をどういった割合で保有すれば最適か、国内のみならず海外の商品の割合も考慮してご提案する」(同)という。顧客の資産状況に応じて、どの程度リスクテイクできるか判断し、商品の組み合わせを考えるわけだ。

しかし、「本当の金持ちは、運用で資産を大きく増やすということよりも、現状の資産をどう目減りさせないかというニーズのほうが強い」(同)という。とくに日本では相続に伴う税負担は重く、それをどう回避するかが富裕層の最大の悩みだ。冒頭の「高額マンション」を使った節税もその解決策のひとつだった。

「毎年、税制は改正され、節税は難しくなるが、税制にはかならず抜け道がある。それをうまく組み合わせて提案するのが信託銀行の腕の見せどころ」(大手信託銀行幹部)という。不動産取引では売りで3%、買いで3%の、俗に“両手取引”で高額な手数料が入る。富裕層を対象にする信託銀行は日本随一のプライベートバンカーと言っていい。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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