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こうして陰謀論者が増えていく…モーリー・ロバートソンが「日本人のクイズ番組好き」を危険視するワケ

プレジデントオンライン / 2023年1月5日 18時15分

インタビューに応じるモーリー・ロバートソンさん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

陰謀論やフェイクニュースを見分けるには、どうすればいいのか。国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんは「世の中は答えのないことばかり。それなのに、日本ではクイズ番組のように『正解』を知りたがる人が多い。もっと考えることを心がけたほうがいい」という――。(後編/全2回)。

■「優等生」ほど陰謀論にハマりやすい

(前編から続く)

――前回のインタビューでは、モーリー・ロバートソンさんの2つのツイートへの反応から、紋切り型の発想から逃れられない日本のスタイル、SNSで拡散するポピュリズムの特殊性をうかがいました。

今のポピュリズムは1920年代のアメリカの黄禍論のような排外主義のテンプレートを持ちながら、かなり流動的で「感染力」も強い。薄く広く広がっていて「雲海」のような状態なんだけれど、自分の居心地が悪くなったものに対して向かっていってしまう。アメリカのQアノンのような陰謀論へのステッピング・ストーン(踏み石)なんですよ。

――そういう「雲海」に自分がならないためにどうすればいいのでしょうか。

ある程度の知的な体力を持つということだと思います。それがあれば、自分が信じていたものを手放しても恐怖心は起きないんですよ。

今まで親や学校の先生の言うことや、報道などを議論せずに丸呑みしていた人ほど、ひとつ疑い始めると免疫がないから「全部、嘘だったんだ」と陰謀論にいきやすくなります。

でも「全部、嘘だった」というだけでなく、そこに矛盾を指摘して、より良い解決方法を提案できなきゃダメなんですよ。そこに「知的な体力=考える力」が必要になってくる。教育の在り方でもあるんですけれどね。

■ハーバードの授業ではまったく歯が立たなかった

――「教育の在り方」ですか。

そうですね、僕が中学、高校を日本とアメリカで1、2年ずつ過ごした経験をお話ししますね。

日本の中学からアメリカに転校したとき、向こうの学校で、ケプラーやガリレオの歴史みたいなことをさんざんやった時間があったんですね。我々はその人たちがつくった理論の後に生きているけども、その前になんでそういうことを思いついたのか、その当時の常識と彼らはどう戦ったかみたいのを授業でやっていた。

僕は正直、「なんでこんなこと延々とやっているんだ。日本の学校みたいに早く練習問題をやれよ。アメリカ人はバカなのか」って思ったんです。

実際に入試問題のレベルと比べると、東大の2次試験みたいな問題はひとつもない、アメリカの入試問題はレベルが低いんです。当時、東大に合格した人ならSAT(Scholastic Aptitude Test、大学適性試験)は満点を取れたんじゃないかな。それで僕は「なんだ、ハーバードもちょろいじゃん」と思っていたら、講義が始まって1学期で燃え尽きました。

――どういうことですか。

議論ずくめの軍事教練、ブートキャンプのような授業だったんです。僕からすればモタモタしているように見えた彼らの中学・高校時代の授業は、議論の作法を学ぶためものだった。僕は議論をする能力が全くなかったので、歯がたちませんでした。

■「正解がない」可能性が排除された世界

――どんな議論なんですか。

答えがない問題をわざわざ選んでディベートが始まるんですよ。

死刑制度はありかなしか。女性を軍人にすることは倫理上ありかなしか。中絶問題はどうか、進化論を否定する人に言論の自由はあるか、とか。

ハーバード大学入学時にキャンパス内にて撮影したポートレート。著書『よくひとりぼっちだった』の背表紙より。

日本だとすでに答えがあること速く正確にたどりつく練習ばかりしていました。たとえば受験だったら、この問題集、模擬試験とかって定型がありますよね。定型しか練習していない者は議論を通して考え抜く、ということができなかった。そういう谷底に放り込んで、自分の力で上がってこい、というのがハーバードの1年目1学期でした。

あともう1つ、これもちょっとついて行けなかったんだけど、ものすごい量の資料や書籍を読んだ上でないと、議論が組み立てられないように作られているんですね。結局日本では、正解と不正解がはっきりした問題を解くチャンピオンになる競争だけをしている。世の中の問題には正解・不正解が必ずあるとわけじゃないということを、実は最初から排除されていたんです。

■「東大王」と「論破王」は表裏一体

――「議論」といえば、日本では「論破王」が人気ですね。

論破王の前に、「東大王」があると思います。2つは鏡の裏表ですね。

クイズの番組って、ほんとにトリビアとかの正解の早さ。知っているか、知らないかというゼロイチ判定。ボタンを人より早く押せるかとか。

間違った答えの中に次の正解の種があったかもしれないという出題の仕方じゃないんですよ。だから非常に非科学的なのね。視聴者も「東大生なのにそんなこともわからないのか」って、溜飲を下げたりする。

「家康の天下平定の年号言えないの? それでよく理工博士だな」なんて言って優越感を抱くようにテレビの番組が作られているんですよね。こうしたクイズ番組が、ゼロイチ判定を求める人たちを育てちゃった。

でもこの世の中、ゼロかイチか、答えがある問題ばかりじゃない。こうした現実が押し寄せてきて、でも、そういう人たちをすっきりさせられる答えをテレビも持っていない。そうなったときに出てきたのがネットの論破王だと思います。

■「五線譜に乗らない生き方」を現代音楽から学んだ

――ツイートでは「複雑な状況を単純化して本質を掴むという方法論」と表現されていますね。

英語に「book smart」、「street smart」という言葉があります。book smartは学校の中だけでお勉強した人で、純粋培養で、非常に見ている世界が小さいまま、トンネルの中をまっすぐ進んできた人たち。street smartとは、不良やチンピラとつき合いがって、あそこらへんは行っちゃ危ないとか、体感で、身体で学んできた人たちですね。ほんとうのバカなだけの不良はヤクザになるしかないですが、そうはならなかった人たち。両方のセンスが必要だと思いますよ。

――たしかにモーリーさんの自叙伝を拝読すると、東大・バーバード合格というbook smartの面もありながら、学校・教師に疎まれ、両親の不仲に悩まれ、最終的にはハーバードと東大に合格してメデイアに取り上げられると、最後の寄り所のようだったバンド仲間から「お前だけ目立ちすぎている」のような理由で除名されています。ただ自分が好きなことをしているだけなのに、次々と居場所を奪われていくようで、痛切でした。

除名はたしかに衝撃的でしたね。ただアーティストとしてメジャーデビューが決まっていたので、すぐに切り替えることもできましたが。

撮影=プレジデントオンライン編集部

そのあとハーバードで現代音楽の世界と出逢い、五線譜に乗らない、人間が制御不能なランダムな音楽をありのまま受け取るという手法にしびれました。そういう過程が今の自分の思想的背景になっていると思います。

でも知的体力はなにも僕のような育ち方をしなくても、自分から未知のものに飛び込んでいくことでも得られると思いますよ。中国の旅の話をしましょうか。

■シルクロード4000年の夢が覚めた

――どんな旅だったんですか。

僕はシルクロードに長年憧れていて、98年、35歳のときに初めて訪れることができたんですよ。でもそれが散々でね。

ガイドさんはとにかく絨毯を売りつけようとしてくる。敦煌に到着したらムード音楽がかかって、あるのは絨毯屋と売春宿ばかり。日本人観光客向けのテーマパークみたいな雰囲気でした。

1本電車を逃したら、ガイドさんの家に泊まることになり、「追加利用金が発生します。3000円です」。

――たまりませんね。

憧れていた世界が「なんだこりゃ」ですね。

偽スターバックスもすごかった。田舎に行けば行くほど、どんどん嘘っこスターバックスの度合いが激しくなっていって、最後は麦茶みたいなものをコーヒーだと言って出すのね。こういうのをずっと繰り返すと、中国に対する4000年の夢が覚めるわけです。

だけど逆にカオス過ぎて、めちゃくちゃ過ぎて面白くなっちゃうんですよ。日本に帰ってくると物足りなくなって、もう1回行っちゃった。

■「ブックスマート」だけじゃいけない

知的体力を付けるというのはそういうふうに飛びこんでいくことだと思うんですよ。

中国にも韓国にも行ったことのない人が、ニュースだけとか、ネットだけを見て、中国人は卑怯だとか、韓国人は怒りっぽいとか、いつまで慰安婦を言っているんだとかって言う前に、彼らの奥まで行ったほうが面白いよということです。

これは、前回お話しした記者さんにも言えると思います。

「自分が思い描いていた筋書きと違う」となったときに、そういう体力がないと、ポキッと折れてしまったり、「こんなはずじゃない」と事実の方を歪めてしまったりする事態が起こります。

私のシルクロード旅もそうですが、ほんとに行って、あるがままの声を聴くと、あらかじめ頭にあった筋書きよりも、もっと事情が複雑で入り組んでいるということがある。

自分が思い描いていたものが違ったときに、本来であれば、「そうか、じゃあ、全部1回前提を取り払って、何が起きたのか聞かせてください」というのが正しい取材だったり、コミュニケーションだったりだと思うんです。そこで、「いや、おかしい。私が思ったとおりになんでならないんだろう」と、自分のほうである種のパニックに陥って、認識そのものが歪んでいくということはよくあるんですよね。

これは、陰謀論にハマってしまう人にも言えます。信じているものが違うとなったときに、「全部、嘘だったんだ」とポキッと折れて、陰謀論に向かってしまう。

自分で考える体力があれば、揺れに強くなって、思っていたのと全然違うけど、そこの意外さに面白さがあったよというふうに軌道修正だってできるはずです。

ネットだけ見ているとブックスマートに偏りがちだから、ちゃんとストリートスマートで、体感することも大事だと思います。

作成=神田憲行
モーリーさんの半生 - 作成=神田憲行

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モーリー・ロバートソン(もーりー・ろばーとそん)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン
1963年生まれ。米ニューヨーク出身。日米を行き来しながら両国の教育を受けて育つ。1981年、東京大学とハーバード大学に現役合格。ハーバード大では電子音楽を専攻。近年は国際ジャーナリストとして、テレビ・ラジオの多くの報道番組や情報番組、インターネットメディアなどに出演するかたわら、ミュージシャン、DJとしてもイベント出演多数。

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(国際ジャーナリスト、ミュージシャン モーリー・ロバートソン 聞き手・構成=ノンフィクションライター・神田憲行)

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