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「話し相手になってくれるなら、家も土地もタダでやる」そんな農家物件に絶対手を出してはいけないワケ【2022下半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2023年1月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanonsky

2022年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。投資・資産運用部門の第1位は――。(初公開日:2022年9月3日)
都市部から地方に移住するとき、どんな物件を選んだらいいか。作家のたくきよしみつさんは「田舎の中古住宅物件は大きく3種類に分けられる。このうち『古くからある集落の空き家』と『バブル期の別荘地』は気を付けたほうがいい」という――。

※本稿は、たくきよしみつ『マイルド・サバイバー』(MdN新書)の一部を再編集したものです。

■買ってもいい第1条件は「すぐに住める家」

買ってもいい田舎物件の第1条件は、すでにすぐに住める家が建っていること、です。

きれいな家に住みたければ、中古の家をリフォームすればいいのです。建築費用において基本の構造部分はかなりの割合を占めますから、構造体だけを生かして外観をすっかり変えるような大胆な改築でも、ゼロから建てるよりはずっと安くできます。

では、すぐに住める家のついた物件ならいいかというと、そう簡単ではありません。

田舎の中古住宅物件は、大きく分けて3種類あります。どの種類なのかによって、そこで暮らすスタイルが違ってくるのです。

その3種類とは、

① 古くからある集落にある空き家
② バブル期にできたリゾート分譲地(別荘地)の空き家
③ 田舎に新たに造成された新興住宅地の空き家

です。田舎物件初心者は、この3種類の違いをしっかり認識することから始めなければいけません。

■集落にある空き家に住むこと=集落の住民になること

①の「古くからある集落にある空き家」というのは、農家物件などがその代表例で、今までその土地の人が住んでいた物件です。

私が最初に買った越後の家はこれに該当します。売り主のOさんは農家ではなく、地元の工務店勤務のかたでしたが、十数軒ほどの限界集落の一員としてそこに何十年も住んでいました。「ほしば」という屋号もついていて、近所の人に説明をするときは、「Oさんが住んでいた家を買った者です」と言っても通じないのが、「ほしばの……」と言えば一発で「ああ、あそこか」と理解してもらえました。その地域は苗字が同じ「Oさん」だらけだったので、「Oさんの家」では通じなかったのです。

こういう家を買って住むということは、その地域の一員になることを意味します。都会から引っ越して来て何も分かっていない人、という認識はされても、そこに住み始めた瞬間から否応なくその地域社会、集落の住民として扱われます。集落の自治会の細かい決まりや、土地に伝わる風習・因習にも多かれ少なかれ従わないと、摩擦を起こしかねません。

■田舎暮らしで失敗する原因は「地域社会」

越後の家の場合、家が集落の外れにあって、普段目に入る家は道を挟んで向かい側にある1軒だけでしたし、夏場しか住んでいなかったので、私は最後までその地域の一員という扱いは受けませんでしたが、自治会費だけは毎年払っていました(「別荘の人」ということで半額でした)。

幸い、越後の人たちは穏やかで、よそ者に対しても優しく接してくれたので、嫌な思いをすることは一度もありませんでしたが、場所によってはそう簡単ではないでしょう。

農家物件などを購入して移住する場合は、そのへんをしっかり調べた上で、その地区の住民になった後の生き方まで覚悟を決めておく必要があります。

これは無理にその土地の人間になれ、というのではなく、自分のポジションを地域住民に宣言し、それを受け入れてもらった上で、お互いのプラスになるようないい関係を築く努力を惜しむな、ということです。

私はそういうのがかなり苦手なので偉そうなことは言えないのですが、田舎暮らしで失敗する人の多くは、「地域社会に溶けこめなかった」ことが原因になっています。

自然農法で自給自足の生活をしたいと思って農家物件を買って移住した人が数年で断念して引き上げた例を知っていますが、その原因は近所の人たちとの「水争い」でした。

なんとも笑えない話です。

■農家の老夫婦の「家も土地もただにする条件」

農家物件は、不動産価値としての相場が定まりにくいという特徴もあります。都会人には信じられないほど安い値段で売りに出されている場合があるかと思えば、こんな不便な場所でこんな強気な価格かよ、と、呆れてしまうこともあります。

後継ぎがいない農家の場合、相続した子供や親族が遠方にいることも多く、とにかくさっさと手放したいという気持ちから、安い値段をつけます。

福島県南地方のある地域に物件探しに行ったとき、立ち寄った農家で老夫婦と話をすることができたのですが、「わしらの話し相手になってくれて、何かあったときに面倒をみてくれるのなら、この家も土地もただでやる」と言われました。子供たちに「面倒だから、この家と土地を相続したくない」と言われたそうです。

安ければ地元の人が買うのではないかと思うかもしれませんが、地元の人にしてみれば、ただでさえ過疎化が進んで自分の家を維持していけるかどうかも分からないのに、新たに家を買うどころではないので、どんなに安くても買いません。

■都会人は田舎物件の価格を疑ってかかれ

一方、場違いに高い値段をつけて売りに出している物件は、売り主に「先祖代々続いてきた大切な家を安く売れるか」というプライドからでしょう。

そんな物件を間違って買うのは都会人です。都会の人は、広い土地、古くても大きな家(人によっては古ければ古いほど魅力的に映る?)がこんな値段で手に入るのかと心が動かされるようです。仲介する不動産業者はそこにつけ込みます。

結果、農家物件は相場価格というものが定まりにくくなっています。自分の価値観に合う物件が安く手に入れば幸運でしょうが、農家物件は古い建物が多く、趣はあっても、水回りや電気関係の配線などをやり直さないと使えないということが多々あります。

主人が亡くなった後に売りに出された物件では、持ち物が片付いていないことも多く、中には先祖の写真が壁に掛かったまま、などという物件もあります。売り主である相続人が地元を離れている場合は特に、後始末や売り主との交渉だけで嫌になるかもしれません。

■かっこいいリゾート空き家物件の落とし穴

②の「バブル期にできたリゾート分譲地(別荘地)の空き家」も特殊な物件といえます。

これはものすごく数が増えていて、長野や山梨の別荘地などは今や空き家だらけです。日光でも霧降高原の別荘地などには空き家がいっぱいあり、家を建てるだけでも軽く数千万円かけたであろう瀟洒(しょうしゃ)でカッコいいデザインの別荘が数百万円から売られています。

森に囲まれたコテージ
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

中には贅を尽くした建物もあり、初心者は「え? 総檜造りのこの立派な家が800万円?」などと驚くのですが、800万円でも売れない理由がちゃんとあるのです。

まず、別荘地は、林の中や山の斜面といった、冬は寒くて水道が凍結するような場所にあることが多く、通年居住する場合、冬場がかなり厳しいのです。それなのに都会人がかっこつけて吹き抜けや広いリビング空間などを持つ建物の設計を都会の建築士に発注するので、暖房が効かず、ますます寒い冬を過ごさなければなりません。ぜひ、真冬に見に行くことを勧めます。

また、農家物件とは違い、土地が狭く、隣の別荘との距離があまりないので、都会の住宅地とあまり変わらないような住環境といえます。

私は今の家を購入する前、同じ栃木県内にある2カ所の大規模リゾート分譲地物件を見て回りました。外から見ると驚くほどカッコいい、お洒落で豪華な建物が手の届く価格で売り出されているのですが、その多くが斜面に建っていて、玄関まで細く急な階段を上らないといけないとか、入口が2階にあるといった問題だらけの物件でした。

■隣の家からの「騒音」が止まらない物件

さらには、そこに通年居住している人たちの多くは「元都会人」であり、その土地の人ではありません。感覚は都会人のままなので、近所づきあいも、農村の空き家に移住するのとはまったく違う空気感になります。それが居心地よく、住みやすいと感じるかどうかは人によります。田舎の大らかなイメージに憧れて移住したのに、都会暮らしのときと同じようなせこせこした空気に嫌気がさすかもしれません。

あるリゾート空き家物件の内見をしていたときなどは、すぐ隣の家に室内犬が何頭もいて一斉にキャンキャンとけたたましく吠え始めてずっと鳴きやみませんでした。これではとても「閑静な環境で自然と親しむ」どころではないなと、すぐにNGを決めました。

別荘地によっては全戸に温泉が引かれていたり、プールやテニスコートのあるレクリエーションセンター的な施設を持っていたり、敷地内にお洒落なレストランやブティックがあったりという一見豪華な場所もありますが、それがいいのかどうかも、よく考えてみてください。バブル期に開発されたリゾート地では、施設の管理維持が難しくなって、見た目とは裏腹に、どんどん廃墟化しているところが多いのです。

■安い価格にはそれなりの理由がある

開発したデベロッパーがすでに倒産している別荘地もたくさんあります。管理状態が悪い別荘地では、家のそばの木が倒れたり、斜面が崩れたり、道路が陥没したり、私設水道や簡易下水道が壊れたりした場合、敷地内がすべて私有地であるため自治体は面倒をみてくれません。全部自腹、自力で対応しなければならないこともあります。

自力で手当てしようと思っても、今度は管理組合のルールがあって、勝手には修繕もできないかもしれません。それでは都会のマンション暮らしと同じタイプの不自由さがついてまわることになってしまいます。

古いリゾート分譲地の物件が寂れて価格が安くなるのは、それなりの理由があるのです。

一方、リゾート分譲地では田舎特有の因習などがなく、芸術家やインテリが多く、知的な会話ができる人もいて楽しいと感じる人もいるでしょう。要は、リゾート分譲地物件の長所と短所をしっかり理解した上で、自分のライフスタイルに合うかどうかを冷静に判断することです。

■農村に隣接した新興住宅地は狙い目

③の「田舎に新たに造成された新興住宅地の空き家」というのは、②のリゾート分譲地ほどではないけれど、元は原野や野山だったような土地をデベロッパーが開発して住宅地として売り出した土地のことです。

私が今住んでいる場所はまさにこれです。もともとは農村で、地元の人の多くは農家ですが、私が住んでいる小さな分譲地はバブル期に造成されたもので、造成後、そのデベロッパー(当時は有名な大手)は倒産してしまいました。

売り出した当初は、都会の人が投資目的で買ったものの、バブルがはじけて放置。そうした不在地主の土地は今でも空き地のままで、草や木が生え放題です。

もちろん、地価はどんどん下がり、今では売り出したときの価格の半額どころか、一桁違う価格でも売れません。地元の不動産屋も「ただでくれると言われても、売れないし、固定資産税がかかるだけだからいらない」と言います。

新興住宅地
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■価格とアクセスも手ごろで、ゆる~い雰囲気が暮らしやすい

購入者が死んでしまっているケースも多く、たまに、相続した子供が「親父が持っていた土地ってどういう土地だ?」と見に来たりしますが、処分に困って、隣家に「いくらでもいいので買ってくれませんか」と持ちかけたりしています。

一区画は100坪前後で、そこに家を建てて通年居住している人たちの多くは、栃木県の他の場所から引っ越して来た人たちです。宇都宮市のような都市部は地価が高くて手が出ないけれど、このへんまで引っ込めばなんとか買える。宇都宮に通勤するのも、車で30分くらいなのでなんの問題もない。静かな環境でゆったり暮らしたい、という合理的な考え方の人たち。

この種類の住宅地、分譲地での生活は、①と②の中間くらいの雰囲気です。つまり、昔からそこに住んでいた人たちが作る地域社会のような因習・伝統は薄いけれど、純粋な別荘地のように元都会人ばかりの社会でもない。なんともゆる~い雰囲気。

購入を決めたときはそこまで理解していなかったのですが、結果的にはとても暮らしやすい環境でした。

■裁判所の競売物件には掘り出し物がある

今の家は、地元の個人不動産屋がモデルハウス兼自分の別荘として建てた家で、登記簿の記録を見ると、当初、2700万円の抵当権がついていました。それを融資した住宅ローン会社数社は、調べたところ、バブル後にすべて倒産していました。持ち主の不動産屋も倒産して夜逃げしたそうです。

その後、裁判所で競売にかけられていたのを別荘代わりに購入した人がいて、その人がもてあまし気味になって売りに出したのを私たちが買ったのでした。

たくきよしみつ『マイルド・サバイバー』(MdN新書)
たくきよしみつ『マイルド・サバイバー』(MdN新書)

地方にはこんな物件がいっぱいあります。裁判所が公示する競売物件の中には驚くような価格の掘り出し物物件が見つかることもあります。一般の人でも入札でき、ネットで会員登録(無料)すると定期的に情報提供される地域もあるので、チェックしてみるといいでしょう。

このように、一口に田舎不動産物件といっても、どういう状況で売られている物件なのかによって、その後の対応や生活環境が大きく違ってくるということを、まずはしっかり理解してください。その上で、これから自分が望む生き方、生活スタイルに向いているかどうかを判断する必要があります。

100%理想的な物件というのはまずないので、ある程度は新しい環境に自分が合わせていく覚悟も必要ですが、無理に合わせようとしてもストレスが溜まるだけで失敗します。

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たくき よしみつ 作曲家/作家
1955年、福島県生まれ。1991年、『マリアの父親』(集英社)で第4回「小説すばる新人賞」受賞。執筆ジャンルは小説の他、狛犬アートの研究やデジタル文化論など多岐に渡る。50代から福島県双葉郡川内村に居を移すも、東日本大震災で被災し日光市に移住。「緊急時避難準備区域」で全村避難した村の自宅に戻って普通に生活をしながら詳細にリポートした『裸のフクシマ』(講談社、2011年)が、各書評、メディアで話題になった。著書に『デジカメに1000万画素はいらない』(講談社現代新書)、『医者には絶対書けない幸せな死に方』(講談社+α新書)、『3.11後を生きるきみたちへ』(岩波ジュニア新書)、『マイルド・サバイバー』(MdN新書)など。

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(作曲家/作家 たくき よしみつ)

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