リーゼントに特攻服…1月の風物詩「荒れる成人式」は日本の学校教育"失敗"の盛大なお披露目式である
プレジデントオンライン / 2023年1月9日 11時15分
■「荒れる成人式」がなくならない根本理由
成人式が荒れる……この時期になると毎年騒がれるニュースである。
リーゼントに奇抜な袴姿や特攻服といったいで立ちで成人式会場に乗り込み、飲酒して仲間とバカ騒ぎ……。やんちゃの度が過ぎて、時には逮捕者も出る。
なぜ、そうした顰蹙を買うような行動をするのか。結論から言えば、彼ら彼女らは学校教育の「被害者」なのである。昨年上梓した『不親切教師のススメ』(さくら社)でも書いた通り、「乱暴な子」と言われる子供たちには、それぞれがその行動をとるれっきとした理由がある。
成人を迎えても大声や乱暴な言動をする根本にあるもの、それは不安や恐怖心である。どの学校でも、やたらと大声で叫んだり暴れたりする児童・生徒がいるが、これも同じ理由であることが多い(別の発達課題を抱えていることもあり、原因の見極めは慎重を要する)。「ここにいるよ! 見て!」という存在の承認欲求である。
つまり彼ら彼女らは、ありのままの自分では社会に受け入れてもらえないと繰り返し学習してきているからこそ、大暴れして派手なパフォーマンスをしているのである。
これは幼児の「ねーねー、見て見て!」と親に言うのと似ているが、根っこが全く違う。幼児の場合、大好きな親や先生に見てもらいたいというポジティブな感情である。青年期以降にこれが激しく出る場合、承認欲求の根っこに不安感がある。SNS上で自分の発信したメッセージに「いいね!」が付かないと不安になる感覚と似ているかもしれない。
言い換えれば、成人式で暴れるという行為は、真っ当に「いいね!」がもらえないなら、「悪いね!」がたくさんもらえばいいという思考回路の結果である。「目立った」=「すごい」「存在価値を認められた」という構造である。
社会的に見ても完全に誤りなのであるが、彼らからすれば、テレビやネットニュースで「大馬鹿者」として大々的に取り上げてもらえば「大成功」である。
■悪いことをする→指導される=注目してもらえる
こうしたやり方をどこで身に付けたのか。家庭でのしつけの問題もあるが、それよりも学校の責任のほうが大きい。「悪いことをする」→「指導される」=「注目してもらえる」という誤学習である。
学校で教師が不適切行為に対して、親切にかまい過ぎた結果である。教師が不適切行為にかまえばかまうほど、教師及び周囲の注目を浴びることができ、その行為がエスカレートするのである。
例えば、全国の荒れた学校の中には「先生をいじめて辞めさせてやった」ことが仲間から称賛されるという恐ろしい慣習が存在する。悪いことをすればするほど、内輪でのステータスが上がる。そうなれば、ますます悪いことをする。「少年院を出たほうが、ハクがつく」といった文言と同じ構造である。もっともその「ハク」が取り返しのつかない重荷になることは、社会に出てから気付いても遅いのだが……。
不適切行為への適切な対処は「意図的無視」が基本である。それは、行為自体を無視するのであって、それをした子供たちの存在を無視するのではない。「あなたのことは見ているよ」というメッセージを送りつつ「周りを妨害するような行為はダメなことだから相手にしない」という態度である。そうすることを、本人含め周りにもあらかじめ伝えておくのである。それをした上で、どういう行動が良かったかを一緒に考え、それができた時に必ずほめて認める。「意図的無視」と「よい行動をほめる」のセットで、子どもは適切な行動を身に付けていける。
なぜならば、「あなたも周りも大切」だからである。「学級の一員として、一緒に良くなる方向へ行く」ということを宣言する必要がある。これがうまくいってないから、「どうせ自分なんて」と気持ちが荒み、問題行動を起こして教員の気を引こうとする。
それに対して、教員が「悪いやつは悪い」という正論・正義を貫いたところで全く解決にならない。そもそも、この「悪い」の定義からして見直す必要がある。学校には「悪い子」というレッテルが、未だに存在している。これは「良い子」の逆である。「言うことをよくきく」「勉強ができる」あたりをクリアしておけば、まあこの「良い子レッテル」を貼ってもらえる。
これを反転させると「言うことをきかない」「勉強ができない」ことが「悪い子レッテル」の入り口となっている。「勉強ができない」こと自体は決して悪いことではない。ただ、これが著しく本人の自己肯定感を下げ、学校を嫌いになる原因となっており、非社会的、あるいは反社会的行為につながることが、各種研究からも明らかになっている。
文部科学省の諮問機関である中央教育審議会答申からも、新たな教師像の資質の一つとして「特別な配慮や支援を必要とする子供への対応」が出ている。
本人の努力とは関係なく、言うことを「きけない」子供や、勉強が「できない」子供が存在するという前提で教えることが明確に求められているのである。つまり、そういった子どもの存在を絶対に無視してはいけない。そこを工夫して誰一人取り残さず導くのが学校の役割である。
筆者が考える学校の存在意義。それは、そもそも子供というものがそのままでは「言うことをきかない」ことが多く社会性を身に付ける必要があり、そのための学びの場こそが学校なのだ。勉強も最初からできる子はいない。だからこそ学び舎が必要なのである。言うまでもなく、子供はメンタルも勉強も未熟である。“困っている子供”が少しずつ成長していけるのが学校というものであり、子供の心を傷つける悪いレッテルを貼る場所ではない。
大暴れする成人式の報道は、その地域の学校教育が失敗だったということを公に晒すことと同義である。
■「誰一人取り残さない」それこそ学校教育の本質だ
学校教育の失敗は、今後の学校教育で取り戻すしかない。
繰り返すが、彼ら彼女らは加害者ではなく、これまでの学校教育の被害者である。多くは他人と序列されたり比べられたり、あるいは現状の学歴社会に不満があるはずである。
「荒れる新成人」は、単なる結果・現象であり、枝葉でしかない。「誰一人取り残さない」はSDGsの「包摂性」を表す原則キーワードだが、そこから教育の根本・本質・原点を見直せという警告である。
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公立小学校教員
「自治的学級づくり」を中心テーマに千葉大附属小等を経て研究し、現職。単行本や雑誌の執筆の他、全国で教員や保護者に向けたセミナーや研修会講師、講話等を行っている。学級づくり修養会「HOPE」主宰。『プレジデントオンライン』『みんなの教育技術』『こどもまなびラボ』等でも執筆。メルマガ「二十代で身に付けたい!教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門大賞受賞。2021年まで部門連続受賞。ブログ「教師の寺子屋」主催。
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(公立小学校教員 松尾 英明)
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