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国の100年統計で判明「穴場長寿県は滋賀、京都、奈良、岡山…」一方、短命の東北・北関東の県名とは

プレジデントオンライン / 2023年1月11日 11時15分

リモートワークの普及や国からの支援金の充実の影響で地方移住が増えているが、どの地域・県を選べばいいのか。統計データ分析家の本川裕さんは「長寿県かどうかもひとつのポイントです。厚労省の過去の複数回の調査を分析すると、長寿県上位は、男性は東から神奈川、長野、石川、福井、岐阜、滋賀、京都、奈良、岡山、広島、熊本、一方の女性は長野、富山、石川、滋賀、京都、島根、岡山、広島、熊本、大分になっている」という――。

■増加する地方移住、長生きできる地域はどこなのか

2022年末、政府は東京23区で居住あるいは就労している人が地方移住する際の支援金について、18歳未満の子供を帯同した場合の加算を現在の子1人当たり最大30万円から同100万円に引き上げると発表した。

テレワークの普及も追い風となって地方移住が増えているが、それがさらに加速する可能性があろう。その場合、気になるのはどこに移住したらよいかである。自然が豊かで、暮らしやすく、いざとなれば東京に出やすい地域、などいろいろな条件が考えられるが、長生きできる地域かどうかも1つの重要な判断材料だろう。

折も折、厚生労働省は5年に一度更新される都道府県別の生命表を公表し、地域別の平均寿命が明らかとなり、新聞やテレビでもその内容が報道された。

そこで今回は、このデータに基づき、どの地域の寿命が長く、どの地域の寿命が短いのかについて紹介しよう。

2020年の都道府県生命表の平均寿命(0歳時の平均余命)について、X軸に男性の値、Y軸に女性の値をとった散布図を作成するとともに、その中に長短3県ずつの寿命データを表にして掲げた(図表1)。

散布図を見ると、各地域の平均寿命は、すべての地域で女性の方が長いが、だいたいにおいて男女は比例しており右上がりの分布を示している。

ただし、厳密に比例しているわけではない。男女の上位3位は、滋賀のみが男はトップ、女は2位と重なっているだけで、その他は別々の県となっている。下位3位については、青森と福島が男女で重なっているが(うち青森は両方とも最下位)、もう1つの地域は異なった県となっている。

なお、分布のばらつきに注目すると、女の方は、ほぼ1.5歳のレンジにおさまっているのに対して、男の方は2.5歳程度の幅をもっており、ばらつきは男の方が女よりずっと大きい。男性の寿命の方が女性より地域性によって左右されやすいということであり、何となく分からないでもない特徴だろう。男性の方が寒さなどの厳しい気候への抵抗力が強くなかったり、喫煙・飲酒など不健康な生活習慣に染まりやすかったりという理由が考えられる。

■長いスパンで長寿地域と短命地域とを判断する

生命表における平均寿命は特定年次の年齢別の死亡率から考えて、何歳まで生きるかという確率を計算した結果であり、毎年、死亡率が変化しない場合にのみ額面通り受け取ることができる数字である。死亡率が経年的に改善されていく場合は、その年生まれた子供の実際の寿命はもっと長くなるのである。

地域別の寿命についても、災害や感染症、個別の健康事情などその年の死亡率に及ぼす地域の特殊事情によって大きく左右される性格の数字であることを考慮に入れる必要がある。

今年、男なら滋賀が最も長寿な県だから滋賀に引っ越せば安心と単純に判断するわけにはいかない。寿命の長さの要因としては、気候風土のようにあまり変化しないものもあれば、短期的な地域の特殊事情もあるのであるから当然だろう。

そこで、どの地域で住めば健康上、比較的安心かを判断するには、5年毎に計算される平均寿命を時間的にもっと長いスパンで見ておく必要がある。

都道府県別の平均寿命データが得られるのは、戦前3期と戦後ほぼ5年おきである。図表2および図表3では、各期における男性および女性の平均寿命の都道府県順位を記すとともに、長寿県である上位10位を暖色で、短命県である下位10位を寒色で塗り分けた。上位1位はとくに濃いピンクで、下位1位は濃い青で示した。

まず、男性の順位推移を見て地域的な特徴を分析してから、その次に女性の場合はどう異なっているかを記述することとしよう。

■男性のご長寿県・短命県

最初に男性の順位についてはどういう特徴があるだろうか。

直近の特徴に着目すると、青森を筆頭に東北・北関東で短寿命であり、長生きしたければ長野から西方面にある岐阜・滋賀・京都・奈良にかけての地域に住めばよいことになる。

【図表】平均寿命(男)の都道府県順位

しかし、地域によっては、時代にかかわらず寿命が長いか短いかのところと、時代ごとに順位が大きく変化しているところとがある。

下位グループになったり上位グループになったりと順位が大きく変化している地域は、大都市部(東京・神奈川、愛知、大阪・京都)と北陸、四国・南九州、そして沖縄である。

こうした変化が大きかった地域についての考察は後述するとして、まず、時代を問わず平均寿命が長い地域、短い地域はどこかを調べてみよう。

すると、東山(中部地方の内陸側、長野・岐阜)、東海(静岡・愛知)、および山陽(岡山・広島)はおおむね常に長寿地域であり、東北(青森・秋田・岩手・福島)、北関東(茨城・栃木)と北九州(福岡・佐賀・長崎)は、おおむね常に短命地域であることが分かる。

ただし、恒常的な長寿地域の中でも、東山の中の山梨、東海のうちの三重、山陽の中の山口は例外的にそう寿命が長くないか、むしろ短い。また恒常的な短命地域の中でも、東北の中の宮城、山形、北関東の中の群馬は例外的にそう寿命が短くない。

こうした例外地域に配慮すると、まとまった恒常的長寿地域といえる長野・岐阜の東山地方から東海地方を経て京都・奈良までの近畿地方東部にかけての地域に住めば、子供世代の将来まで含めて、まず、安心ということになる。さらに飛び地となるが岡山・広島、熊本・大分の地域も将来に向けかなり安心である。

■女性のご長寿県・短命県

女性の順位推移を見た図表3に鑑みると、恒常的な長寿命地域から東山地方のうち岐阜が除かれる点、東海地方の特に愛知、あるいは近畿地方東部のうち奈良は怪しくなる点が男性と異なっている。中国地方については、女性は山陽地方だけでなく山陰地方もかなり有望となる。

【図表】平均寿命(女)の都道府県順位

■順位の変動が激しかった地域は大丈夫か?

さて、次に順位の変動が大きかった地域についてであるが、今後も長寿が継続するようなもっともな理由があれば、将来も移住の候補地としてふさわしいことになるので、検討が必要だ。

順位の変動が大きかった地域の中で、戦前は短命地域だったのが戦後になって長寿地域に変貌した地域が2つある。1つは大都市部(東京・神奈川、愛知、大阪・京都)であり、もう1つは北陸地方である。

実は、江戸時代の巨大都市である江戸や大坂は、高い未婚率と衛生状態の悪さから人口マイナス地域となっていた(いわゆる「都市蟻地獄説」)。独身流入者が多いと出生も少なくなるのに加え、人口が密集した都市では伝染病が一気に拡大しがちであり、上下水道の整備以前には、ごみ処理問題と合わせて不衛生が死亡率の高さをもたらしていたと考えられる。

わが国においても、肺炎や胃腸炎などの感染症が猛威を振るっていた1920年代前半の段階では、大都市圏は、なお、こうした状況にあったと考えられる。従って、大正期の東京は地方圏からの大量の流入人口で首都機能を保持していた。

戦前から戦後にかけて、こうした大都市圏の短命要因の改善は大いに進んだ。特に米軍占領下、東京に本部のあったGHQが強行したDDT散布や水道の塩素消毒といった公衆衛生対策の効果は著しかったと考えられる。江戸時代以来の大都市における宿命的な非衛生状態から脱し、むしろ大都市が最も衛生的な地域となったのである。衛生改善に加えて医療体制の充実や給食などによる栄養改善も大都市から広まっていった。

その結果、東京都は、戦前の最下位レベルとは打って変わって、1947年から高度成長期が終わる1975年まで平均寿命が基本的に男女とも一貫してトップに立った。東京にやや遅れて大阪や名古屋を抱える愛知でも平均寿命の順位は上昇していった。

しかし、高度成長期前後をさかいに大都市圏が首位である状況は変化し、普通の順位の地域となった。これは、大都市圏にいちはやく導入された保健衛生・医療の体制が全国的に広まっていったからと考えられる。もっとも大阪(あるいは兵庫)は多分、別の要因から近年平均寿命が最下位レベルとなっていると考えられる。

最近20~25年は大都市部で順位の上昇傾向が認められる。特に東京の女性の平均寿命の順位の上昇が目立っている。この時期は都心回帰の時期と重なっており、両者には何らかの関係があろう。

従って、大都市、特に東京・神奈川などは女性にとっては有望な居住地としての可能性を否定できない。

■戦前は短命地域、戦後に長寿地域に変貌した北陸

次に、大都市部と並んで、戦前は短命地域として目立っていたが戦後になって長寿地域に変貌した地域として、北陸地方(および滋賀や島根)が挙げられる。

これは気候風土上の不利性が栄養改善で好転したからだと考えられる。JINS調べの「メガネ白書2022」によるとサングラスを使用している人の割合が最も低いのは滋賀であり、鳥取、富山がこれに続いていた。つまり、こうした地域は日射しが弱いのでサングラスの必要がないのである(逆に割合が最も高かったのは沖縄で長崎がこれに続いていた)。

筆者の祖父は富山県の氷見出身であるが、中学時代の地理の参考書に、北陸は気候の特徴として曇天の時期が長く、氷見はくる病で有名、との記述を見付けて驚いた記憶がある。くる病は紫外線(日光)不足や栄養不足によるビタミンDの代謝障害によってカルシウム、リンの吸収が進まないために起こる病気であったが、栄養分の中でもビタミンは外部補給が容易なため途上国においてもこうした疾患は、最近は見られなくなったといわれる。

つまり気候風土上の短命要因が近代的な健康対策や県民の律儀な生活態度で克服されたのであろう。こうした条件が今後失われるとも考えにくいので、これからも気候風土が健康上のマイナス要因とはならないであろう。

(沖縄を除く)日本地図
写真=iStock.com/AVvector
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AVvector

従って、気候上は多少うっとうしいところもあるかもしれないが、寿命を考えた移住策としては北陸地方もまた有力な候補なのである。

変動が激しかったその他の地域である四国・南九州、そして沖縄は、戦前、あるいは戦後しばらくは長寿命地域として目立っていたが、近年は、短命地域化している。

これは、北陸地方とは反対に、気候風土の有利性が近代的な生活環境の中では十分に発揮できなくなってきたからではないだろうか。厳しい目でみると、温暖な気候が油断を生み、野放図な生活態度を許しているから短命地域化している可能性があろう。気候風土上はよい地域であるし、ストレス対策上はむしろ好ましい所もあるので、周囲の環境に染まらないだけの覚悟があれば十分移住先としても有望ではあろう。

■平均寿命の都道府県ランキング価値は…

最後に、以上のようなランキングがどの程度、意味があるかを判断できるデータを紹介して今回の立論を閉じることとしよう。

大正末(1921~25年)から現在まで3時点の平均寿命分布の推移を図表4に示した(1921~25年=黒、1954~56年=青、2020年=赤色)。2020年については米国の州別データ(緑)も参考に掲げた。

これからは、以下の3点を読み取ることができる。

【図表】大きく縮まった地域別の寿命格差

まず、戦前から戦後にかけて各地域で男女ともに平均寿命が大きく延びている。大正末におおむね40歳代であり、地域によっては30歳代だった平均寿命がいまや男女ともにおおむね80歳代となったのである。

第2に、男女差がひらいた。大正末では女の平均寿命の方が男より短い地域が存在した(福井、岐阜、広島など)。現在ではどの地域でも女性の方が、平均寿命が長くなり、その差も大きくなった(図中の45度線から上へシフト)。

そして第3に、地域間の平均寿命の差が大きく縮小した。大正末の分布に比べると現在の分布はほとんど団子状であり、地域差はほとんどなくなったといってもよい。衛生状態や治安、医療体制、健康保険さらには健康対策の全国的な普及、平準化がこうした地域差の縮小の背景にあると考えられる。毎期のデータを追うと地域差の縮小は1970年ごろまでにほぼ終了したことが分かる。

参考までに掲げた米国の州別の平均寿命は治安や健康保険の加入率、所得水準の違いにより州により9歳前後の差がある。これと比較して日本の場合は、図表1に見たようにせいぜい2~3歳の差であり地域別寿命の均質化が著しい。また、米国で男女とも最も長寿命のハワイ州より青森の方が寿命が長いことからも分かる通り、全体として日本の方が長寿命である。

つまり、過去と比較しても、また米国などと比較しても、今では国内であればどこに住んでも十分長生きできるのであり、最後になって立論の前提を覆すのは恐縮だが、実は、平均寿命の差を考慮した移住は今ではそれほどの意味がなくなっている。長生きできるかどうかという点から移住先を選ぶ必要はほとんどないのでご安心ください。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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