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畑違いの人材派遣・電力・観光・農業にまで手を出す地銀…「何でも屋」と化した地方エリートの唯一の命綱

プレジデントオンライン / 2023年1月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

地方銀行の苦境が続いている。人口減少や過疎化、不良債権の増加、異業種の進出、デジタル化の進展による地銀離れ……。金融アナリストの高橋克英さんは「昨年末の日銀による金融緩和政策の修正で地銀株は上昇したが、先行きは明るくない。地銀は合従連衡や非金融ビジネスを展開するなど多角化をしているが、すべてうまくいかないリスクもある」という――。

■地方エリートは「何でも屋」と化してしまったのか

2022年12月20日、「日銀ショック」がマーケットを襲った。日本銀行が予想に反して金融緩和政策の「修正」(長期金利の許容変動幅拡大)を決定したことで、長期金利が急騰する一方、日経平均は暴落し円高が急速に進んだ。

一方で、長期金利の上昇により、本業である貸出の金利が引き上げられ、利ざやが改善することで収益が回復するとの期待から、地方銀行など銀行の株価は軒並み上昇した。

2023年4月の日銀総裁交代前までに、さらなる長期金利の修正策や政策金利の引き上げもあるとするマーケットの思惑もあり、この先もしばらくは、日銀動向は、地銀株価への押上要因になりそうだ。

■不良債権の増加や含み損の拡大も

しかしながら、「日銀ショック」は、地銀にとってもいい話ばかりではない。貸出金利の上昇は、借入側の企業にとっては、利払い負担の増加を意味することになる。すでに返済が始まっているコロナ対策の無利子・無担保融資である「ゼロゼロ融資」の滞りや倒産の増加などとあわせ、地銀の不良債権が増えていく可能性もある。

企業だけではない。個人にとっても住宅ローンの金利上昇と利払い増加により、ただでさえ物価高で逼迫(ひっぱく)する家計が悪化し、延滞や不良債権化が増える懸念もある。

ATMを利用する人
写真=iStock.com/Tamer Dagas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tamer Dagas

さらに問題なのは、地銀が保有する大量の国債だ。地銀は、コロナ禍でも流入を続ける預金を貸出に回すだけではさばけず、余剰資金を国債など有価証券で運用している。地銀全体の国債残高は17兆7815億円(2022年3月末残)に達しており、長期金利が上昇すれば国債価格は下落することになって、その分、含み損を抱えることになる。すでに、米国の利上げにより米国債など外国有価証券で含み損を抱える多くの地銀にとって、日本の国債まで含み損を抱えることになれば、大きな打撃となり経営の重しとなる。

そもそも、この先、仮に日銀の金融政策変更を受けて、貸出金利が引き上げられ、利ざや改善により地銀の業績が回復したとしても、長続きはしないのかもしれない。

なぜなら、

① 人口減少や過疎化による地元市場の縮小
② 異業種の進出やデジタル化の進展による地銀離れ

といったより根本的な問題は解決しておらず、本業であり地銀3大ビジネスである貸出・手数料・有価証券運用の見通しはどれも明るくないのだ。

■地銀が「電力子会社」も設立

こうした根本的な問題をなんとか打開するため、地方銀行では急ピッチで新ビジネスへの参入により多角化を進めている。

特に、2021年の銀行法改正を伴う規制緩和により、地銀は子会社を活用した幅広い業務への参入が可能になった。金融庁から「地域活性化や持続可能な社会の構築に資する」として「他業銀行業高度化等会社」の認可を受ければ、業種に関係なくさまざまな事業を営む子会社を持つことができるようになったことで、その動きは加速している。

すでに、多くの地銀において地域商社や人材紹介子会社、コンサル子会社、観光子会社や農業子会社などが設立されている。

さらに、地銀による電力子会社の設立など電力事業参入も増えている。再生可能エネルギーの発電と供給などを通じて、地域社会における脱炭素化の促進を目指しているという。

2022年7月:山陰合同銀行が銀行で初めて電力子会社「ごうぎんエナジー」を設立

2022年7月:常陽銀行は、電力子会社「常陽グリーンエナジー」を設立。電源取得のため、3年で約50億円を投資する予定。また、自家消費型の太陽光発電設備の導入促進事業も手掛ける。

2022年10月:八十二銀行が、地域商社事業と電力事業を手掛ける完全子会社「八十二Link Nagano」を設立。

■多角化を担う新設子会社の大多数は赤字

地銀は、人口減少や低金利、ネット銀行など異業種の進出により先行きが厳しいなか、電力子会社や地域商社など銀行本体以外の業務に対する期待は大きい。

もっとも、本業からの利ざやや手数料の減少を補うために設立した、こうした子会社の大多数は、設立後間もないこともあり赤字だ。子会社としていかにして事業を軌道にのせ黒字化し、収益貢献していくかが今後の課題ではあるが、業績の開示や収益計画の開示が十分でない子会社も多く、思惑通りうまくいかない可能性が高い。

そのワケは、「顧客目線」と「収益目線」がないことに尽きる。もっとも、地銀を笑っていられない企業は山ほどある。同じ様に業界全体でマクロ的な根本問題を抱えながらも、横並びでお互いに身動きがとれず、顧客目線や収益目線もなく、ただ闇雲に拡大路線や多角化戦略をとる業界や企業は多い。

スマホでネットショッピングをする人
写真=iStock.com/Marut Khobtakhob
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marut Khobtakhob

■多角化だけでは解決しない

地銀再編や地銀衰退が叫ばれて久しい。人口減少が進む一方、ネット銀行など異業種の進出も続き、利ざやの改善だけでは、先行きは厳しい。

このため、自己資本比率規制など、銀行に課せられた厳しい規制から逃れるため、地銀のなかから、銀行免許を返上してノンバンクとなる、地域商社や人材紹介会社、M&Aや事業承継仲介会社、として生き残る、といったことも考えられよう。

銀行の看板
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

その場合も店舗や人員のリストラが大前提にはなる。

足元のコロナ禍や物価高で、多くの個人、企業、自治体も四苦八苦し、家計や業務や財政もみなリストラなど痛みを伴いながらも、やりくりするなか、地銀だけは利上げの恩恵を受けて、リストラもなく無傷で大丈夫というわけにはいかない。

地元住民や企業などの離反により、地銀にとって最も大切な信用力が失われる事態となる前に、リストラや合従連衡など、自ら律し、行動する必要がある。

■地銀再編はこの先も続く

実際、政府や金融当局が地銀再編を後押しする動きも活発だ。

2020年10月:福井県の福井銀行と福邦銀行が経営統合。

2022年4月:青森銀行とみちのく銀行が持ち株会社プロクレアホールディングス(プロクレアHD)を設立。

2022年9月:長野県の八十二銀行と長野銀行が経営統合を目指すことで基本合意。八十二銀行が長野銀行を2023年6月に完全子会社化し、さらにその2年後の2025年を目途に合併予定。

2022年10月:愛知県の愛知銀行と中京銀行が持ち株会社「あいちフィナンシャルグループ(あいちFG)を設立し、2024年に合併予定。

全国各地で同一県内の地銀同士で再編を進める動きが相次いでおり、地銀「一県一行」に向けての動きはこの先も続くことになろう。

前述したような厳しい経営環境の中、一筋の光となりそうなのが、インバウンドによる国内観光振興だ。地方経済の活性化は、無論、地銀の業績には追い風となる。円安による企業の国内回帰やインバウンドで地域経済と地銀が潤うことで、東京や「札仙広福」など一部に集中していた地価上昇効果が、より広い範囲に広がっていく可能性もでてこよう。

「日銀ショック」により長期金利が上昇し、地銀を取り巻く事業環境が大きく変わろうとするなか、政府・金融当局による地銀再編を後押しする動きもあり、地銀の合従連衡や非金融ビジネスの拡大など多角化はこの先も進むことになる。リストラを伴うか否か、「顧客目線」と「収益目線」があるか否かが、成否を分けることになろう。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『地銀消滅』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。

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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

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