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「自己肯定感が低いと生きづらい」はウソである…ダメな自分を自然に愛せるようになるブッダの言葉

プレジデントオンライン / 2023年1月15日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

「自己肯定感」を高めるにはどうすればいいのか。福厳寺住職でYouTuberの大愚元勝さんは「自己肯定感をむりに高くする必要はない。高くても、低くてもいい。ブッダは2600年前のインドでそのことを説いていた」という――。

■「自己肯定感が低い自分をなんとかしたい」

最近、「自己肯定感」という言葉を聞く機会が増えてきました。

「自己肯定感」を高めるといった本がベストセラーになっていたり、「自己肯定感」を高めるセミナーやカウンセラー養成講座が人気を博していたりするようです。

私はYouTube上で、人生についての悩みに、仏教の知恵で答える「一問一答」という、悩み相談番組を配信しているのですが、そこにも時折、「自己肯定感が低い自分をなんとかしたい」という悩みが届いたりします。

一方で、この「自己肯定感」に漠然とした違和感や息苦しさを覚えている人もいるようです。

一体「自己肯定感」とは何でしょうか。
この言葉は、どこからやってきたのでしょうか。
自己肯定感なるものが低いと、本当に人生がうまくいかないのでしょうか。

■ブームの裏にはそれで儲かる人がいる

ものごとには、必ず始まりがあります。

それがブームになるというからには、そのブームのきっかけとなる出来事があったり、もっと言えば、ブームを仕掛けた人がいるものです。

もともと「自己肯定感」とは、self-esteem(セルフ・エスティーム)という心理学用語の訳語だといいます。

けれども、このセルフ・エスティームには、自尊心・自己肯定感・自己評価など、さまざまな訳語があります。

この中で最近、「自己肯定感」が特に注目を集めるようになった理由は、この言葉を特別に取り上げ、流行らせることによって得をする人たちがいるからなのです。

昨今のSDGsムーブメントも同じです。

貧困をなくそう、飢餓をゼロに、すべての人に健康と福祉を、質の高い教育をみんなに、ジェンダー平等を実現しよう、安全な水とトイレを世界中に……といった一見目新しく見えて、古くからある人類の問題解決への目標が、SDGsというネーミングのもとに、瞬く間に広まって、SDGsマークを掲げる企業や、バッジをつけた人が増える理由は、それを意図して広めようとした人たちがいるからです。

そして、なぜそうするのかといえば、それで得をする、儲かる人がいるからです。

けれども、私は別にそれが悪いといっているわけではありません。古今東西、それがトレンドやブームの実態であり、トレンドやブームが、より良い方向に社会を転換させることだってあるからです。

■自己肯定感とは、根拠なしに自分を信じること

私が懸念するのは、こうしたトレンドやブームに乗っかって新出の言葉が出回ることで、得をする人がいる一方で、苦しむ人が出てきてしまうことです。

自己肯定感の元となった心理学用語「セルフ・エスティーム」は、自尊心や自己肯定感などと訳されますが、自尊心が、自分に対する「自信」であったり、「他者の干渉を排除したい」という心であるのに対して、自己肯定感は、「ありのままの自分を認める感情」を表します。

自尊心に含まれる「自信」は、能力や成果などの根拠に基づいて自分を信じることであり、また、自尊心には、他者の干渉を排除したい、という心が含まれます。

自己肯定感は、能力や成果にかかわらず、自らの存在意義や価値を肯定し、「自分が自分のままであって大丈夫」と根拠なしに自分を信じることです。

ちなみに、褒められても認められても、「自分はダメな人間だ」と頑なに自分を否定するのは、自己肯定感が低い人ではなく、自己否定感が強い人。

自己否定感が強いと、能力が高くても、成果を出しても、「自分には無理」「自分には生きる価値がない」となってしまいます。

■「親が悪い」が新たな苦しみを生む

では、自己肯定感の高い低いは、どこからやって来るのでしょうか。

臨床心理学者の高垣忠一郎氏によれば、「幼少期の生活や教育環境によって大きく左右されると考えられ、自分本来の感情を否定されて育つと自己肯定感は低くなる」といいます。

確かに、幼少期に親に認めてもらえなかった経験は、子供にとっては大きなものでしょう。

私の元に届く相談の中でも、「親が悪いから私がこんなに自己肯定感が低くなってしまった」「親が私を否定し続けたから、私はこんなに不幸になってしまった」と信じて、親を恨み続ける人が少なくありません。

しかし、ここに新たな苦しみが生まれるきっかけがあります。

自己肯定感の高い低いが、「幼少期の親」の子供への対応によって決まるのだとして、それを知ったことで、幼少期をやり直すことはできません。

けれども、だからと言って、親を恨み続けて人生が好転するわけでもないのです。

むしろ、その人の人生がうまくいかない理由は、自己肯定感が低い理由が親にあるとして、親を恨み続けているところにあります。

■自分の心の中の炎症が治らない

恨みとは、継続する怒りのことです。

誰かを恨み続けるということは、自分の心の中で炎症が起きているのと同じです。歯茎が腫れて炎症がなかなか治らなければ、心身が疲弊していく経験をしたことがある人もいると思います。

同じく、心に恨みという、怒りを抱き続ければ、心身が疲弊してしまうのです。

そんな状態では、人生がうまくいくはずがない。

だからと言って、「自己肯定感を高く持とう」と努力しても、なかなかそうはいかない。そして今度は、自己肯定感を高く持てない自分にまた、落ち込んでしまうのです。

■「自己肯定感は低くてもいい」と断言できるワケ

ではどうすればいいか。

自己肯定感など、低くても構わないと知ることです。

アドラー心理学を紹介し、200万部超えのベストセラーとなった『嫌われる勇気』には、「自己受容こそが大切であって、自己肯定感は重要ではない」と書かれています。

素晴らしい言い換えだと思います。けれども、これもやはり対症療法であって、新しい言葉の言い換えに過ぎません。

自尊心、自己肯定感、自己受容感、自己評価……。

さまざまな言葉が登場し、その言葉の曖昧な解釈によってまた悩む。そう、人間は言葉で悩むのです。

だから、「自己○○」などという、新しい言葉が次々登場してきても、その高低、強弱をあまり気にしないことです。

自己肯定感は低くてもいい。

私がそう言い切る理由が2つあります。

理由①調査結果とマスコミの呪縛

内閣府ホームページには、特集「今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの〜」と題して、日本を含めた7カ国の満13〜29歳の若者を対象とした意識調査(平成25年度)の結果が示されています。

それによると、例えば「自分自身に満足しているかどうか」という問いに対して、「イエス」と答えた若者が、韓国(71.5%)、アメリカ(86.0%)、イギリス(83.1%)、ドイツ(80.9%)、フランス(82.7%)、スウェーデン(74.4%)であるのと比較して、日本では(45.8%)と、自己を肯定的に捉えている者の割合が圧倒的に低い調査結果となっています。

【図表1】自分自身に満足している
内閣府「今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの〜」より

■国民性を無視した調査結果が見せる“虚像”

けれども、こうした意識調査結果というのは、国民性がよくあらわれるものだということを忘れてはなりません。

「自分に自信があるか」とか「自分自身に満足しているか」などと質問をされたとき、多くの日本人は、例え自信があっても、「自信ある!」とは言わないし、不満がなくとも「満足している!」とは言いません。

謙虚さが美徳とされている日本では、自分のことを高く、大きく表現することを恥ずかしがる人が多いからです。

そもそも、どの国にも、自分を肯定的に捉える人もいるし、否定的に捉える人もいる。例えこのアンケート調査で「自分に満足している」と回答した人でも、その後大失恋をしたり、車で人をはねて交通事故を起こしてしまったりすれば、自己評価など大きく下がってしまいます。

よく聞く、「幸福度ランキング○○位」などという類いも同じです。

にもかかわらず、こうしたあまり意味があるとは思えない調査結果が発表され、これを鵜呑みにしたマスコミが、「日本人は自己肯定感が低い」などと喧伝することで、本当にそうだと思い込んでしまう人が多いのです。

■「自己肯定感が低いと生きづらい」は本当か

理由②パフォーマンスと「自己肯定感」の高い低いとは、関係ない

しばしば「自己肯定感が低いと生きづらい」とか、「自己肯定感さえ高めれば、人生はうまくいく」といった表現が、自己肯定感を売りにしている人によってなされますが、実はこれには、あまり根拠がありません。

自尊心研究の先駆けであり、第一人者とされたロイ・バウマイスターによれば、アメリカでは彼が研究を始めた1970年代から、つまり日本で「自己○○感」がブームになるよりずっと以前から、自尊心の研究が盛んに行われていたといいます。

自分の能力と価値観に自信がある人ほど幸福になって成功するという研究があったためです。

しかしその後、アメリカの科学的な研究機関である心理科学協会で、それまでにあった何千という研究の中から、高い研究水準を満たすものだけを選び出して研究を行った結果、自尊心の高さと飲酒、喫煙、薬物、未成年の性行為、学業成績などは、あまり関係がないことが分かったのです。

■自己コントロール能力が人生を左右する

そして1980年代になると、自尊心よりも、自己調整(セルフ・コントロール)に多くの学者が目を向けるようになりました。

2010年、アメリカの著名な臨床心理士、テリー・エディス・モフィットがニュージーランドで始めた約1000人の子供を誕生から32歳まで追跡するという大規模な調査があります。

それによれば、自己コントロール能力が高かった子供は、成人してからの肥満率が低く、性感染症を持つ人も少なく、歯の状態もよいといった身体的な健康状態が良いことが確認できただけでなく、大人になってからも安定した結婚生活を営み、両親が揃った家庭で子供を育てる傾向が見られました。

一方で、自己コントロール能力が低かった子供は、アルコールや薬物の問題を抱えやすく、大人になってから経済的に貧しくなる傾向にあり、子供をひとり親家庭で育てる割合、刑務所に入る割合も高かったといいます。

家の廊下に一人で座る悲しい少年
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■多くの人を悩ます自己肯定感のジレンマ

腰が痛いとき、湿布を貼るのは対症療法です。

腰痛の根本原因には、生活習慣のみならず、心理的要因や、内臓疾患が潜んでいる可能性があります。湿布を貼ることによって、一時的に痛みが和らぐことはあっても、腰痛の根本原因が解消されることはありません。

このように、症状の根本ではなく、表面の症状に対処しようとする療法を対症療法と呼びます。

自分を否定し続けて苦しむよりも、自己肯定感を高めて「ありのままの自分を認める、受け入れる」ことが出来れば、確かに一時期心が和らぐことでしょう。

けれども、実際には、そこから自己肯定感を高めようとして、それができないことに悩んでしまう人が少なくありません。

今から2600年前のインドに、このジレンマに対する根本療法を発見した人がいました。ブッダです。

■ブッダが注目したのは「自己=エゴ」

自己重要感、自尊心、自己肯定感……さまざまな言葉が登場して、その時々の流行を作ります。

けれどもブッダは、そもそもこの自己「重要感、尊心、肯定感」といった後ろの言葉ではなく、「自己」の方に注目しました。

「自己○○感」の「○○感」の部分ではなく「自己」。

これが根本だからです。

ブッダはこの「自己」をエゴと呼んで、その病の根本療法を示しました。

エゴとは、「この世で自分を特別かつ、最も重要な存在として愛おしむ感覚」のこと。

エゴが満たされれば幸せ。これが満たされなければ不満。これが少しでも傷付けば、死にたくなる。

エゴを愛おしみ、エゴに固執するあまり、エゴの満不満によって、調子に乗ったり、落ち込んだりして、なすべきことに集中しない。なすべきことをなさない。

それを問題視したのです。

■「エゴ」への執着を手放すと、生きやすくなる

「自己肯定感」を指導するプロであっても、24時間、365日、自己肯定感が高いままの人はいません。

何かを高めれば高めるほど、落ちた時との落差が大きくなる。落差が大きければ、落ちた時のダメージも大きくなる。

天気がいい日も悪い日もある。それが自然。
気分がいい日も悪い日もある。それが自然。

自己肯定感は高い時も、低い時もある。それが自然。
自己肯定感は、高くても低くてもいい。

それが高かろうが低かろうが、明日は来るのですから。
それが高かろうが低かろうが、今日は二度と来ないのですから。

肯定感が高かろうが、低かろうが、やるべきことに集中する。なすべきことをなす。

苦しみの根本原因は、肯定感の高低にあるのではなく「自己」=「エゴ」にあるのです。肯定感が低くてはダメ、高くなくてはならないと思い込んでいる、エゴにあるのです。

自己=エゴへの執着を手放したとき、今日はもっと、生きやすくなることでしょう。

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大愚 元勝(たいぐ・げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数29万人、5400万回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、最新刊としてYouTube「大愚和尚の一問一答」のベスト版として書籍化した『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え 一問一答公式』(飛鳥新社)がある。

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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)

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