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中学受験に"倍速視聴"モードで臨み子供を潰す…コスパ・タイパ信仰の親が塾や家庭教師に真っ先に聞く愚問

プレジデントオンライン / 2023年1月13日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

中学受験する子のサポート役は母親という家庭が多いが、コロナ禍で父親が関わることも増えた。だが、それが裏目に出ることもある。プロ家庭教師の西村則康さんは「仕事モードのコスパ・タイパ思考で第一志望校合格までの近道を追求する傾向があり、そのやり方がかえって子供の成長の妨げとなってしまうこともあります」という――。

■コロナ禍で急に中学受験に関わりだした父親

近年、中学受験に熱心な父親が増えている。

特に、コロナ禍でリモートワークが浸透してからは、それまで子供の教育を母親に任せっぱなしだったことを取り戻すかのように、「父親である自分が頑張らねば」と前のめりになっているように感じる。現にここ2、3年、私のところにも父親からの相談が相次いでいる。そのこと自体は悪いことではない。しかし、彼らの多くはこう尋ねるのだ。

「何をやらせれば成績が上がりますか?」

中学受験といえば、これまで長い間、母親と子供の二人三脚が主流だった。一般論にはなるが、子供に対しての共感力は母親のほうが高く、「ちゃんと勉強しなさい!」「宿題はもう終わったの?」といった日々の小言はあっても、「いつも頑張っているね」「できなかった問題が解けるようになってよかったね」と子供の頑張りや成長にもちゃんと気づいてあげることができ、それはそれでうまくいっていたように思う。

一方、「共感」がベースにある母親と子供の関係性と違って、父親は子供に対しても「これをやるべき」「○○をしなければいけない」という思考になりがちだ。実績を出すことを常に求められるシビアな職場のモードそのままに子供の勉強に対しても「こうすれば、こういう結果になる」という因果関係を求めようとする。しかし、相手が小学生の子供であることを忘れてはいけない。

■中学受験にコスパを求める父親

結論から言ってしまうと、中学受験において「これをやっておけば成績が上がる」といった法則は存在しない。塾や家庭教師に安くはない額の費用を払っているのだから、なんとか成績を上げるのがあなた方の仕事だろう。そんなユーザー視点の発想は理解できる。

ただ、同じ受験でも大学受験なら、「この問題集をやっておくといい」というセオリーは今もあり、親自身の受験の成功体験を疑うことなく、そういう聞き方をしてしまうのだろうが、それは大学受験の話であって、中学受験では通用しない。

わずか11~12歳の子供が挑戦する中学受験に“絶対”はない。発達途中の小学生は一人ひとりの成長に差があり、同じ問題集を使っても成績をグングン伸ばしていく子もいれば、ある部分では伸びたけれど、他の部分ではまったく伸びない子もいれば、そもそも内容が難しくてお手上げという子もいる。

スコアテストの悪い子供とリビングルームの両親
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

また、その日の気分にもムラがあり、調子のいいときもあれば、まったく勉強が身に入らないときもある。大人に近い高校生ならば、たとえ気分が乗らなくても、「今、自分は受験生なのだ」という自制心が働き、頑張ることができるかもしれない。だが、小学生にはそれができない。「この問題集さえやれば、成績が上がる」というコスパを求めること自体が間違っているのだ。

今どきの若い世代は映画や動画を倍速視聴するという。タイムパフォーマンス(時間対効果)重視で、要はちゃちゃっとストーリーを理解して、はやりの作品のポイントをおさえたいのだろう。ずいぶんせっかちな話だとは思うが、そんなタイパ信仰を中学受験に持ち込まれたら困ってしまう。というか、それは無理な相談だ。

■子供が伸びる時期は今じゃないこともある

人は新しい物事を耳にしたとき、「なるほどね! そういうことか」と感動と共に知識を習得することもあれば、ただ受け身で聞いているだけのことがある。どちらに転ぶかは、既存の知識や経験の有無にもよるし、成長の度合いにもよるし、その日の気分にもよって変わってくる。つまり、“偶然”に左右されるところが大きいのだ。

また、子供の場合、学びへ向かうスイッチもいつ入るか分からない。受験勉強に熱心な父親ほど、勝ち負けで物事を考えたり、今やっていることの成果をすぐに求めたりするが、子供が今やっていることの結果なんて、すぐに出ないことのほうが多い。出たとしても数年後だったり、まったく別のことで出たりすることだってある。いろいろなことを学び、一つでも興味を持ったらそれで万々歳というくらいの気持ちでいたほうがいい。

ところが、コスパやタイパを求める父親は、「これをやればこうなるはずだ」と結果を急ぐ。「すぐすぐ」「いまいま」と短時間での成果を求める傾向があり、どこかの誰かが「いい」と言ったものに飛びつき、あれこれやらせてしまう……。

アジアの父親は、自宅でEラーニングコースを受講している子供たちを見ています。
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

ところが、親から「あれをやれ、これをやれ」と指示され続けると、子供は自分で考えることをやめてしまう。そして、言われた通りにこなす勉強になる。これこそが今の中学受験の問題点だと私は感じている。

■頑張っているわが子を認め、褒める

中学受験の目標は、志望校に合格することだ。しかし、第一志望校に進学できる子は全体の3割に過ぎず、その他大勢の子がそれ以外に進学することになる。では、第二~四志望校に行くことになったら、受験は失敗なのかというとそんなことはない。

たとえ第一志望校に行けなくても、受験勉強の過程で身につけた学習習慣や知識はその後に生かすことができるし、目標に向かって努力した経験は一生の宝となる。あと伸びして、中学は第一志望の学校でなくても、その後、一流の大学に合格したという教え子はたくさんいる。

だから、中学受験で思うような結果が出なくても悲観する必要はないし、中学以降で伸びるための力を身につけることができたと胸を張って前へ進んでほしい。

だが、そういう気持ちになれるかどうかは、親の関わりにかかっている。「○○をやれば○○になる」という結果ばかりに目を向けられてきた子は、第一志望校に行けなかったとき挫折感だけが残る。

一方、成長のスピードはゆっくりでも「毎日勉強を頑張っているね」「前はできなかった問題が、こんなにスラスラ解けるようになったね」と日々の頑張りや成長に目を向けられてきた子は、「自分の努力は結果につながっていくんだ」ということを実感でき、たとえ第一志望校に進めなくても、「また頑張ろう」という気持ちを持ち続けることができるだろう。

中学受験で結果だけを求めようとせず、子供の成長や“偶然”を待てる親になってほしい。なぜなら、中学受験は人生の通過点の一つであって、ゴールではないからだ。締め切りや納期が決まっている仕事と違って、さまざまな偶然や本人の頑張りによって芽を伸ばしていく教育は、スピード感がまったく違うことをぜひ知っておいてほしい。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康)

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