これなら言い争いをせずに済む…「面倒くさい家事」を相手に頼みたい時のとっておきのフレーズ
プレジデントオンライン / 2023年1月12日 10時15分
※本稿は、犬塚壮志『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』(サンクチュアリ出版)の一部を再編集したものです。
■「家事手伝ってよ」と言われてもピンとこない
「休みの日くらい、少しは家事を手伝ったらどうなの?」
「こっちも仕事なんだから、先に帰ってきたならこれくらいやってくれていいんじゃない?」
「ゴミ出しやっただけで、“やった感”出さないでよ。誰がゴミ袋に詰めたと思ってるの?」
どれも家事に関する言い争いでよく聞くフレーズです。
夫婦共働きが当たり前の今、家事の分担は家庭の平和を守る重要な事項。特に年末年始のお休み、夏休みなど、お互いが家にいて、それぞれの行動がよく見えるときほど、衝突が生じます。
でも、できれば疲れる言い争いは避け、お互いに納得のいく落としどころをみつけたいもの。そこで、家事をしてほしい側と、家事を面倒くさがる側で分かれたとき、モメずに済むちょっとしたコツを紹介します。
基本的に家事を面倒くさがる側は、自分が家事をするという当事者意識に欠けています。その相手に冒頭のようなフレーズをぶつけても、ピンときません。
「少しは家事を手伝ったらどうなの?」「これくらいやってくれていいんじゃない?」と言われても、すべきことや範囲がわからないからです。当然、「そんなこともわからないの?」と腹が立ちますが、ここはぐっとこらえましょう。
■お願いするのではなく、選ばせるのがいい
大事なのは、相手に動いてもらうこと。そこで、こんなふうに聞きます。
「お風呂の掃除と洗濯モノを干すの、どっちだったらできそう? どっちもできる?」
「ゴミ箱のゴミを全部集めてゴミ袋にまとめるのと、ゴミ出し、どっちがいい?」
つまり、「何かやって」ではなく、「この中のどれがいい?」と質問するわけです。
すると、相手はその選択肢の中から選ぼうと思考が働きます。
その結果、言い争いを避けながら、してほしい家事を分担することができるのです。
じつは、このやりとりにはある“交渉のテクニック”が使われていて、その効果はさまざまな場面で応用することができます。
「今日の晩ごはんだけど、豚肉、鶏肉、牛肉。どれを食べたい?」
私たちはこんなふうに質問されると、なんとなく魚を食べたい気分だったとしても、3つのお肉のいずれかを選んで答えてしまいます。
これはその場での注意が選択肢に向き、物事の判断に強い影響を与えるからです。
この心理を知っていると、あらゆる交渉で優位に立つことができます。
なぜなら、こちら側が選択肢を用意することで、相手の判断をその選択の枠に囲い込むことができるからです。
■「オルタナティブ・チョイス・クローズ法」を試してみよう
たとえば、あなたがセールスの仕事をしているとして、なかなか売上が伸びない悩みを抱えているとしましょう。自分のセールストークを振り返ってみたとき、相手に買わない選択肢を残してしまっているとしたら、すぐに状況を改善することができます。
相手に示す選択肢を「買う理由」だけにするのです。
・しかも、この商品を買うことで、買い手の悩みが解消することを示す
・さらに、買った後、不満があれば返品できることを伝える
買い手が3つの選択肢のどれに惹かれたとしても、相手には「自分で決めた」という感触が残り、誘導されたとは気づきません。もちろん、それでも購入を見送る人は出てきますが、それでも売約率は高まるはずです。
このように、こちらで選択肢を用意し、相手がそのどれかを選んだ時点で合意の意思表示をしたことにさせてしまう手法を「オルタナティブ・チョイス・クローズ法」といいます。
選択のさせ方や選択肢の見せ方によって人々の選択が変わること、また、その傾向を利用して人々の選択を誘導できることは「選択アーキテクチャ」(Thaler,2008)と呼ばれています。
アーキテクチャとは構造や構築のこと。つまり、人は「選択」するとき、選択肢の数やその順番、選択する回数といった要素の組み合わせから意思決定に影響を受けることが科学的に証明されているのです。
■察しの悪い相手には「動く選択肢」を与える
とはいえ、私たちは日常のほとんどの選択を、過去の経験から「なんとなく」行っています。
たとえば、今日の夕食のメニューを決めるとき、急に今まで食べたことのない選択肢が浮上することはまずありません。基本的には、普段食べているメニューの中から、しょうが焼きを選んだり、ピザに決めたりしているのです。
同じように、普段、家事をしない人は状況を察して自ら動く選択肢が思い浮かびません。
こうした現状維持を破るのが他者から与えられる「選択アーキテクチャ」です。
相手を思うように動かしたいのであれば、どれを選ばれてもあなたは損をしない選択肢A、B、Cを用意しましょう。それを「今日の夜、豚肉、鶏肉、牛肉、どれを食べる?」くらいの自然さで、「ここから選んで当然」という雰囲気とともに相手に示すのです。
すると、相手は無意識のうちに交渉の優先権をこちらに委ねてくれます。
「お風呂の掃除と洗濯モノを干すの、どっちだったらできそう? どっちもできる?」も立派な「オルタナティブ・チョイス・クローズ法」です。
■あれもこれも…選択肢を増やすのは逆効果
ただし、このテクニックを使う上で注意点が1つあります。
それは、相手に提示する選択肢を増やしすぎないようにすること。選ぶ行為そのものは脳にとってストレスで、非常に多くのエネルギーを消費させるため、選択肢が多すぎると相手が決断を先送りしたり、交渉の場から離れてしまったりするからです。
人が自信を持って選べるのは、4~6個までといわれています(Iyengar & Lepper,2000)。また、口頭のみで選択肢を示す場合には、脳の「ワーキングメモリ(作動記憶)」を圧迫してしまう可能性もあるため、相手に提示する選択肢は2~6個までに絞りましょう。
なお、ワーキングメモリとは、「なんらかの作業を行いながら、そのために必要な情報を一時的に保存する記憶」のこと。
「この人は部屋が散らかっているのに家事もせず、ソファでゴロゴロして……本当にムカつく」からといって、「テレビを消して、読んだ本を片付けて、掃除機をかけて、飲みかけのコップを洗って、その後は洗濯とゴミ出しとベランダの掃除もして」とやってしまうと、ひとつも満足に仕上がらず、ますますイライラすることになりかねません。
相手が選べる選択肢を用意してあげるやさしさが、よい結果につながります。
■極端な二者択一を迫る相手をかわすには?
最後に、「オルタナティブ・チョイス・クローズ法」から身を守る方法について説明しましょう。
相手からあたえられた偏った選択肢の中から選択し、誤った判断をしてしまうことを「誤前提暗示」といいます。特に、交渉の場で極端な二者択一を提示された場合には注意が必要です。「この条件を受け入れてもらえたら契約を続けますが、そうでなければ契約解除です」と。
このような極端な選択を迫(せま)られ、選ばされてしまうことを「二分法の罠」といいます。誤前提暗示が働く中で二分法の罠にかかると、相手からの条件を受け入れる以外の選択はできなくなります。
したがって、偏った選択肢を提示されていると感じたときは必ず、「これ以外の選択肢はないのでしょうか?」と質問しましょう。相手が「ない」と回答してきたら、「なぜ、他の選択肢はないのですか?」と他の選択肢が用意されていない理由を問います。
■家事の提案は素直に受け入れたほうがいい
そのうえで、相手が提示してきた選択肢のどれにも納得できないようであれば、「ちなみに、この○○という案はいかがでしょうか?」と逆にこちら側から新たな選択肢をつくって提示するのもひとつの手です。
相手はあなたを陥れようとしているのではなく、単に選択肢をつくる能力が不足しているだけという可能性もあります。まずは、相手が出してきた選択肢から必ず選ばなくてはいけないというメンタルブロック(心の障壁)を壊しておくことが重要です。
交渉の余地はあると思えばあるということを、ぜひ肝に命じておいてください。
とはいえ、パートナーがあなたに現実的な選択肢とともに家事の分担を求めてきたときは、「ちなみに、この○○という案はどうかな?」と打ち返すのは控えたほうがいいかもしれません。
家事に不慣れなあなたが自覚していないミスの積み重ねで、相手のイライラはピークに達している可能性があります。提示されたのが極端な二者択一だと感じたとしても、円満な関係性を維持するためにも、そこは素直に受け入れ、求められた選択の中から確実にこなせる家事を選び、行動に移すことをオススメします。
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教育コンテンツプロデューサー/士教育代表
福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。大学在学中から受験指導に従事し、駿台予備学校の採用試験に25歳の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備学校時代に開発した講座は、超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる。2017年、駿台予備学校を退職。独立後は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成・営業代行をワンオペで請け負う「士教育」を経営する。著書に『あてはめるだけで“すぐ”伝わる 説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)、『理系読書 読書効率を最大化する超合理化サイクル』(ダイヤモンド社)がある。
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(教育コンテンツプロデューサー/士教育代表 犬塚 壮志)
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