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日本製EVではまったく歯が立たない…中国発のBYDが「世界最強EVメーカー」として市場を席巻できる理由

プレジデントオンライン / 2023年1月16日 9時15分

BYD「ATTO3」 - 写真提供=BYD

海外製のEV(電気自動車)が続々と日本に上陸している。『日本車敗北』(プレジデント社)の著者で元東京大学特任教授の村沢義久さんは「ついに世界最強EVメーカーである中国BYDの『ATTO3』が日本市場に入ってくる。日本のメーカーでは太刀打ちできない恐れがある」という――。

■「EVの王者」BYD

2022年12月5日、中国BYDはEV「ATTO3(アットスリー)」を、2023年1月31日より日本で発売すると発表した。価格は440万円。

BYDは2022年7月に3車種のEVを日本市場に投入すると発表していたが、「ATTO3」はその第1号となる。

BYDは1995年に王伝福氏により中国・深圳市でバッテリーメーカーとして創立された企業だ。正式名称は比亜迪股份有限公司(略称:比亜迪またはBYD)。

実際に電動車を製造・販売しているのはBYDの子会社、比亜迪汽車(BYD Auto)であるが、本稿では、両社を実質的に一体と見て共にBYDという略称で話を進めることとする。

筆者は、2017年にBYD本社を訪問、PHV「唐」に試乗させていただいた。前年中国市場でベストセラー電動車になった車だ。そのスムーズな出足、加速性能、完成度の高さに感激し、「これは日本でも売れる」と確信した。

あれから5年、BYD製EVがついに日本にやってくる。

今回日本市場に投入する「ATTO3」は、ミドルサイズのSUVで、2022年2月に「元プラス」の車名で中国で発売されたもの。EV専用プラットフォーム「e-Platform3.0」にBYD独自開発の「ブレードバッテリー」を搭載、モーターの最高出力は150kW、最大トルクは310Nmである。

日本向けモデルのバッテリー容量は58.56kWh。航続距離はWLTC基準で485kmと発表されているが、筆者はEPA基準換算で大体340km程度と推定している。

■「BYDがトップに立つ」

「ATTO3」のデザインは、BYDのチーフデザイナーであるヴォルフガング・エッガー(Wolfgang Egger)氏率いるチームが担当した。

筆者は2018年の北京モーターショーでエッガー氏と話したことがある。

彼は「自動車産業の将来はEV100%で決まり」「BYDがトップに立つ」「これからは車のデザインも中国がリードし世界がまねるようになる」、という話をしてくれたのだが、彼の発言通りになりつつある。

BYDチーフデザイナーエッガー氏(2018年北京モーターショーにて)
筆者提供
BYDチーフデザイナーエッガー氏(2018年北京モーターショーにて) - 筆者提供

筆者がBYDという会社を最初に意識したのは2007年ごろのことだ。当時BYDはアメリカのテスラ、日本の三菱、日産などと共にEV開発の先陣争いで鎬(しのぎ)を削っていた。

この先陣争いでトップを切ったのはテスラで、2008年に華々しく「ロードスター」をデビューさせた。

BYDも同じ年に電動車を出したが、それはBEVではなく世界初の量産型プラグインハイブリッド車(PHV)「F3DM」であった。

BYDが初のBEVである「e6」を世に出したのは翌2009年のことである。

BYD「e6」
写真提供=BYD
BYD「e6」 - 写真提供=BYD

■2023年にはスズキの販売台数を超える

その後のBYDの急成長ぶりは驚異的だ。

2022年9月の同社の電動車(EV+PHV)の販売台数は20万台を突破。実に、前年同月比で2.9倍という好成績だ。

2022年通期の販売台数は約180万台になる見通しで、2023年には300万台に達しそうだ。予想通りに行けば、スズキ(2021の販売台数276万台)を上回り、世界の自動車販売ランキングでトップ10に入ることになる。

ライバルであるテスラも、2022年の販売台数は昨年比40%アップの131万台、2023年も50%以上増加し200万台に達するという予想だ。

【図表】メーカー別世界電動車販売台数トップ10(2022年1〜9月)

ここまでの成長ペースを考えると、今後数年でBYD、テスラともに生産・販売台数が500万台に達すると考えられる。

世界のEV化の波に大きく乗り遅れた日本車メーカーは、ほとんど実績のないままこれらの巨人を相手に苦しい戦いを挑むことになる。

日本の自動車産業を守るためには、国のリードで国内のEV市場を活性化させるとともに、各メーカーが世界に通用するEVを全力で開発することが必須となる。

■強さの秘密は「EV用バッテリー」

最大の強みは、BYD(の親会社が)が有力なバッテリーメーカーであることだ。

【図表】EV用バッテリー世界シェア(2022年)1~11月

世界のEV用バッテリーメーカーを見てみると、2022年1~11月の販売シェアで中国のCATLがダントツのトップ。上半期まで3位だったBYDは、最近急速にシェアを伸ばし韓国LGエナジーを抜いて2位に上がっている。このペースで行けば2023年には1位CATL、2位BYD、3位LGエナジーというランキングになるだろう。

BYD製EVの最大の特徴は、「e6」の時から一貫してリン酸鉄リチウムイオン(LFP)系の電池を使っていること。

LFP電池は安価で安全性が高いのが特長だが、以前は単位重量当たりの蓄電容量が小さいという弱点があり、他のEVメーカーは積極的に採用しなかった。

しかし、最近の急速な技術の進歩により、3元系(NMC)電池と変わらない蓄電容量を実現できるようになった。

特に注目されているのが、新設計の「ブレードバッテリー」。薄く長い形状によりパックへの装填密度を高くできる。そのため、単位容積当たりの蓄電容量が大幅にアップし、BYD製EVの性能向上に大きく貢献している。

BYD「ATTO3」
写真提供=BYD
BYD「ATTO3」 - 写真提供=BYD

■コスパ重視なら「ATTO3」に軍配

日本市場で「ATTO3」のライバルとなる主なEVは、同じSUVタイプの日産「アリア」、テスラ「モデルY」、ヒョンデ「IONIQ5」、VW「ID.4」だ。

日産「アリア」
日産「アリア」

これらEVの主要スペックを並べて比較してみると図表3のようになる。

【図表】EV-SUVの比較(「Atto3」は日本向けモデル、その他はベースグレード)

この中からどれを選ぶかは、ユーザーの懐具合と優先順位による。ただ、筆者のように限られた予算の中でコストパフォーマンスを重視するユーザーの場合、一番安い「ATTO3」を基準に、他の車と比較していくことになるだろう。

消去法で最初に除外するのは「ATTO3」より約140万円も高い「モデルY」だ。テスラブランドに対する憧れは強いのだが、残念ながら、性能的にも価格的にも別格と考えて諦める。

次に、約100万円高い「アリア」も除外することになる。

価格とスペックを総合的に評価すると決して悪くないし、国産であることの安心感もあるのだが、「特徴がない割に高いな」という感じが否めない。

従って、チョイスは、「ATTO3」「IONIQ5」「ID.4」の3モデルということになるのだが、よく似たスペックなら結局は価格勝負。となると、他の2車種より約40万〜60万円安い「ATTO3」が第1候補ということになる。

このように検討してみると、「ATTO3」のコストパフォーマンスは非常に魅力的であり、日本でもかなり売れるだろうと考える。

一方、日本人として心配なのが日産だ。「アリア」は「特徴のなさ」が災いしてか、ライバルたちと比較して全く存在感がない。2022年1〜10月の世界の電動車販売ランキングでも、「モデルY」がダントツ1位、「ID.4」が9位、「IONIQ5」も16位に入っているのに対し、「アリア」はランキング外だ(「ATTO3」はまだ発売されてから日が浅いため比較の対象外)。

かつては世界1位だった「リーフ」もトップ20位にすら入っていない。日産は世界のライバルを意識した特徴あるEVを出す必要があるだろう。

BYD「ATTO3」が日本のEV産業を目覚めさせる黒船になってくれることを期待する。

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村沢 義久(むらさわ・よしひさ)
元東京大学特任教授、環境経営コンサルタント
1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了(情報工学専攻)。スタンフォード大学経営大学院にてMBAを取得。その後、米コンサルタント大手、ベイン・アンド・カンパニーに入社。ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン日本代表を経て、ゴールドマン・サックス証券バイスプレジデント(M&A担当)、モニター・カンパニー日本代表などを歴任。2005年から2010年まで東京大学特任教授。2010年から2013年まで東京大学総長室アドバイザー。2013年から2016年3月まで立命館大学大学院客員教授を務める。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)、『日本経済の勝ち方 太陽エネルギー革命』(文春新書)、『電気自動車』(ちくまプリマー新書)、『手に取るように地球温暖化がわかる本』(かんき出版)など多数。

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(元東京大学特任教授、環境経営コンサルタント 村沢 義久)

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