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再び中国からコロナが世界にばら撒かれる…習近平の「コロナ放置政策」の巨大リスク

プレジデントオンライン / 2023年1月12日 10時15分

2022年12月31日、新年のあいさつを発表する習近平氏。 - 写真=中国通信/時事通信フォト

中国でコロナ感染が再拡大している。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「習近平総書記はあえて積極的な抑止策をとっていないように見える。世界中に再び感染を広げるリスクがあるが、日本にとってはチャンスでもある」という――。

■「ゼロコロナ」緩和で中国国民が移動し始めた

中国は今、新型コロナウイルスの再拡大で極めて厳しい局面に直面している。

習近平指導部が続けてきた厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ政策」(中国語で「動態清零」が全面的に緩和されてから1カ月半になる。1月8日からは、中国国民の海外渡航も段階的に再開され、中国国民の出国制限や帰国後の隔離がなくなり、香港でも中国本土への渡航が1日6万人(中国籍の市民のみ)を上限に許可された。

しかし、筆者が、北京、上海、香港の識者に取材する限りでは、中国のコロナ事情は悪化の一途をたどっているというほかない。

「お金を落としてくれるのはありがたいが、正直、今は来て欲しくない」

 これは、東京・浅草の商店街で聞かれた声だが、中国政府がいくら反発しようと、日本政府は中国からの渡航者に対する水際対策を維持すべきだ。それほど中国の実情はひどい。

■ほぼ国民全員が感染していてもおかしくない

「今では『もう感染した?』が日常のあいさつになっています。行動制限がなくなり、平常な生活が戻りましたが、それも一瞬。感染を恐れて街から人がいなくなりました。車での移動が増え渋滞が深刻化しています」

こう語るのは、北京に住む清華大学の研究者だ。彼によれば、清掃業者や宅配業者にも感染者が急増したため、ゴミ収集所にはゴミがあふれ宅配物も届かない毎日だという。さらに彼はこう続けた。

「北京よりも地方は医療体制が脆弱(ぜいじゃく)。すでに国民の80%から90%が感染しているのではないでしょうか?」

もちろん推測の域を出ないが、中国疾病予防センターの首席科学者、曽光氏も、2022年暮れの時点で、「首都・北京での感染率は80%を超えた」との見解を示している。

その中国疾病予防センターでは、日々、感染者数を公表している。ただ中国は、従来WHOなどから「実数を過少申告している」と指摘され続けてきた。加えて今は大規模なPCR検査が実施されていないため、感染がどこまで広がっているのか把握するのは困難だ。

こうしてみると、今や14億人を超える中国国民のほぼ全員が感染していると考えても差し支えないかもしれない。

■再び、中国から世界へウイルスが広がる

中国で感染が拡大しているコロナウイルスは、感染力が強いオミクロン株の変異型で、アメリカで猛威を振るい始めた「XBB.1.5」も含まれる。

「高熱が出て倦怠(けんたい)感もひどく、しばらく休職しました。個人差はあるにしても毒性が強いウイルスだと感じました」(上海在住テレビディレクター)

もっともWHOなどはこれらの変異株の毒性について「従来の変異株より重いとは言えない」と分析している。しかし、感染力が強いことは確かで、これが、延べ21億人が帰省や旅行に出かけるとされる春節(2023年1月21日から始まる大型連休)を経て国際社会に広がれば、中国・武漢からウイルスが世界に広がった3年前と同じ事態を招きかねない。

こうした中、香港中文大学の教員、小出雅生氏は筆者の問いに、香港市民から相次いで上がっている本音を紹介してくれた。

「中国本土との往来が再開されれば、香港は感染者だらけになる」
「中国本土から来た人たちに買いあさられ、薬局から薬がなくなってしまう」

■コロナを放置する習近平総書記の“思惑”

こうした中、注目すべきは習近平総書記の思惑である。

習近平総書記は、2023年の新年のあいさつで、自身の「ゼロコロナ政策」の成功を強くアピールしてみせた。

「苦しい努力を経て、我々は前代未聞の困難と挑戦に勝利した」

つまり、「ゼロコロナ政策」をとったからこそ国民の生命と健康を守れたと自画自賛したのである。その上で、「防疫体制は新たな段階に入った」と政策の転換を正当化した。

しかし、コロナ感染者の爆発的な拡大を招いているのは、習近平指導部が拡大を食い止めるための努力を全くしていないためだ。

「ゼロコロナ政策」が遂行されていた期間には、中国共産党最高意思決定機関の中央政治局や政治局常務委員会が幾度となくコロナを議題にした会議を開催してきた。

ところが、2022年12月7日、政治局の会議で「ゼロコロナ政策」を方針転換させて以降、目ぼしい会議は開催されていない。あれほど国民の基本的人権や自由を縛る政策を推し進めてきたのがうそのように無為無策。言うなれば「放置政策」をとってしまっている。

この背景には、2022年11月、「ゼロコロナ政策」に反発する国民の抗議行動が中国全土に波及し、習近平体制を揺るがしかねない規模になったことがある。

■効き目のない中国製ワクチン接種を奨励

筆者が注目したのは、習近平が新年のあいさつを収録した執務室に、江沢民、胡錦濤といった歴代の総書記経験者と一緒に映った写真が飾られてあったことだ。これは、国内のさまざまな声に配慮し、団結を求める意図があったからにほかならない。

さらに背景を探れば、国民全員を感染させることでウイルスの変異株への免疫をつける狙いがあったとも考えられる。

中国政府はワクチン接種を奨励しているが、習近平総書記は、シノバックをはじめとする中国製ワクチンに効き目がないことなど百も承知だ。

しかし、そのワクチンと「ゼロコロナ政策」で国民の生命を守ったと自画自賛した以上、今さら欧米に「ワクチンをくれ」などとは言えない。

だからこそ、習近平指導部は、日本や欧米諸国などが複数回のワクチン接種によって集団免疫をつけようとしているのとは対照的に、あえて対策をとらず、自然感染によって同じ効果を狙っているのではないだろうか。だとすれば、中国の国民は気の毒と言うしかない。

2021年2月、中国・上海の南京路を歩く人々
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

■“異例の3期目”で注目すべき人事

2022年10月の共産党大会で異例の3期目に突入した習近平総書記。彼にとっては、どんな手を使ってでも早期にコロナを抑え、国内経済を再生させることが最優先課題になる。それが国民の反発を和らげ、権力基盤を盤石なものにする特効薬になるからだ。

ただこれだけでは、マイナスをゼロに戻すだけのことだ。自身が目指す「中華民族の偉大なる復興」、すなわち台湾統一は実現しない。

そこで注目すべきは、外相だった王毅を共産党中央外事工作委員会弁公室主任に据えた人事である。

共産党が全ての上に立つ中国では、この主任ポストが外相より格上になる。つまりこの人事は、習近平総書記に忠誠を尽くし、「戦狼外交」と呼ばれる強気の外交を続けてきた王毅が中国外交のトップとなったことを意味している。

さらに注目は、香港行政長官として、2019年の香港の民主化デモを鎮圧した李家超を起用した点だ。李家超はこのときから習近平総書記の信頼を得て、側近の1人になったとされる人物である。

■台湾統一に動くまでの猶予は1~2年

習近平総書記は、国民にコロナに対する集団免疫をつけさせる「放置政策」と並行して、王毅を通じ対外的に中国に有利な状況を作らせ、李家超に香港の「1国2制度」を完全に骨抜きにさせようとしている。

そして、コロナ抑制にメドがつき、2024年1月の台湾総統選挙の結果や同年11月のアメリカ大統領選挙の展望を分析しながら台湾統一に乗り出す、と筆者は見る。

そのため日本やアメリカからすれば、中国国内でコロナ感染が爆発し、習近平総書記が足踏みせざるを得ない状況は、ある意味チャンスだと言える。

この1~2年の間に、離島防衛をはじめサイバー戦や宇宙戦に備えた協力関係を強化し、有事に即応できる体制を作り上げられるからだ。日米が結束し防衛体制を構築できれば、それが「おいそれとは侵攻できない」と思わせる抑止力にもなる。

■岸田外交は「合格点」を取ることができるか

岸田首相は2023年の年明け早々、欧米5カ国歴訪をスタートさせた。その最大の目的は、言うまでもなく、5月19日から21日までの日程で開催される地元・広島でのG7サミット(先進7カ国首脳会議)に向けた地ならしである。もっと言えば、中国、ロシア、北朝鮮の専制主義の軍事国家に対し、民主主義国家の結束を示すという狙いも込められている。

なかでも、1月13日に行われるアメリカ・バイデン大統領との日米首脳会談は極めて重要な意味を持つ。

日本政府は2022年の暮れ、「反撃能力」の保有を明記した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の防衛3文書を改定し、防衛費も今後5年間で43兆円規模(来年度の防衛費に関する予算は過去最大の6兆8000億円)にまで増やすことを決定した。

これは、2022年5月、東京都内で行われた日米首脳会談で、岸田首相がバイデン大統領に約束した「相当額の防衛費増額」を忠実に実行したことを意味する。

岸田首相は自らの言葉でバイデン大統領に「約束を守り、安全保障政策を大幅に転換しましたよ」と説明し、その賛同を得て、日米の結束をアピールする共同文書を発表できれば「合格点」ということになる。

■政権浮揚策が「お得意の外交・安保」

もっとも、防衛費の増額をめぐっては、1月23日から始まる通常国会で、野党側から「防衛費増額分の財源問題」や「反撃能力の保持と専守防衛という基本路線との矛盾」を追及されることになる。

それでも、欧米歴訪で成果を上げられれば、秋葉前復興相、山際前経済再生相、寺田前総務相、それに葉梨前法相、杉田前総務政務官の相次ぐ更迭劇により、永田町で「秋の山寺、枯葉散る。杉の根元の水飲めず」などと揶揄(やゆ)され、内閣支持率が30%前後にまで落ち込んだ惨状はいくらか挽回できるだろう。

岸田首相は、今年4月、任期満了で勇退する日銀・黒田総裁の後任人事、統一地方選挙、そして衆議院補欠選挙(千葉5区、和歌山1区、山口4区)というヤマ場を迎える。

それまでの岸田首相の政権浮揚策は、防衛費増税前の衆議院解散をちらつかせて政局の主導権を握ることと、「春闘での賃上げ」ならびに「得意とする外交・安保」しかないのだ。

■バイデン大統領にとっても外交は切り札

一方のバイデン大統領にも事情がある。

バイデン大統領は、北米首脳会議開催とアメリカ議会開幕という過密なスケジュールの中、岸田首相をホワイトハウスに招き入れる。

ホワイトハウス
写真=iStock.com/lucky-photographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lucky-photographer

これは、2022年12月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領による電撃訪問を受け入れたことに続くものだ。

80歳と高齢のバイデン大統領は、まだ2024年の次期大統領選挙に出馬するかどうかを明確にしていないが、アメリカ国内での世論調査では、「バイデン大統領の再立候補を望まない」とする声が過半数を超えている。

その最大の要因は未曽有のインフレだが、これは一朝一夕には改善できない。2023年、国際社会が陥るとされるリセッション(景気後退)もバイデン政権だけでは対処が難しい。

しかし、外交であれば、これらの会談によって、ロシアと中国を強く牽制し、「強いバイデン」を国内外にアピールできる。つまり、バイデン大統領にとっても切り札となるのは外交ということになる。

台湾統一は習近平総書記にとっても、日米にとっても負けられない戦になる。迎え撃つ形となる日本やアメリカにとっては、習近平指導部の「コロナ放置政策」によってできた1~2年の猶予が、まさに勝負どきなのだ。

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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。在京ラジオ局入社後、政治・外信記者。米国留学を経てニュースキャスター、報道ワイド番組プロデューサーを歴任。著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)『台湾有事』、『安倍政権の罠』(いずれも平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『中学受験』(朝日新書)、ほか多数。

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(政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師 清水 克彦)

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