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こんなルールは野球嫌いを増やすだけ…少年野球の「盗塁ルール」は今すぐ見直すべきである

プレジデントオンライン / 2023年1月14日 15時15分

筆者撮影

少年野球では「盗塁」が非常に有効だ。だが、それでいいのだろうか。スポーツライターの広尾晃さんは「少年野球での盗塁は禁止したほうがいい。指導者たちがこの問題に目を背けている限り、日本球界に未来はない」という――。

■小学生の野球で議論になっている「盗塁問題」

小学生レベルの野球で「盗塁を認めるか、否か」という問題が、静かな議論を呼んでいることをご存じだろうか?

現在の小学生の野球大会では、指導者が先頭打者の子どもに「バットを振るな、待て」と指示するチームがしばしばある。小学生投手の制球力は心もとない。バットを振らないと、かなりの確率で出塁できる。塁に出た子どもはすぐに走るのだ。小学生捕手の肩は弱いから、ほとんど盗塁に成功する。あるいは野手がボールをそらすことも多く、走者が一気に本塁に帰ってしまうこともある。

実力差があるチームの場合、初回から「四球→盗塁→守備の乱れ→得点」が「無限ループ」になって、早々に大差がついてコールドゲームになることもある。

「つないで点を取るのは日本野球の伝統なのだから問題ない」
「子どもの野球だって勝負事なんだから、弱ければ負けるのは当然のことだ。悔しかったらうまくなればいい」

という意見がある一方で、

「試合前の練習を見れば、実力差は明らかなんだから、そこまでする必要ないだろう」
「そもそもこのレベルで盗塁は必要なのか?」

と反論する人もいる。

「小学生試合の盗塁は是か非か」は、かなり大きな議論になっているのだ。

しかし筆者は、そうした現場の問題の背景に、日本野球界の深刻な問題が横たわっていると考えている。

■子どもの野球人口は激減

40歳以上の大人が小学生の頃は、夜になればどこの家庭でもプロ野球のナイター中継があり、父親はそれを見ながらビールを飲むのが「日常」だった。野球は取り立てて意識しなくても子どもの頭に入っていったものだ。

しかし21世紀に入って、地上波での野球中継が激減するとともに、サッカーやバスケットボールなど「子どものスポーツの選択肢」が増えて、野球は「子どもの好きな遊び」ではなくなっていく。

青少年のスポーツ団体である「スポーツ少年団」のデータによると、2002年3月の小学生の軟式野球競技人口は15万9659人だったが20年後の2022年3月の10万7033人と33%減少した。

しかしこれはユニフォームを着て正式に野球をする野球選手の数字であり、昔はそれ以外に「空き地で野球遊びをする子ども」がたくさんいた。

野球のユニホームを着た3人の少年
写真=iStock.com/RichVintage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichVintage

漫画「ドラえもん」では、のび太やジャイアンは空き地にバットやグローブを持って集まり、野球遊びをしていたが、そういう統計には含まれない「野球好きの子ども」が、ユニフォームを着た「野球選手」の数倍はいたのだ。

空き地がなくなり、公園での球技が禁止され、さらには地上波で子どもがナイター中継を見なくなるとともに小学生の「野球遊び」はほぼ絶滅した。

■競技が成立しない状況

昔は野球遊びで飽き足らなくなった子どもや、親が熱心だった子どもがスポーツ少年団などに入って本物の野球を始めた。

今は「野球がやりたい」と思った子どもは、どんな初心者であれ本物の「野球チーム」に入らなければならない。そして選手の絶対数が不足する中で「まだボールを投げたり捕ったりすることが十分にできない」レベルの子どもたちもユニフォームを着て、試合に出ることになるのだ。

小学生のレベルでも、盗塁を阻止できるようなスキルを持った選手も少数ながらいる。昔の少年野球はそういうハイレベルな子どもたちの活躍の場だった。しかし競技人口が減った今は初心者以前の子どもから上級者までが一緒に試合をしているのだ。

小学生の「走り放題」は、すそ野が枯渇する中で、小学生世代で「野球」という競技が成立しなくなる「前兆」だと言ってよい。

■タバコを吸い、酒を片手に指導する監督

もう一つ、指導者の問題がある。

日本の野球界では「年齢が下がるとともに、指導者のレベルも下がっていく」と言われる。

野球界には全世代、プロアマを統括するような団体がなく、指導者ライセンス制度も確立していない。

小学野球の指導者の中には「子どもが野球を始めたのをきっかけに指導者になり、そのまま指導を続けている」ような人がいる。

指導者講習会などにもあまり行かず、スポーツ医学の知識も少なくただ自分の経験だけで指導をしている人が相当数いる。

年齢も高めだ。中には昔の「巨人の星」よろしく「ど根性で勝利を目指す」指導者もいる。ベンチでタバコをくゆらしたり、ひどいケースでは缶ビールを片手に指導する監督もいる。

たばこを吸う高齢者
写真=iStock.com/Juanmonino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juanmonino

そういう指導者のほとんどが、ボランティアだ。「無給で教えてやっている」という意識があるから自らアップデートすることもない。

この手の指導者の中には「目先の勝利」を優先する人が多い。「○○大会で優勝した」「全国大会に出場した」みたいな実績を求めて、子どもたちに無理を強いる指導者がいるのだ。

彼らが、対戦相手のレベルが低いとみるや「楽にコールド勝ち」するために「四球→盗塁→守備の乱れ→得点」の「無限ループ」をさせるのだ。

そして相手投手を委縮させるために「ピッチャーノーコンだよ!、(ストライク)入んないよー」とやじったり、「そら走った!」とバッテリーを惑わせる声をかけたりする。それも、みんな大人が教え込むのだ。

「無限ループ」をされたチームは「野球をしている」という実感もないままに敗退する。嘲笑され、罵声を浴びせられ「二度と野球なんてするか」と思う子がいても不思議ではないし、「こんなひどいスポーツさせたくない」という親も出てくる。

一方で、こうした「勝利至上主義」の指導者を、もろ手を挙げて支持する親もいる。「あの監督は子どもに勝負の厳しさを教えてくれる」「何が何でも勝つという根性を叩き込んでくれる」、そして「厳しくやってください」「遠慮なく叱ってください」と言う。監督もその気になってさらに「おらおら」で子どもを指導するのだ。

■「君たちはスポーツマンシップを知らないのか?」

そういう指導者が、自分たちの「勝利至上主義」はおかしいのではないか、と気が付くのは海外遠征に行った時だ。

海外へ行ってもそういう指導者は、相手が弱いとみると「無限ループ」を発動し、圧勝する。試合が終わると、相手の監督が近づいてくる。

「お前たちは確かに強いが、俺たちはお前たちみたいな試合は絶対にしない」

言葉はよくわからなくても、怒気を含んだ口調で何を言っているかが分かる。

また、指導者は大会の役員から

「君たちはスポーツマンシップを知らないのか?」と窘められたりもする。

こうして「自分たちは、変な指導をしているのかもしれない」と気づくこともあるのだ。

スポーツマンシップは、すべてのアスリート、指導者、スタッフが持つべき「心のパスポート」のようなものだ。その基本は「リスペクト」だ。

指導者、チームメイト、対戦相手、審判、スタッフそしてルール、競技そのものを「リスペクト」するところからすべてのスポーツは始まる。日本人の中には「そんな綺麗ごとを言ってて勝てるか!」と言う人もいるが、それは「井の中の蛙」というべき愚かな態度だ。

スポーツとは元来「人々の健康で文化的な生活」のためにある。喧嘩や戦争の「代償行為」ではない。

■勝利至上主義が野球離れを起こしている

「盗塁」に象徴される小学校野球の「荒廃」の背景にある、「子どもの野球競技人口の減少」と「勝利至上主義の指導者」という二つの事象は、実は表裏の関係でもある。

「勝利至上主義」の指導者が浅ましい勝ち方を続ければ、負けた方のチームからは野球をやめてしまう子どもが続出する。その繰り返しで競技人口は減少する、というわけだ。

若い指導者の中には「今の勝利ではなく、子どもの未来のために野球を教えよう」という人も出てきている。

そうした指導者の一人である、倉敷ジュニアリバティーズの後藤尚毅GM兼任監督は

「盗塁は試合の勝敗を大きく左右する重要な戦術だと思います。特に小学生の試合では盗塁の成功率は高く、二盗三盗……あるいはパスボールやエラーを逃さない走塁などは試合に勝つための有効な手立てだと思います。

けれど、それらが有効すぎるあまり失っているものも大きいのではと思います。

打者はしっかりとストライクを打つ、投手は大きなフォームで力強い球を投げる。そんなプレーがチームの勝利につながったという経験は小学生の選手にこそ必要ではないかと思います。

チームの戦略として盗塁が有効であること、それに対する守備側の技術を上げていくことは長い目で見て大切とは思います。しかし、それはジュニア期に取り組むべきタスクかどうかの議論は必要であり、その議論を通じて野球界がそれぞれの年代をつなげる体系的な指導のあり方を考えることにもなると思います。

盗塁の是非も含め、多様な意見、多様な取り組みが共有されることの大切さはそこにあるのではないかと思っています」と語る。

倉敷ジュニアリバティーズの後藤尚毅GM兼任監督
筆者撮影
倉敷ジュニアリバティーズの後藤尚毅GM兼任監督 - 筆者撮影

■「盗塁なし」のルールを設けるべき

盗塁は「小学生の時代にどうしても習得すべき技術」とは言えない。もっと基本的な技術の習得の方が優先されるし、何より子どもたちを「野球好き」にしないと、日本野球の将来はないのだ。

小学校野球の試合では、両チームのレベルを勘案して適宜「盗塁なし」などの特別ルールを設けるべきだ。それと同時に「勝利至上主義」に凝り固まった指導者たちのアップデートを図るべきだろう。それができないなら退場してもらうしかない。

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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。

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(スポーツライター 広尾 晃)

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