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これで私はストレスとは無縁の人生になった…脳科学者・茂木健一郎が続けている「脳にとって最高の運動」

プレジデントオンライン / 2023年1月17日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fokusiert

ストレスを発散するにはどうすればいいのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「走るのがいい。特に旅先でのランニングがお勧めだ。身体的にも精神的にも便益が非常に多い」という――。(第2回)

※本稿は、茂木健一郎『脳は若返る』(リベラル社)の一部を再編集したものです。

■ストレスに弱い脳科学者がした“あるマインドセット”

ストレスについては私には苦い経験があります。

30歳くらいまでは人間関係を築くことが苦手でした。そのせいで知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでしまっていたのです。

あるとき、健康診断でお医者さんに心臓の音がおかしいといわれたことがありました。ところが精密検査を受けると、特に異常はありません。お医者さんが首をひねって、「君、ストレスを溜めやすい性格なんじゃないの?」といったことを今でも覚えています。

そもそも、人間関係とは大抵思うようにはいかないもの。そんなときに、自分が本来コントロールできないことまでコントロールしようとすると、どうしてもストレスが溜まってしまいます。自分が直接どうこうできないことなのだから、諦(あきら)めればいいのに、なかなかそれができない……。結果として、さらにストレスを溜め込むという悪循環に陥ってしまっていたのです。

そこで私は、このようにマインドチェンジすることにしました。

「自分で努力すれば何とかコントロールできることと、どう頑張ってもコントロールできないことに分ける。前者についてはベストを尽くす。後者については潔く諦めればいい」

■ストレスを溜めている人の特徴

例えば、こんなことがありました。

私が好きになった女性がいましたが、その人も私を好きになって相思相愛になるとは限らない。好かれようとベストを尽くすことはできますが、相手が自分を好きになるかはコントロールできない。好きになってくれればラッキーだし、なってくれなければ仕方がないと諦めるしかない。そう考えると、とても気持ちが楽になったのです。

それからというものの、人間関係に限らず、どのようなことでもこう考えることで気持ちが楽になりました。

わかりやすいのは、天候や経済の動きなどは自分がコントロールできないことです。それは最初から諦めて、自分がコントロールできることだけに集中すればいいのです。

私の周囲の人間を観察してみても、ストレスを溜めている人は、自分でコントロールできることと、できないこととの「仕分け」に失敗している人が多いと感じます。かつての私がそうだったように。

でも、自分がコントロールできることについてはベストを尽くし、コントロールできないことについては諦める。このような仕分けさえできていれば、脳はすっきり働いてくれるので、人生のストレスは大幅に軽減できるというのが、私が考える脳科学的ストレス撃退法なのです。

■走ることは脳にとっていいこと尽くし

「健康のために毎日走っている」

そんなシニアがどれくらいいるのでしょうか。

ランニングをするシニアが増えているそうですが、ゆっくりと自分のペースで走るランニングは、ふだん運動をしていないシニアでも気軽に始められる運動のひとつです。

ある研究データによると、定期的に走っている人はストレスレベルが低く、認知症の発症率も低いそうです。

私は運動のなかでも走るということを長年大事にしていて、よく周りの学生には、「俺はフルマラソンを走れているうちは大丈夫だ」と公言しています。なぜ、私が走るということを大事にしているのかといえば、脳科学的にもいいこと尽くしだからです。

まず、「ランナーズハイ」と呼ばれる爽快感は、エンドルフィンやフェネチルアミンなどの脳内物質が放出されることで生み出されます。そうした働きに加え、脳の回路の働きもランニングによって促進されるのです。

ランニング
写真=iStock.com/uzhursky
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/uzhursky

■なぜ経営者はランニングを好むのか

特に、脳がアイドリングしているときに活性化される「デフォルト・モード・ネットワーク」の活動について、近年の脳科学の研究でわかってきました。

デフォルト・モード・ネットワークとは、脳が特定の課題に取り組むのではなく、いわば「ぼんやり」しているときに働き始め、記憶を整理したり感情を整えたりする機能があると考えられています。

わかりやすくいうと、自動車のアイドリングのような状態のことを指します。例えば、ぼんやりしているときに何かを思い出したり、アイデアがひらめいたりといった経験はありませんか。

人間の脳というのは、何もしていないときにこのデフォルト・モード・ネットワークが活性化し、脳のメンテナンスや情報の整理をおこなっていると考えられています。

ただし、「何もしていない」といっても、完全に思考や行動を遮断すれば、逆に脳は不安を感じ、特定の部位が活動しはじめてしまう性質を持っています。つまり、デフォルト・モード・ネットワークを働かせるには、適度な“ノイズ”が必要で、そのノイズ的な役割を担うのがランニングなのです。

企業の経営者やアクティブに働く人でランニングを習慣化している人は多いのですが、彼らは健康やストレス発散のためだけでなく、こうした脳のベネフィットも大きいことを知っているのです。

私自身も、時間が許す限り1日に10キロ走っていますが、これが脳のメンテナンスにとって不可欠なものになっています。走ってこそ、忙しい毎日をストレスなく乗り越えていくことができていると実感しています。

なぜなら、デフォルト・モード・ネットワークという回路は、脳が特定の課題に取り組むのではなく、いわば「ぼんやり」しているときに働き始め、記憶を整理したり感情を整えたりする機能があると考えられているからです。

■ウォーキングでも効果あり

普段、私たちは常にパソコンやスマホなどを通して大量の情報に接しているわけですが、そのため多くの記憶が未整理のまま脳に残ってしまっています。ランニングをしているときは、スマホを見たり作業をしたりできないため、結果として頭が空っぽの状態をつくりだすことができます。それによって、記憶が整理されるだけでなく、ストレスも解消される効果があるのです。

そこで、ぜひシニアの皆さんも脳を活性化させるためにランニングを習慣化してみてはいかがでしょうか。デフォルト・モード・ネットワークはゆったり15分程度走ることで働き始めるので、それほど無理なく続けられるはずです。もし、ランニングがきついということであれば、30分程度のウォーキングでもいいでしょう。

ウォーキングは「歩く座禅」ともいわれ、ランニングと同じようにデフォルト・モード・ネットワークが活性化することがわかっています。

■脳科学者が推奨する最高の脳トレ

私が推奨しているのが、旅先で走る「旅ラン」です。

旅ランとは「旅×ランニング」を略したもので、その名の通り旅行先や出張先でランニングを楽しむこと。もちろんストレス解消にも役立ちますし、先に述べたデフォルト・モード・ネットワークを活性化させることができます。

旅ランは、見たことのない景色のなかで走ることになるので、いい具合に新鮮な情報が入ってくる。これが先に述べたノイズになるわけです。

ジョギング
写真=iStock.com/martin-dm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/martin-dm

旅行好きのシニアも多いと思いますが、観光名所を訪問するにしても、クルマや公共機関だけでは“点”でしか印象に残りませんが、自分の足で走ってみれば、その土地の魅力を“線”でつなぐことができます。

私は仕事で出張することが多いのですが、行った先では必ず走るようにしています。これまでに走ったコースは、カナダのバンクーバーや、私が旅ランのベストコースだと断言しているケンブリッジ大学の近くにあるグランチェスター・メドーなど、国内外200カ所を超えました。

見知らぬ地を走る旅ランには魅力がいっぱい。そのひとつは何といっても「セレンディピティ(思いもかけなかった偶然がもたらす幸運)」に出会えることです。それは人だったり、お店だったり、動物だったり、風景だったり、その土地の文化だったりとさまざま。そういうなかに、意外な発見や学びがあったりするのが旅ランなのです。

そうしたセレンディピティに出会うため、私が旅ランをやるときは事前に地図を眺めて「どこを走ろうか」と綿密に計画するのではなく、ある程度のルートを決めて走ってみて、「予定とは違うけれど、こっちのほうが景色がいいからこっちを走ろう」などと気ままにコースを変更してしまいます。

すると、たまに小路に迷い込んでしまうようなこともありました。そんなときには、慌てずにそのあたりを探索してみると、ガイドブックやネットにも載っていないような素敵なレストランが見つかったりして、食事をしてみると大当たりなんてこともありました。

こうしたセレンディピティは、車や自転車などの乗り物で移動するだけではなかなか出会うことができないものです。なぜなら、つい見落としてしまいがちなその土地の魅力を、ランニングという速度だからこそ拾い上げることができるからです。

このように、決まったルートもなければ、自由気ままで堅苦しいルールもないのが旅ランの魅力であり、10人いれば10通りの旅ランがそこにあります。

■「旅ラン」のメリット

もちろん、脳科学的な観点からも、旅ランは身体的精神的両面から便益が多いというのが、私の実体験から導き出した答えです。

身体的なメリットとしては、旅ランは景色の変わらないルームランナーやトレーニング的なランニングとは異なり、楽しく走ることができるので、疲労感が少なく、身体的なストレスを感じづらくなります。

精神的な面で期待できることのひとつとしては、「無心になれる」ということが挙げられます。

茂木健一郎『脳は若返る』(リベラル社)
茂木健一郎『脳は若返る』(リベラル社)

旅ランでは、いつもと違う景色や、自然、観光名所などを楽しみながら走ることができ、日頃のストレスから解放されやすい環境だといえます。リラックスしながらも無心で走っているときの脳がどのような状態になっているのかといえば、さまざまな脳内物質が放出されています。

まず、高揚感や幸福感を得られるエンドルフィンや、向精神作用のあるフェネチルアミンなどの脳内物質が生み出されています。

さらに、朝の時間帯に旅ランをすれば、太陽の光を浴びることで、幸福を感じるセロトニンが出やすくなります。もちろん、走ることで快感を得られるためドーパミンも放出されています。

旅行好きなシニアの皆さん、旅を楽しみながら健康な脳を手に入れることができる一石二鳥の旅ラン、ぜひ実践してみてはいかがでしょうか。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。クオリア(感覚の持つ質感)を研究テーマとする。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。近著に『脳のコンディションの整え方』(ぱる出版)など。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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