なぜGAFAで「1万人規模の大リストラ」が相次いでいるのか…ついに「スマホで稼げる時代」は終了した
プレジデントオンライン / 2023年1月16日 9時15分
■GAFAの黄金時代は終焉を迎えつつある
最近、“GAFA”は人員削減などリストラ策を強化している。今後の情勢次第では、リストラ策はさらに強化されるとの見方もある。昨年1年間で、大手プラットフォーマーと呼ばれる企業の株価は大きく下落しており、リーマンショック後の世界経済の成長を支えたGAFAの時代は終焉(しゅうえん)を迎えつつあるとみられる。その背景には、これらの企業のビジネスモデルに成長の限界が見え始めていることに加えて、米国の利上げや競争激化などいくつかの要因がある。
やや長期的な視点で考えると、これからも世界のIT先端業界は大きく変化する。“ウェブ2.0”から“ウェブ3.0”へのシフトは徐々に鮮明となり、“メタバース”など新たなデジタル技術の実装も進むだろう。中でも重要なポイントは、常に人々がネット空間に接続し、現実とバーチャルの世界が同時進行する可能性が高まることだ。それは、わたしたちの生き方を大きく変える可能性を秘めている。その可能性を現実のものとするには、新しいIT関連製品の創出とヒットは欠かせない。
■サブスク、シェアリング、広告分野も頭打ちに
2022年以降、GAFA各社の業績悪化は鮮明になっている。直近の決算内容を確認すると、各社の収益増加ペースは一段と鈍化している。それは世界経済にとって大きな意味を持つ。リーマンショック後、世界全体で“iPhone”などのスマートフォンが普及し、人々の生活は大きく変わった。買い物など多くの経済活動はネット空間に取り込まれた。アマゾンなどのプラットフォーマーの成長は加速した。
それによって、個々人の消費行動や好みなどに関する“ビッグデータ”が収集され、活用されるようになった。当初、GAFAなどは極めて低コストでデータを獲得し、それを用いてより多くの需要を生み出した。サブスクリプション(サブスク、継続課金制度)やシェアリングなどのビジネスも急速に普及し、収益力は一段と高まった。オンライン広告ビジネスの分野ではアルファベット傘下のグーグルやメタの収益力が急速に高まった。
しかし、需要の鈍化と世界的な物価上昇などを背景に、GAFAが高い成長を実現することは難しくなっている。特に、SNS依存度の高いメタの業績悪化は深刻だ。フェイスブックがメタに社名を変更したのは、ある種の“まぶし”にも見える。
■メタは1万1000人、アマゾンは1万8000人を削減
その結果、GAFAの株価は下落した。2023年1月9日までの1年間の下落率は、グーグルが36%、アップルが24%、メタが61%、アマゾンは46%だ。主要なIT先端企業の株価下落のインパクトは大きく、同じ期間、ナスダック総合指数は29%下落した。2023年1月前半の米国株式市場では、アップルの時価総額が2兆ドルを下回る場面もあった。一部の主要投資家はGAFAの先行きを一段と慎重に考えている。
コストカットを進めて業績の悪化を食い止めるために、GAFAの経営陣は人員を削減し始めた。これまでのところメタは1万1000人、アマゾンは1万8000人程度の削減を発表した。採用を抑制しているグーグルやアップルも、いずれ人員カットを余儀なくされる可能性は高い。また、GAFA以外にも、マイクロソフト、ツイッター、セールスフォースなどが人員を削減している。さらなるコストカットのために新規事業への投資を削減せざるを得ない企業も増えている。
■なぜ高成長が維持できなくなったのか?
GAFAにとって、これまでのような高い成長が難しくなっている背景には、いくつかの要因がある。まず、米国の超低金利環境が終わったことは大きい。2020年の春先、世界全体で新型コロナウイルスの感染が急拡大した。米国などの中央銀行は金融緩和を強化し、景気の下支えに取り組んだ。ダブついた資金は株式市場に流入した。特に、デジタル化を牽引したGAFAをはじめIT先端企業の高成長は間違いないという過度な成長期待は高まり、株価は急騰した。
しかし、2021年11月末に連邦準備制度理事会(FRB)は、物価上昇は一時的との認識の誤りを認めた。2022年3月以降、FRBはインフレを鎮静化させるために利上げを加速させた。世界的に金利は上昇し、GAFAを取り巻く事業環境は急速に不安定化した。金利上昇によって企業や家計の利払い負担は増加し、需要は徐々に減少している。
昨年の年末商戦では、多くの米国企業は値下げによって在庫を減らさざるを得なくなった。利上げの継続に伴い徐々に賃金の上昇ペースも鈍化している。金利上昇は株価を下落させる要因にもなり、GAFAなどへの逆風は強まっている。
■中国「BAT」の台頭、欧米当局の締め付け…
次に、競争も激化した。リーマンショックの直後、GAFAの競合相手は少なかった。その後、高い成長を実現するために新規参入は相次ぎ、類似のサービスを提供する企業は増えた。SNS、配車などのシェアリング、モバイル決済などのフィンテック、オンラインゲームなどの分野では中国のティックトック、バイドゥ、アリババ、テンセントなど米国以外の企業も急速に競争力を発揮した。“アマゾン・キラー”と呼ばれるスタートアップ企業も増えた。
規制も強化された。2018年には欧州委員会によって一般データ保護規則(GDPR)が施行された。GDPRなど法令への抵触を理由に欧州委員会はIT大手企業に制裁金を科した。米国でもGAFAなどに対する規制は強化されている。主要先進国においてIT関連の規制はさらに強化されるだろう。それは、ネット空間を公共の場としてよりフェア、透明性の高い、信頼できるものにしようとする考えに基づいている。当面、GAFAの業績がさらに悪化する可能性は高い。
![フィンテックのイメージ画像](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/5/1200wm/img_457e770f64cea22262b520954e301aae501938.jpg)
■スマホに代わる新たなハードウエアが不可欠だ
一方、世界のネット業界では、ウェブ3.0への移行が加速する。さまざまな論点がある中、ウェブ3.0は世界のネット空間の在り方を中央集権的なものから分散されたものへ大きく変えるだろう。これまで、わたしたちは、必要に応じてデバイスを起動し、グーグルの検索サイトにアクセスするなどして欲しいデータ、情報、モノを手に入れた。そうしたサービスはGAFAなどが提供した(ウェブ2.0)。
ウェブ3.0の時代ではメタバース技術やブロックチェーンなどの普及によって、個々人は常時ネットにつながるようになるだろう。それに伴い、データはGAFAなど一部企業による管理から、より分散された透明性の高い方式で管理されるようになるだろう。
そうした変化には、新しいデバイスが欠かせない。ウェブ2.0を駆動した一つの製品はスマホだった。ウェブ3.0の時代、常時、人々がストレスを感じることなく身に着けてネットとリアル空間における同時生活を満喫できる新しいハードウエアは欠かせない。それがいったいどういったものか、これといったモノはまだ見当たらない。今後、試作品がより多く設計、開発され、規格の標準化に向けた議論も進むだろう。
■“デジタル後進国”日本にもチャンスがある
それはわが国企業のビジネスチャンスになりうる。かつてわが国では、ソニーの“ウォークマン”のように世界の人々の生き方を変えたヒット商品が生み出された。ウェブ3.0への移行が加速する環境下、わが国企業に期待したいのは新しい高付加価値の最終製品を生み出し、世界の人々の新しい生き方を支えることだ。世界的な景気後退懸念が高まるなど先行きは楽観できない。
そうした状況にもかかわらず、ウェブ3.0時代の到来を念頭に、新しいモノを創造しようとする企業も出始めた。マイクロソフトはリストラを強化しつつクラウドやAIなど先端技術の強化を優先している。先行きの厳しさが懸念される中、本邦企業がこれまでに蓄積してきた力を発揮して新しい製品を実現できるか否かは、わが国経済の展開にかなりのインパクトを与える。それができないと、わが国のデジタル技術の遅れはより深刻となるだろう。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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