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グーグル幹部は非常事態を宣言した…ネット検索を根本から変える「ChatGPT」の恐るべき可能性

プレジデントオンライン / 2023年1月18日 15時15分

OpenAIウェブサイトより

■質問すれば何でも答えてくれる「対話型AI」が登場

インターネット検索の常識が、近い将来、塗り替えられることになるかもしれない。昨年11月に公開された「ChatGPT」と呼ばれるサービスが、検索エンジンの常識を変えようとしている。

ChatGPTは、チャット画面に質問文を打ち込むとAIが回答してくれるサービスだ。その最大の特徴は、人間の質問文の意図をくみ取り、端的な回答を返す点にある。また、その回答文は、まるで人間とやりとりしているかのように自然な表現だ。

AIとは思えないほどの高い回答能力が話題を呼び、公開からわずか6日後にはユーザー数が100万人を超えた。

現状、ネットで調べ物をしたいときは、Googleなど検索サイトを利用することが多いだろう。その場合、検索結果にリストアップされる無数のサイトは、質の高い有用なサイトばかりとは限らない。

広告だらけで内容が薄いページや、反対に難解なページばかりを引き当て、目的の情報にスムーズにたどり着けなかったという経験は誰しもあるだろう。

一方、ChatGPTは、質問文を投げかけるだけで、必要な情報を教えてくれる。情報を求めて、複数のサイトをさまよう必要はない。

■Google幹部は非常事態を宣言した

ユーザーにとって非常に便利なツールだが、Google社には脅威になっている。

ニューヨーク・タイムズ紙は昨年12月、検索の未来を書き換える可能性があるとしてGoogle幹部が危機感を抱き、社内に「Code red(非常事態)」を宣言したと報じている。ChatGPTに太刀打ちすべく、社内の開発体制を根底から変更したという。

世界シェア92%を占める最大手Googleとはいえ、その地位は不動ではない。振り返ればネット黎明(れいめい)期には、スタッフが人力でサイトを分類・掲載する米Yahoo!が栄華を誇った。やがて自動でのサイト収集に特化したGoogleに淘汰(とうた)されていった経緯がある。

以来リードを保ってきたGoogleだが、盛者必衰の検索業界において、新手に抜かされる日が近づいているのかもしれない。

■まるで人間が書いたかのような回答

試しにChatGPTに、「Googleとは?」と尋ねると、次のような文章がリアルタイムで生成された。

ChatGPT:「Googleは、世界で最も有名なインターネット検索エンジンです。Googleは、世界中の様々な情報をインターネット上から検索して、ユーザーに提供するサービスを提供しています。Googleはまた、ウェブブラウザーや(中略)、モバイルオペレーティングシステムなど、さまざまなインターネットサービスを提供しています。」

回答は要領を得ており的確だ。Google社の代表的なサービスである検索を筆頭に挙げつつ、著名なモバイルOS事業(Android)にもそつなく触れている。何かを平易な表現でわかりやすく説明してほしい場合、ネットに溢(あふ)れる有象無象のサイトを渡り歩くよりもよほど効率的だ。

内容が端的によくまとまっているだけでなく、まるで人間が書いたかのように非常に自然な文章表現にも驚かされる。「提供するサービスを提供」といった拙さはあるが、一昔前の機械翻訳などで見かけた支離滅裂な文章と比べれば、その差は歴然だ。

現在、ChatGPTは試験運用期間中であり、誰でも無料で使うことができる。画面表示は英語だが、質問と回答は日本語にも対応している。

ChatGPTのウェブページ
OpenAIウェブサイトより
ChatGPTの画面。下の検索窓に質問を入力すると、自動で答えてくれる。(回答内容には複数のバリエーションが存在するため、本文の例と異なる場合がある。) - OpenAIウェブサイトより

■「バレンタインの贈り物は?」クリエイティブな提案もこなす

これだけならオンライン辞書を引くのと大差ないが、ChatGPTはよりクリエイティブな要求にも対応している。

バレンタインデーに何を贈ろうかと迷ったなら、ChatGPTに聞くのも一案だ。

「バレンタインデーにおすすめの贈り物は?」と入力すると、さまざまなアイデアを示してくれる。

ChatGPT:「バレンタインデーにおすすめの贈り物としては、次のようなものがあります。
・チョコレート
・花(ローズやカーネーションなど)
・ペアリング(カップル用のリング)
・手作りのもの(手作りのカードや小物など)
・新しいゲームやDVD
・パンフレットや旅行の予約
・ケーキやスイーツ
また、相手の嗜好(しこう)や好きなものを考慮して、お土産を選ぶのもよいでしょう。」

チョコレートやバラの花など王道を提示しながら、旅行など個性的な提案も含めている。ゲームやDVDなどは必ずしも万人に向かないかもしれないが、発想を膨らませるためのヒントとしては悪くなさそうだ。

バレンタインデーの贈り物について提案してくれた。
OpenAIウェブサイトより
バレンタインデーの贈り物について提案してくれた。 - OpenAIウェブサイトより

ChatGPTが発揮するクリエイティビティは、こうした提案にとどまらない。指示した状況設定に基づいて、小説を執筆することすらやってのける。

■小説を書き、筋書きのアイデアも教えてくれる

「馬と拳銃が登場するスパイ小説の書き出しを書いて」とリクエストすると、このような文章が即座に表示された。

ChatGPT:「馬の背中に乗って、拳銃を握りしめた男が、暗闇を駆け抜けていた。彼は、身を挺しているスパイであり、今日もまた、国を救うために危険な任務をこなしていた。」

興味をそそる出だしだ。「身を挺しているスパイ」とはいかにも直訳的であるものの、ジャンルならではの緊迫感が漂い、自動生成された文書とはとても思えない。物語の先はどうなるのだろうか。「続きを書いて」と指示すると、ChatGPTは次のように創作を続けた。

ChatGPT:「その任務は、敵国の秘密基地を潜入し、そこで手に入れるとされる極秘文書を盗み出すことだった。男は、基地に近づくにつれ、警戒が厳しくなると感じた。だが、それでも彼は、決して諦めることなく、前に進んでいった。」

前半とあわせても状況に齟齬(そご)がなく、スパイ小説の書き出しとして見事に成立している。このようにChatGPTは、既知の事実について回答するだけでなく、リクエストに応じて適切な創作を行う能力を持っている。

実際に創作に活用している作家もいる。電子書籍リーダーのKindle(キンドル)向けに作品を発表しているある小説家は、米テックメディアのヴァージに対し、自著のミステリ作品のアイデア出しを任せていると語っている。

この作家は、テキサス州の小さな町で起こった超常ミステリという設定をChatGPTに与え、「殺人の被害者が必要。どうやって殺されたのか。容疑者は4人で、なぜ疑われているのか。犯人が誰かも教えて」とリクエストした。

すると、すでに自力で書いた1巻の続編を補完し、2~7巻までのプロット(おおまかな筋書き)を得ることができたという。

■ニューヨークの公立小学校では使用禁止に

ファジーな創作だけでなく、より実用的なタスクの助けにもなる。米テックメディアのワイアードは、ChatGPTが人間相手の減額交渉に成功したという事例を報じている。

イギリス系アメリカ人のジョシュ・ブラウダー氏は、法的アドバイスをチャット形式で得られるサービス「DoNotPay」を運営している。この延長として、企業へのチャット問い合わせを自動で行うツールを、ChatGPTを中核として製作した。

氏はこのツールを用い、ケーブルTV企業の米コムキャストのチャット窓口に苦情を申し立てた。ツールはチャット窓口に対し、サービスが一時的に使用不能になっていたことを説明し、さらに払い戻しを受ける権利がある旨の条文を送信した。窓口担当者は、利用料金を年間120ドル(約1万6000円)相当減額することに応じたという。

あまりに完成度の高い文章を生み出すため、悪用が懸念されているほどだ。

米CNNは1月6日、「奇妙なまでに説得力のある回答」を生み出すChatGPTについて、ニューヨーク市の公立学校での使用が禁じられたと報じている。

当局は、生徒が課題を短絡的に仕上げるおそれがあり、問題解決的思考の育成を妨げる懸念があると説明している。

■「Googleの栄華は永遠ではない」

人々のリクエストに柔軟に応えるChatGPTは、これまでインターネットの「入り口」として機能してきたGoogleにとって脅威となる可能性が高い。

Google
写真=iStock.com/400tmax
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/400tmax

昨今では時短が重視され、「タイパ(タイムパフォーマンス)」という造語まで誕生している。ショート動画が好まれ、ドラマも倍速で視聴する時代だ。端的に簡潔な答えが返ってくるサービスへの需要は高い。

革新的なChatGPTを前に、Googleは危機感をあらわにしている。ニューヨーク・タイムズは、次のように報じている。

「ChatGPTにまだ多くの改良の余地があるとはいえ、同サービスの公開により、Googleの経営陣は『コード・レッド(非常事態)』を宣言することになった」
「一部には、事業を根底からひっくり返しかねない大規模な技術革新の到来という、シリコンバレー最大の企業である同社が畏怖している瞬間が近づいているのではないかと危惧する声さえある」

米ワシントン大学でシリコンバレー史を研究するマーガレット・オマラ教授は、同紙に対し、Googleの栄華は永遠ではないと警鐘を鳴らしている。「無敵の企業などありません。すべてが脆(もろ)いのです」。

■GoogleもAIチャットボットを開発していたが…

同紙が入手した音声メモによると、Googleのサンダー・ピチャイCEOは社内の複数のAI戦略会議に出席。ChatGPTへの脅威に対応すべく、社内の数多くの開発グループの任務を根本的に変更したという。

目的の検索結果を端的に示せないという弱みについては、Google側も以前から認識しており対策を取ってきた。検索内容によっては、画面のトップに「強調スニペット」と呼ばれる機能を表示している。

これは、最も関連性が高いと思われるウェブサイトの一部を、抜粋して強調表示する機能だ。的確な答えが得られることがある一方、込み入った質問では機能しないことも多い。

皮肉なことにGoogle自身、OpenAIに協力している数多くの企業リストに名を連ねている。さらにはGoogle自身も、ChatGPTと類似した対話型AIシステム「LaMDA(ラムダ)」を保有している。

だが、同社のビジネスモデル上、チャットAIの積極展開には二の足を踏んでいる。すでに一大企業となった同社としては、ときおり不正確な回答を述べるAIを展開することには慎重にならざるを得ない。

また、検索結果まで一足で飛べるようになれば、その過程でこれまでユーザーの目に触れていたオンライン広告は表示されず、同社に収益をもたらさなくなってしまう。

ニューヨーク・タイムズ紙は、2021年のGoogleの収益の80%以上がオンライン広告によってもたらされていると述べ、「Googleは、この新技術をオンライン検索に代わる新たな手段として展開することには消極的である可能性がある」と指摘している。

対するOpenAIは、AIの開発を担う非営利研究組織だ。資金調達を容易にするため、下位組織として限定的な営利企業であるOpenAI LPを擁する。

■ChatGPTに「Googleの未来」を聞いてみた

もちろんChatGPTが万能というわけではない。現在は試験運用中であり、さまざまな制限が存在する。

ChatGPTはネット上から収集された2021年までのデータをもとに回答を作成しているため、最新の情報には回答できない。例えば2022年以降の流行に関する知識は皆無であり、また、「明日の天気は?」などリアルタイム性の高い話題には対応できない。

加えて、あまりにも流暢(ちょう)な回答を作成するが、回答内容の精度は100%正確でない。あたかも真実かのような嘘をついたり、差別的な発言をごく自然に行ったりすることがある。開発元のOpenAIも、こうした点について注意を呼びかけている。

とはいえ、これら未完成の点は次第に改善されてゆくことだろう。検索業界へのインパクトは絶大だ。何事も時短が求められる近年、それらしきサイトを検索結果から1つ1つ開いて回るというGoogleの検索スタイルは、時代に合わなくなってきている。

Googleは近い将来、ChatGPTにその座を奪われるのだろうか。Google幹部の危機感とは裏腹に、ChatGPT自身の未来予測は控えめだ。

――GoogleはChatGPTに淘汰される?
ChatGPT:「ChatGPTは、Googleが提供するサービスとは異なる、自然言語処理に特化したサービスです。そのため、GoogleがChatGPTに淘汰されることはありえません。」

ChatGPTの今後はどうなるか、聞いてみた。
OpenAIウェブサイトより
ChatGPTの今後はどうなるか、聞いてみた。 - OpenAIウェブサイトより

■Google一強の終わりが近づいている

検索業界への打撃が報じられるなか、あくまで異分野のプレーヤーだとしてChatGPT自身は平静を保っている。だが、実際には言語処理の域を超え、検索に代わる手段として活用され始めている。広告収入に依存してきたGoogleなど、検索大手の事業モデルが根底から覆る日もそう遠くないだろう。

ChatGPTをすでに取り込む動きも出始めた。米CBSは1月6日、世界シェア2位の検索エンジン「Bing」を展開する米Microsoftがすでに、ChatGPTを用いた検索サイトを提供する計画だとの報道を取り上げている。

Microsoft
写真=iStock.com/HJBC
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HJBC

ネットの歴史に呑まれ首位から転落していった企業は数知れない。広告まみれの検索結果を提供するGoogleが転落する日は、刻々と近づいているのかもしれない。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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