この1年で200万部以上も減少した…全紙合計で3084万部しかない「日本の新聞」が消滅する日
プレジデントオンライン / 2023年1月16日 13時15分
■この25年間で「5376万部」から「3084万部」に
通勤電車の中で新聞を読むという朝の光景が姿を消して久しい。家庭でも食卓に新聞が載っている家はもはや少ないだろう。紙の新聞は昭和を感じさせる小道具になりつつあると言っても過言ではない。それぐらい身近な存在から遠のいている。
日本新聞協会が発表した2022年10月時点の新聞発行部数は3084万部。1年前に比べて218万部、率にして6.6%減少した。新聞発行のピークは1997年で、その時の総発行部数は5376万部。25年の間に2300万部余りが減少した。読売新聞は「発行部数世界一」でギネス記録にも認定され、かつて発行部数1000万部を超えていた。要は読売が2つ消えた格好である。
新聞の発行部数の減少が目立ち始めたのは2008年ごろ。それまで1%未満の増減だったものが、2008年に1%を超える減少を記録した。それ以降、減少率は急速に拡大し、2014年には3.5%減、2018年には5.3%減、2020年には7.2%減となった。つまり、減少ピッチは収まっていないのだ。このままのペースで減りつづければ、20年以内に紙の新聞は消滅してしまう。
■スマホが新聞を凋落へと追いやった
なぜ紙の新聞が読まれなくなったか。
言うまでもなくデジタル化・インターネット化の進展による情報ツールの変化がある。そういう意味では2008年は象徴的な年だった。前年にスマートフォンの「iPhone(アイフォーン)」が発売され、携帯電話が情報端末として一気に注目されていった。
その後も紙の凋落が止まらなくなったのは、スマホが進化を遂げ続けたからだ。
今やスマホは「電話器」としての範疇を超え、「情報端末」や「カメラ」として機能が求められる複合機器になった。それをほぼ全員が携帯して持ち歩く社会になったわけだ。それが情報パッケージとしての紙の新聞を凋落へと追いやった。
インターネットの普及と常時定額接続など情報通信インフラの劇的な進化も背景にあったのは言うまでもない。
■「新聞をほぼ毎日読む」という大学生は1%
紙の新聞の部数激減が止まらないのは、若い世代がほとんど新聞を読まなくなったためだ。
私が2022年度に講義を持った千葉商科大学の学生延べ977人にアンケートしたところ、回答した876人のうち紙の新聞を購読してほぼ毎日読むと答えた学生は9人(1%)だった。これには自宅からの通学で親が購読している新聞を読んでいるという学生も含まれる。
一方、「まったく読まない」と答えた学生は62%に当たる540人に達した。もちろん同じ大学に通う学生という偏りはあるものの、平均的な若者と新聞との関係を示していると見ていいだろう。
日本新聞協会の統計で「1世帯あたりの部数」を見ると0.53部なので、つまり平均では2世帯に1部ということになる。もちろん高齢者やビジネスマンには複数部数を購読している人もいるから、実際には新聞を購読していない世帯は5割を超えるだろう。学生の6割が「まったく読まない」という回答は実態を表していると見ていいのではないか。
残りの回答は「レポートなど必要な時に月数回程度読む」と答えた学生が213人(24%)、「週に1、2回程度読む」とした学生が108人(12%)、「週に3、4回程度読む」が6人(1%)だった。
学生に聞くと「新聞はおじいちゃんが読んでいます」という答えが返ってくる。若者から見れば、高齢者のメディア、という位置付けなのだろうか。
■「ニュースサイト」と「デジタル版」はまったく別物
「紙の新聞は滅びても、デジタル版がある」という声もある。
確かに、「紙面ビューワー」で紙の新聞のスタイルを、オンライン上で読むこともできる。だが、若者の多くは、ビューワーは使いにくいという。慣れない縦書きの上、紙の新聞を読み慣れていないため、記事がどこからどこへつながるかがわかりにくいというのだ。
結局、電子版の主軸は横書きのニュースサイトが主流だ。しかも、日経新聞などは紙の新聞よりもネットに記事を先に流す「デジタル・ファースト」を強めている。紙の新聞に親しんだ世代が、ビューワーの中心利用者と見られ、いわばそうした世代向けの「移行モデル」と言えなくもない。
つまり、紙の新聞の発行部数が減るのに比例して、ビューワーの利用も減っていく可能性が高い。
そうなると、横書きのニュースサイトが「新聞」の中心になるわけだが、これと紙の新聞はまったく性格が異なる「別のメディア」と言っていい。
■紙では「求めていないニュース」に出会える
しばしば指摘されるように、新聞紙大の一覧性の高さは、どんなにパソコン画面が大きくなってもかなわない。紙の新聞に親しんで人なら分かるように、見出しが目に飛び込んでくる新聞は情報を短時間で把握するツールとして圧倒的に有利だ。もちろん、これも「慣れ」の問題だとも言えるが、紙の新聞の捨てがたい機能のひとつだろう。
もうひとつ、これも指摘されることだが、紙の新聞の場合、自分から求めていないニュースが紙面で大々的に展開されている意外性に直面することが少なくない。新聞社が考える「ニュースバリュー」が「見出し」の大小となって表れる。もちろん、ニュースサイト型の新聞も並ぶ順番などは新聞社の意思が反映されているが、紙に比べ、「並列感」が強い。
また、ネットメディアならではの機能として、読者個人の関心に応じたニュースが優先的に表示される仕組みが広がっている。自身が意図して「選択」しているケースもあるが、無意識のうちに人工知能などによって「配信」されているものも多い。つまり、知らず知らずのうちに、似たようなニュースを繰り返し読んでいるということになる。
どんどん「意外性」とは真逆にある、興味の範囲内の情報しか受け取らなくなっている可能性がある。ネットメディアはそうした傾向が強いわけだ。
■SNSの利用者は「他人の意見」を聞こうとはしない
さらにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)になれば、もはや自身の意見に近い意見が多く表示され、「友だち」になる人も情報の指向性では「似たもの同士」が集まっていく傾向が強い。
シリコンバレー発の世界最大級の知識共有プラットフォーム「Quora」のエバンジェリスト、江島健太郎氏は以前、筆者のインタビューに答えて、「SNSなどのネット上の場合、議論というよりも、自分に似た意見に同調し、『信念を強化』する場になっている」と語っていた。両論併記を心がける新聞などの伝統的ジャーナリズムと違い、SNSの利用者は「他人の意見はどんどん聞かなくなって閉じ籠もっている」というのだ。
もしかすると、今、世界で起きている「分断」はこうした情報の伝わり方の変化が大きな要因になっているのではないか。
米国でもトランプ前大統領を支持する人たちは、対立陣営が「嘘」と断じるトランプ氏の言説を信じて疑わない。それも少数の人たちではなく、国民を二分することになっている。似たような「分断」は英国のEU離脱の国民投票や、ブラジルの大統領選を巡る暴動事件などにも表れている。人々の情報の取り方の変化が、不寛容な世論を拡大させ、社会の分断を加速させているのではないか。
■「ジャーナリスト」を育てる場所が減っている
紙の新聞の凋落は時代の潮流であることは間違いない。だが、それと同時に「公正中立」「両論併記」といった新聞ジャーナリズムが長年かけて築き上げた価値観も急速に失われているように見える。
紙の新聞は発行部数が増えることで猛烈な収益力を誇ってきた。要は儲かる情報産業だったのだ。ところが、デジタル化することによって新聞社の収益力は急速に下がっている。賃貸ビルからの不動産収入などに大きく依存するところも増えている。高い収益力を背景にジャーナリストを育ててきた人材育成力も、大きく損なわれつつある。紙の新聞の凋落がジャーナリズムの崩壊を招かないことを祈るばかりだ。
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経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
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