風邪の治りを早くする薬はひとつもない…内科医が教える「風邪薬」を飲むか飲まないかの判断基準
プレジデントオンライン / 2023年1月27日 11時15分
※本稿は、山田 悠史『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです
■風邪薬は風邪を治すのか
新型コロナのパンデミック以降、あまり風邪の話を聞かなくなったかもしれませんが、風邪も実はとても厄介な病気で、大人が普通に生活をしていると1年で平均2回ほど風邪をひくと報告されています(注1)。米国での試算では、風邪によって社会人の年間2300万日もの欠勤を招いていると報告されていて(注2)、社会的な損失の大きさがうかがえます。そして、この損失を減らすため、これまで風邪の研究には億単位の投資が行われてきました。
そんな身近な病気である風邪にかかった時、「風邪薬を飲まなくちゃ」と思われる方が多いかもしれませんが、実際のところ風邪薬は風邪を治してくれるのでしょうか。
残念ながら、端的な答えはノーです。風邪はこんなにもありふれた病気にもかかわらず、根本的な治療は残念ながら見つかっていないのです。風邪の治癒を導く薬も、治りが早くなる薬も、何ひとつ証明されていません。あるいは、ビタミンCなどのビタミン剤やエナジードリンクなどのサプリメントが有効とする根拠もありません(注3)。
■なぜ、風邪薬を飲むのか
それならば、なぜ私たちは風邪薬を使うのでしょう。
それは、風邪を治すためではなく、風邪の症状を軽くするためです。もし医師や薬剤師、あるいはあなたの友人が「○○という薬が最も風邪によく効く」「薬は風邪のひきはじめに飲むと治りが早い」という話をしていたら、残念ながらそのセリフには根拠がありません。
ただし、これはあなたの経験則で「この薬が最も有効だ」ということを否定するものでもありません。少なくとも、あなたの経験則を他人にあてはめて「この薬は効くから試すといいよ」と公正に勧めることはできない、ということです。
■風邪薬の副作用
風邪薬に関して、もう一つ忘れてはいけないことがあります。それは、どんな薬にも必ず副作用のリスクがあるということです。
例えば、どんな薬にもアレルギー反応が起こるリスクがありますし、多くの風邪薬で用いられるイブプロフェンならば、飲みすぎると胃や腎臓に障害を受ける可能性があります。
「総合感冒薬」に含まれる抗ヒスタミン薬は、眠気やだるさという副作用があります。私個人でも、総合感冒薬を飲み続ける患者さんが「だるさが治らない」と受診してきて、薬を中止したことで治ったという場面を何度も見ています。治すために飲んでいるつもりだった薬で、かえって体調が悪くなることがあるのです。
また、風邪に対する抗菌薬の処方はさらに深刻な問題です。ウイルスの感染症である風邪に全く有効でない抗「菌」薬には、アレルギーだけでなく、下痢や吐き気といった新たな問題を生み出す危険性もあります。そして、無駄に使われた抗菌薬によって、体にその抗菌薬が効かない細菌が誕生する可能性もあります。これは「耐性菌」と呼ばれ、世界中で急速に増加している大きな問題です。
![体調がすぐれず、ソファーに座っている女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/0/1200wm/img_b00096630d3543b9423cdb17ab2dba38365398.jpg)
■風邪薬を飲むべき時は
薬は適材適所、利益と副作用のバランスを考え、利益が副作用のリスクを上回る時に使うのが基本です。利益がないか、もしくは小さい時には、副作用の方を重く見るのが妥当でしょう。そのような天秤と物差しを持つことが大切なのです。
また当然ですが、風邪薬にもお金がかかります。1種類の薬ならまだしも、病院で4種類、5種類の薬を処方されてしまえば、数千円の支払いになるかもしれません。米国での調査では、風邪の検査と治療で消費されたお金は実に年間170億ドルにも上ったとの試算があるほどです(注4)。風邪のたいした額ではない処方箋も、国家全体で見れば、大きな経済負担になります。
では、どのような時に風邪薬を内服すればよいでしょうか。
率直に答えるなら、「症状が強い時」です。そして、その「症状が強い」は主観で良いと思います。どんな薬を選択するかは、あなたがこれまで効果が強く、副作用を経験したことがないと思うものでいいと思います。
科学的な根拠という点では、アセトアミノフェンと呼ばれる解熱鎮痛薬は、頭痛を含む全身の痛みや発熱によるだるさを改善することが臨床試験でも示唆されており(注5)、ある程度広く勧められる選択肢かもしれません。
また、いわゆる「総合感冒薬」や「鼻水どめ」は、眠気を起こす「抗ヒスタミン剤」と呼ばれる薬剤が含まれるため、運転する前などは避けるべきですが、裏を返せば、寝る前に飲むのなら睡眠の助けとなるかもしれません。
■咳は無理に止めなくてもいい
咳には有効性が裏付けられた良い選択肢がないものの、咳がひどくて眠れない場合にはいわゆる「せきどめ」を試してみてもいいと思います。ただ、咳は体から外敵を追い出す防御反応ともいえるため、無理に止める必要がないことも知っておくと良いでしょう。
![山田 悠史『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/4/1200wm/img_449649ef9ef9a1b0b8315f438f0e98e4193676.jpg)
そして何より、症状が軽ければ「薬を飲まない」という選択肢もあわせもっていただければと思います。まずは体をよく休めることが大切です。氷枕や生姜湯のように、あなたのおばあちゃんが教えてくれた知恵もまた、あなたを助けてくれるかもしれません。
風邪薬は、風邪を治す薬というわけではなく、症状を軽くするための薬です。
症状がつらい場合には、その症状に合わせて薬を使い、症状が軽い場合には薬を無理に使う必要はなく、よく休みをとることが大切です。
(注1)Monto AS. Studies of the Community and Family: Acute Respiratory Illness and Infection. Epidemiol Rev 1994; 16: 351–73.
(注2)Turner RB. Epidemiology, Pathogenesis, and Treatment of the Common Cold. Ann Allergy, Asthma Immunol 1997; 78: 531–40.
(注3)Hemilä H, Chalker E. Vitamin C for preventing and treating the common cold. John Wiley and Sons Ltd, 2013.
(注4)Fendrick AM, Monto AS, Nightengale B, Sarnes M. The economic burden of non-influenza-related viral respiratory tract infection in the United States. Arch Intern Med 2003; 163: 487–94.
(注5)Bachert C, Chuchalin AG, Eisebitt R, Netayzhenko VZ, Voelker M. Aspirin compared with acetaminophen in the treatment of fever and other symptoms of upper respiratory tract infection in adults: a multicenter, randomized, double-blind, double-dummy, placebo-controlled, parallel-group, single-dose, 6-hour dose-ranging study. Clin Ther 2005; 27: 993–1003.
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米国老年医学・内科専門医
慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。2015年から米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学ベスイスラエル病院の内科、現在は同大学老年医学・緩和医療科アシスタントプロフェッサーとして高齢者診療に従事。フジテレビ系列「FNN Live News α」のコメンテーター、ニュースメディア「NewsPicks」などで活躍するほか、コロナワクチンの正しい知識の普及を行う一般社団法人コロワくんサポーターズの代表理事、カンボジアではNPO法人APSARAの常務理事も務める。著書に『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社)がある。
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(米国老年医学・内科専門医 山田 悠史)
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