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「日本一選挙に強い宗教団体」はどうなるのか…創価学会が直面している「時代の変化」という大問題

プレジデントオンライン / 2023年1月19日 10時15分

記者会見する公明党の山口那津男代表=2022年8月23日、衆院議員会館 - 写真=時事通信フォト

旧統一教会問題で、宗教と政治との関係に注目が集まった。評論家の八幡和郎さんは「日本一選挙に強い宗教団体は創価学会だろう。高い信者満足度と組織的な集票調整力で存在感を示してきたが、時代の変化により岐路に立たされている」という――。

■創価学会と公明党に再び逆風が吹いている

旧統一教会問題のとばっちりで、創価学会や公明党への風当たりが強くなっている。野党勢力、他の宗教団体に加え、公明党のリベラル色と政権内での発言力に不快感をもつウルトラ保守層が結果的に連携し、「文春砲」や「新潮砲」もそれを煽っている形だ。

1990年代にも、創価学会からの離脱者による告発や、日蓮正宗宗門との対立に便乗して、野党時代の自民党の一部が「政教分離」や「不祥事」を取り上げ、政権復帰の梃子にしたことがあった。そうした批判は事実無根のものが多く、自民党が謝罪に追い込まれる結果となったのだが、今になってこの騒動を蒸し返すような発言も見られる。

私は宗教団体としての創価学会にも政党としての公明党にも好意的である。数百万人の信者を獲得し維持しているのは、信者の満足度が高いからであるし、中道政党としての公明党は、小泉・安倍の保守路線とバランスをとる形で、日本の政治に好ましい形で存在感を示してきたと評価している。

また、かつて、ヨーロッパのキリスト教民主主義を研究していた経験からしても、創価学会と公明党の「政教分離」は欧州諸国における常識の範囲内と言える。

■信者数が減少し、政治的存在感に翳り

しかし、他宗教と同様に創価学会も信者数の高齢化や減少に悩み、集票力にも陰りが見られる。2022年に行われた参院選比例代表の得票数は618万票と、21年の衆院選から100万票近く減らし、改選7議席から6議席に後退した。

また、東西冷戦や保革対立のなかで立ち位置を設定してきた公明党にとって、政治的対立軸が複雑化してくると、対処が悩ましい場面が増えてきている。

今年4月には統一選と衆議院補欠選挙(千葉5区、和歌山1区、山口4区)が行われるが、「旧統一教会と共通の問題がある」と右からも左からも挑発されている状況で、集票の動きがさらに鈍くなる可能性がある。

こうした問題は、昨年末に刊行した拙著『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)のなかで詳しく取り上げ、もっとも好評だった部分でもある。そもそもなぜ創価学会が実質日本一の宗教団体になり、公明党がその信者数以上の議席を確保しているのか、そして今どういう点が曲がり角にあるかを解説したい。

■熱心な信者数はほかの宗教と「桁違い」

宗教の信者数を数える統一的な基準はないし、公的な全数調査が行われたこともない。文化庁が毎年実施している「宗教統計調査」は各宗教団体の自己申告に基づくもので、信者数の合計が日本の総人口を大きく上回るという結果を見れば、その数字に意味がないことは明らかだ。

いわゆる既存宗教は、勝手に地域住民を氏子にしたり、江戸幕府が創設した檀家制度を基礎に先祖供養を人質にした仕組みを維持しているだけで、普通の意味の信者とは違う。

仏教で最大宗派の浄土真宗本願寺派(西本願寺)は、檀家の家族が600万人に上るというが、葬式などの時以外は希薄な関係だ。キリスト教は、日本では近代になって1%を超えたことはなく、人口の30%も占める韓国と好対照だ。

新興宗教では、幸福の科学が公称では1100万人と最大だが、基本経典の発行数というゆるい基準である。いくつかの推計を総合的に判断すると、それなりに熱心な信者ということなら、創価学会が数百万人、天理教が40万人、立正佼成会や真如苑が20万人あたりで、幸福の科学は選挙結果を見るとそれより少ないようだ。旧統一教会はもっと少なく、最大限、甘くひろっても数万人ないしそれ以下だ。

■人気の秘密は「信者満足度の高さ」

どうして創価学会が突出した宗教団体になったのかといえば、富裕層に狙いを絞らず、都市化で共同体的な人間関係を失った人たちに戦後の時代精神に合った精神的よりどころを提供したからである。

しかも、経済的負担が比較的小さく、団体の人間関係が仕事にも役立ったり、仲間の助け合いで葬式ができたりと得することが多いようだ。1960年代には大石寺正本堂建立に際して大々的な寄付運動が行われたことがあったが、会費(財務)納入は振り込みが原則で、既存仏教ではお布施など領収書のない現金のやりとりが主流なのに比べて健全である。

宗教を商売に例えるのも申し訳ないが、ビジネスでのトップ企業と同じで、顧客満足度が高いのである。よく似たものがあるとすれば、パナソニックやトヨタだろう。

松下幸之助氏が創価学会の池田大作名誉会長と対談本を出したり、松下政経塾の創立の時に、初代の塾長就任を池田氏に打診したとされることも自然なことだったし、労組も一体となって家族主義的経営をしたことが、社会主義に対する防壁になったのとも似ている。

■政教分離の観点から生まれた公明党

信者の子供が円滑に信心に入っていける工夫もよくできている。いま宗教二世問題が話題になっているが、幼児洗礼までするキリスト教に比べて押しつけがましいわけでないし、神社の諸行事のほうが子供の意思を無視した強制ともいえる。

来世とか自己修練を求める宗教と違って、日蓮宗系である創価学会は現世利益を求めるので、政治を通じて社会変革を要求するのは自然であるし、初期には会員の団結の手段として選挙が使われた面もあった。

しかしやがて、政教分離の必要を感じ、公明党という独立した政治組織を立ち上げた。また、1960年代に起きたいくつかのもめ事をきっかけに、ほかの宗教団体が政治家を支援するのと同じように、創価学会は公明党が公認・推薦する候補を支援すると整理された。

選挙中に投票所で投票し、投票する人の概念的なイメージ。
写真=iStock.com/bizoo_n
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bizoo_n

■「票を回す」団結と技術が他とは違う

世間では公明党、あるいは創価学会というと「鉄の結束」というイメージが先行している。「上意下達である」という印象を持つ人も多いが、創価学会は一般会員の意向に神経質な組織で、女性部(旧婦人部)の力はよく知られている。創価学会の強さの秘密は、一般会員の意見の吸い上げ重視と、指令を出す場合も丁寧に説明することだ。

もちろん、公明党の公認候補が出る選挙では団結して全力をあげて組織の内外から集票するが、国政選挙で推薦する自民党の候補者や首長選挙で支援する候補者に対しては、それぞれの場合に応じてどの程度熱心に応援するか一様ではない。

強さの秘訣は、候補者を立てる選挙を絞り、会員に過度の負担をかけないで、効率の良い選挙をすることや、信者でない人にも投票を頼むテクニックが優れていることだろう。江戸時代以来、ほとんど布教活動をしてこなかった伝統宗教と差が出るのは当然だ。

公明党は地方選挙などで複数の候補を立てていても、誰が誰に投票すべきかという票割りを厳格にして死に票を減らす。それから、政治の世界で力を持つには、「票を回す」ことができるかどうかは重要だ。自分に投票してもらうだけでなく、他の党派や候補者に投票してくれと頼んで承知してもらえる組織(政党、企業、労組、団体)や政治家は政治力が強い。

■公明党が票数を闇雲に増やさない理由

近年、先進国では多くの宗教が信者数の減少に悩んでいる。日本でも、伝統宗教も含めて伸びているのは真如苑だけだ。かといって、会員でない候補者を増やすとか、公明党を解党して大きな党に合流するとなると、新進党に合流して小沢一郎氏に引っかき回された苦い思い出がフラッシュバックする。国民民主党や維新の党が内紛と離合集散を繰り返しているのをみれば、同じ轍を踏みたくないとなるのも当然だ。

だから、公明党は一時の空気で票数を増やそうとせず、控えめに行動して、大臣のポストも一人だけで我慢し、党内人事でも政策でも内部対立になるもめ事は起こさないことに徹している。

もっと候補者をたくさん立てたら議席は増えるだろうが、創価学会会員の負担が重くなるのでしない。国会議席数の定数是正で、公明党が強い大都市の定数が増えるから、得票が減少しても議席は減らないという見通しもある。

■「発信力」と「改革力」が課題に

日本の政治は21世紀になって小泉・安倍という強力で新自由主義的、保守的な傾向をもつ首相が出現した。そのときに、中道的で、かつ知性や科学、文化にも敬意を払う公明党が連立に加わっていることは、バランスとして好ましいものだったと評価できる。足して二で割るのでなく、互いにここは譲れないところを尊重し合っているのが、野党共闘の稚拙さと違うのだ。

しかし、この存在感が曲がり角にあると感じる点が2つある。

ひとつは発信力だ。創価学会も公明党も活字文化に抜群に強かった。二代会長の戸田城聖は出版社経営にも抜群の経営手腕をもっていたし、三代目の池田大作は卓越した文学者でもあった。しかし、ネットの世界で同様に強いかは疑問だ。組織内部での活用は平均以上のようだが、SNSの世界で存在感が大きいわけではないし、信者や支持者獲得にそれほど成果を上げているように見えない。

このことは、今後、ポスト池田の時代において、新たなカリスマ的な指導者を見いだせるのか、あるいは、集団指導体制をどのように構築するかについてのさまざまな議論ともかかわるし、それは、公明党との関係について、独立性をより進めるのかとか力関係がどうなるかともかかわる。

もうひとつは改革力だ。公明党は創価学会が庶民の間にもつ優れたネットワークを活用して、「痒いところに手が届く」きめ細かさが自慢であるし、堅実な制度設計にも秀でている。一方で、大胆な改革が得意かは疑問だ。

そこに強いのが維新の会で、自民党的な利権にも左派が伝統的に強い分野での既得権益にも大胆に切り込んで存在感を増している。

■独自色を出したくても出せないジレンマ

創価学会や公明党にとって平和主義は最重要な柱だ。だからこそ、世界全体が軍拡に向かい、米国がこれまでほどには頼りにならず、伝統的に友好関係を維持してきた中国が日本にとってロシア以上に潜在的な脅威となった事態に戸惑っているのだろう。

信者の中に韓国や在日の人たちがいるためかはわからないが、親韓的な政治的立ち位置や歴史認識を示してきたにもかかわらず、韓国の執拗な反日アクションで、必ずしも友好につながらなかった苦い現状もある。

憲法改正では、公明党の賛同がないと発議すら難しいし、今の状況では創価学会のそれなりの支持がないと国民投票では勝てまい。だが、そこのところで独自色を強く出し過ぎると、自民党内でほかの連立パートナーを求める声も強まるわけで、ジレンマは深刻であり、さじ加減に悩んでいるように見える。

宗教と政治が交差する場所の概念。
写真=iStock.com/jswinborne
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jswinborne

安保法制の際にも公明党の悩みは深かったところを、山口那津男代表の頑張りでなんとかまとめ上げた。憲法改正については改憲でなく加憲を主張しているため、「改憲勢力」と呼ぶのはそもそも不適切だし、公明党にとってもどう向き合うかはひどく悩ましいことだ。

いずれにせよ、勇退が予想された山口代表が昨年、異例の四期目の続投となったことは、様々な意味で公明党が難しい局面にさしかかっているということを象徴している。今春の選挙ラッシュに向けて、このまま堅実路線を維持するのか、あるいは党勢を盛り返すために新たな方針を打ち出すのか、が創価学会と公明党の今後を大きく左右すると言えるだろう。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)』、『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか』、『令和太閤記 寧々の戦国日記(八幡衣代と共著)』(いずれもワニブックス)『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』 (小学館新書)など。

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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)

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