投資詐欺師が"ビジネスチャンス"に舌なめずり…岸田内閣「資産所得倍増プラン」の先に待ち受ける過酷な現実
プレジデントオンライン / 2023年1月21日 9時15分
■広がる若い世代の資産運用詐欺被害
まず図表1を見てください。
これは警察庁が作成・公表している「生活経済事犯の検挙状況等について」(最新は2022年4月公表の「令和3年版」)の中で示された、「利殖勧誘事犯に関する相談当事者の年代別構成比の推移」データのうち、「20歳未満」「20歳代」「30歳代」「40歳代」の合計数をグラフ化したものです。
利殖勧誘事犯とは、「有利な資産運用法」をチラつかせて投資を勧誘し、出資金を詐取する犯罪のことです。要するに「金融詐欺」「資産運用詐欺」と思っていいでしょう。
一見して、大きな変化に気づくはずです。2016年以降、40代以下の比率が右肩上がりに上昇しているのです。
実は2016年時点で、相談件数全体の57.5%を占めていたのは「65歳以上」でした。すなわち、金融詐欺被害者は、以前は圧倒的に高齢者が多かったのです。
ところが年々高齢者からの相談比率が減少し、「65歳以上」は2021年には15.2%にまで減っています。いまでは高齢者と40歳代以下の割合がすっかり逆転してしまいました。
![仮面](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/7/1200wm/img_d7ba94b8195a30c0e40c597a158683ae403037.jpg)
■若年層の被害者がどんどん増えている…
どういう状況で65歳以上の相談者比率が減少したのか。主に次の2つの要因が考えられます。
②65歳以上の相談者数はそれほど減っていないものの、他の年代の相談者数が大幅に増加したことで、相対的に比率が減った
あるいはその両方である可能性がありますが、いずれにしても、「若年層の相談者がどんどん増えている」ことは間違いのない事実です。
資料中の「20歳未満」「20歳代」「30歳代」「40歳代」の相談者比率を合計すると、2016年時点では16.1%に過ぎませんでしたが、2021年時点では55.8%にまで増えています。この4月には2022年のデータが公表されますが、構成比率がどう変化するか注目したいところです。
■2016年以降毎年10ポイントずつ若年層比率が増加
それにしても、どうして40代以下の現役世代の相談者比率が急に上昇したのでしょうか。
もう一度グラフを見てください。2016年以降この年齢層の比率は次のように変化しています。
2017年 28.3%
2018年 39.0%
2019年 44.3%
2020年 55.8%
2021年 55.8%
2016年から2018年にかけて毎年10ポイント近い増加のペースで相談者比率が上昇し、2018年から2019年にかけては鈍化したものの、2019年から2020年にかけて再び上昇ペースが加速しているように見えます。
■老後不安にあおられた40代以下の現役世代
その当時の社会情勢を振り返ると、恐らく漠然とした「老後不安」の広がりが、40代以下の相談者比率上昇の背景にあると思われます。
たとえば、2014年にNHKスペシャル「老人漂流社会 “老後破産”の現実」が放送され、大きな反響を呼びました。独り暮らしの高齢者が600万人に迫る勢いで急増し、その半数近くが生活保護水準以下の年金収入で暮らしているという内容に、多くの人がショックを受けました。
2015年には、「年収400万でも将来、生活保護」と帯にうたった『下流老人』という新書がベストセラーになりました。キーワードのインパクトと相まって、日本社会において社会的セーフティーネットが揺らいでいる現実を多くの人が痛感しました。
さらに、2019年6月には、金融審議会の市場ワーキング・グループが「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を公表。その文面の一部だけが切り取られてしまったかたちでしたが、「老後2000万円問題」が大きな社会問題になりました。
■被害は今後さらに増えていく可能性
同報告書では「老後20~30年間で約1300万~2000万円の老後資金が不足する」と試算されたのですが、しかし、雇用者の約4割が非正規雇用で、十分な貯蓄のない人、退職金や厚生年金が期待できない人が大勢います。
「年金は将来的にさらに削減されていきそうだ。そもそも、この超低金利では預貯金の利息などもまったく期待できない」──そうした現実を見据えて、恐怖にも近い感覚に駆られた若い現役世代が急速に増える結果になりました。
その一方で、日本政府は2003年にスタートした証券税制の優遇措置以降、「貯蓄から投資へ」と旗を振り、日本国民の現金・預貯金1000兆円を投資へ誘導しようとしてきました。
「国にも年金にももはや頼れない。資産運用でなんとか老後資金を作らなければいけない」と考える人はどんどん増加していったのです。
そうした流れの中で、たとえば「月4%のリターンが期待できる資産運用法です」といった触れ込みの広告が、SNSなどを通じてもっともらしく流れてきたらどうでしょう。思わず出資に応じてしまった。しかし、実際には怪しい投資話でしかなかった……そういう経験をする人が、表面化していないだけで相当数出始めていた。
このグラフからはそんな社会の動きが読み取れます。そしてその傾向は、今後ますます強まっていく恐れがあります。
![USD](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/e/1200wm/img_be55ce92c18b75a0b9b462a13d5c2035404842.jpg)
■著名人を使った「なりすまし詐欺」
昨年1年を振り返っても、さまざまな怪しい運用話がありました。
たとえば「LINE」のアカウントを用いて、投資や資産運用の世界で名の売れた人たちが、「お友達になってくれたら投資に関する情報を提供します」といったコメントとともに、SNSで広告展開を行ったケースがありました。
ところが不思議なことに、私がこの情報に顔写真を掲載された当人に直接確認したところ、「まったく身に覚えがない」と言う人が続出しました。つまり、特定のサイトに誘導することを目的に、こうした著名人の写真が勝手に使われていたのです。
これは「なりすまし詐欺」の一種で、恐らくクリックすると、多くが投資LINEグループのようなものに誘導され、「儲かる情報をあなただけに有償でお売りします」と情報商材を売りつけられる仕組みだったと考えられます。
■怪しげな投資商材ビジネスが横行
怪しい情報商材ビジネスでは、たとえば投資セミナーや投資顧問業を展開している企業が、グローバルマクロ投資を極めた著名ファンドマネジャーなる人物を招聘(しょうへい)し、派手に会員を集めるキャンペーンを展開したケースがありました。
「保証付き新投資プロジェクト」を標榜(ひょうぼう)していたものの、サイトに書かれている説明文を読んだだけでは、どういうプロジェクトなのかはっきりとはわかりません。
ただ1つ確かなのは、この著名ファンドマネジャーと呼ばれている人物について書かれていた内容に、かなりの「嘘」が盛り込まれていた可能性が高いことです。
たとえば、このプロジェクトがオープンする前の会員募集期間中に告知展開されたサイトのランディングページには「著名ファンドマネジャーがシリコンバレーから緊急来日」などと書かれていました。
しかし、この著名ファンドマネジャー氏のSNSを見ると、この時期は甲子園で高校野球を観戦していました。シリコンバレーから緊急来日などというのは「盛っている」というレベルを超えた、明らかな虚偽でした。
■証拠のない「運用成績」を高らかにうたう
また、この著名ファンドマネジャー氏の2022年の運用成績として、サイトのランディングページには次のように書かれていました。
FX コモディティCFD:+66%
日経レバ ダブルインバース:+35%
ETF 個別株長期トレード:+2.9%
しかし、これらの運用成績には、何の根拠も示されていませんでした。
サイトの説明を読む限り、明確な仕組みは見えてきませんでしたが、胴元になっている会社が投資顧問業を営んでいるところからすると、会員になるとこの著名ファンドマネジャー氏の運用アドバイスを有償で購入するスキームになっているようでした。
■「情報商材屋」に要注意
似たような手口は、他にもあります。
たとえば、かつて経営していた投資信託会社を、金融庁からの業務停止命令で倒産させた人物が、カリスマ投資アドバイザーとして奉(たてまつ)られている情報商材があります。
情報商材屋によって奉られている人物が、過去どれだけ高い運用成績を上げてきたか知りませんが、投資の世界で「過去の運用成績」が将来の結果を担保しないのは、当たり前の話です。
こうした例は枚挙にいとまがありません。この手の話には乗らないのが無難です。
■「合同会社スキーム」という罠
また近年、問題になっているものに「合同会社スキーム」があります。
これは、資産運用を行う合同会社を設立し、高配当を約束して、個人投資家からその合同会社に出資してくれる「有限責任社員」を集めるというものです。資金を集めるだけ集めたら、後はその資金をどこかに逃がしてしまい、「運用に失敗しました。ごめんなさい」で終わりです。有限責任社員になった個人投資家が出資したお金は、もう戻ってきません。
なぜこんなことになってしまうのか。
合同会社では、出資者が有限責任社員になります。たとえば100万円を出資して有限責任社員になった場合、その会社が1000万円の負債を抱えて倒産したとしても、有限責任社員は出資した金額を上限とした責任しか負いません。つまり出資した100万円が無くなって終わりです。
もちろん、出資した資金を失うのは確かに痛いのですが、無限責任だと負債を全額返済するまで責任を問われるので、有限責任は出資をしやすくするための手段のひとつになっています。
この仕組みを悪用して、個人投資家を騙(だま)す人間がいるのです。
![投資とフィッシングのイメージ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/4/1200wm/img_34019f6c043c38a3b5cb04557bec81dd401900.jpg)
■いままさに問題になっている投資会社
最近、ネットを中心に注目が集まっているある合同会社があります。
各種事業への投融資を行う投資会社だとされ、設立された合同会社の社員権を購入する、という形で個人投資家らから出資を募ってきました。ところが、怪しい話が次々表面化し、「詐欺的な行為を行っているのではないか」との疑いを持った出資者が出資金の返還を求め、集団訴訟に発展しています。
この資産運用会社は、合同会社を通じて集めた出資金を、シンガポールにある系列会社の貸付金にし、その系列会社が金融デリバティブ取引やCFD、あるいはFXを用いて運用して、出資者である有限責任社員に配当金を支払うという流れになっていました。すでに配当金の流れは止まり、出資金の返還にも応じない状況です。
この案件の罪深い点は、どこで知り合ったのかわかりませんが、高級官僚や著名弁護士、著名税理士法人などがアドバイザーに名を連ねていたことです。
「これだけ立派な人たちがアドバイザーに名を連ね、“お墨付き”を与えている会社だから信頼してもいいのではないか……」と思い込んだ人がいても不思議ではありません。
■「広告塔」に騙されてはいけない
資産運用詐欺をもくろむ連中は、自分たちを信用させるために、著名人や肩書のある人物を表に立てて広告塔にするケースが多く見受けられます。
あるいは、メジャーなメディアに広告を掲載し、「うちはこれだけ大きなメディアに広告を出しているから信用しても大丈夫ですよ」とアピールするケースもあります。
過去に有名な雑誌、全国紙、あるいはテレビなどで、資産運用詐欺の広告が堂々と掲載されたことが実際にありました。メディアの広告審査基準を信用してはいけません。
■「資産所得倍増プラン」は「詐欺師にとってビジネスチャンス」
いま、「資産所得倍増プラン」などと国が旗振りをする中で、資産運用詐欺をもくろむ連中は、間違いなく「ビジネスチャンスだ」と舌なめずりをしています。
過去においても、「金融ビッグバン」が国策として打ち出された1998年前後に、資産運用詐欺が急増しました。
この手の犯罪に巻き込まれないためには、しっかり情報の「裏」を取ることです。インターネットでキーワードを打ち込んで検索するだけでも、ある程度の情報は集まってきます。怪しい動きをしている個人や企業であれば、具体的な内容を挙げて批判的な書き込みをしている人が見つかるはずです。
あるいは、よく言われていることですが、素性のわからないものには投資しない。これは今も昔も変わらない「鉄則」です。
資産運用にウルトラCはありません。「あなただけに特別に教える有利な話」などというものは存在しないのです。おいしい話に騙されない「目」を持つようにすれば、この手の犯罪に巻き込まれるリスクを相当程度抑えることができるはずです。
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金融ジャーナリスト
岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立。単行本の制作、執筆の他、各種オンラインメディアに、投資信託や金融市場全般に関する記事を寄稿。
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(金融ジャーナリスト 鈴木 雅光)
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