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こうすれば首狩り族の村にも潜入できる…「テレ東最強の秘境ディレクター」が語る相手の心を開く極意

プレジデントオンライン / 2023年1月20日 13時15分

ナガランド州に住む人々は首狩りの風習を持っていた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/davidevison

相手の心を開くにはどうすればいいのか。テレビ東京制作局企画委員の田淵俊彦さんは「言葉が通じない相手とのコミュニケーションでは、モノが通訳になってくれる。その人が愛用し、自慢するモノを丁寧に撮影し、由来をしっかり聞くことで、秘境の人々も心を開いてくれる」という――。

※本稿は、田淵俊彦『弱者の勝利学』(方丈社)の一部を再編集したものです。

■「ナガランドの首狩り族」の首飾り

ヒマラヤ山脈東部に位置する、インドのナガランド州に住む人々は、かつて首狩りの風習を持っていました。

首狩りと聞くと、「野蛮」だと思われる方が多いかもしれません。

ただ、少なくともナガランドでは、首狩りは勇敢な行為だと考えられています。

敵陣に乗り込んでいき、相手の首を狩った者は、勇者として称えられます。刈った首が多いほど勇敢なのです。

また、強い戦士の首を狩ると、魂が乗り移って強くなるとされています。

私がナガランドを訪れた当時、首狩りの風習はすでにありませんでしたが、彼らが身につける首飾りに、その名残を見ることができました。

ナガランドには、人間の頭蓋骨をかたどった真鍮(しんちゅう)の首飾りを身につけている人がたくさんいます。

それはずっしりと重たい首飾りで、頭蓋骨の数は、その人がかつて狩った首の数をあらわしています。

この首飾りをしている人に出会うと、みな畏敬(いけい)の表情を浮かべて道端に寄り、道を譲るような仕草をするのです。

■「マテリアルカルチャー」とは何か

このナガランドの首飾りのようなものを「マテリアルカルチャー」と呼びます。

日本語では「物質文化」と訳されています。ちなみに「マテリアリズム(物質主義)」とはまったく異なる概念です。

「物質主義」は、物質こそ根源的なもので、精神や感情は物質に規定されるという考え方です。ギリシャの自然哲学やマルクスの唯物論などの基盤でもあります。

一方「マテリアルカルチャー」は、それとは正反対の考え方です。

自然物はもちろん、モノ(物質)そのものの中に、モノを超えた生命性を感じ取ったり、逆にモノに対して精神性を仮託するという考え方のことです。

ちなみに、日本人の心の奥底には、このマテリアルカルチャーが存在しているように思います。

縄文人は、過去数万年の長きにわたり、山、川、海や草木、鳥獣、毎日使っている生活用品にも神が宿ると考えてきました。

山、川、海や草木、鳥獣、毎日使っている生活用品にも神が宿ると考えてきました(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/Shang-Jie Hsu
山、川、海や草木、鳥獣、毎日使っている生活用品にも神が宿ると考えてきました(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Shang-Jie Hsu

その精神は、さまざまなものを「擬人化」するところなどに引き継がれているといえます。

■カヌーの装飾がエージェントの役割を果たす

私が「マテリアルカルチャー」を初めて意識したのは、取材先となる秘境探しをしているときに、イギリスの社会人類学者、アルフレッド・ジェル氏(1945~1997)の論文を読んだ時でした。

それは、パプアニューギニアのトロブリアンド諸島で古くからおこなわれている、「クラ」という交易について、書かれたものでした。

クラというのは、貝の首飾りと腕輪を交換品として、島々を取引して回るシステムのことです。

ジェル氏は、交易の際に使われるカヌーに施された装飾が、交易相手の心理に強く影響することを指摘しました。

カヌーの装飾がエージェントの役割を果たす(※写真はイメージです)
カヌーの装飾がエージェントの役割を果たす(※写真はイメージです)

その装飾が、相手の気持ちをリラックスさせたり、逆に、畏怖の気持ちを与えることで、交渉を有利にしていると分析したのです。

カヌーは、海上を移動するための単なる道具ではなく、使う人間の気持ちを代弁するとともに、交渉において「エージェント」のような役割を果たしているというのです。

つまり、マテリアルカルチャーとは、「マテリアル(物質)」を単なる物質と考えるのではなく、それを使う人やその周りの社会に対してモノが及ぼす影響を考えているのです。

私はこの考え方にたいへん興味を持ち、いろいろな文献を調べ、専門家にも話を聞きました。以来、私の秘境取材の方向性は、このマテリアルカルチャーによって決まったといっても過言ではありません。

■秘境取材はモノから始めよ

秘境に暮らす人々は、ほぼ例外なく、「マテリアルカルチャー」を心の拠り所にしています。

私は秘境で取材する際、必ず人々が愛用し、自慢にしているモノを丁寧に撮影し、由来をしっかり聞くことから始めるようにしています。

モノ(生活用具・道具)は、言語を超える共通語です。

言葉が通じなくても、モノを指差したり、手に持たせてもらったり、使い方を尋ねたりするときの、お互いのアンバーバルな(言語によらない)表情や仕草が、深いコミュニケーションにつながります。

田淵俊彦『弱者の勝利学』(方丈社)
田淵俊彦『弱者の勝利学』(方丈社)

また、秘境に住む人々が使用する生活用具には、民族の知恵や工夫の歴史が刻みこまれています。

そうした生活用具を理解することは、彼らのアイデンティティーを認めることに直結します。

生活の根幹を支えている道具を、敬意をもって扱うことからコミュニケーションを始めることで、秘境の人々から好感を持たれやすくなります。

それからのち、ようやく取材をスタートすることができます。

好感を持って初めて外来者に心を開き、本音を話してくれるのです。

お気に入りのグッズやアイテムを、「センスいいね、それ。どこで手に入れたの?」「素敵な服ね。とてもあなたに似合うわ」と褒められれば、嬉しいに決まっています。

言葉でのコミュニケーションが難しくても、モノが通訳(=エージェント)になってくれる、

これが、マテリアルカルチャーの真髄なのです。

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田淵 俊彦(たぶち・としひこ)
テレビ東京制作局企画委員
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、(株)テレビ東京に入社。主として世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けてきた第一人者。訪れた国は100カ国以上。一方、社会派ドキュメンタリーの制作も意欲的に行い、「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」などの難題にも挑む。現在は、(株)テレビ東京制作局企画委員、プロデューサー。多くの大学の非常勤講師として、「コンテンツプロデュース」「メディア論」「メディア・リテラシー」などの講義も継続している。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本映画テレビプロデューサー協会会員。著書に『弱者の勝利学』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)等。発売されている映像作品に『世界秘境全集 第一集、第二集』『黄金の都・バーミヤン~三蔵法師が見た巨大仏』『風の少年~尾崎豊永遠の伝説』他。

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(テレビ東京制作局企画委員 田淵 俊彦)

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