1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

今こそ配偶者控除を廃止し「共働き控除」を…"専業主婦付き男性"を厚遇する国のやり方では子供は全然増えない

プレジデントオンライン / 2023年1月18日 13時15分

図表=内閣府公式サイトより

岸田文雄首相が表明した「異次元の少子化対策」は功を奏するのか。昭和女子大学特命教授の八代尚宏さんは「児童手当の拡大など『異次元』の名称とはほど遠い内容で、政府として何か努力をしているというジェスチャーを示す安倍政権以来の常套手段と言わざるをえない。対症療法ではなく古い社会制度・慣行をリストラすべきだ」という――。

■およそ「異次元」の名称とはほど遠い少子化対策

岸田文雄首相は年頭記者会見で「異次元の少子化対策」を表明した。これは1970年代前半の200万人台から2022年の80万人割れと、減り続ける子どもの数への危機感によるものだろう。このため少子化対策を検討する新たな会議を1月中に設立し、そこで作成された具体案を4月に設置されるこども家庭庁で実現を図るという。

もっとも新会議を次々と作り、関連予算を付けることで、政府として何か努力をしているというジェスチャーを示すことは、安倍政権以来の常套手段であった。その具体的な政策として報じられているものは、児童手当の拡大、学童保育・産後ケアの充実、育休期間の拡充など、各々有用ではあるが、およそ「異次元」の名称とはほど遠い内容である。

子ども数の減少は、単に子育ての費用の大きさだけによるものでなく、日本社会の歪みの一つの表れであり、いわば病気の際に出る熱のようなものと考えるべきだ。単に熱を冷ます対症療法でなく、病気自体の治療を行うという、構造改革こそが「異次元の少子化対策」の名に相応しい。

少子化の構造的な病因としては、女性が出産後は働かないことを暗黙の前提とした日本の雇用慣行や、それに対応した税・社会保険制度、および日本型福祉社会に基づく保育所などが挙げられる。いずれも長年にわたって改善が求められているが、さまざまな政治的な抵抗で実現されていない。

■家族ぐるみの働き方

戦後日本の高い経済成長期に普及した長期雇用や年功賃金の雇用慣行は、企業内訓練を受けた労働者を、企業が徹底的に活用することを前提としている。慢性的な長時間労働や頻繁な配置転換・転勤は、専業主婦に家事・子育てを支えられた世帯主労働者で、はじめて可能な働き方であり、いわば家族ぐるみで企業に雇われているようなものだ。それが、その後の女性の高学歴化やサービス産業の発展で、夫婦が共に正規社員として働く家族が増えると、矛盾が露呈している。

【図表2】女性の年齢別出生率
図表=内閣府公式サイトより

育児休業や短時間正規社員などの制度がいくら普及しても、女性の管理職比率は高まらない。これは企業の幹部の意識の問題だけではなく、仕事だけに専念できる「専業主婦付き男性」と、子育てと仕事の両立を図らなければならない既婚女性とのハンディキャップが解消できないからだ。

これに対して「男女平等のために日本の合理的な雇用慣行を犠牲にできない」と考えるのは誤りである。長期雇用保障は企業の恩恵ではなく、戦後の豊富な若年労働力や製造業の高い競争力の下での合理的な仕組みであった。そうした経済環境が変化すれば、別の合理的な形態に進化して行くことが、労使共通の利益となる。

夫婦が共に働くことは、過去の自営業主体の社会では普遍的な姿であった。それが戦後の高い経済成長という夢のような時代であったからこそ、並みのサラリーマンでも専業主婦を養えたといえる。今後の低成長時代では、夫婦が共に働き、共に子育てをすることが標準的な家族となり、専業主婦を養えるのは、一部のエリート・サラリーマンの勲章となろう。

男女の正規社員が、共に残業も転勤もない働き方になれば、平時の長い労働時間を削減することで不況期の雇用を保障することも困難となる。他方で、一家に二人の稼ぎ手がいれば、同時に失業するリスクも小さい。世帯主だけが妻子を養うことを前提とした、過去の無理な働き方の弊害の一つが、女性の子育てと就業との矛盾という形で表れている。現行の日本的雇用慣行のままでの小手先の対策では対応できない。

■共働き家族に対応しない税・社会保険制度

日本の家族は、自営業からサラリーマン化、三世代から核家族化などを経て、専業主婦から共働き世帯への変化が急速に進んでいる。それにもかかわらず、所得税の配偶者控除や社会保険の被扶養者制度、さらにこれらに連動した企業の配偶者手当など、過去の専業主婦が大多数を占めていた時代の仕組みが一向に改革されない。

【図表3】我が国の総人口及び人口構造の推移と見通し
図表=内閣府公式サイトより

これには、とくに若年層で多い共働き家族に対応した社会制度の改革が、いぜん専業主婦が中心の中高年齢層にとって不利になるとの世代間の利害対立が大きいという面もある。

しかし、専業主婦を優遇する制度は、一定以上の所得を稼ぐとその恩恵がなくなることで、女性の就業を抑制することにもなる。今後の労働力が不足する社会で、この「女性が働くと損をする」仕組みを、政府自体が維持していることの矛盾を、速やかに撤廃する必要がある。

子どもを増やすためには育児に専念する母親が必要との声もあるが、2022年の厚生労働省「出生動向基本調査」での平均子供数は、無職の女性の1.64人に対して自営業以外で働いている女性平均は1.68人と大差はない。

今後の家族政策では、配偶者控除を子ども控除に振り替えるとともに、共働き家族の家事外注コストの高さに配慮した「共働き控除」を設けることで、働く女性に有利な税制改革も検討するべきだ。

■日本型福祉社会の呪縛

1980年代に、米国型の市場社会や北欧型の福祉国家のいずれでもない、家族に依存した「日本型福祉社会」が唱えられた。この考え方は、現在でも保育制度に顕著に残っている。保育所の大部分を占める認可保育所は、「保育を必要とする子」のためのものと児童福祉法に定められているからである。

【図表4】完結出生児数の推移
図表=内閣府公式サイトより

この一見、当たり前のような規定は、実は「子どもは家庭で育てられるべき」という大原則に基づいている。それが可能でない母子世帯や、両親が貧困などのためにやむを得ず働かなければならない、例外的な家族の子どもの福祉としての保育所という論理である。

このため認可保育所の利用希望者は、「保育認定」を受けなければならず、パートタイム就業や育児休業中の場合には排除されやすい。これは、利用者が自由に選択できる幼稚園のような保育サービスとの大きな違いである。

しかし、女性が男性と同様に働くことが当然であり、またそうでなければ日本社会が維持できない今後の状況の下で、すべての保育所は、福祉ではなく公共性の高いサービスとして位置付けられなければならない。

これまでの保育政策は、もっぱら「待機児童の解消」を目指してきた。しかし、ようやく保育所の供給が需要に見合ってきた現在、これからは質の高い保育サービスを競う時代になっていく。その一つの柱が、知識の詰め込みではなく、少子化社会では不可欠な協調性やコミュニケーションなどの非認知能力を高める幼児教育である。

そのためには、専業主婦についても、一時保育サービスの拡大が必要となる。従来の福祉の枠組みの下で、画一的な業務を行っていればよいのではなく、児童の安全や教育面での工夫が必要だ。現行の企業による保育所への参入を妨げている、市町村の実質的な規制の撤廃が必要だ。コーポレートブランドの高い、全国的なネットワークをもつ企業の参入も、競争を通じた保育サービスの充実に効果的である。

少子化対策とは、単に子育てにお金を付ければ良いだけではない。女性が働くことが例外的であった時代に形成された、多くの社会制度・慣行をリストラクチャリング(再構築)が必要だ。それでこそ、これまでにない「異次元の少子化対策」といえる。

----------

八代 尚宏(やしろ・なおひろ)
経済学者/昭和女子大学特命教授
経済企画庁、日本経済研究センター理事長、国際基督教大学教授、昭和女子大学副学長等を経て現職。最近の著書に、『脱ポピュリズム国家』(日本経済新聞社)、『働き方改革の経済学』(日本評論社)、『シルバー民主主義』(中公新書)がある。

----------

(経済学者/昭和女子大学特命教授 八代 尚宏)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください