1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

衣50%中身50%の「限界エビフライ」を実現…「食材原価率53%の日替わり弁当」でしっかり儲けられるカラクリ

プレジデントオンライン / 2023年1月28日 15時15分

画像提供=玉子屋

仕出し弁当業界大手の玉子屋(東京都大田区)のメニューは日替わり弁当1種類しかない。菅原勇一郎社長は「1種類しかないからこそ、原価率50%オーバーでも儲けが出せる。野菜も肉も魚も新鮮で良質なものを使っているが、一番こだわっているのは、弁当の主役であるご飯だ」という――。

※本稿は、菅原勇一郎『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■あえて原価率を下げない「心意気」

玉子屋の日替わり弁当は450円(※)。その原価率は2017年で53%前後。つまり、1食にかける材料費は238円50銭ほどです。これは純然たる食材費で、容器代や物流費、人件費などは含まれていません。

(※)2018年当時。2022年12月現在は500円

弁当屋の業態や弁当の種類などによって原価率は違ってきますが、良心的な弁当屋でも40~42%ぐらいが普通だと思います。

50%オーバーの原価率を維持するというのは創業者である菅原勇継会長が決めた、いわば「玉子屋の心意気」のようなものです。

お客様に満足していただける弁当をつくるために、お客様の期待を絶対に裏切らないために、可能な限り仕入れにお金をかける。「原価率を下げて利益を上げたって、半分は税金で持っていかれる。だったらお客様と社員に還元しろ」というのが会長の考え方。私も大いに賛同して、会長の考え方を引き継いでいます。

■材料費以外をあの手この手で切り詰める

実際、6万食を超える大量の弁当をつくっていれば、1食の原価をもっと安くすることは可能です。しかし玉子屋では原価を下げるよりも、大量仕入れによってよりよい食材をリーズナブルな値段で調達すること、そしてご飯とおかずの質を高めることに力を入れてきました。

そんなに原価率を高くしてどうやって儲けているのか。これもよく聞かれることですが、答えは簡単明瞭です。材料費以外のコストを切り詰めることです。

たとえば玉子屋の弁当箱は使い捨ての容器ではなく、回収して繰り返し利用できるリターナブル弁当箱を使っています。

おかずを盛り付けるスピードは他社の倍以上早いのですが、それだけ製造現場の効率化が図られているということです。どこかの総研にでも調査分析を依頼すれば、最大7万食の弁当をつくるためには現状の玉子屋の3倍以上の敷地と設備と人員がないとできないという答えが返ってくると思います。

配達担当スタッフが配る弁当の数は一人当たり350~450食で、これも同業他社の倍です。並行して配達担当者が新規顧客の開拓や、お客様から弁当の感想や競合他社の動向を聞き出す営業活動も行なっている。玉子屋には営業部というセクションはありません。配達スタッフが営業マンであり、マーケティング担当でもあるのです。

設備にしても人材にしても、会社の資源を効率的に活用する。無駄を少しでもなくしていく。それが利益の源泉であり、仕込みにお金をかけられる理由であり、玉子屋の弁当の美味しさの理由なのです。

玉子屋の配達担当スタッフは一人当たり350~450食、同業他社の倍の数を配送する
画像提供=玉子屋
玉子屋の配達担当スタッフは一人当たり350~450食、同業他社の倍の数を配送する - 画像提供=玉子屋

■千切りキャベツがシャキシャキな理由

食材の調達は日本全国、世界各国から行なっています。と言っても大手企業のように自前の調達部隊を抱えているわけではなく、仲卸しの業者などに仕入れを委託しています。

たとえば野菜の仕入れを委託している業者は沖縄から北海道まで日本全国の生産者を知っているので、季節ごとにベストな野菜を産地から直接買い付けてくる。玉子屋のメニューの内容も使う野菜の量も事前にわかっているので、そこから逆算して食材を買い集めて納品してくれる仕組みになっています。

同じキャベツでも沖縄から北海道まで産地が徐々に北上していくので、「今日使っているキャベツは愛知県豊橋産」などとホームページ上で産地を紹介しています。

普通、収穫したキャベツは集荷場や市場を経由して1週間ぐらいでスーパーなどの店頭に並びます。しかし玉子屋では流通をカットして産地から直接買い付けますから、収穫したキャベツが3日後には弁当に使われる。

市販の日替わり弁当で千切りキャベツが入っていることはあまりありませんし、お飾り的に入っていても水分が抜けてしなびていることが多いのですが、玉子屋の弁当の千切りキャベツは昼になってもまだシャキシャキとしてみずみずしい。鮮度がいいからです。

玉子屋自慢のシャキシャキとしてみずみずしい千切りキャベツ(おかずの中央)
画像提供=玉子屋
玉子屋自慢のシャキシャキとしてみずみずしい千切りキャベツ(おかずの中央) - 画像提供=玉子屋

野菜の仕入れを委託している業者は漬物工場も持っているので、白菜や小松菜などの一夜漬けもつくってもらっています。採れたて野菜の一夜漬けが朝イチに納品されて、その日のうちに弁当に使われています。

■肉専門のカット工場でコストダウン

肉に関してはもともと玉子屋に肉を卸していた業者が廃業することになって、そこの跡取りが玉子屋に社員として入社しました。

彼は肉の産地や流通ルートをよく知っているので、肉の仕入れ部門を任せています。同時に、本社に肉専門のカット工場をつくりました。日本国内だけではなく、世界中から良質な豚肉や鶏肉を仕入れてきては、肉専門のカット工場でメニューに合わせて肉をカットしたり、スライスして調理の下拵えをしています。

野菜も肉も、とにかく流通をカットし、直に買い付けるようにしているので、コストダウンができるのです。

■魚は直仕入れより業者を頼ったほうが安い

魚はメインで取引している食品問屋(卸し)が3社あって、そこを通じて仕入れています。魚の場合、物流を確保したり、衛生管理を徹底したり、自前のカット工場を持って加工したりすると、かえってコスト高になります。直接仕入れるよりも間に業者を噛ませて、カットの仕方などを指示して加工までしてもらったほうがリーズナブルだという判断です。

たとえばあるとき、福岡の漁港でサバが30トン揚がったという情報が入ったときには、業者に依頼して現地に買い付けに行ってもらいました。買い付け資金は現金前払い。本当にいい食材があればそういうこともあります。

海洋汚染や乱獲の影響で、日本近海では美味しい天然の魚はなかなか獲れなくなり、国産魚だけで弁当の食材を賄える時代ではありません。チルドなどの保存技術、輸送手段も発達している昨今、玉子屋では世界中から美味しい魚を厳選して買い付けています。

玉子屋の弁当は魚の種類が多いとよく言われます。お弁当の魚といえば、鮭、サバ、アジくらいだと思いますが、玉子屋では鮭(チリ・ロシア)、アジ・サバ(ノルウェー)、ホッケ・赤魚(ロシア・アメリカ)、カレイ(アラスカ)、サワラ・黒ムツ・タチウオ(ニュージーランド)、サンマ・ブリ(北海道、長崎)、タラ(ノルウェー)、マグロ(ベトナム)、イカ(ペルー)などが切り身に使われています。

玉子屋の弁当は魚の種類が多い
画像提供=玉子屋
玉子屋の弁当は魚の種類が多い - 画像提供=玉子屋

■1日最大7万食というスケールメリット

450円の弁当にどうしてこんなに質のいい食材が使えるのか。

食品のプロが玉子屋の弁当を口にすれば、美味しさはもちろん、食材の質の高さにすぐに気づくと思います。

玉子屋が食材にお金をかけられる最大の理由は、1日最大7万食という食数にあります。つまり、規模の大きさ、数量の多さという強みです。最大7万食の食材を大量に仕入れることによって、大幅な値引きが可能になる。

2万食、3万食、5万食と弁当の注文数が増えるにしたがって、食材をよりリーズナブルな値段で買い付けられるようになりました。バラエティに富んだおかずが提供できるようになったのも、一つひとつの食材の単価が下がったおかげです。

■一度に仕入れる冷凍コロッケは30万個

たとえば定番メニューであるコロッケ。人気の高い牛肉コロッケや北海道ジャガイモコロッケ、グラタンコロッケなどは、ナショナルブランドの冷凍食品をつくっている日本の食品メーカーと共同開発した、いわば玉子屋のプライベートブランドです。

月イチでメニューにコロッケを入れるとして、玉子屋が1カ月に使うコロッケは最低でも6万個。冷凍食品は賞味期限が長いので5カ月分ぐらいを買い付けますから、一度に30万個のコロッケを仕入れることになります。

これだけの量になるとこちらの要望に添ったプライベートブランドとしてつくってもらえるし、値引き幅も大きくなる。同じようなコロッケをほかの弁当屋が1個30円で買っているとすれば、玉子屋は25円で買えます。

大手の弁当屋でも1日の食数は3000~5000食程度です。コロッケの原価が20円として10円乗せて30円で5000個売ってもメーカーの利益は5万円。玉子屋の場合は25円で1個の利益は5円しかなくても、6万個ですから30万円。5カ月分の30万個なら150万円。冷凍食品メーカーからすれば、玉子屋に25円で売ったほうが利益になるのです。

■衣50%、中身50%の「限界エビフライ」

ほかの弁当屋は玉子屋より高い値段で仕入れていながら、原価率は40~42%程度。玉子屋は安く仕入れて原価率が53%ですから、原価率の差以上に実質的なクオリティには開きがあると思います。53%という玉子屋の原価率は、ほかの弁当屋なら原価率60%ぐらいに相当するのではないでしょうか。

食材のスペックをこちらで決められるのも食品メーカーとの共同開発の強みです。

たとえばエビフライ。スーパーで売っているエビフライもレストランで供されるエビフライも、大体衣が60~65%で、中身は35%ぐらいです。

それ以上衣を薄くすると揚げるときに衣が破れたり、中身が折れたりして、不良品がたくさん出てくる。つまりロスが出るわけです。

しかし、やはりエビフライの衣は薄いほうが食感がいいし、エビの存在感が際立ちます。そこで玉子屋では衣50%、中身50%という限界ギリギリのスペックでつくってもらっている。このようなお客様のためのわがままが利くのもスケールメリットと言えるでしょう。

■弁当の美味しさを大きく左右するのはご飯

玉子屋の弁当というと品数豊富で彩りもいいおかずに目が向きがちですが、何よりこだわりを持っているのは実はご飯です。

「何だかわからないけど、玉子屋の弁当が一番美味しい」と感じているお客様がいらっしゃれば、それは本人が気づかれていないだけで、きっとご飯が美味しいからだと思います。

どんなにおかずが美味しくても、ご飯がまずいと箸は進まない。でもご飯が美味しいとおかずがイマイチでも箸は進みます。

弁当にとってご飯が美味しいことは決定的に重要なのですが、そのことに気づいていない経営者が多いと思います。おかずは一見豪華でも、ご飯が残念な弁当がどれだけ出回っていることか。

弁当屋がご飯にこだわるには勇気と覚悟が要る。ちょっと大袈裟なようですが、間違いありません。なぜなら、ご飯は弁当に毎日入る食材だから。当然、原価に占める割合は大きく、いい米を使えば原価率は上がります。

逆に、一番コストカットしやすい部分とも言えます。玉子屋で使っている米のレベルを、「多分、お客様の7割は気づかないだろう」程度に下げただけで、年間7000万円から1億円は利益がアップする。

しかし、日本人の食の基本であり、弁当の主役であり、嘘をつかない食材だと思っているので、私は米にはこだわりたい。だから毎年、米の仕入れの時期になると慎重に慎重を期して米を選びます。前年の米に負けないレベルのものを、これ以上払ったら赤字になるというギリギリの値段で買っているのです。

■安い米を使わないことで、勝率が上がる

私が玉子屋に入る前に勤めていた会社は全国の米屋のコンサルティングをしていて、私も日本全国の米を食べ歩きました。特A地区の銘柄米だけではなく、知られざる隠れたブランド米も発掘してきました。だから、米の卸し業者には私が指定した銘柄の米を入れてもらっています。

菅原勇一郎『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)
菅原勇一郎『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)

「ご飯を比べてください」

玉子屋が営業をかけるときの強力なセールストークです。

2017年も新米の値段が10%上がって、これで3年連続の値上がりです。当然のことながら玉子屋の利益を圧迫します。でも歯を食いしばって、ほかの部分でカバーするしかない。

他社は恐らくそうはいかないから、安い米を使うはずです。ということはお客様にご飯の違いをしっかりアピールできれば、玉子屋が勝つ確率は上がる。利益率は下がっても、弁当の質は他社より上がるわけですから。

----------

菅原 勇一郎(すがはら・ゆういちろう)
玉子屋社長
立教大学経済学部経営学科(体育会野球部所属)を卒業後、株式会社富士銀行(現 株式会社みずほ銀行)に入行。1995年、流通マーケティング会社を経て、1997年、株式会社玉子屋に常務取締役として入社、2004年に同代表取締役社長に就任。テレビ東京「カンブリア宮殿」等メディアに多数取り上げられ、独自の経営手法、人材マネジメントは米国スタンフォード大学の大学院教授が視察に訪れるなど着目されるようになる。2015年から世界経済フォーラム(ダボス会議)のフォーラム・メンバーズに選出されている。著書に『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)。

----------

(玉子屋社長 菅原 勇一郎)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください