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大卒よりもよっぽど頭の回転が速い…大田区の弁当屋が元番長や元暴走族の「悪ガキ」を積極採用するワケ

プレジデントオンライン / 2023年1月24日 9時15分

弁当屋「玉子屋」2代目社長の菅原雄一郎氏(画像提供=玉子屋)

仕出し弁当業界大手の玉子屋(東京都大田区)は、元番長や元暴走族といった「悪ガキ」を積極的に採用している。菅原勇一郎社長は「大卒社員よりも中卒、高卒の社員たちのほうが頭の回転が速く、リーダーシップも取れる。中小企業にとっては、こういう『原石』をいかに見極めるかが重要になる」という――。

※本稿は、菅原勇一郎『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■中小企業の競争力の源泉は「人」しかない

企業は人なり。

松下幸之助さんの有名な言葉です。

いつの時代も企業にとって最大の資産は「人」です。資産が乏しい中小企業ともなれば、競争力の源泉は「人」しかない。

いかにスタッフを優秀な人材に育て上げていくか。いかにスタッフのやる気と能力を引き出していくか。玉子屋の成長の源泉も、突き詰めれば「人」に尽きると思います。

しかしながら、中小企業では人材確保もままならない。弁当業界も恒常的に人手不足に悩まされてきました。特にバブル期などは人ひとり雇うのも厳しかったと、菅原勇継会長(創業者で実父でもある前社長)から聞いています。

玉子屋に集まってくるのは、世間一般で言う「優秀」な人材ではありません。学校で落ちこぼれたり、夢を追いかけていたり。その夢に破れたり、どこかでつまずいたり、挫折をしてドロップアウトしたような人間が多い。元番長もいれば、元暴走族もいる。高校や大学を中退したフリーターも珍しくありません。

■金を使い込まれても「悪ガキ」を採用する理由

そんな社員のことを会長は親愛の意を込めて「悪ガキ」と呼んでいました。中には集金してきた会社の金を使い込んだ者もいます。しかし会長は「悪ガキ」を積極的に採用して、玉子屋の貴重な「戦力」に育て上げてきました。

彼らの中に眠っている能力、本人が気づいていない可能性を見極め、「原石」として採用し、その能力と可能性を開花させてきたのです。

なぜ「悪ガキ」を好んで採るのか。会長は養殖の魚と天然の魚を例にこう説明してくれたことがあります。

「養殖の魚は生簀の中で餌をもらって育つ。人間で言えば親や学校の先生が敷いたレールの上を走るタイプだよ。決められたことは守るし、言われたことは上手にこなすかもしれないが、人間自身が持っているエネルギーは少ない。

一方、天然の魚は自ら餌を取る。人間で言えば自分で物事を考えて決めてきたタイプ。悪ガキたちはこれに当たる。そういう人間は心の中に大きなエネルギーを持っている。ウチの社員は天然ものばかりだからね。心に火がつくとすごい力を発揮するんだ」

■臨機応変にてきぱき動けるのが「天然もの」

玉子屋には根性のある「天然もの」が入ってきます。喧嘩の仲裁に入って指を食いちぎられたり、通り魔事件に遭遇してケガを負いながら出社してきた猛者もいる。腹から血が滲んでいたので、「どうした⁉」と尋ねたら、「昨日、駅前で刃物を振り回してるヤツがいて、止めに入ったら刺されました」という。「大丈夫か」と心配すると「午前中の配達は大丈夫です。やらせてください。でも午後は早退させてください」。

そんなエピソードを挙げたらきりがありません。

ビジネスには決まった答えがあるわけではありません。

特に玉子屋は刻一刻と注文状況が変わるので、その日の朝に決まったことを数時間後に変更するなど日常茶飯事です。弁当の配達にしても、配る弁当の数やルートが1日のうちに何回も変更されます。

そうした状況下で、機転を利かせてテキパキと動けるのが、「天然もの」の悪ガキ社員なのです。「養殖もの」は指示通りにやらなければと考え過ぎるから、何か変更があると動揺したりフリーズして、的確な判断が下せないことが多い。

顧客志向という点においても、「悪ガキ」社員のほうがしっかりお客様に向き合おうとする傾向が強いように思います。

普通の会社員はお客様からの評価よりも、上司からの評価を気にします。ところが「悪ガキ」社員は上司の顔色をうかがうよりもお客様が気になるというタイプが多い。

褒められた経験が少ないから、お客様から褒められることが何より嬉しい。だからお客様のためなら上司とも平気で喧嘩する。

玉子屋ではスタッフが「もっとお客様のために改善したい」と上司を突き上げる場面を、日常的に見かけます。

■目を見て会話すれば「原石」を見極められる

荒削りな「原石」をどう見極めるか。新卒にしても、中途やパート、アルバイトにしても、やはり採用時の面談が重要になります。

私が玉子屋に入る以前、採用は会長の仕事でした。

身内を褒めるのは気が引けますが、会長の人を見る目は本当にすごい。面談で目を見て言葉を交わせば「コイツはものになる」とか「口だけで言っている」とわかると言います。私自身、人事を動かすときに会長の助言に随分助けられました。

面接や会議
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

「子どもの頃に命からがら大陸から引き揚げてきたり、田舎でいじめられたり、ガキ大将で子分を引き連れていた経験がものを言っている」と本人は言いますが、社員は皆、不思議がる。

どういうタイプがものになるのか、一概には言えないそうです。見た目だけは判断できない。一見、反抗的な態度に見える人もいれば、表面上はイエスマンを演じる人もいる。

ただ、ものになる「原石」の多くに共通することがあります。それは何かの理由でドロップアウトしたとしても、親や親戚あるいは周りの誰かから愛情を受けているということ。

特に上に立って人を使う仕事ができるかどうかは、子どもの頃に誰かしらの愛情を受けていることが大きな鍵で、「そういう人は他人に対する寛容さ、許容範囲を持ち合わせている」と会長は言います。

■「素直な心」「感謝する気持ち」「他人のせいにしない」

一方で、「コイツは使えない」というタイプにもある程度の共通点があるとか。代表的なのは何でも他人のせいにするタイプ。

たとえば「前の会社をどうして辞めたのか」と聞いて「自分なりに一生懸命やったが、評価してもらえなかった」などと弁解するようでは見込みが薄い。この手のタイプには常に言い訳がついてくるからです。

自分レベルで頑張るのではなく、他人が要求するレベルで頑張る。そうでなければ世の中では通用しません。

私が入社した1997年以降、採用も会長から私が引き継ぎました。会長の眼力には及びませんが、私なりに面談で重視していたポイントは三つです。

「素直な心」、「感謝する気持ち」、そして先代譲りの「他人のせいにしない」。

学校の成績などは参考にならないからほとんど見ません。

■自然な笑顔ができるかどうかも大事なポイント

一番大事なのは生い立ち。子どもの頃、どのような過ごし方をしたのか。ご両親や兄弟との関係はどうだったか。どのような愛情を注いでもらったか――。

「自分の性格をどう思う?」とか、「自分は親友からどう思われてると思う?」などと質問して自己分析させつつ、具体的なエピソードを引き出します。

そうした会話のやり取りから、「素直な心」、「感謝する気持ち」、「他人のせいにしない」といった心性がどれほどかを探る。

それから自然な笑顔ができるかどうかも大事なポイントです。

緊張する場面ですから、なかなか笑顔は出てこない。「笑ってごらん」と言っても引きつって笑えない子が今でもいっぱいいます。男の子でも女の子でも。

配達スタッフに笑顔は必須だし、内勤でも笑顔で働いている人は気持ちがいい。だから自然な笑顔ができる人材は得点が高いのです。

面接で笑顔を見せる人
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

■あえて大卒を採用する必要はないとわかった

私が入社した1997年に玉子屋は初めて大卒者を新卒採用しました。

それまでは弁当屋に大卒者がやってくるなんて考えられないことで、アルバイトに「社員にならないか」と声をかけるのが採用活動のようなものでした。

きちんと新卒を採って、毎年4月には新人が入ってきて、社員たちには可愛い後輩ができる。そんな普通の「会社」にしようということで、この年から新卒採用を始めた。最初の年は確か、大卒4人、高卒3人を採用したと思います。

それから3年連続で新卒を採用したのですが、だんだん「新卒採用に意味があるのか」という空気が社内に立ち込めてきました。

なぜなら、大卒で入ってきた社員よりも叩き上げのアルバイトのほうが全然仕事ができるということが、誰の目にも明らかになってきたからです。

中卒、高卒の「悪ガキ」たちのほうがよっぽど頭の回転が速いし、融通は利くし、リーダーシップも取れる。人も育てられる。

大卒者が将来、経営幹部になるとは限らないことがよくわかりました。

■まずはアルバイトとして3カ月働いてもらう

結局、2000年からは新卒、大卒にこだわらず、その都度その都度でご縁のあった人を通年で採用することにしました。

4月入社組は一応新卒の正社員という形で採用しますが、1年を通じて適宜、アルバイトや正社員を募集する。通年採用では基本的にはすぐに社員では採用しません。全員まずアルバイトとして入社してもらいます。

正社員希望の場合は、全社員にそれを告知した上で、3カ月ごとの試用期間を設けます。アルバイトとして3カ月働いてもらった上で、その人が正社員にふさわしいかどうか、会議をして決める。

「ふさわしい」という結論になれば社員として受け入れるし、「ふさわしくない」となればアルバイトのまま。早ければ半年で社員になるケースもあれば、社員希望でも2年間アルバイトのままというケースもあります。「社員になれないなら」とアルバイトを辞めてしまう人もいれば、「社員になるまで頑張ります」とアルバイトを続ける人もいる。

チームワークと人事管理のイメージ
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

■大卒社員を採ったことで、よい変化も

今は継続的な採用はしていませんが、大卒者を採るようになって社内の雰囲気も変化したように思います。菅原一族の「家業」から「企業」に、玉子屋が変わりつつあるという自覚を社員それぞれが持つようになった。

「上場こそしてないけど、最近はテレビや雑誌でも取り上げられるし、大卒も入ってきた。結構しっかりした会社なのかな」などと少し誇らしく思ってくれるようになったり。

それまでは仲間意識の強さでうまく回っていた部分もありました。しかし、大卒者が入ってきたことで「今に見ていろ。大卒に負けるもんか」という競争意識も芽生えた。勝手にライバル視された大卒社員としては風当たりが厳しくて、つらいものがあったかもしれません。

もちろん、経営者としては幹部候補のつもりで大卒を採ります。

頑張って叩き上げの先輩社員を抜いて、皆に認められて、2年後、3年後には配達エリアのリーダーぐらいにはなって欲しい。「そのつもりで給料もボーナスもアルバイトとは違う体系になっているんだから」と本人たちにも言い聞かせていましたが、なかなか思い通りにはならなかった。

■会社に刺激と活気をもたらす高卒新人

それでも「あえて大卒を採る必要はない」という教訓を得られたことには意味があったと思っています。大卒募集をやめたわけではありませんが、就職セミナーに参加したり会社説明会を開いたり、わざわざコストをかけてまで大卒者を採りにはいかない。「ご縁があれば」でいい。

近頃は大卒よりも高卒を採って鍛えたほうが効率的ということで、ここ数年は高卒の新卒採用を増やしています。2017年4月の採用について言えば、高卒を5人(女子4人、男子1人)、大卒を1人採りました。

菅原勇一郎『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)
菅原勇一郎『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)

玉子屋には大手企業のような社員向けの細かい研修プログラムがあるわけではありません。業務の基本は古いスタッフが新しいスタッフに教え、また現場でスタッフ自身が技術を習得していく。そうした「学び」は、若くて柔軟な高卒のほうが素直に受け入れられる。

今後一層求められるITやAIのようなICT教育(情報通信技術を駆使した教育)についても、必ずしも大卒が有利ということはありません。

それに高校卒業したての若い世代が入ってくると社内の刺激になります。たとえば弁当の注文を受ける事務スタッフは約100人います。そこに自分の娘と同じくらいの新人が4人入った。すると「しょせんは高校生よね」などと言いながらも、一生懸命新人に仕事を教える。新人もそれに応えて一生懸命仕事を覚えようとする。

春にやってくる新人が刺激になって、会社全体が活気づく、という効果は少なからずあるようです。

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菅原 勇一郎(すがはら・ゆういちろう)
玉子屋社長
立教大学経済学部経営学科(体育会野球部所属)を卒業後、株式会社富士銀行(現 株式会社みずほ銀行)に入行。1995年、流通マーケティング会社を経て、1997年、株式会社玉子屋に常務取締役として入社、2004年に同代表取締役社長に就任。テレビ東京「カンブリア宮殿」等メディアに多数取り上げられ、独自の経営手法、人材マネジメントは米国スタンフォード大学の大学院教授が視察に訪れるなど着目されるようになる。2015年から世界経済フォーラム(ダボス会議)のフォーラム・メンバーズに選出されている。著書に『東京大田区・弁当屋のすごい経営』(扶桑社)。

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(玉子屋社長 菅原 勇一郎)

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