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「鉄板入りの靴で蹴られ、肋骨を3本折られる」日本の建設業界で横行する外国人技能実習生への非道な暴力

プレジデントオンライン / 2023年1月26日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nameinfame

日本の建設業界は人手不足が喫緊の課題になっている。ジャーナリストの澤田晃宏さんは「人手不足を解消するために、建設業は外国人技能実習生を受け入れてきたが、作業がきついわりに給料が安いため、『送り出し不可能職種』となっている。建設現場では暴力が珍しくなく、それに耐えかねた実習生の失踪も相次いでいる」という――。

※本稿は、澤田晃宏『外国人まかせ』(サイゾー)の一部を再編集したものです。

■建設業で外国人技能実習生が急増

建設業界は目下、若手の人材確保が喫緊(きっきん)の課題だ。

建設業で働く労働者は現場の管理・監督を行う「技術職」と、現場作業を行う「技能職」に分かれるが、技能職の高齢化が進んでいる。

60歳以上が約84万人と全体の26%を占める一方、29歳以下は約38万人と11.6%にすぎない(総務省「労働力調査」[2020年平均]を基に国土交通省にて推計)。

ならば、どうやって若手の人材を確保しているのか。

建設分野に携わる外国人数は、2011年の約1万2830人から、2020年には11万898人まで増えている。

【図表1】建設分野に携わる外国人数
出典=『外国人まかせ』

在留資格別に見ると実習生が大半で、同期間で6791人から7万6767人まで増えている。2015年からはオリンピック・パラリンピック東京大会の関連施設整備等の一時的な建設需要に対応するため、技能実習修了者を対象とした「外国人建設就労者受入事業」(2022年度をもって終了予定)がスタート。

実習終了後に在留資格を「特定活動」に変更して働く建設就労者(元実習生)も4260人いる(2020年)。再入国の場合は、最大3年以内、建設業務に従事できる。

■「きつい作業のわりに、給料が安い」ベトナム人も敬遠

いったい、なぜ、建設業界に日本の若者が集まらないのか。

厚生労働省が建設会社1122社を対象に「若手の人材が定着しない理由」を尋ねた調査によれば、その理由のトップ3は「作業がきつい」(42.7%)、「(若年技能労働者の)意識が低い」(40.8%)、「現場での人間関係が難しい」(24.9%)だ。

一方、若年層の離職者178人を対象に「仕事を辞めた一番の理由」を尋ねた調査によれば、その理由のトップ3は「雇用が不安定である」(9.6%)、「遠方の作業が多い」(9.0%)、「休みがとりづらい」(8.4%)になっている。

建設業の年間の労働時間は全産業平均に比べ300時間以上長く、他産業では週休2日が当たり前となっているが、建設業では徹底されていない。

不人気なのは、日本人からだけではない。

2021年6月末時点で、実習生は35万4104人。その過半を超える20万2365人が、最大の送り出し国となっているベトナム人だ。

【図表2】国籍別の技能実習生数(2021年6月末)
出典=『外国人まかせ』

これまで筆者は、ベトナムの送り出し機関の幹部や、ベトナム人実習生をあっせんする監理団体を数多く取材してきた。

誰もが口を揃える3大不人気職がある。それが「建設・農業・縫製」だ。

なかでも、ハノイのある送り出し機関幹部はこう表現した。

「建設は不人気というか、もはや『送り出し不可能職種』です」

理由は簡単だ。拘束時間が長く、野外でのきつい作業のわりに、給料が安い。

同幹部はこう続けた。

「社会保険や寮費などを引いた手取りが15万円以上ないと、募集を出しても人が集まらない状況です。2、3年前までは、他業種同様に『30歳以下』や『入れ墨不可』などの応募条件がありましたが、今ではそうした条件もありません。『40歳でも大丈夫』と、もう来てさえくれるなら誰でも大丈夫みたいな状況になっています」

■2年にわたる暴力で肋骨を3本骨折

それでも、給料を高く設定すればなんとか人は集まる。他業種に比べ、採用が困難であることに違いはないが、「送り出し不可能職種」になる理由はほかにもある。暴力だ。

本書執筆の最中にも、痛ましい事件が世間を騒がせた。

広島県福山市の労働組合「福山ユニオンたんぽぽ」は2021年1月17日、岡山市内で2019年秋にとび職の実習生としてベトナムから来日した実習生と共に記者会見を開いた。

実習生は職場の同僚から2年にわたって暴力を受けており、靴のつま先などに鉄板が仕込まれた安全靴で蹴られ、肋骨(ろっこつ)を3本骨折したこともあった。

骨折した際は、会社から階段から落ちたことにしておけと指示されたという。

その後、同建設会社4人は傷害などの疑いで書類送検されたが、岡山区検察庁は2022年8月4日付で全員を不起訴処分としている。

事件の痛ましさと同時に、筆者は建設業界に実習生が集まらなくなっている状況を再確認した。被害を受けたベトナム人実習生は、41歳だった。

■ハンマーで殴られたベトナムのエリート

ベトナム出身のファム・コク・ベト(37歳)は、2019年9月にとび職の実習生として来日し、1カ月間の入国後講習を経て、同時に入国した別のベトナム人実習生2人と神奈川県内の建設会社で働き始めた。

会社は、社長を含め、日本人が3人。そして、ベトを含め、実習生が3人の小さな会社だった。

実習生の受け入れ数は常勤の職員(いわゆる正社員)数により上限(基本人数枠、図表3参照)が決まっている。

【図表3】実習生の上限
出典=『外国人まかせ』

最も少ない受け入れ枠は常勤職員30人以下で、技能実習1号で最大3人、2号で最大6人になる(団体監理型の場合)。

社長からの暴力は、働き始め、すぐに始まった。

足場の資材となる鉄パイプで叩かれたり、ヘルメットの上からハンマーで殴られたりした。

監理団体のベトナム人通訳を通じ、やめてほしいと訴えたが、変わらなかった。

年末に実習生3人で「別の会社に転籍したい」と監理団体に伝えたが、新しい仕事はすぐに見つからず、帰国するしかないと言われた。ベトはこう話した。

「ベトナムで面接を受けたとき、社長は体が大きく、金髪で、体には入れ墨が入っていました。そのときから嫌だなと思っていましたが、送り出し機関から『年齢的にほかの会社では採用されないから、建設しかない』と言われ、諦(あきら)めました。一緒に働いていた実習生の1人は40代でしたが、年が明けた2月に早々に失踪しました。自分は100万円近い借金があり、失踪後にお金を稼げる保証もないので、暴力に耐えながら働き続けました」

ベトは、ベトナムの最難関大学の一つ、国立のハノイ工科大学を卒業したエリートだ。

日本で言えば、東京工業大学卒業といったところだろう。

大学卒業後は母国の建設会社で働き、その後、中国系の建設会社に転職した。

「給料は日本円で6万円くらい。地方では高いほうですが、早くに亡くなった父に代わり、農業を営む母親を助けたかった。インターネットで送り出し機関の広告を見て、今の2倍は稼げる日本で働きたいと思った。月に12万円くらい仕送りをしたかった」

■失踪してウーバーイーツで荒稼ぎ

仕事は不安定で、仕事が少ないときは「月の半分以上が休みだった」とベトは振り返る。

毎月、決まった額面ではなく、寮費を引いた手取りが高いときで11万円あったが、仕事が少なければ6万~7万円程度だった。

こうした建設業の「日給月給」での給与支払いは2020年以降、認められていない。

ベトは監理団体を通じて再三再四、社長の暴力について相談をしたが、社長の態度が変わることはなかった。それどころか、別の日本人社員から暴力を受けることも増えた。

実習生は、転職はできないが、「転籍」はできる。実習計画で認定を受けた同じ作業であれば、受け入れ先を変更し、実習を継続することができる。

ベトは監理団体に転籍の支援を申し入れたが、ベトナム人の通訳スタッフを通じ、「別の受け入れ先はないから、今の会社で頑張って」と言われるだけだった。

2020年5月、ベトは失踪する。

監理団体は1カ月につき少なくとも1回以上、実習計画が適切に実施されているかなどを実地確認する「訪問指導」が技能実習法の関係省令で義務付けられているが、ベトが働いた約半年間で、監理団体の職員が会社に来たのは3回だけだった。

受け入れ先は論外だが、監理団体もこうした受け入れ先に実習生をあっせんし、適切な保護もできない以上、実習生を受け入れる資格はない。

失踪したベトは、東京都大田区内に住む友人のベトナム人留学生を頼った。仕事はベトナム人の間では有名なフェイスブックグループ「Tokyo Baito」で見つけた。

同様のフェイスブックグループ「BộĐội」が失踪者などに向けた違法な求人情報が多いのに対し、Tokyo Baitoは主に留学生を対象とする求人が多い。そこで「ウーバーイーツ」の配達員の仕事を見つけた。

コロナ下で料理の宅配需要が拡大しており、同様の投稿をたくさん見つけることができた。

ただ、それらの投稿は求人情報ではない。配達員のアカウントや偽造の在留カードの売買だ。

ウーバーイーツの配達員
写真=iStock.com/Ceri Breeze
失踪してウーバーイーツで荒稼ぎ(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Ceri Breeze

■ウーバージャパンを書類送検

警視庁は2021年6月、オーバーステイのベトナム人らを不法に働かせたとして、ウーバーイーツを運営していた日本法人「ウーバージャパン」と代表を入管法違反(不法就労助長)の疑いで書類送検した。

澤田晃宏『外国人まかせ』(サイゾー)
澤田晃宏『外国人まかせ』(サイゾー)

配達員の登録はウェブサイト上から自分の写真と在留カードやパスポートを添付して送る必要があるが、対面での面接などはなく、偽造書類を提出して違法に働く外国人が増えていた。

同社は書類の確認に時間がかかるなどを理由に、2021年8月25日以降、外国人の留学生らの新規登録を停止している。

ベトはTokyo Baitoで知り合った留学生から、配達員のアカウントを3万円で買った。

2020年5月から、アカウントが停止されるまでの約半年間、働いた。

「グーグルマップ通りに配達すればいいだけなので、とても簡単でした。自転車を買って、ほぼ毎日、お客さんの多い午前10時から午後2時まで、少し休憩して、また午後5時から午後9時まで働きました。一番稼いだときは月に30万円にもなりました。少なくとも毎月15万円は家族に送金して、日本に来るために払った100万円の借金もほぼ返済しました」

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澤田 晃宏(さわだ・あきひろ)
ジャーナリスト
1981年生まれ。兵庫県神戸市出身。高校中退後、建設現場作業員、アダルト誌編集者、『週刊SPA!』(扶桑社)編集者、『AERA』(朝日新聞出版)記者などを経て、進路多様校向け進路情報誌『高卒進路』記者、同誌発行元ハリアー研究所取締役社長、NPO法人進路指導代表理事。著書に『ルポ技能実習生』(ちくま新書)、『東京を捨てる コロナ移住のリアル』(中公新書ラクレ)などがある。

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(ジャーナリスト 澤田 晃宏)

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