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台湾がアメリカの「準州」になるシナリオはある…バイデン大統領の「台湾を守る発言」の真意を解説する

プレジデントオンライン / 2023年1月25日 9時15分

ホワイトハウスで記者会見するバイデン米大統領=2022年11月9日、米ワシントン - 写真=EPA/時事通信フォト

ウクライナ戦争は日本にどんな影響を与えているのか。経済評論家の渡邉哲也さんは「G7による対ロシア制裁は、中国にもプレッシャーを与えている。アメリカをはじめ、各国が太平洋を中国から守る動きが活発化しつつある」という――。

※本稿は、渡邉哲也『世界と日本経済大予測2023-24』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■侵攻開始当初からロシアが苦戦するのは明らかだった

ウクライナ戦争における「ロシアの苦戦」は、侵攻開始当初から明らかだった。戦争の過程を振り返りながら考察を試みよう。

侵攻開始直後、国連安保理でロシアの即時撤退を求める決議案が審議されたが、ロシアの反対で否決となった。常任理事国の持つ拒否権という強大な既得権で外交的勝利を収めたものの、国連総会でのロシア非難決議は賛成141ヵ国(反対はロシアを含む5ヵ国)で可決され、ロシアは孤立状態に追い込まれた。

さらにスウェーデンとフィンランドがNATO加盟を申請。この北欧2国は、縦長に領土を有している。ここがNATOに組み込まれると、バルト海からの外洋への出口が遮断される。カスピ海からは外に出られない。すると、ロシアが欧州サイドから外洋に出るには、黒海しかない。

■黒海とバルト海の不凍港を失って外洋に出られなくなった

ロシアにはノヴォロシースクという黒海に面した港があるが、それを活用するにはクリミア半島のセヴァストポリにある軍港が邪魔である。それゆえにロシアはどうしてもクリミア半島が欲しかった。2014年にクリミア半島を押さえて、ようやく黒海からの出口を確保したが、今回の軍事侵攻でボスポラス海峡とダーダネルス海峡を塞がれてしまった。

この2地点が通れないと結果的にどこにも出られない。絶体絶命である。

軍事侵攻で黒海とバルト海の不凍港を事実上失い、外洋に出られなくなったロシアに対し、米欧(NATO)は攻撃の手を緩めない。とはいえ、ウクライナに決定的に勝たせるつもりもない。

戦闘を長引かせ、米欧の対抗勢力であるロシアの弱体化を進めておこうという計算もしているはずだ。

■国際的なロシア制裁の合意形成が中国に与えるプレッシャー

ウクライナ侵攻を通じて、G7のあいだで金融制裁や輸出管理強化などの国際的なロシア制裁の合意形成ができた。現行の国際秩序に抗う勢力に対して、全方位の制裁が選択肢として新たに加わった。このことは、中国がもしも台湾有事など起こした時には、なんらかの国際的な制裁を科すことが可能になったということを意味する。

米国は、この対ロシア制裁モデルを中国に応用することも想定している。台湾侵攻を考えている中国にとって計り知れないプレッシャーとなろう。

2022年9月15日、上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせて習近平国家主席とプーチン大統領が会談したが、その席で習主席は「ロシアと互いの核心的利益に関わる問題で支え合い、貿易や農業などの分野で実務的な協力を深めていきたい」と口にした(9月16日付「毎日新聞電子版」)。

中国が「核心的利益」という表現を使う時には、台湾や香港を指す場合が多い。この習主席の発言から、「台湾問題ではロシアからの支持を期待しながら、ロシアへの支援は貿易や農業などの分野に限られ、軍事的な支援はしない」とも読み取れる。ロシアからすれば頼みの中国に距離を置かれたのは大きな痛手と言える。

■アメリカもフランスも中国の海洋進出を警戒している

こうした新たな制裁の枠組みは、G7の取り組みに大きな影響を与えるだろう。

このまま中国の海洋進出を許せば、米国は台湾からグアムまでの海洋領土、太平洋のおよそ半分を失いかねない。

また、フランスの海洋領土の80%はタヒチ島などのある南太平洋諸国から成る。これらはフランスの重要な軍事拠点だが、中国は東部島嶼国にも手を伸ばし、フランスにとって脅威になっている。

こうした事態を受け、日本も動く。2022年6月、ソロモン諸島などの島嶼国に海上自衛隊の護衛艦「いずも」などを派遣し、中国を牽制。「いずも」の寄港地は、ソロモン諸島以外にトンガ、フィジー、バヌアツなどが含まれていた。

こうしてG7は太平洋の島嶼国へ目を向けている。防衛ラインは第2列島線であり、先の大戦で日本が米英から守ろうとした地域だ。70年以上の時を経て、日本は立場を替えて再び第2列島線を守る状況になっているのは、歴史の面白さと言っていい。

■ホワイトハウスに火消しされても台湾問題に踏み込むバイデン大統領

さらに、米国のバイデン大統領も台湾問題にはかなり積極的に介入する姿勢を見せている。

台湾の地図に台湾とアメリカの国旗
写真=iStock.com/avdeev007
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/avdeev007

2022年5月23日、東京で行なわれた日米首脳会談後の共同記者会見で「ウクライナの紛争には米国は軍事的に直接関わりたくない一方で、台湾を防衛するためには直接関わりますか」と記者に聞かれた際に「Yes」と明言した。「本当に?」と畳み掛ける記者に対して「そういったコミットメントを米国は示している」と付け加えた。

従来の曖昧戦略から一歩踏み込む内容とも取れるため、記者会見後、ホワイトハウスの当局者が「台湾政策に変更はない」と火消しに走ったのは記憶に新しい。

これで終わればバイデン大統領の勇み足で済んだが、9月18日に米CBSテレビのインタビューで、再度、踏み込んだ発言を行なった。「中国が侵攻した場合、米軍は台湾を防衛する」と明言したのだ。英語では以下のようなやり取りとなっている。

“But would U.S. Forces defend the island?”(米軍は島を守りますか?)
“Yes, if in fact there was an unprecedented attack.”(はい。実際に前例のない攻撃があった場合にはね)
“So unlike Ukraine, to be clear, sir, U.S. Forces, U.S. men and women would defend Taiwan in the event of a Chinese invasion?”(そうなると、ウクライナの場合と違って、はっきり言うと米軍、米国の男女は中国の侵略の際に台湾を守るのですか)
“Yes,”(はい)
※以上、CBSホームページから

■下院議長も訪台時に「インド太平洋を守る」と明言

これに対してホワイトハウスの報道官は再び「台湾に関する米国の政策に変更はない」と繰り返した。米国は台湾に関する政策をこれまで曖昧にしてきたが、今回は明らかなファイティングポーズを貫いている。つまり、台湾有事の際には米軍は軍事介入すると認めたことになる。

それ以前の8月4日にナンシー・ペロシ下院議長(米国ナンバー3)が台湾を訪問し、民主主義と普遍的価値、自由で開かれたインド太平洋を守ると高らかに謳っている。そうしたことを考えると、バイデン大統領は歴代の大統領に比べても、台湾防衛への積極姿勢は突出していると言っていい。

■日米は「台湾は中国の領土であることを認める」とは言っていない

台湾問題について考える際には、中国のいう「1つの中国」について考える必要がある。

日米にとっての「1つの中国」とは、

・台湾が主張する中華民国は中国ではない
・中国は中華人民共和国しかなく、中国が「台湾は中国のものだ」と言っている、その立場を尊重する

といった程度の認識に過ぎない。

1972年の日中共同宣声明の中には以下の内容がある。

3 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

このポツダム宣言第八項に基づく立場とは、台湾島の放棄を指している。

これからもわかるように、中国は台湾を領土であると主張し、日本は「台湾は放棄した。中国の言い分は分かった、その言い分を尊重しよう」というものに過ぎず、「台湾は中国の領土であることを認める」などとは言っていない。

基本的には米国も同じで、そのため、台湾に何かあったら介入するのは当然のシナリオなのだ。

■電撃訪台もありうる…台湾防衛をめぐる2つのシナリオ

近くありうるシナリオの1つとして考えられるのが、米大統領の訪台だ。1972年のニクソン大統領の電撃訪中とは逆のパターンである。

渡邉哲也『世界と日本経済大予測2023-24』(PHP研究所)
渡邉哲也『世界と日本経済大予測2023-24』(PHP研究所)

そして、その場で米台安保条約を結ぶ。国交つまり、国家承認だけでは侵攻のリスクを上げるだけなので、安保条約まで同時に締結する。これと似た例がある。

1951年9月8日、いわゆる旧日米安保条約がサンフランシスコ平和条約の同日に署名されたのと同じ考えだ。

サンフランシスコ平和条約では占領軍は講和が成立したら速やかに撤退すると定められていた。そうなれば日本は軍事空白地帯になり、ソ連と中国が侵攻する危険性があった。

両国は平和条約に署名していないうえ、当時は中ソ友好同盟相互援助条約が結ばれたばかりで、その第1条には中ソが日本に対する共同防衛を行なうことが規定されていたため、米軍が引き上げた瞬間に侵攻が始まるおそれがあった。

中ソの侵略を防ぐためには日米安保条約が是が非でも必要だったわけで、この時の方法を台湾にも使うことは米国としては取りうる選択肢だ。

■大統領権限で台湾がアメリカの準州になる道も考えられる

もう1つのシナリオが「準州構想」。台湾がアメリカの準州になるというもの。バイデン大統領は台湾防衛にコミットするが、台湾独立は支持しないとしている。準州とするのは独立ではないから、バイデン大統領の言う「独立は支持しない」という言葉に反しない。いざとなれば大統領権限でできる範囲のことでもある。

こういうことを書くと「何を夢のようなことを言っているんだ」と思われるかもしれないが、夢にも思わなかったことが起きるのが国際政治である。

1980年代初頭に誰かが、「10年以内にベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一される」と言っても、誰も信じなかったと思うが、現実の世界は人びとの想像を超えた動きを見せた。台湾に関してもアッと驚くことが起きる可能性はある。そして、この話は単なる夢物語でないことははっきりと申し上げておく。

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渡邉 哲也 (わたなべ・てつや)
経済評論家
1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。主な著書に、『世界と日本経済大予測』シリーズ(PHP研究所)、『「米中関係」が決める5年後の日本経済』(PHPビジネス新書)のほか、『「中国大崩壊」入門』『2030年「シン・世界」大全』(以上、徳間書店)など多数。

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(経済評論家 渡邉 哲也 )

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