なぜ若者の「テレビ離れ」は止まらないのか…テレビとネットの力関係が逆転した根本原因
プレジデントオンライン / 2023年1月27日 10時15分
※本稿は、渡邉哲也『世界と日本経済大予測2023-24』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■広告費の総額からもテレビ・新聞の失墜が見えている
現在、国内で視聴できるメディアには地上波、BS、CS、YouTubeなどのストリーミング、Huluなどのコンテンツストリーミングなどがある。
かつてメディアを引っ張っていたテレビ・新聞の権威は崩れつつある。それを顕著に示すのが広告費だ。
2020年3月発表の「日本の広告費」(電通)によると、2019年のインターネット広告の総額は2兆1048億円、テレビ広告の総額は1兆8612億円で、初めてネットがテレビを超えた。この時点でネット広告は6年連続で2桁成長を続け、一方のテレビ広告はほぼ横ばいである。
■従来のマスメディアが束になってもかなわない
それもそのはず、テレビ広告はチャンネル数と放送枠が決まっているため、広告の総量は既に上限に達している。単価を上げない限り広告費全体が上昇しないのに対し、ネットのほうは次々と新しいサイトが誕生して、広告の総量が年々増加している。
YouTubeでもそうだが、今は気に入ったコンテンツをクリックすると、まず、最初にスキップできないCMが流れる。それを見ないと本編が再生されないので我慢して見るしかない。そのYouTubeの投稿動画が日々増えていき、それに伴って広告枠も広がっていく。また、今はPVを稼げるサイトを作れば、グーグルやアマゾンが広告を自動配信するシステムを利用できる。
結局、誰もが情報発信者になれるインターネットが、テレビや新聞などの媒体が独占していた情報発信の権限や広告収入の特権も奪い取ってしまった。そう考えるとテレビとネットの力関係が逆転するのは当然で、広告費の逆転は遅すぎたぐらいだ。
2019年の広告費の逆転以後、その差はさらに広がっており、2021年にはテレビ広告が1兆8393億円に対して、ネット広告が2兆7052億円とその差は8659億円に広がった(2019年は2436億円差)。さらにネット広告が、マスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の広告費用を上回るまでになった。ネット以外の媒体が束になっても、ネットには勝てないということだ。
■コロナ禍で高齢世帯にもWi-Fi環境が行きわたった
かつてはメディアの王様だったテレビだが、そもそもテレビをじっくりと視聴している家庭はそれほど多くない。わかりやすく言えば、朝、仕事に行く前に時計代わりにテレビを点けっぱなしにしているケースもあるはず。あるいは時間に余裕のある高齢者が他にやることがないので、ずっとテレビを点けているということもある。
コロナ禍にあって、子供のためにテレビにFire TVスティック(アマゾンが展開するメディアストリーミング端末)を付けた家庭も少なくない。
祖父母の世代が今までなぜそうしたコンテンツを見なかったかというと、無線LANにつながっていなかったから。
ところが今、各家庭、ほぼすべてにWi-Fi環境がある。これまで高齢者世帯などには縁がなかったWi-Fiだが、コロナ禍で巣ごもりせざるをえなかった老人たちにも、ネットが身近なものとして定着した。これまで未接続だったテレビをネットに繋げたのである(繋がったと書くと大袈裟に聞こえるが、Fire TVスティックを古いテレビに差し込むだけでいい)。
■TVerでリアルタイム配信を始めても勝ち目は薄い
孫はテレビなど見たくないから「じいちゃん、これ、変えていい?」と言ってネットコンテンツを視聴する。祖父母もテレビは習慣的につけているだけだから、孫に明け渡すのを躊躇しない。こういう状況を想像すれば地上波が「オワコン」と呼ばれても仕方がない。ほとんど高齢者層しか見ていない状況では、やはり広告はつきづらい。
生き残りに必死なテレビ局は、TVer(民放公式テレビ配信サービス)を通じて、ネットに転向する動きを見せている。最近は民放5系列のリアルタイム配信もスタートした。経営陣もTVerを通じてネットに対抗する方向性を打ち出しているが、すでに定着した視聴環境を変えられるほど根付いているとはやはり言えない。
■タイアップまみれの地上波コンテンツは飽きられている
もっともネットでも、Hulu、ネットフリックス、ディズニープラスなどのストリーミングサービスが乱立してコンテンツ不足に陥っており、これから淘汰が始まることも予想される。
ネットがテレビを凌駕するのは、結局は地上波にはないコンテンツがあるからであって、さまざまな媒体から視聴するコンテンツを選べる時代にあっては、いかに良質な番組を提供できるかが勝負となる。その意味では作り手の実力がダイレクトに結果に現れる時代と言える。
そうした時代に、制作費欲しさにメーカーとコラボレーションをするような番組作りでは視聴者に飽きられてしまう。同じことは、テレビはもちろん、新聞も雑誌もやっている。
フードコンサルタントと食品メーカーが組んでアレンジレシピなどを紹介し、「この商品はいいですよ」とタイアップする料理バラエティ番組は結構目にする。
本来、放送法では広告と番組は切り分けなくてはいけない。見えない広告、ステルス広告はやってはいけないことになっている。ところがタイアップという名目で堂々と打ち出しているケースが多い。広告目的であるなら、それとはっきり分かるようにしなければ放送法違反となる。
■「なんだ、広告か」気づいた瞬間に若者は視聴をやめる
この条文をタイアップの番組に当てはめてみると、ブラックに近いグレーと言えるのではないか。そうした広告目的主体のタイアップ番組など、今の若い人はお見通しである。子供の頃から動画コンテンツを見慣れているから、「なんだ、広告か」と気付くのは早い。バレた瞬間に視聴するのをやめる。
巧妙にやってもバレるのであれば、逆にこれはCMと分かるようにして、CMを楽しんでもらおうという発想も出てくる。典型例が「ジャパネットたかた」だ。自社で作った商品セールス動画を放送局の枠を買って放送している。制作はジャパネットたかた、全編CMという番組だ。このように今のテレビを支えているのは「広告のようなもの」なのである。
■五輪のテレビCMを降りて自前メディアを持ったトヨタの慧眼
タイアップがかつてのようにうまくいかなくなっている状況を何とかしようと考えているなかで、クライアントは「じゃあ、自分でメディアを作って宣伝すればいい」という発想が生まれる。それを実践したのがトヨタ。東京五輪のテレビCMから降りた同社だが、自社の媒体「トヨタイムズ」を立ち上げてPRしている。
その背景には歪んだ報道にお金は出さない、自分たちでコンテンツを制作して、自分たちでアピールしていくPR型を考えて当然だろうという新しい考え方と気概がある。元テレビ朝日の富川悠太アナウンサーがトヨタに入社しており、「トヨタイムズ」に加わっている。
世界のトヨタだけに資金も潤沢にあり、企業の新しい広告の方法という意味では興味深い。もっとも「トヨタイムズ」で活躍していた俳優が、夜の銀座で狼藉を働くリスクは、さすがにトヨタの幹部も予想しなかったかもしれないが。
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経済評論家
1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。主な著書に、『世界と日本経済大予測』シリーズ(PHP研究所)、『「米中関係」が決める5年後の日本経済』(PHPビジネス新書)のほか、『「中国大崩壊」入門』『2030年「シン・世界」大全』(以上、徳間書店)など多数。
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(経済評論家 渡邉 哲也 )
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