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待機者は多いのに施設はガラガラ…全国の特養ホームで起きている「税金の無駄づかい」を告発する

プレジデントオンライン / 2023年1月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

首都圏の特別養護老人ホームで異変が起きている。施設に入居できない待機者がいる一方で、空床率が20%~50%と異常に高い施設もあるのだ。経営コンサルタントの濱田孝一さんは「月額費用が0~9万円程度の旧型は入居待ちだが、新設されるのは月額費用が20万円程度のユニット型が多いという矛盾がある」という――。(第1回)

※本稿は、濱田孝一『高齢者住宅バブルは崩壊する』(花伝社)の一部を再編集したものです。

■首都圏の一部の特養ホームの空床率は50%に

2018年12月16日の日本経済新聞の一面トップに、「足りない特養、実際には空き、首都圏で六千人分」という見出しが躍った。日経新聞が都市圏の特養ホームを調べたところ、東京、神奈川、千葉、埼玉の特養ホーム(特別養護老人ホーム)の計13万8000床のうち6000床が空いていた。この地域の特養ホームの待機者は6万人。特に、この5年以内に開設された一部のユニット型特養ホームは空床率が「20~50%」と異常に高くなっているという。

「特養ホームでは死亡退所から次の入所まで、一定のタイムラグが生じる」
「入所者を順次受け入れるため、開所から満床になるまで半年程度かかる」

そういった施設特性を考えると、「運営上発生する通常の空所」というところもあるだろう。

ただ、記事の通り、開所から数年経過しても複数のユニットやフロアが空いたままというところも多い。入所者不足で、社会福祉・医療事業団への借入金の返済ができない社会福祉法人も増えていると聞く。この「地域全体で見れば待機者はたくさんいるのに、一部の特養ホームは空所が目立つ」という現象は、東京近辺だけの話ではない。

その理由は、大きく分けて2つある。

■必要な介護人材が確保できていない

一つは、介護スタッフ不足だ。特養ホームの運営、特にユニット型特養ホームにはたくさんの介護スタッフが必要となる。当然、どれだけ待機者がいても、介護スタッフが確保できなければ受け入れはできない。

実際、首都圏の社会福祉法人の理事長と話をすると、「特養ホームの整備計画が出ても、人材確保が難しいので応募できない」「市から新しい特養ホームを作ってくれないかと依頼があるが断っている」という話も聞く。

その計画に手を上げるのは、新しく開設した社会福祉法人や、事業拡大のために四国・中国地方など他の地域からやってくる社会福祉法人だという。域内の介護人材確保の状況を十分に理解している近隣の社会福祉法人が断っているものを、そのノウハウも地の利もない事業者が参入して、必要な介護人材が確保できるはずがない。

シニア女性と介護者
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

■低収入者が入居できないほど高額化している

ここには、都道府県の介護保険事業計画にも問題がある。数年前、神奈川県では駅を挟んで近隣の場所に、それぞれ50~100床規模の3つの特別養護老人ホームが同時に開設された。結果、介護看護スタッフの争奪戦となり、4月の開所に合わせて必要な介護看護スタッフが確保できたのは、人材確保・育成のノウハウのある社会福祉法人のみ。残りの2つは必要数の半数しか確保できなかったという。官民ともに、計画が甘いと言わざるを得ない。

もう一つ大きな原因となっているのが、ホテルコストの高額化だ。

ユニット型特養ホームは莫大な社会保障費が投入されている一方、低所得者対策が不十分なため、年金収入しかない低資産所得層の高齢者は申し込みさえできないという課題は以前から指摘されている

加えてこの数年、オリンピックやインバウンド需要のホテルの建設ラッシュ、木材の高騰(ウッドショック)が重なり、特に都市部で整備されるユニット型特養ホームの建築費は高騰している。それが施設の居住費(ホテルコスト)に加算されるため、基準額(2006円/日)に対し、平均値でも1日2500円、なかには2倍以上の4500円というところもある。

特養ホームに支払う費用だけで月額20万円、生活費を含めると年間300万円近くになるため、近くに特養ホームが建設されても、申し込むことさえできないのだ。

■特養ホームの申し込みは低価格の旧型に集中

これは社会福祉法人の運営に関わる問題でもある。特養ホームは営利目的の高齢者住宅ではなく老人福祉施設である。ホテルコストを基準額より高く設定する場合、運営上やむを得ないと判断されたものに限られている。しかし、減額対象となる第3段階までの高齢者を入所させると、ホテルコストは基準額までしか徴収できないため収支が悪化する。「一定数は第4段階でなければ経営できない」「資産収入も勘案せざるを得ない」と話す施設長は少なくない。

特に、収入資産階層が低い人が多いと言われる地域のユニット型特養ホームに空所が目立つと言われている。京都の老健施設やケアマネジャーにまで、「大阪の特養ホームならすぐに入所できます」というDMが届いていると聞く。

待機者は全国で30万人と言われているが、ここにはもう少し詳しい分析が必要だ。現在の特養ホームは、従来の4人部屋の旧型特養ホームと個室のユニット型特養ホームの2つに分かれている。旧型特養ホームの場合、月額費用は0~9万円程度と低価格に抑えられている。

そのため特養ホームの申し込み、待機者はこの旧型に集中していると言われている。実際、旧型・ユニット型など複数の特養ホームを運営している施設長・理事長と話をすると、「ユニット型は入りやすい、旧型は待機期間が長い」という意見が多い。

ただこれは、自治体や地域性によっても違いがある。「自治体ごとに旧型とユニット型の待機者数や待機年数の違いを分析すべき」「その分析に基づいて整備する施設を検討すべき」とずいぶん前から指摘しているが、それが行われた形跡はない。厚労省は2025年までに、ユニット型を全体の7割にする目標を立てている。

■富裕層のために巨額の税金が使われている

「特養ホームを造るな」とは言わない。これからも契約に基づく介護だけでは対応できない、「要福祉」の要介護高齢者・認知症高齢者は増えるからだ。しかし、ユニット型特養ホームを作ると、そこに財源や人材が集中するため地域全体の介護体制は脆弱になる。

また、いまの歪んだ制度のまま莫大なコストをかけてユニット型特養ホームを作り続けても、入所できるのは公務員や大企業社員など、高額の退職金や年金を得られる人に限られている。これから後後期高齢者になる団塊世代はリストラ世代とも言われ、その先の非正規雇用世代が後後期高齢者になれば、ユニット型特養ホームに申し込むことのできない高齢者の割合は更に高くなる。

資本主義社会において、一定の収入格差が発生することはやむを得ないが、社会保障・社会福祉において、その格差が引き継がれることは明らかに社会正義に反する。一部の富裕層・アッパーミドル層のために巨額の社会保障費が投入され、セーフティネットという名目で高級老人福祉施設が作り続けられている国は、一部の社会主義国か日本くらいのものだ。

■貧困層は質の低い無届施設を利用するしかない

この問題は、ユニット型特養ホームの空所だけにとどまらない。それは、「介護できない介護付有料老人ホーム」「囲い込み型高齢者住宅」「劣悪な無届施設」など問題のある高齢者住宅の増加とリンクしているからだ。

手厚い介護システムの介護付有料老人ホームを作っても、そのターゲットとなるアッパーミドル層はユニット型特養ホームに取られてしまう。そのため、重度要介護や認知症の増加に対応できない要支援・軽度要介護高齢者を対象とした「20万円前半」の【3:1配置】のものが多くなる。

濱田孝一『高齢者住宅バブルは崩壊する』(花伝社)
濱田孝一『高齢者住宅バブルは崩壊する』(花伝社)

ユニット型特養ホームにも介護付有料老人ホームにも入所できない、低所得低資産の重度要介護高齢者が頼る先が押し売り介護など不正の温床となっている「囲い込み型高齢者住宅」や「無届施設」だ。囲い込み型のサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)や住宅型有料老人ホームはユニット型特養ホームと同等か低価格に抑えられている。そこにも入所できない貧困層は、月額費用10万円未満の無届施設に流れていくのだ。ここには、価格だけでなく入所までの期間の問題もある。

転倒骨折・脳梗塞などで突然要介護状態になり、病院から早期退院を求められて頭を抱えている家族にとって、「申し込んでも数カ月~数年待ち」「いつ入所できるかわからない」という特養ホームは役に立たない。そのため、申し込んだ次の日にも入居できる「囲い込み型高齢者住宅」や「無届施設」に頼らざるを得ない。言い換えれば、特養ホームに入所できるのは、本来の「緊急性の高い高齢者」とは正反対の、金銭的にも時間的にも精神的にも余裕のある人だけなのだ。

これが特養ホームの待機者が一気に減少し、その一部には空床ができている最大の理由だ。

「特養ホームの整備によって待機者が減った、待機期間も短くなった」
「特養ホームの供給が需要を上回っている地域もでてきている」

そんな単純な話ではないのだ。

■莫大な社会保障費が無駄づかいされている

言うまでもなく、この制度の矛盾と混乱は、莫大な社会保障費の無駄・浪費につながっている。自宅や高齢者住宅で生活する要介護高齢者と比較すると、ユニット型特養ホームの入所者一人にかかる費用はプラス年間180万円、これが増加分の30万人として年間5400億円。

囲い込み型高齢者住宅や無届施設のうち、要介護高齢者に押し売りされている介護医療費は、それぞれ年間100万円(計200万円)以上、重度要介護高齢者の数を30万人と仮定すると、年間6000億円。合わせて1兆1400億円にもなる。

これ以外にも認定調査の改竄や不正請求、ユニット型特養ホームの「応益負担・応能負担」の不備などを勘案すれば、さらにその金額は数千億円規模で膨らむ。2020年現在の国内の介護費用の総額が10兆円であることを考えると、その金額の大きさがわかるだろう。

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濱田 孝一(はまだ・こういち)
経営コンサルタント
1967年生まれ。1990年立命館大学経済学部卒業。旧第一勧業銀行入行。その後、介護職員、社会福祉法人マネジャーを経て、2002年にコンサルティング会社を設立。現在は「高住経ネット」の主幹として、高齢者住宅、介護ビジネス、介護人材育成などのコンサルティング・講演・執筆を行っている。社会福祉士、介護支援専門員、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー。

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(経営コンサルタント 濱田 孝一)

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