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預貯金や貴金属を盗まれても文句すら言えない…虐待や死亡事故が相次ぐ"無届介護施設"の悲惨な実態

プレジデントオンライン / 2023年1月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hartmut Kosig

介護施設の開所には行政への届け出が必要になる。ところが、介護施設の不足から、届け出のない「無届施設」が急増し、行政も黙認する状況となっている。経営コンサルタントの濱田孝一さんは「無届施設の入居者は悲惨な生活を強いられていることが少なくない。適切な介護を受ける権利を、事業者が不正に奪っているケースもある」という――。(第2回)

※本稿は、濱田孝一『高齢者住宅バブルは崩壊する』(花伝社)の一部を再編集したものです。

■悲惨な生活を強いられている無届施設の入居者

高齢者住宅、特に要介護向け住宅には入居者保護施策が不可欠だ。

しかし、有料老人ホームとサ高住という二つの制度の狭間で指導監査体制が完全に崩壊したいま、一部の要介護高齢者・認知症高齢者は極めて劣悪な環境で、悲惨な生活を強いられている。

東京都北区の医療法人が運営するシニアマンション(無届施設)では、24時間、紐や拘束具で入居者の手足(四肢)をベッドにくくりつけるなど日常的に虐待が行われていた。その数は入居者160人中130人に上ったと報道されている。

名古屋の無届施設では、働いていた3人の介護職員が暴行罪で逮捕されている。93歳の認知症高齢者に対して暴行している様子を自らのスマートホンで撮影、動画をLINEで共有していた。その映像には鼻の中に指を入れて上に持ち上げたり、口の中に手を入れて上下に動かすなど暴行の様子や「いやいや、やめて」といった悲鳴、撮影する三人の笑い声が記録されていたという。

■10人の入居者が火災事故で亡くなったことも

行われているのは暴言や暴行などの身体的虐待だけではない。より表面化しにくいものが入居者の金銭を搾取する「経済虐待」だ。

特養ホームでも、家族のいない認知症高齢者など、利用料や日々の生活費支払いのために施設側が印鑑や通帳を管理することがある。保証人のいない独居高齢者が亡くなった場合、残った財産や預貯金をどうするのかという問題もあり、行政への報告も義務付けられている。

預金通帳と印鑑は別の人間が保管する、入出金はダブルチェックを行うなど厳格に管理しなければならないが、無届施設ではそんな手間のかかることはしていない。定期預金がいつの間にか解約されていたり、持っていたはずの貴金属が行方不明というケースもある。明らかな窃盗だが、家族がいない場合、年金や預貯金がどうなったのかさえ誰にも分らない。

これは、防災や感染症の問題も同じだ。高齢者は火災や災害が発生すると逃げ遅れることが多い。一般住宅の火災でも死者数の7割は65歳以上の高齢者であることがわかっている。特に、要介護高齢者が集まって生活している介護保険施設、高齢者住宅では、ほとんどの人が自力で避難できないため大災害に発展する。

そのため、老人福祉施設や有料老人ホームは一般の賃貸マンションよりも高い防災基準・対策が求められている。しかし、サ高住は一般マンションの建築基準と同じ、無届施設は建築基準法や消防法さえ守っていないところも多い。徘徊の入居者が外に出ないよう外から鍵をかけて監禁しているようなところさえある。群馬県渋川市の無届施設で、10人の入居者が亡くなった火災死亡事故を覚えている人もいるだろう。

■感染症や食中毒が重篤化するリスクがある

また、高齢者は抵抗力が落ちているため、コロナやインフルエンザ、O157、ノロウイルスなどの感染症・食中毒にかかると、重篤化するリスクが高い。集合住宅であること、食事や入浴などを共用部で集まって行うことからクラスターも発生しやすい。そのため、感染症や食中毒が発生すると保健所に届け出ることが義務付けられている。

しかし、ある無届施設ではインフルエンザとノロウイルスが同時に発生、1月の間に12人、4カ月に合計28人もの入居者が亡くなっている。それでも届け出も報告もされていない。これらの事例は多くが4、5年以上前のもので、ここ数年は無届施設や高齢者住宅での虐待、暴行についてはほとんど報道されていない。それは生活環境が改善されたわけではなく、コロナ禍の中、家族の面会さえも制限され、指導や監査も行われないため、より閉鎖性が高まっているからだ。

救急病院の医師から話を聞くと、適切な食事や介助・看護さえ行われておらず、ガリガリの状態で腰の骨が見えるほどひどい褥瘡のまま、半死半生で搬送されてくる高齢者もいるという。

マスクを着用した高齢女性
写真=iStock.com/Toa55
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Toa55

しかし、先ほどのような医療法人が関係している無届施設では、その経営者である医師によって死亡診断書が書かれるため、警察も入らず、すべてが闇の中だという。家族がいない人はスタッフの虐待や暴行で亡くなっていてもわからないのだ。このような劣悪な無届施設は、わかっているだけでも650カ所、完全に社会から隔離され、クローズされた環境の中で悲惨な生活を余儀なくされている要介護高齢者は、全国で数万人にのぼる。

■入浴中の溺水事故で亡くなった70代の女性

これは、一部の悪徳無届施設だけの話ではない。

2017年、さいたま市にある住宅型有料老人ホームで、要介護5の重度要介護高齢者(71歳女性)が入浴中の溺水事故で亡くなった。女性は上半身の体勢維持が困難な状態で、車いすのまま入浴できる「機械浴槽」を使って入浴していた。この女性を介助していた担当の介助職員が、別の入所者を入浴介助するため機械浴槽から離れた間に溺れたという。

入浴は高齢者にとって大きな楽しみの一つであるが、目を離したごく短時間のうちに溺水や転倒、ヒートショックが発生する死亡リスクの高い生活行動でもある。特に身体を自分で動かせない重度要介護高齢者は、目を離さないマンツーマンの個別入浴が原則だ。しかし、当該住宅型有料老人ホームでは、7人の要介護高齢者に対して、わずか3人の介護スタッフで入浴介助を行っていたと報道されている。

シニア名様までのプロフェッショナルなバス
写真=iStock.com/wakila
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wakila

■大手事業者でも適切なサービスを行えていない

同様の入浴事故は、介護付有料老人ホームでも発生している。しかし、住宅型有料老人ホームは区分支給限度額に基づき、入居者個人が訪問介護サービス事業者と「午後1時~午後1時半 入浴介助」と時間で契約して介護サービスを受けている。つまり、7人の入浴者がいれば7人の訪問介護員が必要であり、入浴中は付ききりでなければおかしいのだ。

事業者は「たまたまヘルパーが一人休んでおり、個別ケアが不可能になったため、臨時に保険外サービスに切り替えた」と、いかにも苦しい弁明をしているようだが、7人の高齢者に4人で介護するのはOKなのかと言えばそうではない。

当該法人は、「安全対策を強化する」と言っているようだが、これはそもそも安全対策の話ではない。これが起きたのは個人・中小事業者ではなく、全国で130もの有料老人ホームを運営する大手事業者だ。他のところでも同様の危険な介護が日常的に行われていることは想像に難くない。

■囲い込み型住宅で暮らす高齢者は40万人以上

「囲い込み」の課題は、第4章で述べた介護報酬の不正請求だけではない。要介護高齢者が介護保険制度に基づく適切な介護を受ける権利を、事業者が不正に奪っているということ、同時にそれは、命に関わる危険な生活を余儀なくされているということだ。

「訪問看護を利用させてもらえず、疾病が悪化して亡くなった」
「毎日デイサービスに強制的に連れ出され、夜は放置されている」

濱田孝一『高齢者住宅バブルは崩壊する』(花伝社)
濱田孝一『高齢者住宅バブルは崩壊する』(花伝社)

それは介護だけでなく、医療にまで拡大している。過剰な薬の投与で人格が変わったり、副作用で傾眠傾向となり足元がふらついて転倒する人もいる。

厚労省は、「囲い込みに対して介護報酬を10%削減する」などの対策を取っているが、それは囲い込み高齢者住宅から見れば、「10%減であれば囲い込みOK」と認識され、書類上の不正が拡大し、最低限の介護さえ受けられない高齢者を増やすだけだ。

先ほどの入浴死亡事故については、その日に入浴を担当していた2人の介護スタッフ(訪問介護員)だけが「安全ベルトをしていなかった」として業務上過失致死で書類送検されている。この死亡事故の主たる原因が「安全ベルト」ではないことは明らかだ。

しかし、さいたま市や厚労省が、同様の違法行為や事故が発生していないか、当該法人や全国の囲い込み型のサ高住・住宅型有料老人ホームに対し指導を強化したり、是正措置を命じたという報道はない。国も自治体も制度の不備を指摘されるのを恐れ、「介護事故を起こしたのは訪問介護で住宅型有料老人ホームは無関係」「サ高住は賃貸住宅なので介護事故・トラブルは無関係」「ケアプランにサインをしているのだから、サービス選択責任は本人・家族にある」と、いまも“我関せず”を通しているのだ。

このような囲い込み高齢者住宅で暮らす要介護高齢者は、全国で40万人に上る。そこで不正に流出する医療介護費は年間6000億円~1兆円規模、そして、介護労働者は、劣悪な過重労働を押し付けられ「事故が起きれば介護スタッフの責任」となるため、「介護はブラック」と逃げ出しているのだ。

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濱田 孝一(はまだ・こういち)
経営コンサルタント
1967年生まれ。1990年立命館大学経済学部卒業。旧第一勧業銀行入行。その後、介護職員、社会福祉法人マネジャーを経て、2002年にコンサルティング会社を設立。現在は「高住経ネット」の主幹として、高齢者住宅、介護ビジネス、介護人材育成などのコンサルティング・講演・執筆を行っている。社会福祉士、介護支援専門員、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー。

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(経営コンサルタント 濱田 孝一)

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