増税を実行する前に、議員給与の3割カットをやるべき…岸田政権がズルズルと支持率を下げる根本原因
プレジデントオンライン / 2023年1月19日 8時15分
■「青木の法則」ではすでに危険水域
岸田文雄内閣の支持率が低迷しています。昨年末の世論調査を見ると、毎日新聞(12月17、18日)では25%。自民党の支持率も、同じく25%でした。日本経済新聞社とテレビ東京(12月23~25日)では、内閣支持率が35%。自民党の支持率は40%でした。いずれの調査でも、内閣の不支持率は支持率を上回っています。
かつて自民党の参院幹事長や内閣官房長官を歴任した青木幹雄さんは、「党の支持率と内閣支持率を足して50%を割ったら、政権維持は危ない」という「青木の法則」を唱えました。これに従って毎日新聞の数字を見れば、じゅうぶん危険水域です。
世論調査は質問のやり方によって答えも変わるので、私は一喜一憂する必要はないと考えます。しかし、国民の思いのひとつの指標であることは確かです。岸田総理自身や政府の責任ある立場の人は、しっかり受け止めなければいけませんね。
■4人の大臣が更迭された
「政治とカネ」を巡る問題を追及されていた秋葉賢也・復興大臣と、差別発言を繰り返す杉田水脈・総務大臣政務官を昨年のうちに辞めさせたことは、岸田総理の英断でした。
閣僚の更迭は、秋葉大臣で4人目ですが、いずれも大臣個人のエラーです。初めから正直に謝っておけばいいのに、下手な言い訳をして辻褄が合わなくなって、辞めざるをえなくなる。その繰り返しでした。
経済再生担当相を辞任した山際大志郎さんは、東大の大学院を卒業した獣医師です。しかし、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点が相次いで発覚するたび、「記憶にありません」を連発しました。
法務相を辞めた葉梨康弘さんは、東大を出て国家公務員の上級職試験に受かって、警察庁に入っています。辞めた原因は、「法相は、死刑のはんこを押す時だけニュースになる地味な役職」と、死刑囚の命を何度もギャグに使っていたことです。
政治資金に関する問題で総務相を辞めた寺田稔さんも東大出身で、上級職試験に合格して大蔵省という経歴の持ち主です。
みなさん、学歴からして勉強はよくしたと思います。けれども地頭がいいかといったら、そうではない。問われているのは、政治家としての器量なんです。
■「総理に命を懸けよう」という閣僚はいるのか
政治はバランスです。閣僚人事に関して、総理が使いたくない人材でも使わざるを得ない場合が、多々あります。総裁選挙で支持してくれた有力派閥の会長から「ウチの派閥のこの人を閣僚に」と推されたら、なかなかノーとは言えないんです。
そういったしがらみや派閥の力学という視点から現在の閣僚の顔ぶれを見ると、「この総理に命をかけよう」と考えている人が何人いるのか、と思えてなりません。
政界の内側からその点を見れば、党内第四の派閥の長にすぎない岸田総理が同情される理由でもあります。けれども国民からは、「親分がしっかりしていないから、大臣がだらしないんだ」と見えてしまうわけです。
■防衛費増額の前にできることがある
唐突に発表された防衛費の倍増も、支持率が落ちた原因のひとつです。やはり議論が足りなかったし、岸田総理がいつも口にする「丁寧な説明」がなされたとはいえません。
庶民は素朴に、物価対策をなんとかしてくれ。年金を少し上げてくれ。教育費を補助してくれ。と思っているはずですよ。その感覚から乖離(かいり)しすぎです。
日本というのは不思議な国で、タカ派が強気に出れば引きずられてしまう傾向があります。中国や北朝鮮と外交の力で仲良くできれば防衛費を増やさずに済むことを、よく考えてもらいたいものです。
しかも財源について、国民に向かって「皆さん、こういう理由で防衛費をこれだけ上げなければなりませんから、税金の負担をお願いします」と頭を下げるならわかるけれども、いきなり復興税から転用するとか、法人税を上げようというのはよこしますぎます。
■議員自らが身を切る覚悟がないと人は動かない
防衛費を1%から2%に増やすという枠組みを先に作って、それに合わせるべく、議論なくして負担を強いようとすれば、反発を受けるのは当然ですよ。国会でも議論せず、閣議決定だけで決めたのですから、国民の理解を得るという意味で後手に回っているなと感じます。
企業の内部留保が増えているから法人税を上げるといったって、業績が上向いているのは、ほんの一部の大企業にすぎません。日本の企業の99%以上は中小企業で、ぎりぎりの経営を続けている会社がほとんどです。負担を軽くするとはいえ、大企業の負担増加のしわ寄せは、下請け、孫請けの企業にきます。就業人口の70%はそうした中小企業に勤める人たちなんですから、生活は苦しくなっていくばかりです。このタイミングで法人税が上がれば、給料を上げられなくなる企業がたくさんあるはずです。
増税の理解を得たいならば、その前に国会議員の定数を2~3割削減するとか、給料を3割カットしてボーナスは支給しないとか、国会議員自らが身を切る覚悟を示さないとダメです。現に地方議会では、議員定数を削減しているんです。そうでなければ国民は、俺たちも協力しようという気持ちになりませんね。
■岸田首相が再浮上する2つの道
岸田総理の立場からすれば、一昨年の総裁選挙で再選され、与党は衆参で過半数を持ち、「黄金の3年」と呼ばれる期間です。5月には、G7(主要国首脳会議)広島サミットが控えています。世界で唯一の被爆国の、しかも被爆地出身の内閣総理大臣です。安倍政権の外務大臣としてオバマ大統領を広島に迎えた実績を上回る成果を、ぜひとも上げたいと考えていることでしょう。
歴史に名を記したいと思ったら、サミットの議長国として、核廃絶に向けての画期的なステートメントを出すほかありません。バイデン大統領は長崎へ行く予定も組まれているそうですから、何かコメントを出すはずです。
私の妻の父は、被爆者でした。原爆の後遺症で苦しんでいる人は、いまもたくさんいます。せっかく広島でサミットを開催するのなら、核を使ったことに関して、アメリカ大統領から日本社会に反省やお詫びの言葉を言わせるべきです。アメリカは核を投下したことに対して「使ってはいけないものを使ってしまった」と日本、世界に向けて、けじめをつけるべきではないでしょうか。
![原爆ドーム](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/9/1200wm/img_8972a838c7519357564cee30048c412a408803.jpg)
■ODA大国の日本だから言えることがある
岸田総理の自慢は「聞く力」です。しかし聞きっ放しではなく、発信と実行が伴わなければいけません。もはや小さな政策の実行では、国民にはピンと来ません。
何より求められているのは、この物価高を止めること。そのために何をしたらいいかと言ったら、ウクライナ問題の解決、停戦しかありません。
物価高騰の理由を辿れば、石油の値段が上がっていること。さらに突き詰めれば、原因はウクライナ情勢だからです。一刻も早く、戦争を止めさせなければならない。独自の停戦案を示して、バイデン大統領、プーチン大統領、ゼレンスキー大統領に直接掛け合えばいいんです。
日本は、それだけのアクションを起こせる立場にあります。なぜなら、アメリカとは同盟国だからです。戦争が始まるまでは、ロシアとの関係も良好でした。ウクライナには、独立以来3100億円ものODAを出しているんです。どの国に対してもモノを言えるのですから、有効に活かすべきです。
■このままでは「サミット花道論」もありうる
ウクライナは日本にとって死活的に重要な国でしょうか。地政学的に見て、ロシア、中国、韓国、北朝鮮は隣国です。国と国は引っ越しが出来ません。隣国とは折り合いをつけて仲良くしていくしかないのです。
北方領土問題を抱える日本は、ロシアとは未来志向で付き合うしかありません。特にエネルギーを中東に頼っているのは日本です。その中東の政情はどうかと考える時、世界で一番のエネルギー資源大国であるロシアとの関係は重要です。
岸田総理は、人当たりはいい。足りないのは必死さ。まなじりを決して覚悟を示す態度です。「私が日本国総理大臣です。国民の皆さん、ウクライナ問題にケリがつけば、物価は下がるんです。私がやります」と宣言して実行すれば、世論はガラッと変わりますよ。
逆に支持率が低いまま、4月の統一地方選挙で敗北すれば、“サミット花道論”が出てきてもおかしくありません。いまこそ、政治家としての胆力が問われています。私は政権と対峙(たいじ)する野党に所属する身ですが、今年は日本の存在価値をもっと世界に知らしめて欲しいと願っています。
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参議院議員/新党大地代表
1948年、北海道足寄町生まれ。拓殖大学政経学部卒業。1983年、衆議院議員に初当選(以後8選)。北海道・沖縄開発庁長官、内閣官房副長官、衆議院外務委員長などを歴任。2002年、斡旋収賄などの疑惑で逮捕。起訴事実を全面的に否認し、衆議院議員としては戦後最長の437日間にわたり勾留される。2003年に保釈。2005年の衆議院選挙で新党大地を旗揚げし、国政に復帰。2010年、最高裁が上告を棄却し、収監。2019年の参議院選挙で9年ぶりに国政に復帰。北方領土問題の解決をライフワークとしており、プーチン大統領が就任後、最初に会った外国の政治家である。
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(参議院議員/新党大地代表 鈴木 宗男 聞き手・構成=石井謙一郎)
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