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世界のスマホ市場でサムスンがアップル超えの勢い…日韓の明暗を分けた根本的かつシンプルな理由

プレジデントオンライン / 2023年1月28日 11時15分

2022年5月、世界でもっとも売れたスマホはサムスン電子となり、アップルを超えた。韓国の家電やエンタメが世界で評価され、日本は対照的に失速しているのはなぜか。国際ニュース週刊誌『ニューズウィーク日本版』は「その背景には、日本の半分以下という人口の違いがあったのではないか」と解説する――。(第2回/全3回)

※本稿は、栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

日本にとって近くて遠い国が韓国です。隣国でありながら、国のしくみや文化は大きく異なり、政府間では対立が長い期間にわたって続いています。一方で、映画、ドラマ、音楽など韓国発のカルチャーは何度も日本で流行してきました。そのブームはいまや世界規模です。

■韓国の音楽や映画が世界を席巻

【みひろ】時間よ止まれ!

【うめ】どうしたのよ、みひろちゃん。明日、苦手な理科のテストでもあるの?

【みひろ】違うよ、うめさん。このままだとBTSが活動休止になっちゃうからさ……。時間が止まれば活動休止を先延ばしにできるかなって。

【うめ】ああ、韓国のアイドルグループね。日本でも大人気なんでしょう? みひろちゃんも好きなのねえ。すごい人気だこと。でも、活動休止しちゃうの?

【彦】ばあちゃんは、芸能ネタはからっきしだからね。韓国では兵役の問題もあって、メンバー7人での活動はいったんやめたんだよ。そもそもBTSはアジアだけでなく、いまや世界的なグループだよ。アメリカでグラミー賞の候補になったし、ビルボードチャートで首位を獲得したしね。ビルボードの首位になったアジア人は、ばあちゃんも好きな坂本九さん以来だよ。

【うめ】えっ、九ちゃん以来?! 韓国の芸能人といえばドラマ『冬のソナタ』のヨン様(ペ・ヨンジュン)なら、私も好きよ。

■韓流はもはや「一時のブーム」ではない

【彦】日本ではかつても韓国ドラマブームがあったからね。でもばあちゃん、もう韓流は一時のブームでないんだよ。完全に定着しているんだよ。BTSのヒット前から日本では東方神起や少女時代などのK-POPが大流行してたしね。エンターテイメントだけでなく、韓国の食品や化粧品なども日本人にとっては身近になってるんだ(※1)

【うめ】あんたは勉強はできないけど、こういうのはやたらくわしいわねぇ。

【みひろ】だよね。

【彦】なんだよ、ふたりとも。最近、韓国のエンタメは、音楽だけでなく、映画やドラマも世界的な人気がすごいんだよ。映画『パラサイト 半地下の家族』はアカデミー賞で作品賞を含む4冠を達成したしね。これは外国映画(アメリカ以外の映画)としては史上初の快挙なんだ。ドラマ『愛の不時着』や『梨泰院(イテウォン)クラス』はNetflix(ネットフリックス)で配信されて、世界的なヒット作品になっているよ。

イラスト=徳永明子
栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)より - イラスト=徳永明子

※1 2017年ごろには東京・新大久保のコリアンタウンで鶏肉料理「チーズタッカルビ」が話題になりました。また同時期から韓国語で美少女を意味する「オルチャン」を語源とするメイク方法「オルチャンメイク」が流行し、いまもブームは続いています。

【みひろ】すごいよねー! うちのお母さんも夢中で見てるよ。でも彦さん、なんで韓国の作品はそんなに海外で評価が高いの。日本の音楽や映像作品はあまり日本の外では評価されないのに。

【彦】うーーーん、なんでだろうな。

■韓国の人口問題と世界戦略

【うめ】彦、それはおそらく韓国の人口と大きく関係しているかもしれないわよ。

【彦】どういうこと?

【うめ】日本の人口は約1億2000万人、韓国は約5100万人。日本の半分以下なの。日本ならば日本語でドラマをつくっても、1億人以上が見てくれる市場があるけれども、韓国では韓国語でドラマをつくっても最大で約5000万人の市場ということね。これだと見てくれる人の数に限界があるから、韓国は国外、つまり世界を目指したのよ。

【彦】たしかに。韓国は国家公認の俳優養成所をつくったり、国をあげて映画やドラマの輸出を後押ししているね。でも、日本も「クールジャパン」(※2)とかいいながらがんばってるよね。

【うめ】そうねぇ。でもやはり、日本は韓国ほど切羽つまっていなかったのかもしれないわね。日本では国内でモノを売っているだけで、これまではじゅうぶんに食べていけたから。これはエンタメだけではなく、日本のあらゆる産業で共通していることよ。わかりやすいのが家電ね。

【みひろ】テレビやパソコンだね。

【うめ】そう。日本は戦後、人口がどんどん増えたの。だから、たとえばテレビをつくれば売れたし、その性能を高めればまた売れたの。アメリカやヨーロッパに輸出しても、日本製品は大人気だったわ。「メイド・イン・ジャパン」は高品質のブランドだったのよ。だから、ひたすら機能を増やして、性能を高めるのが正しいとみんなが信じていたのね。でも、2000年代初めから、少しずつ日本のメーカーの力が失われて、いまではもう完全に世界のなかでの立場が弱くなっているわ。代わって台頭したのが韓国のサムスン電子やLGエレクトロニクスね。

【みひろ】知ってるよ。いま世界でいちばんテレビを売っているんでしょ。スマートフォンもつくっているよね(※3)

【うめ】サムスンやLGは韓国内の5000万人のお客さんだけでは儲からないとわかっていたから、海外に目を向けたのね。でも、アメリカやヨーロッパで売れるような品質のモノを昔はつくれなかったわ。だから、東南アジアなどの新興国で、少し古い技術を使った家電を売ったの。そして、そこで儲けたお金を新しい技術の研究に使ったの。少し前までは韓国の製品といわれれば安かろう、悪かろうというイメージだったし、韓国製品は日本のパクリともいわれたけど、いまは違うわ。韓国は安くていいモノをつくるようになっているの。いまは日本でも韓国製の家電が昔よりは人気よね。

※2 マンガやアニメ、ゲームなどを海外に輸出し、産業として発展させる政策です。2000年代初めに政府が方針を決めました。
※3 世界のテレビ市場でサムスン電子は2006年から16年連続世界首位です。2022年も首位の可能性が高くなっています。スマホでも日本国内ではiPhoneを販売するAppleが10年連続で出荷台数1位ですが、世界ではサムスンが優勢です。2022年5月に世界でもっとも売れたスマホはサムスン電子(全体の28.02%)でApple(27.61%)を上回っています(アウンコンサルティング調べ)。

■かつての勢いを失ったガラパゴスの日本

【彦】それならば、日本もそうして世界に市場を広げればよかったじゃない。

【うめ】そうなんだけど、結局、日本は機能がたくさんあって性能がよいモノづくりをやめられなかったの。それは、日本人にはそういうのを好む人がいたからね。「ガラパゴス携帯」(※4)って、彦の年齢ならば聞いたことがあるでしょ?

【彦】スマホが普及する前に一般的だった、多機能化した日本独自の携帯電話でしょ。ワンセグとか絵文字とか。

【うめ】そう。あんなの海外携帯にはないのよ。日本は国内に人口がそれなりにいたから、大胆に戦略を変えることなく会社を経営できたの。大きな会社の社長はだいたい3年から4年で変わる。そうすると、そのときの社長さんも「自分が社長のときは大丈夫」と思って、誰も大きな方針転換をしなかったのね。

【彦】で、そのまま、気づいたら世界から取り残されちゃったってことか。

【うめ】そういうことねぇ……。でも、みひろちゃんたちには希望があるわ。これからは人口も減っていくし、そうすると海外の市場を見ざるをえないから。ガラパゴスじゃ生きられない未来が待っているはずよ。

【みひろ】それ、希望っていうのかな……。ガラパゴス諸島の生きものは島を出てうまく生きていける? 進化しなきゃいけないよね、きっと。それってとても大変そうなんですけど!

※4 生態系が外部とは隔離されて独自に進化を遂げてきたガラパゴス諸島みたいだから、「ガラパゴス携帯」と呼びました。略して「ガラケー」とも呼ばれています。

■韓国に徴兵がある理由

韓国の成人男性は兵役の義務を負い、兵士として約2年間、軍事訓練を受けます。訓練が終わった後も8年間は予備役として年に数回、訓練に参加します。

韓国の人に話を聞くと、兵役が好きな男性はほとんどいません。20代で軍隊に多くの時間をうばわれるのは想像するだけでも大変です。ですから、最近では、徴兵検査を拒否したり、国籍を変えてまで徴兵を逃れたりする若者も増えています。

ただ、多くの若者は仕方なく兵役につきます。なぜならば、韓国はいまだに隣の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と「戦時中」だからです。北朝鮮とは休戦中ですが、決して戦争が終わったわけではありません。ですから、韓国内で就職するなら兵役に就いたほうが有利ともいわれています。就職する際に企業も服務経験を重視しています。

世界ではどうでしょう。米国はベトナム戦争から撤退した1973年以降、徴兵制から志願制に切り替えています。フランスも2001年から志願制を採用しています。一方、ノルウェー(2015年から女性も)、スイス、オーストリアなどは徴兵制を維持しています。スウェーデンは兵役の義務を2010年に廃止して志願制に移行しましたが必要な兵が足りなくなってしまいました。そのため、男性だけでなく、女性も対象に加えて2018年に再開しています。

■少子化は日本以上に深刻

2021年の世界の人口に関する報告書(国連人口基金)によりますと、韓国でひとりの女性が生涯に産む子どもの数の平均は1.1人です。これは調査対象となった198カ国で最下位です。2020年から2年連続で最下位を記録しています。

全人口のうち0~14歳が占める割合も、12.3%で、日本と並んで最下位です。これは1位のニジェール共和国(49.5%)の約4分の1にとどまっています。世界平均(25.3%)の半分にも足りません。

一方で、65歳以上の人口が占める割合は16.6%です。198カ国のうち65歳以上の割合がもっとも高い日本(28.7%)に比べると、10ポイント以上低いですが、それでも世界平均の9.6%を大きく上回っています。韓国でも少子高齢化は日本と同じく大きな課題になっているのです。

■複雑な日本との関係

日本と韓国は1965年に日韓基本条約を結び、国交を正常化しました。同時に、日本は5億ドル(当時のお金の価値で約1800億円)の経済協力資金を韓国に提供する協定も結びました。日本は戦争中に韓国を植民地にしていましたが、このとき植民地時代の問題は解決したとお互いに確認しました。ところが、最近になっても植民地時代のできごとで賠償金を求める裁判が韓国国内で起きています。

栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)
栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)

韓国は1965年の話し合いで日本からもらったお金を使い、「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれる急速な経済成長を記録しました。ただ、当時の韓国は民主化前で、軍事独裁政権でした。民主化を求めるデモなどの動きもありましたが、徹底的に弾圧されていました。ですから、1965年の約束についても、軍事独裁を正当化するためには経済発展が必要と考えた政権が、まとまったお金を日本から得るかわりに、植民地支配に対する日本の責任をじゅうぶんに問わずに結んだと考える人がいまでも少なくないのです。実際、韓国の高校の歴史教科書にもそのように記述されています。日本政府が過去の問題の解決の根拠にしている約束を、韓国の学校では否定的に教えているわけです。

一方で、日本政府は昔の問題は解決済みとしていますから、新たな賠償には応じない姿勢です。そうした食い違いで対立が起きています。

日本と韓国は隣の国同士です。いがみ合い、対立しても良いことはありません。最近は若い人は映画やドラマ、化粧品や食べものなどを通じてひと昔前に比べてお互いの国への偏見が少なくなっているともいわれています。未来に向けて良い関係を築くことが日韓両国だけでなくアジアにとっても大きなプラスになるはずです。

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栗下 直也(くりした・なおや)
経済記者、書評家
1980年生まれ、東京都出身。2005年、横浜国立大学大学院博士前期課程修了(経営学専攻)、同年日刊工業新聞社入社。経済記者として自動車、電機、金融、エネルギーの各業界、経団連などを取材。ブックライターとして、ビジネス、実用、自然科学などの分野で構成・執筆を手掛ける。2022年、NORAKURA合同会社設立。構成・執筆に『2040年の未来予測』(成毛眞著、日経BP社)、『amazon 最先端の戦略がわかる』(成毛眞著、ダイヤモンド社)ほか多数。著書に『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(左右社)、『得する徳』(CCCメディアハウス)、『図解ルネサスエレクトロニクス』(日刊工業新聞社)、など。『週刊朝日』(朝日新聞出版)、『本の雑誌』(本の雑誌社)、書評サイト「HONZ」などで、ノンフィクション本の書評を定期的に執筆する。

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「ニューズウィーク日本版」 世界のニュースを独自の切り口で伝え、良質な情報と洞察力ある視点とを提供するメディアです。

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(経済記者、書評家 栗下 直也、「ニューズウィーク日本版」)

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