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「日本がギリシャのように財政破綻することはあり得ない」経済アナリストがこう断言する3つの理由【2022下半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2023年1月22日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itasun

2022年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。政治経済部門の第5位は――。(初公開日:2022年10月28日)
「毎年借金が膨らむ日本は近い将来財政破綻するのでは」と心配する人がいる。経済アナリストの森永康平さんは「日本が財政破綻することはない。日本は過去に財政破綻したギリシャとは置かれている状況がまったく異なる」という――。

※本稿は、森永康平『「国の借金は問題ない」って本当ですか?』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

■「財政破綻」とは債務を履行できなくなること

【森永】日本の財政破綻があり得るかどうか考えていきたいと思いますが、その前に中村くん、そもそも「財政破綻」ってどういう状態かわかりますか?

【中村】ええと……借金を返せなくなること……?

【森永】正解です。専門的にいうと「債務不履行」ですね。債務(借金)を負った人が債権者(お金を貸した人)に対して、返済義務を履行できなくなる(借金を返せなくなる)ことを指します。また、債務には利息がつきますので、その利払いができなくなることも「財政破綻」と言えるでしょう。ではもう1つ質問です。過去に財政破綻した国で、ギリシャとレバノンがどのような理由で破綻したかわかりますか?

【中村】ギリシャは欧州中央銀行(ECB)に対するユーロ建て、レバノンはアメリカに対するドル建てという外貨建ての借金で破綻したんですよね。

【森永】その通りです。よく理解できています。

■日本銀行が発行する通貨で日本が財政破綻することはあり得ない

それではここから、日本について復習しましょう。日本政府が発行した国債は誰が何で買うと説明しましたか?

【中村】民間銀行が、日銀当座預金で買います。

【森永】そうです。日銀当座預金は民間に絶対に出回らない種類のお金ですが、通貨単位は「円」で共通です。また発行者は日本銀行です。自国の中央銀行が発行している通貨で、日本政府が債務を負って、その債務が不履行になると思いますか?

【中村】い、いや、ならないと思います……。

【森永】そういうことです。日本政府が円建ての日本国債で財政破綻を起こすことはまずあり得ません。これが答えです。ここから、日本の財政破綻が起こらない理由をより詳しく解説していきます。

■日本は外貨建て国債を発行していない

①自国通貨を運用している

日本が財政破綻しない1つ目の理由は、何度も説明している通り、自国通貨を運用しているからです。日本では日本円が流通しており、“国の借金”はすべて日本円建てです。日本円は日本銀行と日本政府が発行することができるので、債務不履行が起きることはまずないでしょう。

【中村】日本はレバノンのように、外貨建ての国債は発行していないのでしょうか?

【森永】発行していません。2022年5月現在で、日本政府が発行している外貨建て国債はゼロですね。

【中村】過去にも一度も外貨建て国債を発行したことはなかったのでしょうか?

【森永】過去にはあります。例えば1904年から1905年にかけて行われた日露戦争では、戦費調達のためにポンド建て国債が発行されました。当時も日本円建ての国債発行や、増税による戦費調達は行われていましたが、武器や戦艦がすぐに必要だったため、外国から直接買い入れる必要がありました。そこで、イギリスで製造中だった艦隊を購入するために、イギリスに対してポンド建て国債を発行して購入したのです。

【中村】なるほど……戦争のためにお金が必要だったんですね。

【森永】そうです。当時は金本位制といって、政府が発行できる貨幣の量は保有する金(ゴールド)の量によって制限されていました。増税や外貨国債が必要だったのです。ちなみにこのポンド建て国債の返済が終わったのは、1988年の6月です。

【中村】そんなに最近なんですか? ギリギリ昭和くらいなんですね。

【森永】借入から返済まで約100年ですね。これだけ長期にわたって債務を負い続けられるのが、政府と個人の違いでもあります。

■日本は国民の需要を満たすモノやサービスの生産能力がある

②十分な供給能力を有している

2つ目の理由が、日本は十分な供給能力を有していることです。中村くん、レバノンの財政破綻の理由は覚えていますか?

太陽に照らされた高層ビルが立ち並ぶ街を背景にした3人のビジネスパーソンの後ろ姿
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

【中村】はい、ドル建て国債を返済できなくなったからですよね。

【森永】その通りです。しかしレバノンはレバノンポンドという自国通貨も持っていましたよね。ドル建て国債で借金を負った理由は覚えていますか?

【中村】えーっと……国内でモノやサービスを生産する力がなくて、いろんなものを輸入するしかなくて……。

【森永】輸入物価を維持するために固定為替相場制にして、レバノンポンドの価値を維持するためにドルが必要で、国内で保有しているドルが不足してドル建て国債を発行し、その国債を返済できなくなって財政破綻、ですね。

【中村】あ、そうでした。あらためて聞いても、ちょっと難しいですね。

【森永】いろいろとプロセスがあり難しく思うかもしれませんが、ここでもっとも重要なのは「レバノンにはモノやサービスを生産する能力がなかった」ということです。自分の国で食糧や医療など、国民の需要を満たすモノやサービスの生産能力があれば、海外から輸入する必要がなく、外貨建て国債を発行する必要もなかったわけですから。

■日本は潤沢な対外純資産がある

【森永】ここでまた日本のことを考えてみましょう。日本の経済成長は25年も停滞していますが、それでもGDP500兆円以上のモノやサービスの生産能力を有する、世界3位の経済大国です。日本政府が発行する国債は毎年大部分を民間銀行が購入していますし、政府支出も国内の事業者がモノやサービスを生産することで概ね完結しています。もちろん食糧や石油などのエネルギーは輸入に頼らざるを得ませんが、日本国民の需要は概ね日本国内の行政や民間企業で満たすことができています。

【中村】この状況なら、外貨建て国債を発行する必要もないということでしょうか?

【森永】その通りです。

【中村】でも森永先生、エネルギーや食糧は輸入に頼っているわけですから、そこで外貨建て国債は必要ないのでしょうか?

【森永】今のところ必要ありません。日本は潤沢な外貨準備と対外純資産を持っているため、外貨建て国債を発行しなくても、輸入の際に問題なく支払いを行うことができます。

【中村】外貨準備……対外純資産……。

【森永】要は、外貨建て国債に頼らなくとも、外国貨幣を豊富に持っているということです。中村くんも海外旅行の経験があるようですが、日本製の自家用車が外国で走っているのを見かけませんでしたか? あれは貿易によって日本の自動車会社から外国へ輸出しているのですが、企業が得た外貨は、どこかのタイミングで日本円に両替されます。両替のタイミングで、政府や日本銀行が外貨を手に入れるというわけです。

■日本の対外純資産は約356兆円

【中村】なるほど、そういうことなんですね。ちなみに日本にはどれくらいの外貨があるのでしょうか?

【森永】財務省の発表によると、2021年5月25日時点で日本の対外純資産は356兆9700億円、2022年3月7日時点で外貨準備は1兆3845億7300万ドルです。日本のモノやサービスを海外に販売することによってこれだけのお金を稼ぐ力があるので、外国から食糧やエネルギーを購入する際も、外貨建て国債を発行する必要はない、ということですね。

なお「対外純資産」とは、外国に対して負っている債務(負債)と、外国に対して持っている債権(資産)との差額です。例えばアメリカに対して10兆円の債務を負っていても、イギリスに対して20兆円の債権を持っていれば、対外純資産は10兆円となります。なお、「純資産」の中には土地や建造物などの有形資産も含まれます。つまり、日本の対外純資産が356兆円だからといって、356兆円分の外貨を持っているわけではない、ということですね。

■世界が変動為替相場制に移行した背景

③変動為替相場制を採用している

【森永】3つ目の理由は、変動為替相場制を採用していることです。レバノンは国内にモノやサービスを生産する力がなく、外国からの輸入に頼らざるを得ず、輸入物価を維持するために固定為替相場制を採用した、と説明しましたね。

【中村】はい、なんとか理解できました。

【森永】では今度は日本です。日本は変動為替相場制を採用しています。夕方のニュースで「本日の為替は1ドル130円、1ユーロ142円……」と流れるやつですね。レバノンはモノやサービスを生産する能力が不足していたために固定為替相場制にする必要がありましたが、反対に日本は十分な供給能力があるから変動為替相場制を採用することができる、と言えます。

【中村】日本も昔は固定為替相場制でしたよね? 1ドル360円の時代があったと、歴史の授業で習った記憶があります。

【森永】よく覚えていますね。その通り、かつては日本も固定為替相場制の時代がありました。変動為替相場制に移行したのは、1973年のことです。アメリカの「ニクソンショック」をきっかけとした為替相場の大転換でした。

【中村】あ、それです! 授業で出てきました。

【森永】当時、アメリカは金本位制を採用していました。国内に保有する金(ゴールド)の量によって、政府が発行できる貨幣の量が制限される、というものです。これはアメリカが世界の金のうち7割を保有していて、ドルが基軸通貨として機能していたことが理由です。

しかし、1955年から20年間も続いたベトナム戦争で、武器を海外から購入するなどしてドルがアメリカ国外に流出しました。加えて、欧州各国がモノやサービスをアメリカへ輸出し、アメリカがドルでそれを購入したことも重なりました。流出したドルは、今度はアメリカの金を購入するために使われ、アメリカ国内の金が流出することになります。

【中村】ふむふむ……。

【森永】アメリカドルと金の流出が続き、アメリカ国外にあるドルが、国内の金の量を上回る寸前まで達しました。そうすると、通貨の裏付けである金が不足することになり、ドルに対する信頼が揺らいで価値が暴落する、という流れです。

アメリカも、ドルが暴落したまま傍観するわけにはいきません。そこで国内外に向けたいくつもの経済対策を打ち出しました。その1つが、ドルと金(ゴールド)との兌換(だかん)を停止することだったのです。

■1ドル360円という価値の根拠が失われた

【中村】でもそれでなぜ、日本が変動為替相場制に移行しなければならないのでしょうか?

森永康平『「国の借金は問題ない」って本当ですか?』(技術評論社)
森永康平『「国の借金は問題ない」って本当ですか?』(技術評論社)

【森永】ニクソンショックによって、日本だけでなく世界中が変動相場制に移行したのです。変動為替相場制とは、当該国間の経済状況によって、その国の通貨の価値が変動する制度のことです。ドルは金という裏付けを失ったため、1ドル360円という価値の根拠を失い、世界中で変動為替相場制に移らざるを得なかった、ということですね。

【中村】なるほど、そういうことなんですね。

【森永】変動為替相場制を採用できているということは、MMTを考える上で非常に重要です。なぜなら固定為替相場制では、自国通貨の価値を保つために、レバノンのように外貨建て国債を発行する必要があるからです。自国通貨を運用しながら外貨建て国債を発行していれば、それを税金などで返済する必要がありますから、MMTの考え方の外にあることになります。実際にレバノン以外にも、自国通貨を運用しながら外貨建て国債の返済や利払いができずに財政破綻を起こした国は多数あります。

【中村】あ、そうなんですか。

【図表1】財政破綻した国とその理由
出典=『「国の借金は問題ない」って本当ですか?』

【森永】例えば1998年のロシアです。ロシアは直近でもウクライナ侵攻により外貨資産が凍結され、ロシアの主要銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されたことで、ドル建て国債が債務不履行となりました。しかし実は過去にも同じようにドル建て国債が破綻しています。これは当時のロシアが「ドルペッグ制」という実質的な固定為替相場制を採用していたためです。図表1は、財政破綻した国とその理由を簡単にまとめたものです。どの国も日本とは状況がまったく違うことがわかりますね。

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森永 康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO、経済アナリスト
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。その後2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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(株式会社マネネCEO、経済アナリスト 森永 康平)

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