旧統一教会が信者囲い込みの入り口で無断で有料視聴させたNHKと日テレの"人気番組名"
プレジデントオンライン / 2023年1月19日 13時15分
■元統一教会に人生を台無しにされた30代男性の半生
「コンプライアンス宣言ですか? 自分がいたところでは、そんなことを聞いたことがないです。2012年まで街頭で『手相を見ています』と声をかけて、統一教会の名前を隠して、ビデオセンター(教団の関連施設)に誘い込む伝道活動をしていましたから」
教団は「2009年のコンプライアンス宣言を通じて、すでに伝道活動において、勧誘する当初から教団名を明示することを、信者に徹底させていた」と昨夏に開いた会見で述べています。つまり教団名を告げてから、勧誘をするように指導していたというわけです。しかし、彼の所属部門では、それがなされず、教団名を隠した伝道が長年にわたって継続していたことがわかります。
さらに根田さんは「教会を辞めようと思って、12年ごろ、スマホで教団を批判するブログなどを見ていくうちに、統一教会がコンプライアンス宣言を出していることを初めて知りました」とも話します。
この宣言自体が末端の信者には伝わっておらず、いかに外部向けのものであったのかが、浮かび上がってきています。
今から15年ほど前、20代だった根田さんは街頭で「手相の勉強をしています」と声をかけられたのをきかっけに、旧統一教会に入信しました。
連れて行かれたのは、ビデオセンターAでした。ここでビデオ学習の受講料のほか、2日間セミナー(2days)と4日間セミナー(4days)費用すべて含んだ12万円を払い入会しました。
その時のことを次のように話します。
「有名な占い師という人物に、5000円を払ってみてもらいました。そうしたら『あなたは未熟すぎる。このままの人生だとダメになる! この占いの学校に入って、私の弟子になりなさい!』といわれました。最初のうちは、断っていたのですが『このまま逃げたら将来、大変なことになる! 人生が不幸になる!』といわれて怖くなりました。そして申込書を目の前に出されて『じゃあ書いて』と。断わりきれなくなり、申し込みました。私は“やります”とは一言もいってないのに……」
■『プロジェクトX』『知ってるつもり⁈』を見せられた
根田さんは、霊感を使った形で、畏怖・困惑させられて契約させられたことがわかります。これは教団が使う常套手段といえます。
「ビデオセンターでは、『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』(2000年3月~2005年12月にNHK放映)や『知ってるつもり?!』(1989年10月~2002年3月に日本テレビ系列放映)など、テレビで放映されたものを多くみせられました。創造原理、堕落論、復帰原理などの講義ビデオもみましたが、どちらかというと、教義の講義内容よりも、3分の2以上は一般に放送されているドキュメンタリーものでしたね。知らなかったものを学べるという感じで通っていました」
教団は過去に放送されたテレビの映像を流して、それを利用して教義につなげようとしてきます。おそらく信者になった人は、こうした番組を見ている人も多いはずです。当然、テレビ局が流した映像の著作権などは払っていないでしょう。また許諾申請しても局が認めるはずがありません。結局、教団は著作権に反するということにもお構いなしで、勝手に受講生に有料の学習をさせる手法は、筆者の信者時代と変わりなく行われているようです。
![リモコンを手にチャンネルを変えながらテレビ視聴](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/6/1200wm/img_b6dbeb4900398fdf80a4b5c4fa155c89480364.jpg)
根田さんは、ビデオセンターAにしばらく通った後に2日間セミナーに参加します。そこではイエスキリストの歩みなど、修練所に泊まり込み生講義を受けます。ここで教えられる内容は統一教会の教えですが、教団名は告げられていません。
筆者の信者時代(1990年代前後)、2日間セミナーの後は泊まり込みで夜に生講義を行う「ライフトレーニング」に参加させるようになっていました。しかし根田さんによると「次も、近くにある別のビデオセンターBに通い受講をしました。ただ最初のビデオセンターAとは教える内容が逆転していて、3分の2ほどが教義を学ぶ講義ビデオになっていました」といいます。
その先には4日間セミナーが待っています。
ここでは、再臨のメシヤとしての文鮮明教祖の苦難の歩みを教えることがメインになります。それゆえ、教祖や教団名はどこかで教えなければなりません。その辺りを聞いてみると、「再臨のメシヤは文鮮明」とはいわれたものの、驚くことに「統一教会の名前は出てきませんでした」というのです。
「この人がメシヤなんだ。半信半疑な感じで聞いていました。すでに受講料も払っているので、辞めるのも、もったいないと思い、4日間セミナーに参加しました。しかしそれが命取りでした」と振り返ります。この時点で、根田さんは宗教団体に自分がどっぷり浸かっている認識がなかったそうです。
■ペンダント、天雲石、壺、高麗人参茶…総額で500万円
筆者が、ライフトレーニングで講師をしていた頃はセミナー前には、必ず文鮮明教祖と、世界基督教統一神霊協会(統一教会)という宗教団体であることを黒板に書いて、しっかりと説明していました。しかし、彼の入信した頃は、メシヤの名前は伝えるけれども、旧統一教会ということを告げておらず、より悪質化した教化方法になっているといえます。
「4日間セミナーでは、感動というものはありませんでした。ただ『本当に文鮮明がメシヤなのか?』など、先のことを知りたい気持ちも出てきました。そこで、ビデオセンターの上の階で行われているという『新生トレーニング』を紹介されたので、参加することにしました」
新生トレーニングは、昔から行われる信者教化手法の一つで、泊まり込みで教義を学ばせていきます。
さらに次の根田さんの言葉に、驚かされました。
「学んでいるところが、統一教会と知らされたのは、新生トレーニングに通ってから2週間ぐらいたってからなんです。そこで初めて教団名を伝えられて、渋谷の松濤本部に連れて行かれて礼拝に参加しました。ここで初めて、自分は宗教団体で勉強していたことを知りました」
新生トレーニングの中盤まで教団名を告げず、筆者の信者時代より悪質な正体隠しの手立てが行われていた実態に絶句しました。
その後、根田さんは「通教」という部署に所属します。ここでは平日に仕事をしながら、土日に街頭などに出ての伝道活動をします。教団がメンバーに求めるのが稼いでくるお金です。
根田さんも、アベル(神に近い立場の人:上司)である班長との面談を通じて、月の給料を把握されて、教団の商品を積極的に購入するようにいわれています。
「これまでに、数十万円の着物や数百万円のペンダント、天雲石、小さな壺、高麗人参茶などローンを組んで購入しました。総額で500万円ほどになります」
![朝鮮人参(高麗人参)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/1200wm/img_dee5b8183a72d12cc131e74d5cd67418446456.jpg)
よく話を聞くと高額なペンダントだけは「ビデオセンターに通い始めて数日後、連れて行かれた展示会で買わされた」ということでした。入会させてまもなく、人の良い根田さんなら、容易にお金の出せる相手とみて、商品を売りつけていたという、ひどい勧誘実態もみえています。
当時、給料20万円ほどのうち、10万円の献金を払い、班長(通教の責任者の一人)から「ボーナスはいつ入るの?」と聞かれて、摂理献金などの名目で40万円を払ったこともあります」といいます。根田さんが教団を辞める頃には、手元にはお金はほとんど残っていませんでした。
■「お前は使い物にならない、堕落人間だ」「頭が悪い」
何より、根田さんが受けた仕打ちの中で最もひどいのは、アベルから心を病むほどの強い言葉を浴びせかけられたことです。
「自分のアベルは、めちゃくちゃな人で、こちらの意見を聞かない人でした。自分に非があっても、謝らない。『こうした方がよいのでは?』と提案しただけで『黙れ! これでいいんだ!』といわれました。感情をぶつけられることもよくありました」
この他にも「お前は使い物にならない、堕落人間だ」「頭が悪い」「実績を出さないものは、人間ではない」「お前の先祖が俺の先祖に悪いことをしたから、罪滅ぼしをしているんだ! 俺のために働くんだ!」「お前が頑張らないと、お前の先祖は地獄でずっと苦しむ」などさまざまな言葉の暴力を受けてきたといいます。
教義上、アベルの言葉は神様の言葉として絶対に従わなければならないものとされています。根田さんも「(アベルの言葉に)従わず、逆らえば、地獄に落ちる、不幸になるという思いがあったので、受け入れて従うしかなかった」と話します。
教団には伝道やお金集めのノルマがあり、それを果たせないと罰ゲームもあります。
「文鮮明教祖の写真を前に、敬礼(両手を額にクロスさせて、頭を地面につけるようにしてお辞儀をする行為)を50回~100回させられました。水行(水をかぶる)、長時間の祈祷をするように言われたことも。私自身、人前で何かをすることは苦手なのですが、ノルマが果たせなかった罰として、皆の前で漫才をさせられて笑いものになりました。本当に嫌でした」
根田さんがつらい気持ちを抱えて、信者として過ごしてきたことを思うと、心が痛くなります。その結果、精神的に病んでいきます。
![壁に手をつき、がっくりとうなだれる男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/2/1200wm/img_e27964eab3efaa810b3b8f4ec0234ccb291296.jpg)
「心は限界で教団を辞めようと思いましたが、踏ん切りがつきませんでした。ある時アベルから『文鮮明は2013年1月に亡くなる』と話があり、教祖が亡くなるまでは、続けようと思いました。でも、突然2012年9月に亡くなりました。あれっという感じでした」
その後、彼は離教しますが、その時には「欝(うつ)」状態になっており、今も病院に通っています。
「今も、まともに働けない状況が続いています」と悔しそうに話します。
信者になったものから、お金を絞り取るだけ取り、教義の名の下にさまざまなひどい言葉を浴びせかけて、心を追い込み、精神を破綻させる。
心を救うべきはずの宗教が、その人の心を壊してしまっている。これは根田さんに限ったことはではないはずです。こうした信仰指導をしてきた団体が、本当に国の認可を受けた宗教団体として存在し続けて良いのか。私たちはしっかりと、その行方を見極める必要があります。
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ルポライター
1965年生まれ。北海道旭川生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『マンガ ついていったらこうなった』(いずれもイースト・プレス)などがある。
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(ルポライター 多田 文明)
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