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「ふわっとしたことしか言えない30歳」が増えている…ベテランがそう愚痴る職場にある「致命的な問題」とは

プレジデントオンライン / 2023年1月25日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mediaphotos

若者はどんな職場を求めているのか。リクルートワークス研究所の古屋星斗さんは「成長を感じられることが重要だ。居心地の良い職場にしようと、若手が辞めないようにご機嫌取りに走る上司がいるが、それでは逆効果になる」という――。

※本稿は、古屋星斗『ゆるい職場―若者の不安の知られざる理由』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■「ふわっとしたことしか言えない30歳」が増えている

負荷はないが成長もない、ゆるい職場。2010年代後半以降の断続的な労働法改正によって期せずして日本社会に生じた職場環境である。この全く新しい職場環境は労働時間の縮減や居心地の良い環境を作り出したが、他方でこれまでのアプローチでは解決することが難しい問題も生み出したことをデータで示してきた。ここでは、その解決方法について考えたい。

私が衝撃を受けた、とある大手企業の管理職の発言がある。これがこの検証を行う動機になっている。

「ふわっとしたことしか言えない30歳が増えているんです」
「仕事に関して理想論やあるべき論は語るのですが、然るべき業務経験を積んでいないためか、発言にリアリティがなく具体的な企画に落とし込めないのです」

ゆるい職場時代に、どう若手を育成するか。これまでのアプローチが通用しないゼロリセットされた課題である。前稿でも見たとおり、仕事の負荷が低下する職場において、従来と同じような経験が積めない可能性が高いことが原因となり、職場が提供できる成長機会が縮小していくためだ。このために、「ふわっとしたことしか言えない30歳」問題が浮上してくる。

こうした「30歳」はあなたの会社にもいるだろうか。いるとすれば、それはあなたの会社の人材育成の屋台骨は想像以上にボロボロになっているかもしれないのだ。

■企業が直面する若手育成2つの難問

本稿ではこうして浮上してきつつある、ゆるい職場における若手育成の問題を取り扱い、調査データや具体的な取組から見えてきた、解決方法の例を提示したい。

企業が直面する若手育成上の難問は、以下の2点に集約される。

A 仕事の関係負荷(※)なく質的負荷だけをどう上げるか。通常、質的負荷を上げようとすると関係負荷も上がってしまうが、どのように切り離すのか
B (入社前から社会的な経験を持ち)自律的な姿勢を身に着けている若手の方が、離職率が高い。この問題をどう解決するか

筆者註※関係負荷とは、「上司・先輩の指導が厳しい」など職場の人間関係に起因する負荷。本稿では、労働時間や仕事量から来る「量的負荷」や、業務の難しさや新しさから来る「質的負荷」と区別している。

この2点は調査から判明した事実でもある。

若手の仕事における成長実感には「仕事の質的負荷」は必要だが、「関係負荷」は必要ない。Aについては、ここから「関係負荷なく、質的負荷を上げるアプローチ」が有効であると考えられた。Bについては、こうした変化を受け止める職場はどうあるべきか。

■自分で考えて動ける若手ほど辞めていく

若手育成と仕事の負荷についてはこんな悩みを抱える人が多いのではないだろうか。

「ストレッチな経験をさせてやろうと、これまで振ったことがない仕事を与えたところ、相談にも来ず立ち往生。最終的に自分で巻き取ることになった」
「教育とパワハラの差が正直に言ってグレー。教育と思ってやっても、声を録音する若手もいると聞くので、指導は必要最低限にしている」

もちろんこういった状況が長く続けば、組織や職場のパフォーマンスや社員の生産性の上昇スピードは鈍る一方であることは自明だが、上司や先輩層を責めても仕方がない。こうした上司や先輩の行動姿勢も現代の職場環境に適応しただけであり、環境が変わってしまった以上、システム全体を検討し直さなくてはならないのだ。

また、できる社員や成長した社員ほど辞める、という実感を語る人も多い。

「自分で考えて動ける若手ほど、次の異動先や出向先などを自ら提案してくる。なるべく希望に沿った配属をするが、一定数はこちらの示す案に飽き足らないのかやはり自ら転職先を探して辞めてしまう」
「目をかけていた若手が続けて辞めた。ここ最近続いたので、若手からあらたまった連絡があるとドキっとしてしまう」

■社内のキャリアパスでは解消できない

また、この点については若手側から次のような意見を聞いたこともある。

「会社が打診してくれた配属先は希望に沿って魅力的でしたが、社内外の友人から転職した話を聞くと、『あの子もキャリアチェンジして自分がやりたいことに自分の力で近づくんだな』と思い次は自分の番かなと。上司を振り回してしまっていますが、いまも絶賛、悩んでいます」

若手が自律的であればあるほど、当然ながら職業生活・キャリアに関する情報を獲得できる範囲は広まり、現実的に若手が採れる選択肢の範囲も広まり、また揺れ動く悩みの幅も広がる。

こうしたなかで、社内で示すことができるキャリアパス提案の範疇(はんちゅう)でその悩みが解消できるとは限らない。外にさらに魅力的な選択肢があるとわかれば、その選択を押しとどめることは現実的に可能だろうか。他方で、「自律的でない若手になってほしい」という組織などないだろう。ここに解決しがたい矛盾が存在している。

以上の2つの解決困難な問題だが、ゆるい職場時代だからこそ可能な解決策があると考える。これを提示していこう。

■「若者のご機嫌取り」では解決にならない

仕事の関係負荷なく質的負荷だけをどう上げるか。通常、質的負荷を上げようとすると関係負荷も上がってしまうが、どのように切り離すのか。

ストレッチな仕事を、理不尽さや人間関係の過剰なストレスという若手の成長を阻害する要素をなくして、いかに与えていくかというポイントである。先述の通り、実際に現状を分析すると、質的負荷(ストレッチな仕事)と関係負荷(人間関係の過剰なストレス)の間には強い相関が存在しており、片方が上がるともう片方も上がってしまう関係がある。切り離すことが難しいのだ。

従来の職場での育成アプローチはこの性質を持つために、離職にも繋がる関係負荷を下げようとすると、質的負荷、ストレッチな経験も同時に低下してしまう状況を引き起こしている。この状況がある以上、若者のご機嫌取りのようなその場しのぎの対応が繰り返されてしまう。

さて、従来の育成方法では職場の上司や先輩から“教える”というスタイルをとるという共通点がある。この方法では、上司や先輩が蓄積してきた業務における経験知に基づく“正解”があり、その正解を様々な方法で伝達していくというアプローチをとる。

資料を確認するビジネスパーソン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■上から「教える」やり方には限界がある

もちろん、客観的に最短で正確、最適な方法論が確立している業務は少なからずあり、この方法論を全て否定する必要はない。基礎的な知識があってこそ発明やイノベーションは生まれるのであるから、当然である。

ただし、ゆるい職場において、上司や先輩層が蓄積してきたこの経験知を伝達するアプローチだけでは限界がある。職場における知識伝達の時間的制約が非常に強くなり、コミュニケーション法も変化した現状において、伝達量がどうしても相対的に少なくならざるをえないためである。

端的に言えば、職場に朝から夜までいてともに顔を突き合わせて働き、一日に何回も何回も上司から叱責(しっせき)され、仕事後も一緒に飲みに行き熱い“仕事論”を語る上司がいた10年程前までの日本の職場を想像していただきたい。こうした職場における上司・先輩から若手への知識のシンプルな伝達量を超えることは、現代の職場にできるであろうか。

■「だから昔が良かった」というのは勘違い

言葉なり姿勢なりでOJTを中心とする知識伝達を前提とする場合、同じ釜の飯を食って共に過ごした時間が長ければ長いほどその伝達量が多くなることは自明である。もちろん伝達の生産性を上げよ、という議論もありうるが、生産性向上が言うほど簡単にできないことは日本経済の低成長が証明している。

そう、ゆるい職場で、従来のように上下関係で育て続けようとする場合、その育成は過去の日本企業の若手育成の劣化コピーにほかならない、七掛け・八掛けの若手育成となってしまう。こうした七掛け・八掛けの育成が、まさに若手の成長実感の乏しさに繋がっている。

ただ、勘違いする人が多いので次の点はよく留意する必要がある。こうした話をすると、

「やはり、昔の育て方が良かったのだ」
「自分が若いころは毎日タクシー帰りで職場に寝泊まりもした。そこで得た経験や人間関係は一生のものだ」
「いまの若手は甘えている。こんなに甘やかせていては人材が育たないと危機感をもっている」

といった、過去のやり方を良しとする意見が出てくる。特にこれまで大きな実績を上げてきて、現在も会社組織の根幹を支えているような枢要なポジションに就いていて、そして叩き上げでそうした役割を担ってきた実力がある人ほど、本心ではこう思っていることが多いのではないか。

■職場環境はもう昔には戻らない

しかし、もう元には戻れないのだ。日本の職場は期せずして2010年代後半以降の労働法令改正によって、「グレートリセット」されてしまったのだ。法改正は社会規範の変化に伴って起こった動きであり、それは一言で言えば不可逆な変化なのだ。かつての職場で育て切る手法は、もう十全に採ることができないのだ。

「やはり日本人の労働時間が短すぎるから、労働基準法を改正して特別条項付き36協定を元に戻し残業時間を青天井にできるように戻そう」とか、「男女ともに育休を取り過ぎでキャリアが寸断されているから、取得可能期間を短くしよう」とか、「若者が企業を労働環境の良し悪しでのみ判断しすぎだから、労働時間や有給取得率の情報開示をやめよう」などと言う企業経営者や政治家が万一出たところで、こうした意見に賛同する声が多数集まり、職場運営法令がこういった方向へ改正(改悪)される可能性はほとんどありえない。

筆者も猛反対する。社会規範が変わる、「若者を使いつぶすような会社は許せない」という考え方が当たり前になる、ということはまさにこういうことである。

職場におけるOJTを中心とした方法だけでは育成しきれない。しかも、職場環境は元には戻れないとすれば、いかに若手にストレッチな経験をさせれば良いのか、という点は一層悩ましい問題として管理職層に伸し掛かってくる。

■新入社員だけがスタッフの「研修店舗」

しかし、突破口になりそうな事例が生まれている。筆者が注目しているソリューションのひとつに、「横の関係で育てる」がある。

一部の外食チェーン店で取り組まれている「新入社員だけがスタッフを務める研修店舗」はその具体例であり、実際に離職率が急激に下がったという報告もある。新入社員だけで運営される研修目的の店舗であるが、実際にその店は他の一般の店と同様、お客さんが入ることができる。ただ研修目的なので通常の料金よりも少々安い値段設定となっている場合が多い。

ネットで検索すれば、各チェーン店の研修店舗はすぐに見つけることができるが、一般のお客さんが普通に入ることができるため、むしろあまり意識せずに入店し利用している人が多いかもしれない。

筆者もこうした外食チェーン店の研修店舗に何度か足を運んだことがあるが、店員さんが全員初々しい新入社員らしき若者であるという点以外、特に大きなトラブルが起こったり、店員さんが店長や先輩らしき人から叱責されていたり、といったシーンに出くわしたことはない。

レストランで働く若者
写真=iStock.com/kazuma seki
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■「横の関係」で育てるアプローチ

「新入社員だけがスタッフを務める研修店舗」は以上のような特徴を持つ。ただし、そういったものがあるのか、という感想だけで終わるのは非常にもったいない。この育成手法には現代の職場環境に適応したメリットを多数備えているのだ。

離職率が大きく下がったという報告もあり水面下で広がっているこの手法の、最も大きなメリットは、この育成手法がまさに「関係負荷なく質的負荷を与える」方法であるということだろう。

店員が新入社員しかおらず、その職場において上下関係は存在しないかかなり希薄である。職場に(責任をとる立場で、困ったときに相談できる管理職はいるが)自分と同じ業務を遂行する“先任者”がいないのである。このために、起こることが重要である。その職場の“正解”である過去の経験知が先任者から提供されないのだ。この状況に直面した場合、当然ながら若手は自分で考えざるをえない。職場における日々起こる問題・課題に対して“正解”が指し示されないためである。

例えば研修店舗においては、どうすれば店の売上が上がるか、顧客満足度を上げられるか、クレームにどう対応するか、どうすれば作業を効率化できるか等々、大小の課題を考えるのはその店舗にいる新入社員の同期だけなのだ。そしてその職場では上下関係による“正解”の押し付け、理由のわからない理不尽な指示といったことが起こる可能性は構造的に極めて希薄である。この状況を作り出したことが、関係負荷なく質的負荷を与える結果となっているのだ。これを上下関係で育てる、ではない新たなアプローチとして、「横の関係で育てる」と呼びたい。

■店舗以外でもできる4つの事例

一部業種だけの話でしょ、と片付けるのはあまりに早計だ。「横の関係で育てる」類似の取組が実は社会のそこかしこで同時多発的に発生しているのだ。例えば以下のような若手育成の事例を確認することができる。

○ 大手百貨店において若手社員十数名のみがメンバーとなって企画した特別展示スペースが開催され、若年層も含めたこれまで以上の幅広い層の来場者を集めた。
○ ネット上での広報活動を入社2、3年目の社員のみで構成するチームで実施。YouTubeチャンネルの再生数や登録者数が著しく増加するなど大きな成果を挙げた。
○ 限定20台のクリスマスケーキの企画を入社2年目の社員2名に任せた。他社とコラボレーションすることを考え実施し、数万円という高価格だったにもかかわらず即完売した。
○ 組織のトップ1名と20代の若手が10名ほどでチームを組み、社会全体や組織の将来像について提言をまとめ発信したところ、大きな反響があり大手メディアなどに取り上げられた。

こうした若手だけでプロジェクトを組成して短期間で成果を出させる取組を行う組織が出ており、関係負荷をかけずに質的負荷をかけるための「横の関係で育てる」様々な試みが始まっている。

■3つのポイント

いま萌芽(ほうが)的に起こっている事例の共通項から、「横の関係で育てる」手法の特徴を3点に整理しておこう。

①若手社員のみ、もしくは若手社員が極めて多いチームを編成する
②担う業務は漠然とした日々の業務ではなく、特定の目的及び期限のある業務とする
③成果が可視化しやすい業務とする

つまり、若手社員が横の関係で育つ環境を職場に作り出すためには、若手のみのチームで、特定の目的を達成するために、成果が見える業務を担わせることが肝要だ。

古屋星斗『ゆるい職場』(中央公論)
古屋星斗『ゆるい職場』(中央公論)

上司・先輩がたくさんいて若手社員がそれに粛々と従う状況では関係負荷が高くなりすぎ不要なストレスを与えてしまう。また、特定の目的がなければ、ゴールが不明確となり若手が努力する方向性が曖昧になり短期的な成長には繋がらず、十分な質的負荷をかけることはできないし、無闇に大きな業務を若手に担わせることは組織にとってメリットよりもリスクが大きいのは当然である。さらに、成果が可視化できなければ、なにが良くなにが悪かったのかについて、組織が若手に明確な根拠を持ってサジェストすることも難しいし、もちろん若手側の成長実感も乏しいものとなってしまう。

こうして集約すれば、「横の関係で育てる」アプローチには実は、自由と責任の両方が必要であることがわかる。自分たちで考える・考えられる環境だけでなく、明確なミッションに成否が明らかな業務が組み合わさることで、初めて「関係負荷なく質的負荷が高い」育成環境が成立するのだ。

ゆるい職場時代、データを分析したうえで理論的に必要性が発見された「関係負荷はないが質的負荷が高い」育成方法。紹介した「横の関係で育てる」手法が、これまでの上下関係での育成で達成できなくなった部分を補い、そして育成の幅を拡張していくだろう。

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古屋 星斗(ふるや・しょうと)
リクルートワークス研究所主任研究員
1986年岐阜県生まれ。リクルートワークス研究所主任研究員、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。2011年一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、「未来投資戦略」策定に携わる。2017年4月より現職。労働市場について分析するとともに、学生・若手社会人の就業や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究する。

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(リクルートワークス研究所主任研究員 古屋 星斗)

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